変形性股関節症のリハビリ 痛みの原因と臨床で役立つ運動療法・評価のポイント

変形性股関節症のリハビリ


変形性股関節症の方を担当したことがありますが、中殿筋の筋力がなかなか向上せず、歩行中にトレンデレンブルグ徴候が治らないので困り果てた経験があります。

そんな経験も参考にしながら、変形性股関節症のリハビリについて痛みの原因とその対処の為の運動療法・評価を中心にまとめました。




変形性股関節症 病態理解の為の股関節の機能的特徴

股関節の機能解剖において特に注目すべきところは、安定性・支持性(Stability)と可動性(mobility)の相反する機能が求められていることです。

安定性において、股関節は球関節で自由度が高いですが、肩関節にはない球窩構造により、安定性が向上しており、さらに関節唇により関節を深くして臼状関節を形成しています。

その周囲を関節包が取り巻き、靭帯が螺旋状に強化しています。

 

この靭帯には、

  • 腸骨大腿靭帯
  • 恥骨大腿靭帯
  • 坐骨大腿靭帯

があり、どれも人体の中でも強大な靭帯ばかりです。

その中でも、腸骨大腿靭帯は特に強靭で、股関節の伸展を抑制しています。

 

可動性については矢状面、前額面、水平面それぞれの運動が可能です。

変形性股関節症の原因・病態

変形性股関節症の主な原因は、臼蓋側及び、大腿骨頭の両側の関節軟骨の退行変性です。

 

結果、変形性股関節症では、

  • 骨増殖(骨棘形成)
  • 骨嚢胞の形成
  • 軟骨下骨の硬化

により、股関節部に疼痛、拘縮を呈します。また、股関節の機能異常により、歩行中に跛行を呈することが多くなります。

 

初期は股関節の内圧が高まると疼痛が誘発されやすいため、自然に股関節を屈曲・外旋・外転させている患者さんが多いです。

高齢者の姿勢
変形性股関節症の患者が取りやすい肢位

症状が進行すると、骨棘が前外側面にでるため、股関節内転・内旋・屈曲拘縮を起こしやすいと言われています。

 

一次性のものには、膝関節症と同じで、基礎疾患が無く、原因不明のものを指し、

二次性疾患では、

  • 先天性股関節脱臼
  • 臼蓋形成不全
  • ペルテス病
  • 脱臼骨折

後に続発したものを指します。

 

日本では約90%が二次性のものであり、先天性股関節脱臼、臼蓋形成不全のものが多いとされています。

男女比では、女性に多い特徴があります。進行の程度は、主に関節裂隙の狭小化の状態により分類されます。

変形性股関節症はなぜ痛い?~痛みの原因~

変形性股関節症(以下略:股OA)の痛みの原因としては、

  • 摩耗した関節軟骨粉により生じた滑膜炎の痛み
  • 股関節周囲筋の筋疲労によるもの(特に外転筋に多い)
  • 機械的刺激に誘発された滑膜炎によるもの
  • 軟骨下骨層の破壊や硬化によるもの

などがあるとされています。

 

下の図を見て下さい。変形性股関節症の股関節

二次性の股関節症では大腿骨頭と寛骨臼の不適合が要因となっており、単位面積あたりの負荷量が増え、関節軟骨の摩耗が進行してしまうという悪循環になります。

軟骨自体には痛みを感知する受容器は存在しませんが、骨髄から軟骨下骨付近まで神経線維が伸びており、これらが興奮することにより疼痛が発生すると考えられています。

股OAの初期は運動が長時間になると痛み出すことが多く、中期~後期では運動初期から疼痛があります。

痛みの出やすい場所は?

股OAでは、

変形性股関節症疼痛の出やすい場所
赤丸の箇所に疼痛が出現しやすい。
  • 鼠径部、殿部外側(中殿筋)
  • ふともも内側の付け根(内転筋、恥骨筋)
  • 腰部

に疼痛が出現しやすいです。

上記の様に、変形性股関節症は股関節にアライメントの不整を伴うので、歩行や荷重時に股関節が動揺し、関連する股関節周囲筋の疲労を招きやすく、疼痛を訴えることが多いです。

変形性股関節症のリハビリ検査・評価

股関節は人体の中心部に位置し、股関節の影響は脊柱・骨盤へも波及します。よってそれらの部位の各種の評価が必要になります。

 

1.触診による疼痛の検査・痛みの発生部位の把握。(上前腸骨棘、腸骨稜、腸骨粗面、大転子、恥骨結節、鼠径部、縫工筋と長内転筋停止部)

2.非荷重下と荷重下での下肢脚長差の有無

3.Faberテスト(仙腸関節ストレステスト:仙腸関節と股関節前内方関節包の疼痛誘発テスト)仙腸関節ストレステスト

4.股関節圧縮テスト股関節圧縮テスト

5.股関節の固さのテストとして股関節内副運動の確認

6.SLRでのハムストリングスの短縮の有無の評価

7.膝関節の安定性が股関節に波及することも多いため、膝関節内外反ストレステスト

8.内転筋の伸張性の評価(薄筋と内転筋を分離するため膝伸展位と屈曲位でそれぞれ評価)

9.股関節外転筋の筋力検査(特に大腿筋膜張筋と中殿筋)

10.oberテスト(大腿筋膜張筋短縮のテスト)obertest

11.梨状筋の短縮テスト(股関節・膝関節屈曲90度での内転)

梨状筋短縮テスト

12.大腿直筋短縮テスト(股関節屈曲拘縮による尻上がり現象の有無)

13.立位でのアライメント(足・膝を含む)異常の有無

14.両側の腸骨稜の非対称性の有無、

15.姿勢の偏位と股関節屈曲拘縮による前屈姿勢の有無

16.歩行分析では歩幅、片側への傾き、揺れ、逃避性跛行、易疲労性、股関節の異常運動、筋力低下、可動域制限に伴う異常歩行パターンの有無の評価

17.片脚立位でバランス機能と中殿筋筋力低下によるトレンデレンブルグ・デュシャンヌ徴候の有無

18.体重・肥満のチェック

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変形性股関節症のリハビリプログラム

変形性股関節症で、最も問題点となりやすい、筋原性の疼痛の緩和には温熱・寒冷の物理療法が有効です。

 リハビリに使える!ホットパックの使用方法と生理的効果

また、超音波療法も有効です。

 超音波療法の使用方法、効果、適応、禁忌など 

 

物理療法はあくまで対処療法ですので、痛みを緩和しながら下記の運動やストレッチを行っていくことがリハビリの基本方針となります。

関節可動域訓練(ROM)

股OAの初期では、関節面の適合性変化や筋が制限因子となっていることが多く、進行するにつれて、制限因子は関節包や靭帯、骨棘形成に伴う関節構造の変化に起因することが多くなります。

関節可動域訓練を行いながら、最終域感(エンドフィール)を確認し、何に対して何の治療を行うのか、明確にしておく必要があります。

人工骨頭や人工股関節置換術後(THA)では手術後のアプローチによって、股関節の屈曲・内転・内旋の複合運動は脱臼のリスクがあるため注意が必要です。

 

変形性股関節症の可動域制限が、骨の変形によるものによる制限因子の場合、関節可動域訓練(ROM)で改善することはできません。(当たり前ですが。)

しかし、私の経験上、ほとんどの患者さんは、骨が問題ではなく、二次的に起きた筋の短縮、柔軟性低下による可動域制限が起きていることも多いです。

 

可動域制限の評価を兼ねてストレッチを入念に行うことで、関節可動域が若干は改善することも多いので、やってみる価値はあると思います。

疼痛のある変形性関節症の方の関節可動域訓練のコツは、関節に牽引を掛けながら、関節の離開を意識して行うと疼痛が出にくい場合が多いです。

ストレッチ

股関節に疾患があると、

  • 股関節 屈曲
  • 股関節 内転
  • 股関節 外旋
  • 膝関節 屈曲

拘縮が発生しやすいとされています。

 

骨盤に付着する筋肉である、

のストレッチは特に重要です。(各リンクにそれぞれのストレッチの方法の例を詳細にご紹介しています。)

腰椎の可動域の改善

変形性股関節症のある患者は、股関節のみでなく、腰椎の可動域も低下していることが多いです。

  • 股関節
  • 骨盤
  • 腰椎

を一つの機能的ユニットと捉え、可動域を改善させることで動作の改善に繋がることも多いです。

このユニットを連動させて可動域改善を図る方法として、座位での骨盤前後傾運動があります。

骨盤前傾・腰椎前彎運動

骨盤後傾・腰椎後彎運動

このような運動を行い、骨盤と腰椎の可動性が高まると、結果として動作上での股関節の可動性が高まる場合も多くあります。

筋力トレーニング

ROMで股関節の可動性を維持しつつ、股関節の安定性を高めるための筋力トレーニングを行っていきます。

 

股関節周囲筋では、

  • 屈伸
  • 内外転
  • 内外旋

膝関節では、

  • 屈伸

をそれぞれ鍛えていきます。

足関節底背屈の筋力のバランスも同時にみながらトレーニングしていきます。

 

等尺性の運動が勧められる(疼痛を誘発しにくいことと、関節への負担が少ないため)ことが多いですが、より筋繊維に刺激を与えられるのは等張性のトレーニングです。

疼痛がなければ、第一選択として等張性の筋収縮を伴う運動を行うべきでしょう。

しかし、従来の方法に基づく高負荷・高頻度の筋力トレーニングを行う運動療法では代償運動を起こしやすいというデメリットもあります。不足している筋力を、不足している筋収縮様式で鍛えるという視点が必要です。

 

股関節伸展で大殿筋・ハムストリングスを鍛えることも股関節の安定性を上げるために有効ですが、一般的には腹臥位(うつむせ)で股関節伸展を行うことが多いです。(MMTの股関節伸展のイメージからでしょうか。)

しかし、

  1. 股関節伸展可動域が制限されていることが多いこと
  2. 股関節伸展筋力を必要とする動作は屈曲の領域で多いこと(例:歩行のIC時)
  3. 背臥位であれば肢位を変更する手間と患者さんの労力が省けること

 

上記の3つの理由で、私は背臥位のSLRを行って股関節屈筋を鍛えた後、そのまま持ち手を変えて背臥位での股関節伸展運動を行ってもらうことが多いです。

股関節伸展筋を鍛える方法
逆SLRで股関節伸展筋を鍛える。

SLR(Streight Leg Raizing)はリハビリで多様され、用途も多い大変便利な運動方法ですので、こちらの記事も参考にしてみて下さい。 リハビリにおけるSLR(下肢伸展挙上)の臨床での活用方法

 

 

特筆すべきことは、変形性股関節症では中殿筋の筋力低下が起こりやすいことです。(本当に多いです。)

中殿筋を鍛える方法は、こちらの記事 確実に伸びる!鍛えられる!中殿筋のストレッチと筋トレの方法 オススメ7種類に詳しく書ていますので参考にして下さい。

なぜ変股症で中殿筋の筋力低下が起きやすいのか?

股関節外転筋群の中で中殿筋は筋出力の60%程度を担うと言われ、股関節周囲筋の中でも特に影響の大きい筋肉です。

変股症では、構築学的に関節の狭小化が進み、大腿骨の扁平化も進むため、中殿筋の起始と停止が近づき、自然張力が失われやすくなります。また立位の荷重時に臼蓋が浅くなっていると、前方向に剪断力が働き、(臼蓋と骨頭が滑るようなイメージ)起始と停止は更に近づき、中殿筋の筋出力が低下します。

このことを考慮すると、変形性股関節症の方の中殿筋を鍛える際は、背臥位で寝て股関節内旋・内転位で中殿筋をややストレッチした状態(張力を高めた状態)から等尺性の運動を行うと鍛えやすいです。

さらに、歩行中に変形性股関節症の方でトレンデレンブルグ及びデュシャンヌ徴候が出現する方は、上述のように中殿筋の張力が低下しているため、適切なタイミングで筋肉を収縮させることができない可能性があります。

上述の等尺性の運動を行い、筋出力の増大が認められたら、片脚立位や歩行などのCKC訓練で筋収縮のタイミングを意識してトレーニングすると良いでしょう。

 効果に差が出る!運動連鎖OKCとCKCの使い分け方

荷重練習・歩行練習

股関節疾患では立位および歩行時の左右の下肢への荷重移動訓練も大変重要です。鏡の前で体重計を2個置いて、その上に片脚ずつ乗せて立位を取り、体重を左右均等に乗せる練習などが代表的です。

 

体重計のメモリを患者さんが目視しながらやると、普段と違う荷重の移動となるので、患者さんは正面の鏡をセラピストが視認し、視覚のフィードバックを使わず、声でフィードバックしながら左右均等な下肢への荷重感覚を練習します。

参考)荷重練習について 脳卒中片麻痺のリハビリにおいて重要な「荷重練習」とは?その方法5種類もご紹介

補高

股OAの方は脚長差を生じていることも多いため、補高を検討することも大切です。

しかし、上述のように、補高すると、物理的には立脚期に股関節に働く剪断力が増強するので、中殿筋の筋力が充分に発揮できるようになってきてから、様子をみて(疼痛が増悪しないか確認しながら)慎重に検討すべきでしょう。

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歩行補助具使用の検討

杖は股関節への荷重量を軽減する(島田他、1990)ので、股関節の疼痛の様子をみながら股関節痛の緩和のために導入を検討するのもアリです。

参考) 理学療法士が説明する歩行補助具「杖の種類と選び方」

股関節用サポーター

それでも骨の変形が進んでいる場合、なかなか殿筋群に筋肉が付かず、トレンデレンブルグが改善しないこともあります。

そんな方にはこのようなサポーターもあります。

 

中殿筋を抑えるように固定するサポーターなので、変股症の荷重時の骨盤の偏移を矯正してくれる効果があります。

 

冒頭でご紹介した、私が頭を悩ませた股OAの患者さんは、トレンデレンブルグ改善のためにこのサポーターの様に弾性包帯を股関節に巻き付けて、骨盤が偏移しないように固定してから、荷重を乗せ、CKCでのトレーニングを行っていました。

脳卒中の方の装具に近い考え方ですね。

 

当時はこんなサポーターが無かったので自作していた訳です。今は便利なものがあるので、悩んでいる方は検討してみても良いかもしれません。

 

ちなみに、膝や足のサポーターはホームセンターや薬局でも売っていますが、股関節用サポーターは通販以外で見かけることはほとんどありません。購入を検討される場合は、種類も豊富なので通販がオススメです。

バランス練習

変形性股関節症では、姿勢制御の要である骨盤(股関節)に異常をきたす疾患であるため、バランス訓練も必須の訓練となります。

詳細は 臨床でよく行われるバランストレーニング肢位別8パターン

生活指導や体重のコントロールについて

股関節に掛かるメカニカルストレス(機械的な負荷)を軽減させるために、体重のコントロールは非常に重要です。これは変形性膝関節症などでも同じで、医療機関に受診に行くと、減量を勧められる場合も非常に多いと思います。それくらい重要なことだということです。

日常生活での食事摂取量のコントロールには、心理面の影響も大きく関係していることが報告されており、そういった視点も考慮すると効果的です。

減量指導には、基本的に理学療法士や作業療法士だけの介入で完結するものではなく、

  • 運動
  • 栄養指導
  • 生活習慣

の改善が必要なため、

  • 医師
  • 看護士
  • 管理栄養士

などと協力して介入していくことになります。

 

生活指導に関しては、長時間の立位や歩行動作を行う作業を習慣的に行っている患者には、作業内容の検討や、環境面に働き掛ける視点も必要になります。

まとめ

変形性股関節はこの他にも腰痛が出現する方も多く、股関節周囲への影響も考慮してリハビリを行っていく必要があります。

多くの場合、他の疾患が原因でリハビリを受けている方が多いと思うので、主疾患に気を配りつつ、上記のリハビリを考慮していく必要があります。

 

変形性股関節症で障害される股関節部は骨盤帯であり、人体の動作上の中心部であるため、あらゆる動作に少なからず影響があります。できるだけ広い視野を持って、股関節周囲だけでなく、動作全般への影響を配慮しながらリハビリを行っていくべきだと思います。

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