
脳卒中片麻痺のリハビリにおいて、荷重練習は非常に大切です。
今回はリハビリで脳卒中片麻痺の方に行われる荷重練習の意義や目的と効果、実際にリハビリで行われている5つの荷重練習の方法をご紹介します。
荷重練習とは?
荷重練習とは、「体重の操作の練習」のことです。
言葉の使い方としては、右足に体重を乗せている場合、「右足に荷重している」と言います。
荷重練習は抗重力位で行うのが基本です。
抗重力位とは、読んで字のごとく、重力に抗した姿勢のことです。
具体的には、
- 座位
- 立位
など、体を地面に対して立てた状態での姿勢のことを言います。
抗重力位で、座位であれば、左右のお尻に交互に体重を乗せるように練習したり、立位であれば、運動麻痺がある足に全体重を乗せ、荷重する練習を行います。
荷重練習の意義・目的・効果は?
それでは、なぜ荷重がそれほど大切なのでしょうか?また、なぜリハビリでは荷重練習が積極的に行われるのでしょうか。
リハビリの臨床では、荷重練習を行う際、色々な効果を狙って行います。
果たしてどんな効果があるのでしょうか。
先ほど、”荷重練習は抗重力位で行う”と書きました。
人がどこにいっても重力の作用する地球上で活動する時には、必ず抗重力位を取らなければなりません。
抗重力位では、自身の体重を効率よく操作することができなければとても活動することができません。
荷重が全く操作できないと、座っていることも、もちろん立ち上がることもできないでしょう。
荷重操作ができないと、どんな活動も難易度が飛躍的に上がってしまいます。
具体的な例を上げます。
ヒトの体重は成人男性であれば、平均約70㎏あります。
歩行する時に、ヒトは二足の足を使って、この重さを移動させるために荷重を非常に巧みに操作しています。
右足を前に出す時には左足に全体重を乗せ(荷重し)、左足を前に出す時には右足に全体重を乗せるように荷重を操作します。
荷重した方の足は体重が乗っているため、どっしりと地面に足を付け、少々のことがあってもグラつかずに安定しています。
逆に、荷重をしない方の足は体重が乗っていないために、地面を離れ、自在に少ない力で操作することができます。
もしこれがうまく荷重を操作できない場合、右足に全体重の70㎏が乗った状態で足を前に出さなければならなくなります。
分かりやすく言うと、片足でうさぎ跳びをしているようなものです。
たとえ数歩進むことができたとしても、全身の疲労が強く、とても長距離を進むことはできないですよね。
荷重練習を行うことで、必要な時には荷重を抜き(抜重と言います)、必要な時には荷重を掛け、自在に自身の体を地面から浮かせたり、どっしりと安定させたりすることができます。
結果、より少ない力で効率的に活動することができるのです。
これは歩行動作だけに限ったことではありません。
ベッドの上で寝返りをうつときも、人は自身の体重を巧みに操作して寝床から体を浮かせています。
座っている時も、体重を操作することで安定して座っていることができます。
重力が働いている場所で何らかの動作をするときに、生物は必ず荷重を操作して動作を遂行しているのです。
実際のリハビリにおける荷重練習の方法
それでは、実際のリハビリではどのように荷重練習を行っているのでしょうか。
荷重練習を行う前に、まず必ず確認しなければならないことがあります。
荷重練習をするためには、足部や膝・股関節に荷重を乗せても耐えられる筋力や関節などの強い組織を持っていることが前提条件です。
運動麻痺が重度の場合
例えば、脳卒中発症後、重度の運動麻痺がある方は、麻痺側の足に荷重した瞬間、”膝折れ”と言って、ガクッと膝が折れてしまう(急激に膝が曲がってしまう)ことがあります。
参考)膝折れについて”膝折れ”の原因と対策
体重を支える為の筋肉(抗重力筋と言います。)、具体的には大腿四頭筋や下腿三頭筋の筋肉が運動麻痺により充分機能しなくなっているためです。そういった方に荷重練習を行っても、膝が折れて転倒してしまう危険があり、怖い思いをするだけです。
では、荷重練習をする前に、しっかり足を動かして鍛えて荷重に耐えられる足を作ればよいのでしょうか?
しかし、実際はそう簡単ではありません。
荷重時に膝折れしてしまう方の多くが、麻痺のために足を満足に動かすことができません。当然ですが、自分で意思をもって動かして初めて筋肉が動き、鍛えることができるので、他人が足を動かしても筋肉を鍛えることはできません。
よって、「自分で足を動かす」ということができない方は、足を鍛えることも難しいということになってしまいます。
そこで、下肢装具の出番となります。下肢装具とは、
このような装具で、麻痺側の足に装着して使用します。


膝関節の部分にこのような継手が付いており、膝が曲がってしまわない様にロックすることができます。
麻痺が重度の方の場合、この長下肢装具と呼ばれる装具を装着し、完全に膝折れが起きない状態を作ってから、体重を足に乗せる荷重練習を行っていきます。
もちろん、この装具を装着した患者さんの後ろにセラピストが付き、転倒しないように介助しながら荷重練習を行います。
下肢装具を使った荷重練習の方法①立位保持
下肢装具を麻痺側下肢に装着し、立位保持練習を行います。立位保持とはそのまま、”立っているだけ”のことを指します。立位保持ができるようになるためには、骨盤帯を制動できるかどうかが重要です。
骨盤帯には重心があるため、立っている時に骨盤が左へ移動してしまえば、自然に重心もそちらに移動し、左右の足の荷重量が偏ってしまいます。
当然、荷重量が偏った立位姿勢はバランスが悪く、不安定です。
荷重は、バランス能力にも大きく関係しています。
バランスが良いという状態は、内外の刺激(変化)に対して柔軟に荷重量を移動させ、素早くその状況に適した身体状態を作り出せることを意味するからです。
長下肢装具を使った荷重練習での立位保持では、骨盤帯の制御ができるようになることを目的に練習を始めます。
そして、骨盤帯の制御には、股関節周囲の筋肉が大変重要な役割を持ちます。
上述の様に、下肢装具は足の関節のうち、膝・足首を固定してくれるものなので、それほどそれらの関節に関わる筋肉を使いません。
しかし、股関節は保護・支持されていないため、荷重した際に、自身で股関節周りの筋肉を使い、お尻が出てしまったり、骨盤が外(横)に逃げてしまわない様に制御する必要があり、その練習をすることが、荷重練習のまず初めの目的になります。

立位保持での骨盤操作
人が普段立位を取っている時、真っ直ぐ直立の姿勢ばかりを取っているわけではありません。
立位保持で骨盤帯周囲の筋肉がしっかりと働くようになってきたら、セラピストが骨盤帯をわざと左右に移動させたり、自身で移動させたりして、ある程度姿勢が崩れても踏ん張れるように練習を行っていきます。
荷重の微妙な偏移に対する抵抗力を付けていくのです。
骨盤帯を操作できるようになると、立位の安定性が飛躍的に向上します。
スポンサーリンク
下肢装具を使った荷重練習の方法②片脚立ち
上述の立位保持を行い、骨盤帯がそれほど移動してしまわずに荷重することができるようになってくると、次は麻痺側下肢を支持脚として片脚立ちにて荷重練習を行っていきます。
片脚立ちでは、立位保持で二本の足に分散していた体重が麻痺側の片足に全て掛かるため、より強い負荷が掛かります。
麻痺側と反対の足を一瞬地面から浮かせ、それを反復させ、股関節周囲の筋収縮をさらに促し、骨盤がより安定することを目指します。
更に片脚立ちでは麻痺側下肢に負荷が強く掛かるため、股関節周囲の筋肉だけでなく、膝周りの筋肉も充分な収縮が促されます。片脚立ちで骨盤が制御できるようになってきた方は、膝関節周囲の筋肉も強くなり、装具を外しても膝折れしにくくなっていることも多くあります。
そうなると次の段階として、以下の軽度の麻痺の方向けの荷重練習を行っていきます。
軽度の麻痺がある方の荷重練習の方法
ここで定義する”軽度の麻痺”とは、「片脚立ちで麻痺側下肢(装具なし)に荷重しても膝折れしないこと」とします。
麻痺が軽度の方の麻痺側下肢の荷重練習として、以下の方法が主に行われます。
歩行練習
歩行動作は片脚立ちの連続です。
歩行動作は、すごく簡単に言ってしまうと、足を地面から浮かせて前に出す動作を連続して行っていることに他なりません。つまり、片足立ちで浮いている方の足を前に出す、と言う動作を繰り返し行っている訳です。
よって、上述の荷重練習を行い、ちゃんと麻痺側下肢に荷重が乗るようになっていれば、歩行練習を繰り返すことで、麻痺側下肢へ荷重する感覚はより強化されていきます。
しかし、麻痺側下肢に荷重がしっかりと乗る感覚が身に付いていないまま歩行練習を反復すると、反対に「麻痺側下肢に荷重しないで歩く練習」を行っていることになってしまい、逆効果になりかねません。
なので、セラピストが横に付き、麻痺側下肢へ荷重する歩行動作を行うように注意して観察しています。
ステップ練習

立位姿勢から、非麻痺側(強い方)の足を前に踏み出す動作を繰り返すのがステップ練習です。この時に、踏み出す方の足ではなく、支持している方の足に荷重がしっかりと乗っている感覚を掴みます。
「片足立位で麻痺側下肢に荷重するだけじゃだめなの?何が違うの?」と思う方もいらっしゃるでしょう。
このステップ練習は動的な荷重練習であり、片足立位保持は静的な荷重練習です。そして、ステップ練習は、歩行動作を真似しています。
股関節が伸展位(足が骨盤よりも後ろにある状態)で荷重がしっかりとできるようになると、歩行中にも同じ姿勢を取るため、歩行中に麻痺側下肢に荷重をしっかりと乗せることができるようになります。
片脚立位での荷重練習よりさらに実戦に即した荷重練習と言えると思います。
踏み台昇降練習
ステップ練習は動的な荷重練習の初歩です。次の段階として、踏み台昇降練習を行っていきます。
先ほどのステップ練習よりも、段差を乗り越える分、踏み出した足の滞空時間を延長させなければならないため、負荷量が上がります。
慣れてきたら、徐々に踏み台(段差)の高さを上げていき、より滞空時間を延長させていくと、より長時間軸足に荷重がしっかりと乗り、効果的な荷重練習となります。
市販の荷重練習グッズ
このような踏み台を使うと荷重練習が行いやすくなります。壁や手すりのそばで行い、ふらついた時にすぐに支持できるようにして下さい。
まとめ
実際のリハビリで行われる、脳卒中片麻痺の荷重練習の内、代表的なものをご紹介しました。
荷重練習をしっかりと行うことで、動作時の効率性が格段に向上し、少ない力で動作を行えるようになります。
特に、数十キロにも及ぶ人の体を数時間も移動させる歩行動作や、刺激に対応するためのバランス能力に大きな影響がある荷重練習は、脳卒中片麻痺の方のリハビリにとってかなり重要な練習です。
普段、筋トレやバランス練習は良く聞くし、広く認知されていますが、荷重練習というのはあまり聞かない気がします。今回の記事を参考に、筋トレにもバランス練習にもつながる、荷重練習について少しでも知って頂けると幸いです。