
リハビリの臨床では股関節や腰に問題がある方って、実は梨状筋に原因があることが少なくないです。インナーマッスルで表立ってなかなか目立たたない筋肉ですが、人体の構造的に縁の下の力持ち的存在であり、その中でも結構重要な筋肉である梨状筋についてご紹介します。
梨状筋の解剖
梨状筋は骨盤(お尻)の中にあります。解剖図で見てみましょう。
梨状筋は、仙骨の骨盤面(仙骨の前面外側)より起始し、
大腿骨大転子の先端に停止します。
支配神経は仙骨神経叢(L5-S2)からの筋枝 で、
栄養血管は
- 下殿動脈
- 外側仙骨動脈
- 上殿動脈
です。
梨状筋が収縮すると、
- 股関節の外旋
- 外転
- 伸展
に作用します。
梨状筋の役割
純粋に梨状筋が収縮すると、股関節を外旋させる働きがあります。動作上では、大腿骨と仙骨を近づける方向に力が働くため、股関節の安定性を高める役割をします。
大殿筋などのおしりのアウターマッスルが弱化すると、股関節を安定させるために梨状筋などのインナーマッスルが過剰に活動し、筋疲労や痛みを訴えることがあります。
その場合は、おしりの主要なアウターマッスルである
を鍛えつつ、以下に述べる梨状筋のストレッチやマッサージをリハビリで行うこともあります。
その他、梨状筋をより理解するために知っておくと良いこと
梨状筋について、その他にも以下のことを知っておくとより理解が深まります。
1.梨状筋症候群
梨状筋の下には坐骨神経が通っており、梨状筋に何らかの異常があると、この坐骨神経を圧迫してしまい、梨状筋症候群と呼ばれる症状を呈します。
梨状筋症候群では、梨状筋の下を通る座骨神経が圧迫されて、坐骨神経の走行に沿って大腿部後面や下腿の膝裏部辺りまで
- 痛み
- しびれ
などの神経症状が出現します。
症状が椎間板ヘルニアとかなり似ているので、自己診断で椎間板ヘルニアと判断してしまう人が多い様ですが、急激に症状が現れる椎間板ヘルニアと比較して、梨状筋症候群ではゆっくりと症状が現れることが多いという特徴があります。
参考)椎間板ヘルニアのリハビリについてガイドラインに基づく腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ方法
椎間板ヘルニアと梨状筋症候群では、症状は似ていても原因も治療法も全く違うため、安易に自己診断はせず、医師に相談し、専門的に確定診断をしてもらう方が早く良くなります。
また、梨状筋症候群は、梨状筋の異常により坐骨神経が圧迫されることにより発症するので、腰に痛みは生じません。整形外科分野では、上向きに寝転んだ状態で足をまっすぐ伸ばして足を挙げる、ラセーグ徴候などで診断が行われます。
梨状筋症候群の症状
- 痛み
- しびれ
などの神経症状が主な症状になりますが、特にお尻から下肢に向かうピリピリとした痛みが慢性的に続くと梨状筋症候群を疑います。
その後、大腿部後面、ふくらはぎと、下に向かって症状が広がる傾向があります。
痛みの出やすい姿勢
梨状筋の緊張が何らかの原因で上がった状態で坐骨神経を絞束してしまうことが原因なので、梨状筋を過剰に収縮させる姿勢を取ると症状は増悪します。
具体的には、
- 座った姿勢から立ち上がる時
- 背中を後ろに反らせる時
- かかとを地につけたままで、足の先だけを外側に回すように股関節から脚全体を動かした時
に痛みを生じやすいです。
2.梨状筋と関係が深い,股関節の深層外旋六筋について
梨状筋は股関節の深層外旋六筋のうちの1つです。
深層外旋六筋とは、その名の通り、股関節の安定性に重要な役割を果たす、骨盤の中にある六個の筋肉のことを指します。
梨状筋の他には、
- 外閉鎖筋
- 内閉鎖筋
- 上双子筋
- 下双子筋
- 大腿方形筋
があります。
どれも大殿筋などのお尻の他の筋肉と比べると小さい筋肉ですが、非常に重要な役割を持っています。
これらのそれぞれの筋肉が上手にバランスを取ることで、股関節の安定性を高めています。(肩関節でいうとローテーターカフと似たような役割を担っています。)
これらのおかげで、足を地面に付けて立っている時に、重力に抗して足と骨盤を微妙にコントロールすることが可能となっているのです。地味で目立たない筋肉ですが、実は股関節の安定にとっては無くてはならいものです。
梨状筋のストレッチ・マッサージの方法
梨状筋のストレッチの方法2種類と、マッサージの方法についてご紹介します。
基本的には梨状筋は股関節を外旋させる働きがあるので、反対方向、つまり、股関節を内旋させることでストレッチされます。
背臥位で寝て、足を反対側の足の膝の外側に置きます。
そのまま、膝を持って床に近づけるように倒していきます。この方法は自分一人でもできるのでお勧めです。
別の方法としては、うつ伏せで寝て、膝を90°程度に曲げ、
このように足を地面の方向(外側)に倒していき、股関節を内旋させる方法があります。この時、骨盤が地面から浮いて回旋してしまうとストレッチ効果が弱くなります。
梨状筋のストレッチは他の方法でもそうですが、必ず骨盤は動かない様に固定して行って下さい。また、膝関節に痛みがある方の場合、このストレッチの方法では膝に回旋ストレスが加わるので、膝に痛みが出ない範囲で行ってください。
立ち仕事などで股関節に普段から負担が掛かりやすい生活習慣があり、おしりや足の裏側に痛みがある方は、是非これらの梨状筋ストレッチを試してみて下さい。お尻周りの重だるい感じが軽くなると思います。
スポンサーリンク
梨状筋のマッサージ
上述の2通りのストレッチを行おうとすると、痛みが強い場合、無理してストレッチしても、痛みのため筋肉が勝手に緊張してしまい、ほとんどストレッチできません。(これを”防御収縮”と言います。)
まずは、筋肉をマッサージしてほぐしていきましょう。
梨状筋のマッサージの方法は、とても簡単です。1人でも自分でできます。
横向きに寝て、
- 握りこぶし
- テニスボール
- バスタオルを固く丸めたもの
- 以下の市販の商品
などをお尻の下に引き、気持ち良い程度に体を揺らすだけです。
その時に床がフローリングや畳だと、硬すぎて痛い場合が多いので、寝る前に布団の上でやるのがおすすめです。マッサージもストレッチも痛みが強すぎると、逆に筋肉が緊張してコチコチになってしまいます。
適度な刺激で気持ちよい、という程度のものを選択し、お尻の下に入れて試してみて下さい。
梨状筋の筋力トレ―ニングの方法
続いて梨状筋の筋トレ方法を2通りご紹介します。
横向きで寝て、両膝を曲げます。
そこから両膝の間に空間を開けるように足を開きます。
この時に足を開き過ぎると必ず骨盤が回旋してしまい、トレーニングとしての効果が弱くなります。少しだけ足を開くようにすることがポイントです。
梨状筋に限らず、インナーマッスルを鍛える場合、力いっぱい思いっきり力行うとアウターマッスルの筋活動が増え、インナーマッスルへの負荷が少なくなってしまい効果的に鍛えられないことが多いです。
力いっぱい行う意識よりも、制御しながら正確な運動を心掛ける必要があります。
もうひとつの方法では、半側臥位で寝て、鍛えたい方の足を軽く曲げ、地面から膝を浮かすように少し持ち上げるようにします。
この時も力いっぱい持ち上げるとほとんど間違いなく骨盤が回旋し、股関節外旋筋のアウターマッスル(大殿筋)を使ってしまうので、すこ~しだけ地面から浮かせる程度の運動で結構です。
まとめ
梨状筋は機能としては股関節を外旋させる筋肉ですが、他の深層外層六筋と共に、大腿骨を骨盤に引きつけ、股関節を安定させるインナーマッスルとしての役割もあります。
また、股関節にある梨状筋のすぐ下には、両足の裏側を走行している坐骨神経が通っており、梨状筋が固く、柔軟性を失うと、足の痛みなどの神経症状を引き起こす梨状筋症候群を呈することもあります。
その場合は、今回ご紹介したストレッチの方法を試すことで症状が軽減することもあります。
特に変形性股関節症の方はこの梨状筋に問題がある場合も多く、梨状筋にアプローチすることで症状が改善することもあります。