
肩関節は構造が複雑で、治療において、他の部位より詳細な解剖学・運動学の知識を必要とします。また、構造が複雑なため、不安定で痛みを訴えやすい部分でもあり、運動範囲も広く、痛みの部位を特定することも難しいと言われています。
今回は、肩関節の運動及び構造で重要な要素であるインナーマッスルのローテーターカフ(回旋筋腱板)についてご紹介します。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)について理解するための予備知識
ローテターカフは、
- 棘上筋
- 棘下筋
- 小円筋
- 肩甲下筋
の4つの筋で構成されます。ローテーターカフの解剖と役割を理解するためにはこれら4筋の機能解剖を理解しておくと頭に入りやすいのので、以下に4筋それぞれについて解説します。
また、全ての筋が肩甲骨と上腕骨に起始と停止を持つため、肩甲骨の解剖と上腕骨の解剖をある程度理解しておくとなお理解しやすいと思います。
肩甲骨の関節・筋肉
肩甲骨の解剖は肩甲棘は最低覚えておくと、触診、周辺の筋の理解に役立ちます。
肩甲骨に関節は2つあります。
- 肩鎖関節:肩甲骨の肩峰と鎖骨外側端との関節
- 肩関節:肩甲骨関節窩と上腕骨頭との関節
肩甲骨より起始する筋肉は、ローテーターカフを含め、なんと17個もあります。
- 上腕三頭筋(長頭):関節下結節より
- 肩甲下筋:肩甲下窩
- 肩甲舌骨筋:上縁の外側部
- 烏口腕筋:烏口突起
- 上腕二頭筋(短頭):烏口突起
- 上腕二頭筋(長頭):関節上結節
- 三角筋:肩甲棘の下面
- 棘上筋:棘上窩
- 棘下筋:棘下窩
- 大円筋:外側縁の下半分
- 小円筋:外側縁の上半分
- 広背筋(起始部の小筋片):下角 停止:
- 小胸筋:烏口突起 前鋸筋:内側円の前面
- 肩甲挙筋:内側縁の後面(上部)
- 大菱形筋:内側縁の後面(中部)
- 小菱形筋:内側縁の後面(下部)
- 僧帽筋:肩甲棘の上面
ほとんどが肩こりに関係する筋肉であるため、肩甲骨の動きを良くすると肩こりの緩和に役立ちます。詳細は過去記事”ROMの効果を劇的に高める!モビライゼーションの方法”に記載しています。
肩こりの対処法は、”肩こりを改善する運動”に記載しています。
上腕骨の解剖
上腕骨でローテーターカフが付着する部位は、大結節と小結節です。
大結節に回旋筋鍵板の4筋のうち3つ、
- 棘上筋
- 棘下筋
- 小円筋
が停止し、肩甲下筋のみ小結節に停止します。こう覚えると起始と停止が覚えやすいですよね。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)とは
解剖を理解すると運動・役割が見えてきますので、
- 解剖
- 運動学的な機能
についてご説明します。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の解剖
- 棘上筋
少し分かりにくいので、上から見るとこんな感じです。

肩甲棘の上に乗っかっている筋肉だから棘上筋。分かりやすいです。ローテーターカフの中で唯一三角筋と共同して上腕骨大結節を重力に抗して上から引っ張る働きをする重要な筋肉で、その分負荷も大きくなりやすく、ダメージを負いやすい筋肉でもあります。
起始: 肩甲骨の棘上窩
停止: 上腕骨の大結節
支配神経: 肩甲上神経(C4-C6)
栄養血管: 肩甲上動脈
作用: 上腕の外転
- 肩甲下筋


少し分かりにくいですが、肩甲骨の裏側に張り付いているのが肩甲下筋。
唯一ローテーターカフの中で小結節に停止する肩甲下筋は、上腕骨の内側を通って前方へ停止するため、上腕骨を内旋させる動きになります。起始と停止を図で理解していると作用はすごくわかりやすいですね。
起始: 肩甲骨の肩甲下窩
停止: 上腕骨の小結節
支配神経: 肩甲下神経(C5、C6)
栄養血管: 頸横動脈、肩甲下動脈
作用: 上腕の内旋
- 棘下筋
肩甲棘の下にあるから棘下筋。そのままですね。棘上筋と起止・停止は似ていますが、大結節を外から回り込むようにして停止しているため、上腕骨を外旋させる働きをします。
起始: 肩甲骨の棘下窩
停止: 上腕骨の大結節
支配神経: 肩甲上神経(C4-C6)
栄養血管: 肩甲上動脈、肩甲回旋動脈
作用: 上腕の外旋
- 小円筋
起始: 肩甲骨の外側縁
停止: 上腕骨の大結節
支配神経: 腋窩神経(C5、C6)
栄養血管: 後上腕回旋動脈、肩甲回旋動脈
作用: 上腕の外旋と上腕の弱い内転
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の運動学的機能
鍵板を構成する4筋(棘上・棘下・肩甲下筋・小円筋)のうち、棘上筋を除いた3筋により上腕骨を回旋させます。ローテーターカフには上腕骨頭を固定し、円滑な肩の挙上運動をサポートする重要な役割があります。
三角筋単独で挙上を行うと上腕骨頭は肩峰にぶつかり、腱板のみが働くと上腕骨頭を関節に引きつける力のみが働きます。
三角筋の効率を高めるために腱板が骨頭を臼蓋に引きつけ、てこの支点として働き、肩関節外転時に大結節が肩峰にぶつからないように上腕骨頭を肩峰の下に潜り込ませるように働きます。鍵板と三角筋が協調して働くことで初めてスムーズな肩の挙上運動が可能となります。
腱板部に疼痛を訴える臨床で多い疾患の例
- 肩関節周囲炎・・俗に五十肩や凍結肩と呼ばれる有痛性の肩関節可動域制限のことです。退行性変化や運動による機械的刺激により肩関節周囲炎と診断されます。主たる病変部位は上腕二頭筋長頭筋腱、ローテーターカフの棘上筋の炎症や癒着断裂などです。
- 脳卒中片麻痺・・インナーマッスルである回旋筋腱板が麻痺し、弛緩及び過緊張により三角筋との協調が崩れ、円滑な肩関節の運動が困難となります。結果、インピンジメント(衝突・引っ掛かるの意味:筋・腱の挟み込みや骨同士の衝突)を起こし、炎症や疼痛を誘発させます。
まとめ
ローテーターカフ(回旋筋腱板)には4筋あります。
- 棘上筋
- 棘下筋
- 小円筋
- 肩甲下筋
そのうち肩甲下筋は小結節に停止し、それ以外は大結節に停止します。よって肩甲下筋のみ上腕骨を内旋させる働きを持ちます。
棘上筋は唯一上から上腕骨を引っ張る小さい筋肉で、比較的過負荷になりやすい部位です。上腕骨を外転させる働きをします。