
リハビリの臨床家、療法士にとって”ROM(アールオーエム)”は必須の技術です。
ROMの中でも、筋に対して徒手的にアプローチする方法がストレッチなら、関節に対してアプローチする方法が”モビライゼーション”です。
ROMは臨床のリハビリにおいて、毎日必ず行うと言っても過言ではありません。ROMを行う際にモビライゼーションの方法を知っていると大変便利で効果的です。臨床で頻繁に使える技術、モビライゼーションの定義、具体的な方法についてご紹介します。
モビライゼーションとは
療法士による関節モビライゼーションの手技は、主に
- 関節可動域の改善
- 関節機能障害による疼痛の軽減
のために行います。
関節機能障害に対する治療手技として、従来の短縮した、
- 筋
- 関節周囲の軟部組織の伸張・筋緊張軽減
と合わせて関節可動域制限因子に対する治療法としてモビライゼーションが適応されるようになりました。
モビライゼーションの目的
モビライゼーションは、
- 滑膜性関節の正常可動域への改善を図ること
- 関節可動性の低下や運動の不備による疼痛の軽減
を目的として行います。
モビライゼーションで大切な「副運動」について
副運動は関節の中の運動(関節包内)の運動のことで、いわゆる骨運動(屈曲・伸展・内転・外転・内旋・外旋)に対する言葉です。
副運動の種類
副運動は、
- 構成運動
- 遊び運動
に分類されます。以下にその違いをご説明します。
構成運動(component motion)
構成運動とは、自動的・他動的な運動を行う時に関節包内で起きている運動のことを指します。
さらに三種類に分かれ、
- 転がり
- 滑り
- 軸回旋
があります。滑り運動が代表的です。
遊び運動(joint play motion)
一方、遊び運動は他動的に外力を加えた場合に見られます。遊び運動の代表的なものは関節相互の間隙を拡大する、引き離し運動です。
これらの構成運動と遊び運動って結構理解しにくいですよね。
Kinserという人が、TP(治療面=treatment place)という概念を加えて定義を明確にしていますが、それも少し分かりにくいので、骨を把持して長軸方向に牽引すると引き離し(遊び運動)、横軸方向に圧迫力を加えると滑り運動(構成運動)が起こる、とだけ覚えておけば充分だと思います。
適応と禁忌
モビライゼーションの適応と禁忌についてご紹介します。
適応
モビライゼーションの適応は、
- 関節包内運動の障害による関節の可動域制限
- 明らかな神経神経根圧迫や原因が判明している疼痛を除く有痛性疾患
一般的に四肢の関節に対しては可動性低下に対するアプローチ、脊柱では疼痛の緩和、軽減を目的として適用されることが多いです。
また、進行性疾患による可動域制限の予防や、運動前の関節運動を円滑にすることを目的として適応されることもあります。
禁忌
- 関節の過可動性
- 活動性の関節炎症状態
関節が動き過ぎて痛みがあるような場合は当然ながら、モビライゼーションをしない方が良い=禁忌ということになります。
同じく、炎症を起こしている組織は活動性を高めて組織破壊が進む可能性があるので禁忌とされています。
治療上の原則
- リラクセーション
関節の円滑な他動運動を行うには、患者、セラピスト共にリラックスしていることが必要です。これはモビライゼーションに限ったことではありませんが。不
快な刺激や疼痛があると、組織の防御反応があり、関節の副運動は制限されてしまいます。
筋短縮や拘縮組織がある関節に行う場合は、ある程度疼痛が出てしまう場合も多いですが、基本的に無痛・不快感を出さない様に配慮して行うべきです。
- 固定
モビライゼーションでは治療関節の一方を固定し、他方を動かすことが基本です。
なので、基本的には中枢側を固定し、抹消側を可動させます。ある程度解剖学的知識がないと徒手的にしっかりと固定することは難しいです。また、”感覚”も非常に重要です。
触診やハンドリングを通して、”固定できている感覚”を身に付ける必要があります。
- 凹凸の法則
関節構成体の解剖学的形状を理解し、骨自体の動きと目標の運動方向を決定します。基本的には可動骨が凸面で骨の動きと副運動の方向が逆になっている場合や、中枢側が固定、末梢側を可動する、という基本原則を変更する場合は凹凸関係が逆転します。
リハビリで使える!モビライゼーションの実際の方法
ここでは臨床で遭遇することの多い、
- 足関節背屈制限
- 膝関節伸展制限
- 肩甲帯の可動性低下
に対するモビライゼーションをイラスト付きでご紹介します。私も臨床で頻繁に行っていて、大変お勧めの手技ですので参考にして下さい。
- 足関節背屈制限に対するモビライゼーション
- 距骨遠位引き離し
背臥位で寝た患者さんの足元に立ち、体幹を後方へ動かす力を利用して遠位方向へ牽引します。できるだけ、足関節の底背屈が入らないように正中位で床と平行に牽引するようにすると、よりストレッチが掛かりやすいです。
- 脛骨後方 滑り
背臥位で足関節をベッドより出します。内外果の中央部をグッーと下に押し込みます。足関節を固定し、底背屈中間位で行うために、大腿部で足底を支持・固定しながらやるとやりやすいです。
足関節の可動性は人が立って運動をする際になくてはならないものと言っても良いほど大切です。少し可動性が上がるだけで、パフォーマンスが大きく変わることも多いです。
- 膝関節伸展制限に対するモビライゼーション
- 膝蓋骨 遠方滑り
膝関節を軽度屈曲位(緩みの肢位:屈曲30度)にする様にタオルなどを膝裏に敷き、両手で膝蓋骨を下方向に動かします。できるだけ体重を乗せて、ゆっくりと伸ばすように動かすのがコツです。
- 脛骨遠位 引き離し
座位で膝関節屈曲90度、両手の母指を脛骨結節部に当て、ゆっくり下方へ引きます。重力を利用して下方へ引き離すようにします。
股関節伸展制限がある方は歩行で膝関節の屈伸で足を振り出して歩いている方が多いです。いわゆる代償動作ですが、そういった方に膝関節のモビライゼーションをすると歩幅が拡大し、長距離の歩行が可能となることが実際にありました。
膝OAの方も膝関節伸展制限がある方が多いのでおすすめです。疼痛には充分注意して下さい。
- 肩甲帯 可動性向上
- 引き離し、頭側・尾側滑り
腹臥位、もしくは側臥位で肩甲骨をガシッ!と掴み、肩甲胸郭関節を思い浮かべながら、そこから引き離すように肩甲骨を動かせば、引き離し、引き離さずに上下方向に動かせば、頭側・尾側の滑りになります。
特に高齢で円背の方の肩甲骨はカチカチで可動性が著明に低下しているので、これで肩甲骨をしっかり動かしてから上肢の運動を行うと可動域が劇的に向上することがあります。
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あとは、モビライゼーションとは少し定義が異なりますが、肩こりにも効果があると臨床で感じています。
肩甲骨には、
- 肩甲挙筋
- 僧帽筋
など、肩こりの原因となる主要な筋肉が付着しているため、肩甲骨のモビライゼーションでしっかり肩甲骨が動くようになると筋緊張が緩和します。一度試してみて下さい。
(肩甲骨に付着する筋肉について詳細はこちら、「ローテーターカフの解剖」の記事に記載しています。)
その際には内外転方向に動かすことによって菱形筋もストレッチされますので内外転方向にも行ってみて下さい。
まとめ
ROMは毎日行うことが多いので、いかに効率よく行うかでリハビリの結果に大きく差が出ます。
モビライゼーションは多少の剖学的な知識と上記の基礎知識があればあらゆる関節に応用して利用できます。
ぜひ実際の臨床で使ってみて下さい。