
SLR(下肢伸展挙上運動)はリハビリにおいて大変良く行われる運動です。病院や施設で働いている療法士は一日1度はSLRを目にする機会があると思います。今回はそんなSLRについて知っていると良い知識をご紹介します。
SLR(下肢伸展挙上)とは?
図では自動運動としてSLRを行っています。
SLRは、Straight Leg Raizingの頭文字を取った略称です。背臥位で寝て、下肢を伸展させ、股関節を屈曲させる動作のことを言います。
SLRはどんな時に活用されるのか?
SLRは考え方、使い方によって様々に活用することができます。
ハムストリングスのストレッチとして
他動的にSLRを行うとハムストリングスのストレッチとなります。必ず両膝関節完全伸展位で行って下さい。
また反対側の膝関節が屈曲していると、骨盤が後傾するため、筋の伸張効果が著しく低下します。
どうしても反対側の膝が曲がってしまう患者さんもいるので、効果的にストレッチするなら、反対側の膝関節屈曲を施術者の足、または手で抑えてSLRを行う必要があります。
また骨盤から始起するハムストリングスを伸張する場合、ストレッチの大原則として骨盤を固定している方がより伸張されます。
しかし、股関節を屈曲させていくSLRは人間の生理的な反応として股関節屈曲⒛°付近から骨盤の回旋(後傾)が徐々に起こってしまいます。これは他動、自動運動に関わらずです。つまり、SLRを行うと自然に骨盤も動くため、ストレッチ効果は弱くなってしまいます。
これを防ぐ方法として、大腿骨をぐっと骨盤に押し付けながら他動的にSLRをすることで骨盤の後傾を抑えながらSLRが行えるため、よりハムストリングスを効果的に伸張させることができます。ぜひ一度試してみて下さい。
また、個別に筋を伸張させたい場合は、ハムストリングスには半腱・半膜様筋、大腿二頭筋があり、股関節を内旋させながらSLRを行うと半腱・半膜様筋のストレッチ、外旋させながらSLRすることで大腿二頭筋のストレッチとなります。
筋力トレーニングとして
背臥位で股関節屈曲運動として自動運動でSLRを行う場合、腸腰筋、大腿直筋、体幹筋群のトレーニングになります。
変形性膝関節症や股関節骨頭置換術術後でも早期に簡単にリスクが少なく行える運動のため、非常に多用されています。
大腿四頭筋を鍛えることを目的とする場合は、足関節を背屈させながら行うことでより収縮を高める効果があります。また、大腿四頭筋を鍛える他のトレーニング方法については、パテラセッティング、ランジなどがあります。
SLRをトレーニングとして使う方法の応用としては、逆SLRというものがあり、大殿筋、ハムストリングスを鍛えることもできます。
詳しいトレーニング方法は変形性膝関節症のリハビリと変形性股関節症のリハビリの記事に記載していますので、参考にして下さい。
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整形外科テストとして
整形外科テストとしてSLRテストというものがあります。
SLRを行うことで腰椎には圧が掛かるので、それを利用して腰椎椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄症の判別法として用いられます。
SLRテストの診断方法
やり方は背臥位で寝て、他動的に下肢を伸展位で挙上させるだけです。普通にSLRをするだけですね。
股関節屈曲70°以下で坐骨神経が圧迫され、臀部から大腿後面に放散痛がある場合、椎間板ヘルニアを疑います。陽性の場合、L4、L5、S1のヘルニアが疑われます。
注意点として、必ず両方の足を行い、左右差を確認すること、もし判別が付きにくい場合は、股関節を内転、あるいは内旋させながら行うことでより放散痛が増強するか確かめることです。
もし、痛みがあっても、SLRはハムストリングスのストレッチとしても行われるので、ただ単に伸張痛が起きているだけの可能性もあります。
患者さんに痛みの程度と種類を確認し、「ビリビリする」、「ビーンと痺れるような感じ」などの神経徴候の訴えがあれば陽性と判断しても良いでしょう。「突っ張る感じ」と言われれば、伸張痛の可能性が高いです。
一番確かなのは、疼痛の範囲を聞くことです。坐骨神経は下肢後面全面に通っていますので、下肢後面全面に痛みが走る場合は放散痛です。逆に伸張痛の場合は、膝の裏だけとか、ハムストリングスの起始部だけの疼痛の訴えの場合が多いです。
追記しておくと、腰椎椎間板ヘルニアの患者さんにSLRでトレーニングをすると、腰椎に圧迫力が加わります。症状を増悪させる可能性があるので訓練として多用するは避けた方が無難です。
しかし、療法士は診断のプロではありませんので、あくまで参考程度にし、本当に腰椎のヘルニアが疑われると判断した場合、主治医に相談し、本格的な診断を依頼しましょう。その時も何となくでなく、「SLRテストをして陽性でした」と伝えるとスムーズでしょう。
SLRを行う時の注意点
ハムストリングスのストレッチとしてSLRを行う場合の目安として、男性では股関節屈曲が約70°、女性では90°が参考可動域と言われています。
腰痛がある患者さんの場合、筋トレとして自動運動でSLR運動を普通に行うと腰椎前彎位(反り腰)になることがあり、腰痛を誘発してしまう可能性があります。
その場合、骨盤反対側の下肢を屈曲させて行うことで腰椎の前弯を抑制することができます。
ストレッチをする際にはこの肢位を取るとほとんどストレッチされませんので、あくまで筋力訓練としてSLRを行う場合のことです。
まとめ
SLRは臨床におけるリハビリで大変多用されている運動です。
何気なしに行っている方も多いと思いますが、こだわってやってみると、ほとんど毎日の様に行う訓練なので、劇的に効率が上がります。ぜひ試してみてください