
パーキンソン病の有病率は日本では約1000人に1人と推定されており、発症年齢は50~65歳に多く、リハビリの臨床でも比較的よく遭遇します。
ガイドラインに基づいたパーキンソン病のリハビリについて、実際に行われている方法をご紹介します。
パーキンソン病は、一昔前は進行性疾患の難病としてのイメージが先行しがちでしたが、L-dopa(レボドパ)などの薬物療法の進歩により、服用を続けながらでも、ほぼ天寿を全うできる疾患というイメージになってきました。
しかし発病当初は抗パーキンソン薬が功を奏しますが、経年的にみると振戦や固縮などに比べ、無動や姿勢反射障害に対しては限界があるとされ、徐々に薬の作用が低下していきます。
したがって、薬物療法のみで症状の進行を予防できるのは発病初期の段階にとどまり、理学療法によっていかに活動的な毎日を過ごし、高いレベルの運動機能維持していくか、すなわち二次的機能障害を予防し、能力障害の進行を可能な限り遅延させQOL向上を図ることが重要になってきます。
日本神経学会による治療ガイドラインにおいても運動療法はパーキンソン病の臨床評価の改善に効果があると結論できると記載されており、薬物療法と併用して理学療法を実施することが強く勧められています。
パーキンソン薬の長期服用に伴う諸問題(効果の減弱、日内変動、精神症状等)を引き起こさないためにもL-dopaを低維持量とした上でADL自立期間の延長を図り、転倒や呼吸器感染症、誤嚥などによる長期臥床を予防することが大切です。
パーキンソン病の運動障害に関する症状
パーキンソン病は特徴的な症状がたくさん出現します。パーキンソニズムと似た症状が多いので注意が必要です。
安静時振戦
安静時に主に手指や足指が震え、母指がリズミカルに動くPill Rolling Sign(丸薬丸め様運動)が典型的な症状です。
一見すると不随意運動と似ていますが、
- 動作時に消失ないしは軽減すること
- 精神的な緊張で増強すること
が判断のポイントとなります。
固縮
リラックスした状態で四肢の関節を他動的に動かした時に屈曲、伸展どちらの方向でも強い抵抗感がみられる現象。
筋固縮(強剛)には一定の抵抗感が持続する鉛管様固縮(鉛管様強剛、lead pipe rigidity)と抵抗が強くなったり、弱くなったり断続的な場合は歯車様固縮(歯車様強剛、cogwheel rigidity)と呼ばれます。
無動・寡動
動作の開始が困難となり、動作が遅く、かつ少なくなる減少のことです。
これに関連した臨床症状として仮面様顔貌(まばたきが少なく,表情の変化に乏しい)、すくみ足、小刻み歩行、動作時の前傾姿勢、小字症、小声症などがあります。
姿勢反射障害
バランスを崩しそうになったとき、生体において通常生じるはずの体を立ち直らせる反射が減弱あるいは消失する現象のことです。
パーキンソン病による姿勢反射障害は、バランス能力が大きく低下するため、洗面所で顔を洗おうとして両上肢を振り上げただけで後ろに転倒した、という話も実際に聞いたことがあります。
すくみ足
歩行する際、最初の1歩がなかなか踏み出せなくなる現象のことです。歩行中に歩幅が次第に小さくなり、歩行が停止してしまうこともあります。
小刻み歩行
歩幅が狭く、ほぼ一定となる歩行となることです。
体幹を前傾させ、小刻みに突進するような歩行でパーキンソン病だと見て分かる方も多いです。
リハビリでは床に目印となる線を引いて歩いたり、物を跨ぐように歩いたり、視覚的な手がかりがあると歩幅が改善しやすいです。私の経験上でも、多くのパーキンソン病の方は、平地の歩行が困難になっても、階段昇降はできる、という方が多いです。このように、階段昇降の方が難しいはずなのにできてしまう、という歩行の特性を逆説性歩行と言います。
突進現象
立位時、前方・後方・側方に押されると、踏みとどまることができずに、押された方向に突進していく現象をいいます。歩行中に簡単に止まることが難しい方も多いです。特に後ろへ押されると弱く、簡単に転倒してしまいます。
その他の症状
その他にもパーキンソン病には特徴的な症状があります。他の疾患(特にパーキンソニズム)と区別する時にあると便利な知識です。
on-off 現象
L-dopa の服用時間に関係なく,スイッチが入ったように動けるようになったり(on),切れたように動きにくくなったり (off)する現象です。
今まで普通に歩いていたパーキンソン病患者が急に動けなくなる off の状態に突然なったり、急に動けるようになるといったことが日中に繰り返されます。
この変化は 1 日 1 回から 5~6 回とさまざまで,突然起こるため,患者の日常生活は著しく障害され、介護者を悩ませていることが多いです。on の時にはジスキネジアを伴うことが多いです。
wearing-off 現象
wearing-off とは「擦り減る」という意味で、L-dopa の薬効時間が短縮し、L-dopa 服用後、数時間を経過すると L-dopa の効果が減弱する現象のことです。患者は薬が切れたという自覚があり、服用すると再び改善します。
wearing-off 現象は,L-dopa の血中濃度に関係した症状変動です。患者によっては服用後 2~3 時間で症状が悪化するため,患者は薬を多く飲 むようになり、さらに wearing-off 現象を助長してしまうことになりかねません。
ジスキネジア(dyskinesia)
パーキンソン病患者にみられるジスキネジアは痙性の強い、四肢や頭部の舞踏様の運動であり、通常L-dopa(レボドパ)による服薬治療を開始して数年後に現れるとされています。
ジスキネジアは脳内のド-パミン作用が過剰になるために起こる不随意運動で、口・舌・顔面・ 四肢・体幹に現れます。特筆すべきところは、血中のL-dopaの濃度が急激に上昇したり、減少したりする時、どちらにも出現することです。
パーキンソン病の治療薬一覧
上述のようにパーキンソン病のリハビリでは薬物療法が主軸の一つとなります。以下に代表的なパーキンソン病治療薬の作用・副作用を表にまとめています。
薬の種類 | 効果 | 副作用 |
レボドパ製剤(L-dopa) | 脳内に不足したドーパミンを直接補充する。パーキンソン病治療の中心となる薬。 | 不随意運動、幻覚、妄想 |
COMT阻害薬 | レボドパを体内で分解する酵素「COMT」の働きを抑える。レボドパ製剤と一緒に処方されるとドーパミンの効き目が長くなり、wearing-offが改善されることもある。 | 悪心、着色尿 |
抗コリン薬 | 脳内のドーパミンの減少によって相対的に高まる「アセチルコリン」の働きを抑える薬。 | かすみ目、口の渇き |
アマンタジン類 | 脳内の神経細胞からドーパミンが放出されるのを促進させる薬。 | 幻覚 |
ドーパミン受容体刺激薬(ドパミンアゴニスト) | 受容体にドーパミンの代わりに結合してドーパミンの働きを補う。 |
強い悪心、 幻覚、妄想、眠気、心臓弁膜症 |
レボドパ賦活型パーキンソン治療薬 | ドパミンの前にできる物質ドパの合成を促進させる。また、ドーパミンを脳内で分解する働きをする「MAO」という酵素の働きを抑え、ドーパミンの作用を強める。 | 眠気、食欲不振 |
MAO-B阻害薬 | MAOの働きを抑えることで、ドーパミンの効果を高める。 | 幻覚、妄想 |
パーキンソン病のリハビリの実際
上記の障害の進行に対する予防的効果を期待してパーキンソン病患者にリハビリを行うことになります。
可能な限り代償動作を抑制し、大きな可動域を使った立ち直りや平衡機能の正しい反応を引き出すことで神経系の再学習を促すことが大切です。
パーキンソン病の理学療法ガイドラインに基づくリハビリ(エビデンスの高い順)
- 理学療法全般(複合的運動)・・推奨グレードA、エビデンスレベル1
- トレッドミル歩行・・推奨グレードA、エビデンスレベル1
- 筋力増強運動・・推奨グレードB、エビデンスレベル2
- バランス運動・・推奨グレードB、エビデンスレベル2
- 全身運動・・推奨グレードB、エビデンスレベル2
- ホームプログラム(在宅運動療法)・・推奨グレードB、エビデンスレベル2
- 感覚刺激(聴覚、視覚、触覚、cueなどを使うリハビリ)・・推奨グレードB、エビデンスレベル2
- 太極拳・ダンス(タンゴ・ワルツなど)・・太極拳 推奨グレードC1、エビデンスレベル2、ダンス 推奨グレードB、エビデンスレベル2
出典)日本理学療法士協会、パーキンソン病 理学療法診療ガイドライン
ご存じの方も多いでしょうが、意外なことにタンゴなどのダンス、太極拳もガイドラインに記載されており、エビデンスがあります。しかし、実際のリハビリでは太極拳やダンスをしたり、これらのうち何もかも手を出すと、とても時間が足りません。(と言うか、できません。)
そこで、実際には理学療法全般(複合運動)をベースとして、まず目標を定め(何の為にリハビリをしていて、その人の生活のどこを改善したいのか?)、筋力増強運動、バランス練習、全身運動として歩行、あるいはエルゴメーター、cueや目印・聴覚刺激などの感覚刺激を使ったリハビリを複合的に行っていくことになると思います。
追加で運動療法の資料を作成し、6.ホームプログラムを指導していくとなおよいでしょう。
基本的なリハビリプログラムの考え方
パーキンソン病の理学療法の一般的原則、
- 介入の場所、二重課題、介入時間、禁忌、介入頻度や期間
- 介入方法(認知運動戦略、手がかり戦略:cueなどを使う運動)
- 介入目的(姿勢の改善、バランス能力の改善、転倒予防など)
を考慮し、明確にしておきます。
その後、以下の項目を考慮して具体的なプログラムを立案していきます。
- 運動を阻害する固縮や筋短縮による可動域制限(特に頸部、胸郭、脊柱、下肢)の改善を図る。
- 代償運動パターンである定型的な屈曲運動パターンからの分離と抑制を図り、頸部、体幹を中心とした抗重力・伸展活動を高める。
- 失われやすい頭部から足部へ向かう長軸方向の分節的回旋を伴う立ち直り反応を、寝返り動作や起き上がり動作などの回旋動作を伴う基本動作の中で誘導し、動作初期の十分な筋張力の発生と持続を学習していく。
- 環境や状況に合わせた多様な動作パターンの遂行が困難(動作パターンののシフティング障害)になるため、生活動作では重心の大きな移動を伴う運動を促していく。これによって支持基底面の変化、特に体軸回旋を伴う動作を運動場面で展開していくと良い。
- 動作の開始が困難な症例には、視覚刺激を利用しながら動作を分解し、一連の動作のうちの途中の動作のコントロールから獲得していく。(例えば、寝返り動作では側臥位、背臥位からの起き上がり動作では片方の肘を着いた状態でのの姿勢コントロールを練習する)

歩行時のすくみ足に代表される様に、荷重を支えられるだけの筋力があっても、体重を左右交互にシフトさせることが困難となる障害のことです。
パーキンソンの場合、視覚や外部からの刺激に囚われやすく、他に注意をむけることが難しくなります。また動作の多様性にも乏しく、日常生活で行っている以外の運動パターンを引き出すことも難しいです。
原因としては、固縮による筋緊張亢進のため、全身をまるっきり弛緩させるか、過剰に強張らせるかのパターンをとりやすく、運動の中間域で求められるようなパターンが取りにくいことが原因とも言われています。
筋固縮も全身一様ではないので、全身のどの部位に強いか、その分布の異常を改善すると良いと言われています。
パーキンソン病に対するリハビリプログラム
下記に具体的なリハビリの方法を例として記載します。
ROM・ストレッチ
ROM・ストレッチやモビライゼーションの手技を使って、頸部や上部体幹、胸郭の柔軟性を確保します。なぜ、下肢ではないのでしょうか?
上述のエビデンスで、感覚入力の中に視覚を用いて運動することが有効、とありますが、視覚は特に運動の開始時(運動の発現の円滑性)に重要です。
頸部・上部体幹の可動性が失われると、眼球運動により視覚を代償します。こうなると、パーキンソン患者の場合、円滑な動作の開始が阻害されてしまいます。
下肢の柔軟性も低下していて良い訳ではありませんが、特にパーキンソンのROM・ストレッチの場合は、頸部、上部体幹、胸郭を意識して行うことが大切です。その他には、腹臥位で体幹・股関節伸展ストレッチを行うことも有効です。
寝返り動作
パーキンソンの方は丸太様の寝返りとなり、動作時に分節的な体幹の回旋が困難となります。
寝返りが困難な場合、動作を分割して練習すると効率が良いです。パーキンソンは困難になりやすい体軸内の回旋要素を正中位からの回旋に求めるよりも、回旋位から引き戻す方向の方が反応を得やすいことが多いです。
実際には、背臥位から側臥位までの寝返り動作を段階的に行わせ、寝返り動作を分解して練習していくとよいでしょう。
座位練習
座位を取って両足を揃えさせ、患者の両足を左右に操作しながら、体幹の回旋を伴った立ち直り反応を誘発していきます。始めはゆっくり、小さく動かし、徐々に早く大きく動かしていきます。座位で行う姿勢保持能力を鍛えるバランス練習です。
立位練習
1)患者さんに壁に向いて立位をとってもらい、セラピストは後ろに立ち、膝を抑え、肩を使って殿部を壁の方向へ押していきます。患者さんには両足で踏ん張る様に伝え、骨盤の前傾を促します。これにより、抗重力位での下肢・体幹の伸展運動を促します。
2)患者の頭上高くボールを掲げ、患者はそれを目標に両上肢をリーチします。ボールの位置を腰回りや足元など様々に変化させ、患者差さんはそれを触りにいくことで、重心位置を変化させ、体幹回旋と立位でのバランス反応を促していきます。
無動症に対して
自発的な運動そのものが少なくなる無動症は廃用を招きやすい上、自覚されにくいためやっかいな症状です。
心肺機能を維持し、廃用症候群を予防するためには、
- 歩数計を用いて記録を付けながら歩行動作を日常生活に取り入れる。(歩数計は100円均一ので充分です。)
- デイサービスを利用する。(意外と嫌いな人多いですが・・・)
- エビデンスにもある「ホームプログラム」として、セルフストレッチの方法や動作練習、筋力訓練を盛り込んだ資料を渡し、家で取り組んでもらう。
などが対策として有効です。
ホームプログラムは、資料作成に時間がかかるため、めんどくさいイメージがありますが、携帯電話が使える患者さんであれば、スマホで動画を撮り、患者さんにそれを見ながらやってもらえば、資料作成の時間がかからないのでお勧めです。便利な時代になったものです。
一応ネットでも歩数計は安く売っています。参考までに。
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すくみ足
すくみ足は狭い通路、障害物、路面の傾斜、精神的緊張といった誘発因子により歩行が途中で停止、第一歩目が出なくなる一見すると不思議な現象です。目標物を見て歩くと足が出やすいなどの特徴があります。
すくみ足には以下の感覚刺激を用いた方法が有効です。
- 靴底の踵を高く補高し、前方への荷重を促す。
- すくみが始まると立ち止まり、一度屈曲した体幹を元に戻し、再び歩く。”いちに、いちに”自分で大きな声で足踏みをしてから足を踏み出す。その時はできるだけ大きく一歩を踏み出す。
- 一歩後ろに足を引いてから前に足を出して歩き始める。(結構使える方法です。試してみて下さい。)
- 床にはしご状にビニールテープを張り付け、それをまたぐように歩く。
- 介護者の足を患者の前に置き、それを踏み越える様に一歩を出す。
- すくみを誘発するような障害物を取り除く。(床に物が散乱している自宅内ではすくみ足は出やすくなります。)

私はリハビリで使える道具を探して100円均一ショップを彷徨っていることが多いのですが、この商品は補高するのに最適です。固い発砲ウレタンでできているので、耐久性はそこそこあります。
当初は変形性膝関節症の患者さんの外側ウェッジを作ろうと思って購入し、加工しようとしたのですが、ボロボロ崩れるし、固すぎて加工には少し不向きでした。
パーキンソン病の方のすくみ足対策に踵を補高するのには最適な商品です。参考までにご紹介しておきます。
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転倒予防として
などの合併症予防は理学療法で大切です。以下のような家屋の環境調整も視野に入れてリハビリを行います。
- 段差解消(玄関、敷居など)
- 和式トイレの洋式化
- 電動ベッドの導入
- 軽い掛布団、固めのマットレス(寝返り動作・離床の円滑化)
- 歩行器・歩行補助具の適切な選択
- 手すりの設置
- 浴室には手すりと滑り止めマット
- シャワーチェアを使う
- ポータブルトイレを検討する。
参考)※家屋調査につい詳しくはこちら療法士が退院前の家屋調査で見ておくべきポイントを場所別に詳しく解説
リハビリの臨床で良く使われる評価
Hoehn & Yahr (ホーンヤール)の重症度分類
1967 年、Hoehn と Yahr によりパーキンソン病患者 802 名のデータ分析から考案されたパーキンソン病の重症度分類。評価尺度としての信頼性や妥当性の検証はあまりされていませんが、 パーキンソン病の重症度分類として最もよく使用されています。Ⅳ以降で日常生活に介助が必要になります。
ステージ I | 一側性の症状。 |
ステージ II | 両側性の症状。平衡機能の障害なし。 |
ステージ III | 姿勢や立ち直り反応の異常が明らかで,軽度から中等度の能力低下を示すが介助は不要。 |
ステージ IV | 症状が進行し能力低下が著明 。一部介助必要だが歩行は介助なしで可能。 |
ステージ V | 介助なしではベッドまたは車椅子の生活で、日常生活の自立が困難。 |
まとめ
パーキンソン病のリハビリは薬の加減や日差が大きい本人の体調などを慎重に考慮しながら進めていくことが大切です。リハビリ分野の疾患の中でも比較的分かりやすい特徴を持った疾患ですので、まず病態を理解することが必須です。
パーキンソン病のリハビリの特徴は、筋力や可動域など単発の機能評価のみを優先するのでは無く、姿勢やバランスなどの総合的な能力を加味してプログラムを立案していくことがポイントです。ガイドラインに基づき、適切にプログラムを組み立ててリハビリを行っていくようにしたいものです。