高齢者に多い、脊椎椎体圧迫骨折。この骨折では多くの場合、椎体が変形することで、姿勢やリハビリにも大きな影響を与えます。どのようにリハビリで対処していけばよいのでしょうか。
脊椎圧迫骨折になる原因
骨粗鬆症などにより弱く、もろくなった高齢者の脊椎は、地面に腰を落とした、いわゆる尻もちをつくような転倒で圧迫骨折を起こしやすいです。
骨粗鬆症が重度の場合、ものを持ち上げるだけ、あるいはひどい場合はくしゃみをするだけで骨折した、と言うのも聞いたことがあります。
圧迫骨折と言われるくらいですので、脊椎に加わった強い外力によって脊椎に強い捻転、屈曲(腰をひねる・まげる動作)の作用が働いたときに損傷されます。
脊椎の圧迫骨折は脊柱の前方部分が損傷され、脊柱の中央部は圧潰されないため、脊柱の不安定性が増すことはないと言われています。
骨粗鬆症と因果関係が深い
高齢者の骨折の素因として、骨粗鬆症は避けては通れない問題です。
骨粗鬆症の進行は、
- 閉経後の女性
- 加齢
- 廃用症候群
- 運動不足
- 低栄養
- ビタミンD不足
などが関係しています。
「青年と高齢者のレントゲンを比べると、骨量の減少は明白で、腰椎や下部胸椎の強度は中年期では青年期の2/3、老年期では1/2以下になる」とする報告もあります。
それくらい高齢者の脊椎(特に腰部)は骨折しやすいのです。
腰痛を訴える高齢者に圧迫骨折の既往が多い
整形外科を受診する患者で一番多いのが、腰痛症と言われています。一次医療で腰痛と診断される人の約 4%が圧迫骨折を診断されるとのデータもあります。
腰痛は、二本足で生活する人間の宿命とも言われており、
腰痛発症の原因は、
- 習慣的な重い物の取り扱い
- 生活習慣
- 異常姿勢
- 転落
- 打撲
- 筋疲労
- 腫瘍
- 脊椎炎
- 筋膜性腰痛
- 椎間板ヘルニア(根性腰痛)
などがあります。
特に高齢者に多い腰痛の原因が、骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折だと言われています。
脊椎圧迫骨折の症状
脊椎椎体圧迫骨折の症状は、
- 腰背部痛
- 円背の様な脊柱の変形
- ごくまれに下肢の麻痺
を生じることがあります。
急性・亜急性期の疼痛は急激な強い外力による椎体の圧迫骨折で骨折部に一致した圧痛や叩打痛があります。
発症後1~2週間は鋭い痛みのため寝返りや起き上がり、歩行も困難になることが少なくないとされています。
受傷から1か月経過した慢性期では軽微な骨折では腰背部痛の痛みはそれほど感じず、今度は殿部や下肢の痛みが強くなる場合があります。
これは、圧迫骨折による脊柱の変形から来る異常姿勢による、筋・筋膜の異常な緊張や、支持靭帯による痛みで、過労や気候によって増悪することもあります。
しかし、実際の臨床では、ほとんど疼痛がない場合も多いです。
骨粗鬆症などによって徐々に椎体が圧潰されている場合、物を持った時に少し痛い、背中が丸くなる、身長が低くなったなどの症状がある場合は脊椎圧迫骨折を疑うことが多いです。
脊椎圧迫骨折の診断
診断はX線、MRIにて確定診断されます。
また、腰痛が原因で脊椎圧迫骨折を疑っている場合は、重篤な脊椎病変の可能性があるレッドフラッグの有無をまず診断してもらう必要があります。
レッドフラッグにあてはまる可能性がある場合、
- 感染症
- 炎症性リウマチ疾患
- 癌
などの疾患がないか精査を行います。
参考までに、レッドフラッグと判断される要因としては、
- 20歳未満または55歳を超えて症状が出現した
- 最近の激しい外傷歴
- 一定で進行性の非機械的な疼痛(安静時に軽減しない)
- 胸部痛
- 悪性腫瘍の既往歴
- ステロイド剤の長期使用
- 薬物乱用
- ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
- 全身的な体調不良
- 原因不明な体重減少
- 広範な神経学的症状(馬尾症候群を含む)
- 構造的変形
- 発熱
などがあります。
脊椎圧迫骨折の好発部位
好発部位は構造的に胸腰椎移行部に最も圧力が加わりやすいため、第12胸椎、第1腰椎に最も多いとされています。ちょうど腰と背中の間位ですね。
手や足の骨とは違い、圧迫骨折の場合は折れたり、分離したりするのではなく、多くの場合、
- 楔状椎
- 魚椎
- 扁平椎
などに変形します。
「楔状椎は胸腰椎移行部や胸椎中央、魚椎は腰椎に多く、楔状椎と魚椎の混合型は胸腰椎移行部に多く、扁平椎はあまり局在性がなかった」とする報告もあります。
稀に悪性腫瘍の転位による病的骨折を生じることもあるそうです。(私は臨床で遭遇したことはありません。)
腰背部痛が強く、
- 胃がん
- 乳がん
- 子宮がん
などの血液転移性の既往がある場合、病的骨折の可能性もありえるので、特に注意が必要で、医師に報告しておくことをおすすめします。
治療法
圧迫骨折は圧潰下部位にセメントを入れる手術や、周りの椎体を金属で固定することもありますが、ほとんどの場合、保存療法が選択されます。
圧迫骨折後の強い疼痛に対して、まず第一に
- 鎮痛消炎剤
- 筋弛緩剤
などの薬物療法と、
- 安静臥位(通常4週間)
を取ることが勧められます。
安静が指示された高齢者の場合、ベッド上で体をやや反らせるようにして臥床していることが多いです。
圧迫骨折のリハビリ(理学療法)の実際
リハビリの目的は、
- 脊椎の運動性・体幹筋力と下肢の筋力維持・増強
- 起居動作の早期の回復
です。
胸郭の可動性を含め、肺機能の維持のために全身運動や有酸素運動も必要です。圧迫骨折急性期は痛みが強いと動くことができないので、どうしてもベッド上でコルセットをして寝ていることが多くなってしまいます。
だからといって寝てばかりいると、今度は廃用症候群を発症するリスクが高まります。
急性期でも、程よく体を動かすことが圧迫骨折のリハビリの大きな目的のひとつとなります。
受傷直後(受傷後約4週間まで)
多くの場合、疼痛は1~2週間の安静臥床で軽減します。2~3週間の安静臥床で腰背部痛が軽減しない場合、
- 感染(手術をした場合)
- 偽関節
- 悪性腫瘍の転位
なども可能性として疑います。
病院ではこの時にコルセットが処方されることが多いです。(補装具として医療費控除の対象となります。)
コルセットには、
- 柔らかいタイプの軟性コルセット
- 硬い硬性コルセット
重症度に応じてそれぞれ処方されます。ちなみに、市販で売っているものはほとんどが軟性コルセットのタイプです。
良肢位指導
急性期では、受傷部の脊椎の回旋や深い体幹屈曲動作は禁忌になります。コルセットを装着していればそれらの動作は自然に制限が掛かるようになっているはずです。
しかし、寝ている時にコルセットを外している人が多いです。医師もそのように説明する人が多いですし、コルセットをしていると圧迫感があり苦しくて寝にくいためです。
よく臨床であるのが、寝返りと寝床からの起き上がりの時に腰を捻ってしまっているケースです。痛みが少なくなるまでは、寝返り・起き上がり動作は腰をねじって行うのではなく、体ごと回旋させるようにして行うようにします。
疼痛の激しい急性期を過ぎれば、圧迫変形した椎体の軸圧(縦方向の圧力)を軽減するために脊椎を軽度伸展位(身体を反らせた姿勢)におくようにすることが望ましいとされています。
座位訓練
受傷後1~2週間で疼痛の様子を見ながら徐々に座位練習を始めていきます。体幹が過度に屈曲(曲がる)、回旋(ねじる)するような座位は避ける様にして下さい。
コルセットを装着しながら行うとそれらの動作を防ぐことができます。
起立訓練
起立練習を行う事で、足の関節や筋肉の働きを促すことができ、廃用症候群を予防しやすくなります。
急激な荷重による疼痛の増悪に注意が必要です。重症の場合、徐々に荷重するならティルトテーブル(起立台)がお勧めです。
圧迫骨折が原因で入院される方は、受傷後4週(約1か月)程度まではコルセットをしたままでリハビリをされる方がほとんどです。
慢性期
受傷後5週目以降には運動療法が主体になってきます。
疼痛が出現しないように注意しながら、どんどん身体を動かしていくことで、体幹筋力増強、体幹可動域の拡大を図ります。後ほど具体的な運動方法を記載します。
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圧迫骨折のリハビリの障害となるものでよくあるのは疼痛です。リハビリでは適度に体を動かす必要がありますが、腰が痛くて動けない、という場合が頻繁にあります。そんな時には、ホットパックを併用しながら運動をしていきます。
腰背部の、
- 筋緊張の緩和と筋スパズムの軽減
- 新陳代謝・循環の促通
- 疼痛の軽減
を図るため、ホットパックは有効です。臨床でも頻繁に利用されます。
背臥位で疼痛を訴える方には、リハビリを始める前に車いすに座ったまま腰背部にホットパックを使用することもあります。
ホットパックの使い方、生理的効果、禁忌などの使用方法について
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体幹筋群の筋トレの例(運動療法)
圧迫骨折の受傷後、急性期では、コルセット固定による安静のため、脊椎の可動性や柔軟性も低下しています。時間の経過とともに痛みが少なく運動ができるようになってくると、できるだけ身体を動かして廃用症候群を予防します。
また、受傷後は脊椎の変形により支持性が低下するため、体幹筋を中心に鍛えて、体幹の固定性を上げるような運動が有効です。
主に、圧迫骨折のリハビリでは、
- 体幹筋力増強
- 背筋群の過緊張抑制
- 脊椎可動性の改善
を目的として運動療法を行います。以下に具体的なリハビリの一例を肢位別にご紹介します。
背臥位
体幹を鍛える時に腰をねじったり、深く曲げる動作は骨折部に負担が掛かることが多いです。しかし、以下の方法なら身体を曲げたりひねる必要がないので、腰部に負担が少なく体幹筋を鍛えることが可能です。
腹臥位(うつぶせ体幹伸展)
この運動のポイントは、まず、枕や丸めたバスタオルをお腹の下に入れて過度の負担が脊椎に掛からない姿勢を作ることです。その上で、自分の肘で体重をコントロールしながら徐々に脊椎を伸展(反らせる)させていきます。
かならず痛みがない状態で行って下さい。痛みがある場合は無理に行う必要はありません。
座位(両上肢挙上)
こちらも座位でゆっくりと背中を伸展するように行います。
四つ這い(ダイアゴナル)
この運動では体幹を総合的に鍛えることができます。
他にも体幹を鍛える運動はたくさんあります。痛みの出ない方法を選択し、体幹筋のトレーニングを行います。
体幹装具(コルセット)について
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写真の商品は市販の軟性コルセットです。
圧迫骨折は化骨が形成され、自然に修復されるまで2~3か月かかります。その間体幹装具を必要としない症例も稀にありますが、基本的に体幹用の装具は脊柱の屈曲、回旋などの余計な動きを抑制するために必要です。
疼痛は、上述のようにベッドから起き上がる時、ベッド上での体位変換時(寝返りなど)によくみられるため、体幹コルセットを装着して、疼痛を軽減しながら上下肢の運動をできるだけ行うことが早期離床に繋がります。
腰が痛いから、と長い間ずっとコルセット着用を常習化している方を見掛けますが、長期装着で体幹筋力の低下・脊柱の可動性低下などの二次障害が発生する可能性があります。
受傷から2~3か月して、疼痛も軽減し、医師の許可が得られれば、できるだけ早期に体幹装具(コルセット)を外しましょう。
まとめ
脊椎の圧迫骨折は、程度によって痛み強さも軽傷から重傷と様々です。骨折が強い疼痛は緩解までに短い場合でも1~2週間、骨折の改善には2~3か月かかるとされています。
その間疼痛のため、ベッドで臥床状態でいればほぼ間違いなく廃用症候群を呈します。
よって、下記のことに注意して運動を促していくことが大切です。
- 疼痛の対処
- 肢位(姿勢)・コルセットなど工夫して、疼痛をできるだけ抑えて運動をすること
- 廃用症候群を予防すること
- 疼痛の少ない動作を再学習させること
特に高齢者の場合、受傷するリスクも高く、臨床でも頻繁に遭遇する骨折ですので、今回の記事を参考にしてみて下さい。
画像引用1)http://gakujun.web.fc2.com/papa/kossetu/appaku/appaku.html