
体幹とはご想像の通り、「体の幹」、つまり中心部のことです。
コア(核)とも呼ばれます。コアは動作をする上で非常に重要な役割を持ちます。コアとは何か、体幹筋とは何か、リハビリで使えるコアトレーニングの方法について詳しく解説していきます。
「コア」、体幹とは具体的にどの筋肉のことを指すのでしょうか。
実は様々な解釈があり、これと言った定義はないようです。
なので、私が臨床に於いて考慮している、動作に大きく影響を与える体幹筋である、
- 腹斜筋群
- 腹直筋
- 腹横筋
- 大腰筋
- 脊柱起立筋群
- 広背筋
を挙げています。
前半ではそれぞれの筋の機能と解剖について触れており、後半ではリハビリで使える様々なコアトレーニングの方法をご紹介しています。
長文なので、トレーニングメニューだけが知りたい方は「目次」よりジャンプして参照して下さい。
体幹筋となにか

腹斜筋群
外腹斜筋と内腹斜筋を総称して「腹斜筋」と呼ばれます。わき腹を斜めに走る筋肉で体を横に倒したり、体をひねる動作の際に主に働きます。外腹斜筋の下に内腹斜筋があり、腹斜筋群のすぐ下に後で説明する腹横筋が存在します。
外腹斜筋

「外腹斜筋の臨床 基礎知識 まとめ」
・起始:
第5-12肋骨外面
・停止:
腸骨稜の外唇、腹直筋鞘の前葉、白線
・支配神経:
肋間神経(T5-T12)、腸骨下腹神経
・作用:
片側:体幹を同側に曲げ、反対側に回旋する。
両側:腰椎前屈、骨盤前縁の挙上、腹圧負荷
内腹斜筋

「内腹斜筋の 臨床基礎知識 まとめ」
・起始:
胸腰筋膜、腸骨稜の中間線、上前腸骨棘、鼠径靭帯の外側2/3部
・停止:
第10-12肋骨の下縁
腹直筋鞘の前葉・後葉、白線
精巣挙筋との境界
・支配神経:
肋間神経(T8-T12)、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経
・作用:
片側:体幹を同側に曲げ、同側に回旋する。
両側:腰椎前屈、骨盤前縁の挙上、腹圧負荷
腹直筋

いわゆる「腹筋」のこと。体幹を前屈させるときに使う筋肉ですが、その筋の広さ、長さから体幹を固定する際に大きな役割を果たします。体幹筋の代表的なアウターマッスルです。
「腹直筋の 臨床基礎知識 まとめ」
・起始:
第5-7肋軟骨、胸骨剣状突起
・停止:
恥骨(恥骨結合と恥骨結節の間)
・支配神経:
肋間神経(T5-T12)
・栄養血管:
下腹壁動脈
・作用:
腰椎前屈、骨盤前縁の挙上、腹圧負荷
腹横筋

内臓をぐるっとコルセットのように包む役割をする筋肉。体を左右にひねったり、前屈するときに使いますが、大きな役割として、収縮することで「腹圧」を高める効果があります。
「腹横筋の 臨床基礎知識 まとめ」
・起始:
第7-12肋軟骨の内側面
胸腰筋膜の深葉
腸骨稜の内唇
鼠径靭帯の外側1/3部
・停止:
腹直筋鞘の後葉、白線
・支配神経:
肋間神経(T8-T12)、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経
・作用:
片側:体幹を同側に回旋する。
両側:腹圧負荷
大腰筋
大腰筋は、背骨と足・骨盤をつなぐ筋肉で、股関節を屈曲させるときに使う筋肉です。その性質上、運動時に体幹と足の動作を連携させるときに大きな役割を担います。立った時のきれいな姿勢を維持するのに重要な筋肉と言われています。
「大腰筋の 臨床基礎知識 まとめ」
・起始:
浅層:T12-L4の椎体側面とそれらの間の椎間円板の側面
深層:L1-L5椎骨の肋骨突起
・停止:
腸骨筋と合体して腸腰筋となり、大腿骨の小転子に停止する。
・支配神経:
腰神経叢(L1-L3)からの筋枝
・栄養血管:
腸腰動脈の腰枝
・作用:
股関節:屈曲、外旋、腰椎
両側が作用すると背臥位から体幹を起こす、片側の作用で腰椎は同側へ側屈する
脊柱起立筋群
背中の脊柱に沿って首から腰まで縦についている筋肉の総称です。主に体を反らすときに使いますが、運動時には脊柱をサポートする役割を担い、上半身の軸を安定させるのに需要な筋肉です。
ごく大ざっぱに分類するとより脊柱に近い部分にある棘筋、その外側にある最長筋、そして体の一番外側寄りにある腸肋筋というグループに分類できます。
個別に説明していくと膨大な量になるので、脊柱起立筋群の支配神経などの臨床知識は割愛させて下さい。ここでは、脊柱を支える筋肉が脊柱起立筋群であると覚えて頂ければ問題ありません。
広背筋

背中から腰に掛けて大きく広がる筋肉で、広背筋を鍛えると逆三角形のたくましい体になります。上腕骨に停止しているので、「投げる」、「持ち上げる」などの動作にも関わっています。
「広背筋の 臨床基礎知識 まとめ」
椎骨部、腸骨部、肋骨部、肩甲骨部の4つの部分に分けられる。
・起始:
椎骨部:T7-T12椎骨の棘突起、胸腰筋膜
腸骨部:腸骨稜の後1/3部
肋骨部:第9-12肋骨
肩甲骨部:肩甲骨の下角
・停止:
上腕骨の小結節稜
・支配神経:
胸背神経(C6-C8)
・栄養血管:
肩甲下動脈の胸背枝
・作用:
上腕の内旋、内転、後方挙上、呼吸補助(呼気)
コアトレーニングをする意味・目的
コアを鍛えることの重要性を理解して頂くためには、野球のピッチング動作を想像して頂くと理解しやすいのではないでしょうか。ボールを投げる時に、最初に動く動作の起点は、腕ではなく、コアである体幹です。
さらに言うと、体幹の中でも脊柱(背骨)をまず固定させる必要があります。
腕も足も、体幹部の力が伝わることで動くので、軸を作る体幹が安定しないとフォームもコントロールも安定しません。実際に一流の野球選手はコアマッスルの一つである大腰筋がよく発達しているというデータがあります。
また、赤ちゃんが生まれると、成長していくに従い、定頚(首が座る)⇨寝返り⇨座位保持⇨ずり這い⇨ハイハイ⇨歩行と出来ることが増えていきます。赤ちゃんも寝返りを練習することで体幹筋をまず鍛えて、体幹がしっかりしてくると座位が安定し歩行ができるようになっていきます。
人体の構造上、体幹は全ての動作の基礎となる重要なものなのです。
スポンサーリンク
”パッセンジャー”と”ロコモーター”とは?
とんでもない速さで走る、陸上選手は足よりもコアを鍛えることに細心の注意を払うそうです。
なぜでしょうか?
パフォーマンスを上げるための考え方として、「パッセンジャーとロコモーター」があります。パッセンジャーは乗客と言う意味で、上半身のこと指します。ロコモーターとは運動器を意味し、下肢のことを指します。
ロコモーター、つまり下肢の力を効果的に発揮するためにはパッセンジャーである上半身=コアがしっかり固定されている必要があります。
速く走る時に、上半身がグラグラ揺れていたら、足を速く動かすことはできませんよね。
機会があれば、一流の陸上選手の足ではなく、コアである体幹をじっくり見てみて下さい。必ず上半身もしっかり鍛えられているはずです。
リハビリにおけるコアトレーニングの意味・目的
臨床におけるリハビリでは高齢者が対象になることが多いため、スポーツ選手ほどシビアなコアトレーニングが要求されるわけではありません。しかし、臨床に於いても体幹筋を鍛えることで沢山の恩恵が受けられます。
特にベッド上での日常生活動作(寝返り・起き上がり・座位保持などの基本動作)に介助が必要な患者さんに体幹トレーニングを適切に実施することで、自らベッドから起き上がることができるようになります。
結果、離床する機会が増えることで廃用症候群を予防することができます。
体幹筋力と日常生活動作(Activity Of Daily Living=ADL)は相関関係にあるとするデータもあります。
また先ほどのパッセンジャーとロコモーターの理論により、体幹筋を強化することでバランス能力が向上し、転倒予防にも繋がります。
脊椎圧迫骨折後のリハビリや、小脳性の障害を持つ患者さんに対しても、体幹筋を鍛えることはリハビリ上必要なことです。
臨床においてもコアトレーニングの方法をたくさん知っていると大変重宝します。
それでは、負荷の強さに分けて筋トレ方法を紹介していきます。
コアトレーニングの方法
コアトレーニングで実際に私が臨床で行っている方法をご紹介します。
スポーツ選手レベルの体力がある方には少し負荷が軽いかもしれませんが、一般健常者や高齢者には充分な負荷になります。
コアトレーニングを行う際の注意点
特に体幹の回旋が禁じらている脊椎圧迫骨折受傷後の方、頸椎に疾患があり過伸展・過屈曲が禁じられている方はドローインなど、体幹回旋や頸部の動きが少ない運動を選択して行って下さい。
肩関節を動かすと疼痛がある方も、無理せず、できる範囲の運動を選択して行って下さい。
- 疼痛がない範囲で行うこと
- 息を止めて行わないこと・・特に高血圧症の方は注意して下さい。
- 正しいフォームを意識すること
- 動作はできるだけゆっくり行うこと
- 鍛えている筋肉を意識すること
スポンサーリンク
低負荷のコアトレーニング(高齢者向け)
体幹筋は足や手と違い、使っている感覚がないものです。まず手始めに負荷の軽い運動から初めて体幹筋を目覚めさせましょう。
ドローイン
体幹筋が弱っていると、いきなり運動を始めても筋肉をどう使って良いのか分かりません。まずは、体幹筋、特に腹直筋を意識しながらドローインを行い、体幹筋を目覚めさせましょう。

やり方は、寝転がって息を思いっきり吸い、図のように”フー”と息を吐き出しながらお腹をへこませます。この時にお腹の筋肉や脇腹がぎゅーと収縮していることを意識して下さい。
もし筋肉の収縮が分かりにくければ、お腹の上に手を置いて腹筋の動きを感じながらやってみると理解しやすいです。
ドローインで日常生活で使える体幹に
ドローインを続けると、立っていても瞬時に体幹に力を入れることができるようになります。例えば日常生活で重いものを持った時にもグッと体幹に力が入るのが感じられるようになります。
これは実は大変重要なことです。日常生活で使える筋肉にすることで、全く意識していなかった頃と比べて桁違いの負荷をコアに与えることができるからです。
腰痛持ちの方にもお勧め
また、筋肉のコリによる(筋原性)の腰痛がある方は、腰が反って腰椎が過進展している方が多いので、このドローインを行う際に腰を床に付けることを意識して行って下さい。腰部の筋肉がストレッチされ、腰痛の緩和にも役立ちます。
バックブリッジ

リハビリのトレーニングの王道、”お尻上げ”ことバックブリッジです。背臥位で地面からお尻を浮かす運動です。リハビリで頻繁に行われるのには訳があります。
バックブリッジの特徴として大殿筋、ハムストリングス、大腿四頭筋、腹直筋、腹横筋など、体幹~下肢の広範囲の筋肉に負荷を与えることができるため、リハビリで広く普及しているのです。
上記で上げた筋肉は動作をするうえで大変重要な役割を持つ筋肉ばかりです。
ちなみに、足を置く位置を体から遠ざけて行うとハムストリングス、近づけると大殿筋に効果的に負荷を与えることができます。
クランチ

背臥位で、おへそをのぞき込むように頭を起こしてきます。この時にできるだけゆ~っくり行うことがポイントです。
できれば3秒数えながら頭を持ち上げ、3秒掛けてゆっくり元の位置に戻しましょう。頸椎に疾患のある方は頸部を屈曲する動作があるので注意して下さい。
クランチは息を止めないように注意
クランチは息を止めてしまう方が大変多いです。息を止めて行うとバルサルバ効果により血圧が上昇します。ドローインを行う時の様に”ふー”と息を吐きながら頭を上げるとよいでしょう。臨床では息を止めて運動しないように敢えて声を出して数を数えてもらうようにすることが多いです。そのほうが精神的にもトレーニングのやる気も高まります。

※ちなみに・・バルサルバ効果とは「火事場の馬鹿力の元」と言われています。興味がある方は下記に説明しています。
息を止めて、力むことによる副交感神経の緊張で、直腸筋、腹筋、声帯、口唇などが筋緊張を起こし、想像以上に重たい物を持てたり、血圧が上昇したり、心拍が早まることをいう。火事場の馬鹿力も、バルサルバ効果の表れといえる。その時、協同で全身の筋が働く。喉、直腸、腹筋などの状態は緊張している。
血圧の上昇のメカニズムについては、以下のように説明できる。
- 息を止める
- 胸腹腔内圧の上昇
- 大静脈が圧迫される
- 静脈血の心還流量の減少
- 心拍出量の減少
- 血圧の降下
- 圧受容器のインパルス頻度の減少
- 心拍数の増加・末梢血管の緊張による抵抗の増大
循環器系の疾患をもった人は、バルサルバ効果で死に至ることもある。
中等度の負荷のコアトレーニング(大きな疾患のない健康な高齢者向け)
以下に中等度の負荷のコアトレーニングをご紹介します。高齢者でも比較的体力があり、四つ這いを取れる方、肩関節や脊柱に疾患を抱えていない方が対象になります。
サイドアームリフト

四つ這いになり、床を見ます。そこから一方の腕を横方向に肩より少し上にゆっくり上げ下ろしを行います。ポイントは腕の高さ。筋力がない方は数を重ねると腕が上がらなくなってきますので、最低でも肩より上に挙げるようにして下さい。肩関節の可動域が少ない方や疼痛がある方は無理のない範囲で行って下さい。
フロントアームリフト

同じく四つ這いから床を見ながら前方向に腕を上げます。肩の関節可動域が少ない方は少し上げるだけで結構ですが、できるだけ身体より上まで手を上げるように意識することで負荷は高まります。
背中の筋肉、広背筋、付随効果として僧帽筋にも効くので肩こりにも効果的です。
参考)肩こり解消に効果的な運動
フロントブリッジ

うつぶせになり、両肘を付き、足を延ばしておへそを地面から浮かせるようにして3秒程キープして下さい。この時もバルサルバ効果を意識して、敢えて声を出して数を数えるようにして下さい。
広背筋、脊柱起立筋群、大殿筋、大胸筋などの抗重力位での姿勢保持に関する筋肉を鍛えることができます。
高負荷のコアトレーニング(体力のある方向け)
以下に高負荷のコアトレーニングをご紹介します。高齢者でも普段から運動が好きで良く動いている方、健常者の方にはちょうど良い負荷量かもしれません。
過負荷になり過ぎないように注意しながら行ってください。
ダイアゴナル

四つ這いから右手と左足のように交互の手と足を、背中と一直線になるように伸ばし、そのまま5秒程度キープします。手は耳の高さまで上げるようにしましょう。
リハビリではバランス訓練として行われることが多いメニューです。実際にやってみると、慣れるまではグラグラしてバランスを取るのに苦労すると思います。
ダイアゴナルは広背筋、ハムストリングス、脊柱起立筋群、大殿筋など主に体を伸展させる筋肉に働くので、姿勢矯正効果も望めます。
ツイスト

立った状態から中腰になり、片方の足を後ろに引き、体幹を真っ直ぐにして腕を伸ばします。
それから両腕を合わせて、前で手を組みます。そのままゆっくり、大きく左右へ腕を回旋させて下さい。
この時、目線は前を向いたままで、体幹をできるだけねじらない様に固定しておきます。また、上述のドローインを意識しながら行います。より効果が高まります。意識しなくても体幹にグッと力が入るのが分かると思います。
鍛えられる筋肉は、腹斜筋群、腹横筋、大殿筋です。
後述しますが、ツイストは負荷量を細かく設定できることと、頸椎や腰椎に疾患がある方でも患部に負担が少ないため、リハビリでも大変重宝する体幹・コアトレーニングです。
負荷を軽くしたい場合
ツイストは図のように中腰になるので、両足にも強い負荷が掛かります。ハード過ぎる場合は、腰をかがめず、立ったまま行うと負荷を軽くできます。また、それでもハードな場合は、伸ばしている両手を軽く曲げたりして体に近づけて行うとさらに負荷を軽くすることができます。
負荷を強くしたい場合
ツイストを行う際に伸ばした手に相当量の重量があるものを持って行うと、さらに体幹筋への負荷は強くなります。私は5㎏のダンベルを持って行います。(私は30歳代男性で体力が比較的ある方ですが、10回位で休憩しないと続けることができない程の負荷です。)
休日のパパの筋トレにもお勧めします
ツイストは上述のとおり、伸ばした手に重いものを持つと負荷が上がります。
なので、休日に小さいお子さんと遊ぶことが日課のお父さんは、ツイストをする時に伸ばした腕で子供を把持して行うと、かなり高負荷の運動になります。子供も遊んでもらっていると思って喜ぶかもしれません(笑)。くれぐれも早く回旋させ過ぎたりしないように安全にだけは注意して下さいね。
パーキンソン病・パーキンソニズムがあり、丸太様の寝返りになる方にお勧め
パーキンソン病やパーキンソニズムのある方は、体幹の回旋筋の柔軟性が低下することが多いので、ツイスト行うことで柔軟性を維持しつつ体幹を鍛えることができます。
参考)パーキンソン病の症状とガイドラインに基づくリハビリの考え方
まとめ
体幹に関わる筋肉の詳細と、コアトレーニングの方法、コアトレーニングの意義・目的についてご紹介しました。
理学療法士として働いている私は、体幹筋を鍛えることで日常生活で行う動作が少し早くなったり、安定することを頻繁にリハビリの現場で実際に確認しています。
多くの人はリハビリを受けていても、下肢のトレーニングばかり勧められている印象があります。この記事を参考に、動作のコアでもある体幹筋もしっかり鍛えて、安全かつ快適に日常生活を行って頂ければと思います。
<参考文献>
>>次の記事は、「円背(猫背)の簡単にできるチェック方法 ストレッチと筋トレで全身調整を!」です。