
体幹筋のインナーマッスルに「多裂筋」があります。腰痛やコアスタビリティを考えるうえで非常に重要な筋肉です。多裂筋の機能や構造、トレーニング方法、ストレッチについてご紹介していきます。
多裂筋とは?
多裂筋は背中の脊柱に付着し、小さく、細かい筋肉が連なるようにして形成されています。マイナーな筋肉だからと言ってあなどれません。人体の構造上非常に重要な筋肉です。
多裂筋は脊柱起立筋などの背中〜腰のアウターマッスルの深層に位置するため、触診などで直接皮膚の上から触ることは基本的にできません。
しかし、仙椎部の多裂筋は比較的表層に位置するため、マッサージなどの徒手で刺激を与えることは可能です。
多裂筋の構造は、頸椎部から始まり、仙椎部まで続く長い筋肉ですが、腰部で筋束が太くなっています。これは最も可動性の大きい腰椎部の可動性をコントロールするのに多裂筋が重要であるということを示唆しています。
- 多裂筋の起始
仙骨後面及び全腰椎乳様突起、及び副突起、胸椎横突起、頚椎4~7の関節突起から起始。
- 停止
隣接する2~4椎骨上の棘突起に停止。
- 運動
脊椎の回旋(反対側)、椎間関節の固定、側屈(同側)、伸展。しかし、収縮しても大きな体幹の運動は出現しない。
- 神経支配
脊髄神経後枝
多裂筋の機能・役割
多裂筋の特徴は、脊椎と脊椎同士を連結させ、安定を保つ働きをしていることです。

脊柱(いわゆる背骨)は32個程度の椎体と呼ばれる骨が連結して構成されています。
部位によって、上から頚椎、胸椎、腰椎、仙椎と名称が異なり、頸椎部では回旋しやすいように、腰椎部では屈曲・伸展が行いやすいように、それぞれの人体の運動に適した形で骨の形状が若干異なります。人体は本当によく出来ていますね。
この椎体は、骨の形状だけでなく、靭帯や筋肉、神経によっても連結が強化され、その安定性・固定性が保たれています。
多裂筋は椎体に付着し、椎体同士の連結を強化するのに役立っています。
脊柱の安定性・支持性に重要な多裂筋
脊柱の椎体は、骨による支持が後側方の椎間関節のみで、あとは椎間板ヘルニアで有名な椎間板で主に固定、衝撃吸収が行われています。
よって、脊椎は骨による支持が乏しいことが特徴です。
これは、脊柱の機能的な役割として、固定性と柔軟性という相反する役割が高いレベルで求められるからです。脊柱には強力な靭帯がいくつも連結し、補強されていますが、靭帯は能動的に収縮して、脊柱の動きに合わせて固定性を変化させることができません。
靭帯は、大きな力が加わった時に、骨がバラバラになってしまわないように繋ぎとめておくことがその主な役割だからです。多裂筋はそれを補う形で収縮したり、弛緩したりして椎体同士を連結する固定性の調節の役割を担っています。
多裂筋は”ローカル筋群”

コア=体幹筋群は働きの特性に応じて、
- グローバル筋群
- ローカル筋群
に分類されます。
グローバル筋群とはその名の通り、表層に位置し、サイズが大きく、長く、比較的広範囲に影響を及ぼす筋肉群のことを言います。腹直筋や広背筋、脊柱起立筋などがそれに該当します。
一方で、ローカル筋群は、腹横筋や多裂筋、横突間筋などの深層に位置する筋肉で、基本的に一つの分節をつなぐように付着しています。
この筋群はお互いに大きく影響し合い、体幹の固定性と安定性、柔軟性と相反する機能を補完しあっています。よって、どちらか一方が弱っていてもそのバランスは崩れてしまいます。
グローバル筋群が弱っていると、ローカル筋群に負担が強く掛かるようになりますし、逆もしかりです。なので、両方をバランスよく鍛えることが大切です。
コアトレーニングにも重要な多裂筋
コア(体幹)の安定性・固定性を強化するトレーニングとしてコアトレーニングが有名ですが、その強化すべき軸である脊柱の安定性・固定性を高める筋肉がこの多裂筋です。
そもそも、コアとは「核」という意味ですが、本当の人体の運動・動作上の核となる起点は体幹でなはなく「脊柱」です。
立った状態で腕を上げようとするとき、無意識に体幹筋が収縮し、固定され、その後にようやく上肢の筋群が活動を始めます。
この時に活動する体幹筋の中でも、真っ先に活動を始めるのが、体幹のインナーマッスルである腹横筋や多裂筋です。真っ先に動作の中心となる脊柱を固定する必要があるためです。
多裂筋が腰痛の原因になることも
上述の様に、多裂筋はインナーマッスルです。また、上述のグローバル筋群とローカル筋群の特性を理解すると、多裂筋が腰痛の原因になる可能性も充分に考えられます。
体幹のアウターマッスルは表層に位置する脊柱起立筋などですが、普段これらは普通に座っている、立っているだけでは過剰に収縮しておらず、柔らかい状態が理想です。
しかし、このアウターマッスルががちがちに凝ってしまっていたり、機能不全に陥っている場合、適度に働かせることができず、ローカル筋群に頼った姿勢を取ってしまいます。
そうなると、
- 座っているだけで腰が痛い
- 同じ姿勢を続けていると腰回りがすぐに疲れる
など、腰痛の症状が出現します。
腰痛の治療においても、これらのインナーマッスルやグローバル筋群などの特性を考慮して原因を探っていくことが大切です。
多裂筋と腹横筋の関係
体幹の背部に位置する多裂筋は、胸腰筋膜を介して、筋膜になり、腹横筋と連結しています。これは「自然のコルセット」と呼ばれ、腰の保護に大変重要な役割を持っています。
筋膜とは、筋肉同士が柔らかいネット上の繊維に包まれ、お互いの位置関係がずれてしまわないように固定している繊維のことです。
体幹の後方にはこの多裂筋が位置し、側方には腹横筋があります。これらの構造が、腰椎部への過剰な物理的ストレスを肩代わりして保護しています。
よって、多裂筋が収縮すると、腹横筋も同時に収縮する場合がほとんどで、切っても切り離せない関係にあります。
多裂筋の筋力トレーニングの方法
多裂筋の機能と位置を確認したら、トレーニングを行っていきましょう。
多裂筋のトレーニングは、インナーマッスルであり、小さい筋肉なので、腹筋運動の様な大きな動きは必要ありません。それよりも、「体幹を固定させる」運動が有効です。動きよりも「保持性」を意識して下さい。
地味にしんどい姿勢を保持させることで多裂筋に負荷を強く掛けることができます。
以下に具体的な方法をご紹介します。
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ダイアゴナル
方法は、四つ這いで左右反対側の腕と足を挙上させ保持します。
この時に、脊柱起立筋と共に多裂筋が姿勢を保持するために活発に働きます。10秒程度姿勢を保持させます。
コアトレーニングとしても有名なダイアゴナルですが、脊柱を重力に抗して支える運動なので、多裂筋も同時に鍛えることができます。
バックエクステンション
バックエクステンション、いわゆる背筋運動でも多裂筋は鍛えられます。
方法は、うつ伏せで寝転がって、胸を少しだけ地面から浮かせます。腕は後ろで組んでおくと良いです。
この時、大きくグイっと体を反らせると、アウターマッスルである広背筋や脊柱起立筋が優位に働くので、多裂筋を鍛える効果は落ちてしまいます。少しだけ体を床から浮かせる程度にすることがコツです。多裂筋を選択的に鍛える場合は、ほんのちょっと体を地面から浮かせることを強く意識してください。
多裂筋のストレッチの方法
多裂筋のストレッチの方法は、基本的には背中を丸めることでストレッチできます。
上述の様に、多裂筋は抗重力筋なので、立っているだけで収縮しています。よって、ストレッチする際は寝た姿勢で行うと効果が高いです。少しでも力が入っていると弛緩・ストレッチされにくいので、できるだけ脱力しながら行うようにして下さい。
バックオーバー
多裂筋は上述の様に、椎体間に付着するため、背中を丸めるような姿勢や逆に脱力して背中を反る姿勢を意図的にとることでストレッチできます。
ヨガなどで行われるこのバックオーバーも多裂筋をストレッチする効果的な方法です。
腰痛や脊柱管狭窄症、脊椎圧迫骨折、椎間板ヘルニアがある方は無理のない範囲で行い、痛みがある場合は行わないでください。
猫のポーズ
方法は、四つ這いになって背中を丸めるだけ。
これも脱力できていないとあまり効果的ではありませんので、脱力を意識して下さい。背中の伸張感(筋肉が伸びている感じ)を意識しながら行って下さい。
ツイスト
長座位で座って左右反対の上下肢で体幹を回旋させます。
写真の姿勢のまま数秒停止し、背中の力をできるだけ抜きます。背骨がねじれる感じがすればストレッチできています。
丸めたバスタオルの上に寝転がるだけ
下の写真のようなストレッチボールが自宅にある方はストレッチボールを置き、持っていない方はバスタオルを固めに丸めて、背骨に沿って置き、その上に寝転がります。
できるだけ脱力し、両方の肩甲骨を床に落とすように脱力して下さい。
これは多裂筋に直接圧迫を加え、それにより伸張効果を狙う方法です。リハビリの臨床ではダイレクトストレッチと呼ばれる方法です。
大きく背中を反らす方法では腰に痛みがあったり、脊椎圧迫骨折の既往がある方はこの方法でのストレッチがオススメです。
まとめ
多裂筋は、脊椎を連結する細かい筋肉で、ローカル筋群と呼ばれ、姿勢制御やコアスタビリティに大きな関係がある骨格筋です。
多裂筋を鍛えたい場合は、脊柱を重力に抗して保持させるような運動が効果的で、ストレッチする際は、できるだけ脱力して背骨を伸ばすような方法が有効です。
非常に細かく、触診しにくいインナーマッスルなので忘れられがちですが、多裂筋は腰痛治療の観点(コアスタビリティなど)からも重要な筋肉です。
是非今回の記事を参考にしてみて下さいね。