
人体を構成する筋肉の内、インナーマッスルと呼ばれる筋肉があります。今回はそのインナーマッスルの種類と目的別の鍛え方についてご紹介します。
インナーマッスルとは?
そもそも、人体の全ての骨や筋肉はなぜ存在しているのでしょうか?
地面に足が付いている、いないに関わらず、重力に抗して活動し、運動を行うためです。
これは人体に限らず、地球上の生物全てに共通する原則です。
そして、運動を行うためには体の固定が必要になります。
まず、重力に抗して直立に立ってその姿勢を保持できなければなりません。それができて初めてその後に運動や動作を円滑に行うことができます。
この体の固定の機能と構造を、関節ごとにみていくと、まずは骨で体重を支え(骨性支持)、その骨を各関節が支えています。
人体の中で大きな関節には、肩関節、股関節、膝関節などがありますが、主に重力に抗して姿勢を保持するための機能が必要とされる部位で大きな役割を担っているのがこのインナーマッスルです。
インナーマッスルは肩関節、股関節、体幹や背骨に存在し、各関節や分節の固定、安定に大きく寄与する性質を持つものがほとんどです。
インナーマッスルの特徴
インナーマッスルは形状的には小さく、1つの分節や関節をまたぐように存在しています。
筋肉はその長さと大きさでだいたい出力できる力が比例しています。
筋肉と聞くと”パワフル”とか”力強い”イメージがありますが、小さく細いものが多いインナーマッスルは決してパワフルな筋肉ではありません。
しかし、関節や分節のごとに的確で効率的な位置に存在し、少しの力で大きな固定性・安定性が発揮できるようになっています。
インナーマッスルは、その名の通り「深層に位置する筋肉」です。
皮膚面から近い表層の筋肉は収縮するとその盛り上がりが目視できたり、触ることも簡単に出来ますが、多くのインナーマッスルは普段の生活では目視したり触ったりすることが出来ません。
なので、意識して鍛えられることは比較的少なく、一般的に筋トレというとアウターマッスルを鍛えることを意味することが多いです。しかし、スポーツ選手など高レベルなパフォーマンスを目標とする人には鍛えることが必須となっている重要な筋肉です。
インナーマッスルを鍛えるとどんな効果があるの?インナーマッスルの種類
インナーマッスルと鍛えることで、主なものでは、
- ダイエット効果
- スポーツのパフォーマンスアップ・怪我予防
- 腰痛の緩和
の効果を期待できます。
順にみていきましょう。
ダイエット効果(姿勢矯正効果)のあるインナーマッスル
ダイエット効果があると言われているインナーマッスルは、
- 腸腰筋
- 腹横筋
です。
腸腰筋
股関節から体幹部に付着するインナーマッスルで腸腰筋があります。
この筋肉は大腰筋と腸骨筋の総称で、大腰筋は大腿骨から腰椎に付着し、股関節をまたいで収縮します。腸骨筋は骨盤と大腿骨に付着し、骨盤の角度に影響を与えます。

この筋肉が弱っていると、背中が丸くなり、骨盤が前傾し、いわゆる「ぽっこりお腹」の原因となることもあります。
大腰筋を鍛えるトレーニングをすることポッコリとしたお腹を解消することが出来ます。
腹横筋
体幹の深層に位置し、コルセットのような働きをする筋肉が腹横筋です。
収縮することで腹腔内圧を上げ、体幹の固定力を高めます。
そもそも重力に抗した際の体幹の固定力は、骨性の支持では脊柱しか構造的に存在していません。
よって、この腹横筋や横隔膜で腹腔内圧を上げて、上部体幹が崩れてしまわないように保持する働きにより固定性が補われています。
この筋肉を鍛えることでお腹周りがすっきりと引き締まります。
スポーツのパフォーマンスアップ・怪我の予防
スポーツでのパフォーマンスアップには全てのインナーマッスルが関係してきますが、その中でもインナーマッスルの役割が大きい肩関節を中心にご紹介します。
運動のパフォーマンスを劇的に向上させる「コアトレーニング」の方法
野球の投球動作
野球の投球動作では、肩関節の安定性が求められます。怪我の予防の観点からも肩のインナーマッスルを鍛えることは重要です。肩関節のインナーマッスルにはローテーターカフ(回旋筋鍵板)があります。
ローテーターカフとは、
- 棘上筋
- 棘下筋
- 小円筋
- 肩甲骨下筋

ローテーターカフは、人体の関節の中でも関節の組織(関節包や靭帯)の適合性・固定性が低い肩関節と上腕骨を包むように起始・停止し、関節の適合性を安定させ、そのパフォーマンスを増大させる機能があります。
また、肩関節と上腕骨の固定性が低下していると大きく力強い肩関節の運動をした際に、「インピンジメント症候群」などの怪我をするリスクが高くなります。
野球選手などは、一見するとアウターマッスルばかり鍛えている印象がありますが、しっかりと細かく小さいインナーマッスルも鍛えています。
腰痛改善・予防
腰痛の原因には様々なものがありますが、構造的に筋力が低下して、腰の骨である腰椎や椎間板に過度に負担が掛かって腰痛がある場合、脊椎に付着し、その固定性に貢献している多裂筋や上述の腹横筋のインナーマッスルを鍛えることで負担を軽減させることができます。
多裂筋
多裂筋は脊柱の脊椎同士をつなぐ役割があり、この筋肉が弱っていると、椎間板や椎間関節に負荷が強くなり、腰痛を誘発しやすくなります。
多裂筋とそのトレーニング方法について詳細
腹横筋
腹横筋はダイエットのためのインナーマッスルのところでもご紹介しましたが、天然のコルセットのように腰部を取り巻く筋肉のため、鍛えることで腹腔内圧を上昇させ、腰椎部に掛かる負担を軽減させることができ、腰痛の軽減・予防に効果的です。
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インナーマッスルの鍛え方・トレーニング方法(目的別)
目的別に、
- ダイエット
- スポーツ
- 腰痛予防
それぞれに効果的なインナーマッスルトレーニングをご紹介します。
ダイエットに役立つインナーマッスルトレーニング
ダイエットに重要なインナーマッスルの
- 腸腰筋
- 腹横筋
の鍛え方・トレーニング方法をご紹介します。
腸腰筋を鍛える”股関節屈曲運動”
腸腰筋を鍛えるには、椅子などに座って、ももを上げる運動を行います。必ず体を真っ直ぐにした状態でもも上げを行って下さい。
このように体が曲がっていると、腸腰筋の収縮が弱くなってしまいます。
座って簡単にもも上げができるようであれば、足に重錘を巻き、負荷を強くして行って下さい。
腹横筋を鍛える”ドローイン”
床に寝転がって、息を吐きながらお腹を意識的にひっこめる運動をドローインと言います。
腹横筋を意識して収縮させるには、腹腔内圧がカギを握っています。
”腹腔内圧が上がった状態”は感覚としてわかりにくいと思います。
イメージを掴みやすいのは、日常生活でトイレで排便をする時の”力んでいる状態”が腹腔内圧が上がっている状態です。その時に腹横筋は良く収縮しています。
よって、腹横筋が弱って、腹腔内圧を上昇させることが上手くできないと便秘の症状も出現する可能性もあります。
このドローインは初めは寝てやる方が腹横筋の収縮を意識しやすいのですが、慣れてくると、立っている時や歩いている時にも簡単にできるようになります。
スポーツに役立つ”ローテーターカフ”を鍛える運動
肩関節の安定化のためにローテーターカフを鍛える運動をご紹介します。


肩関節の内外旋運動を行います。この時にガシガシやってしまうと、アウターマッスルを鍛える運動になってしまうので、軽く動かすのがコツです。
もし自宅にゴムチューブがある方はゴムチューブを軽く握って肩関節内外旋運動をしても効果的です。
他の方法としては、
- うちわを持って内外旋をする(空気抵抗)
- 入浴中などに水中で内外旋する(水の抵抗)
などの方法があります。
腰痛軽減・予防に役立つインナーマッスルトレーニング
腰痛改善・予防のための運動として、
- 多裂筋
- 腹横筋
のインナーマッスルトレーニングの方法をご紹介します。」
脊柱を強くし、腰椎の負担を軽減する”多裂筋”トレーニング①「ダイアゴナル」
四つ這いになって、反対側の手と足を床と平行に挙上させ、その姿勢を保持します。
多裂筋は脊柱を伸展・保持させる働きがあるため、この時に背中の真っ直ぐな状態を維持するために強く働きます。
多裂筋トレーニング②「バックエクステンション」
バックエクステンションは、いわゆる背筋運動です。
背筋運動は思いっきり力の限り上体を上に反らしますが、インナーマッスルである多裂筋を効果的に働かせるためには、胸が少し床から浮く程度体を反らせます。
それ以上反らせると、広背筋や殿筋などのアウターマッスルが優位に働いてしまい、インナーマッスルトレーニングの効果としては弱くなってしまうので注意が必要です。
腰の安定性を向上させる”腹横筋”トレーニング「クランチ」
寝転がって、頭を上げ、おへそをのぞき込むようにします。そのまま数秒間停止します。
腰痛予防に腹筋運動が良いとよく言われますが、効果的に腹横筋を鍛えるなら、この程度の挙上角度を保持するクランチの運動が腰にも負担が少なく、効果的です。
また、上述のダイエットに役立つインナーマッスルトレーニングでもご紹介した、”ドローイン”も腹横筋を効果的に鍛えるので、同時に行うとより効果が高いです。
まとめ
インナーマッスルには、人体の上から順に、
- ローテーターカフ(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋=肩関節)
- 腹横筋(腹)
- 多裂筋(腰)
- 腸腰筋(股関節)
などがあり、それぞれその部位の固定性や安定性を高め、姿勢の保持や円滑な動作・運動を行うための補助としての役割があります。
私達はこれらの人体の構造を知れば知るほど、その精巧な作りに驚くばかりです。小さく、触りにくいインナーマッスルは見逃してしまいがちですが、大変重要な役割を持っています。