
腰痛には非常に多くの人が悩まされています。その8割以上が特に原疾患のない非特異性腰痛と言われ、原因を特定することが難しい場合も多いです。腰痛のリハビリ治療について考慮すべき基礎的な評価知識についてまとめました。
腰痛の原因について
腰痛の原因としては、脊椎圧迫骨折や椎間板ヘルニア、ぎっくり腰などがすぐに思い付きますが、これらは器質的異常に伴う腰痛なので、それらの原因を特定し、治療することである程度の改善が見込まれます。
しかし、実際に腰痛で悩んでいる方の多くがこれらの原疾患が特定できない、筋筋膜性腰痛など、非特異的腰痛に分類されます。
直立二足歩行で歩く人体の構造上、腰痛は人類の宿命とも言われており、大変負担が掛かりやすい部位でもあります。
また、機能的・解剖学的にも様々な他の部位との関連性が強く、その構造や機能を総合的に理解するには、広範囲の知識が必要になります。
今回は私が臨床で腰痛がある患者さんに治療を行う時に注意している評価項目をご紹介します。
腰痛とは?
まず、なぜそもそも人は腰痛を感じるのでしょうか?
痛みの性質について少し触れておきます。
疼痛には、高閾値機械受容器から視床に伝わる鋭い痛みとして自覚される「一次痛」と、ポリモーダル受容器(侵害受容器)から視床に伝わる重い痛みとして自覚される「二次痛」があります。
関節を支配する求心神経の大部分は、ポリモーダル受容器の受容特性を持つと言われています。炎症が発生した場合、ポリモーダル受容器の興奮は、侵害刺激だけでなく、組織圧の上昇やブラジキニンの作用によっても容易に起こります。また炎症自体もメカニカルなストレスに対する反応を強めます。
他にも、疼痛には急性痛と慢性痛があり、前者は侵害刺激で疼痛を引き起こしますが、後者では侵害刺激が消失した後も痛みを引き起こさない程度の刺激によっても疼痛が引き起こされます。よって、慢性期の疼痛のケアでは、痛みの痕跡(記憶)を防止することも大切と言われています。
腰部の機能解剖
腰部でまず構造的に重要なのが脊柱です。
脊柱には上半身を支えるための支持性と体幹の自由度を保証する可動性が求めらえます。このバランスが崩れると腰痛になります。
また、脊柱には脊髄や神経根も存在するため、それらを保護する役割があります。
脊柱の構造
成人の脊柱はS字状に弯曲しています。
これらの弯曲の強さは、脊柱や骨盤の動きに伴い増減し、バランスを保っています。
脊柱の中でも腰痛に関係が深い腰椎部では、体幹の屈曲で前弯が減少し、体幹の伸展で前弯が増大します。また、いわゆる猫背(円背)のように頸椎や胸椎のアライメントの変化や骨盤を前後傾させるような下肢の運動も腰椎の前弯に大きく影響を与えます。
この脊柱は、ばねのようにS字にカーブしていることで垂直方向への抗力を高める効果があり、正常な弯曲(生理的弯曲)があることで人体は抗重力活動が行えています。
よって、脊柱の生理的弯曲をの異常を観察することは非常に大切です。
腰椎について
腰椎は上半身の重みを支えるため、頸椎、胸椎に比べて大きく、分厚い構造をしています。
腰椎椎間関節の関節面は水平面に90°、前額面には45°の傾きを持つため、回旋・側屈の運動はわずかしか行えませんが、屈曲・伸展の可動性は大きい構造になっています。
腰椎は上下に連結している胸椎と仙椎の影響を受けやすく、腰椎だけでなく、それらの機能解剖も腰痛のリハビリを考える時に重要です。
第11胸椎から第2腰椎までを胸腰椎移行部と呼び、この部分は胸椎と腰椎の運動特性が異なるため、負荷が大きくなりやすく、脊柱外傷の好発部位として知られています。
また、腰椎と仙椎は最も屈曲・伸展の可動域が大きく、椎間板にも大きな荷重がかかるため、椎間板ヘルニアの好発部位となっています。
脊柱を支持する靭帯、筋肉、神経について(脊柱の支持性)
脊柱は前方の椎間板及び、後側方の椎間関節による3点で支持されていますが、骨による支持が乏しいことが特徴です。
また、脊椎は32個もあるので、分節性が高く、その支持性を椎体間を連結する靭帯や筋肉にかなり頼っているところがあります。
腰部では、脊柱付近を胸腰筋膜が覆い、その深層を背筋群が走行しています。
腰背部の筋肉について
腰背部の筋肉には、僧帽筋や広背筋のように上肢と連結している筋肉や、上後鋸筋、下後鋸筋のような肋骨の運動を主とする筋肉などが混在しています。
一方で、腰部には固有背筋と呼ばれる、頭部と体幹の運動を主に行う筋肉があります。
腰部に付着する固有背筋には、
- 脊柱起立筋群(腸肋筋、最長筋、棘筋)
- 多裂筋
- 回旋筋などの横突棘筋
- 棘間筋
- 横突間筋
があります。
また、大腿骨と腰椎に付着している腸腰筋は、股関節の屈曲や腰椎の側屈、前弯に作用します。大腰筋は立位で身体重心を跨ぎ、姿勢制御にも大きな役割を持っています。
固有背筋の神経の走行
固有背筋は神脊髄神経後枝により支配されています。
脊髄神経後枝は神経根、脊髄神経節を経過した後に前枝と分岐します。脊椎を出る時には椎間孔を通過します。
構造上、体幹の運動に伴い、椎間孔の口径は変化します。
よって椎間板の変性や脊椎の変形などにより椎間孔において神経が圧迫され、神経症状が出現することがあります。
脊柱と腹腔内圧
腹腔の骨性支持は腰椎や骨盤部のみです。そのため腹腔内圧メカニズムも腰背部の支持性に影響が大きいとされています。
腹腔内圧のメカニズムは、腹横筋や内・外腹斜筋が収縮して腹直筋鞘を伸張することで腹腔に陽圧を掛けて、胸郭を支持します。
腹腔内圧は腰椎を前方から支持する伸展モーメントを助ける働きがあります。
腹横筋は特に重要で、体幹の安定化作用を持ち、拮抗筋である脊柱起立筋群と協調して、姿勢制御にも大きく関係しています。
脊柱の安定化機構について
脊柱安定化機構には、
- 骨や関節、靭帯などの構築性の分節制御(他動的)
- 筋緊張や筋肉などの筋性の分節制御(自動的)
- フィードバックなどによる神経性の制御(神経的)
これらが共同して働いているのが正常な脊柱です。
これらのシステムのうち一つでも破綻していると、脊柱の機能障害が生じ、可動域制限や痛みが生じやすくなります。
ローカル筋群とグローバル筋群

また、脊柱の構造的に、体幹屈曲位でもなく、伸展位でもないニュートラルな位置にある時には筋性(自動的)の安定化機構以外が働きにくく、不安定性が増大しやすいと言われています。
また、筋性の安定化機能には、
- ローカル筋群(多裂筋、棘間筋など)
- グローバル筋群(腹直筋、内・外腹斜筋など)
と呼ばれる筋群に分類されており、ローカル筋群は脊柱の分節を主に制御し、腰痛の抑制に重要です。逆に脊柱に不安定性がある時、グローバル筋群が過剰に収縮し、脊椎への過剰な負荷を掛ける場合があります。
よって、腰痛がある方は、グローバル筋群に疼痛がある場合も多いです。
脊柱に局所的にメカニカルストレスが掛かり、疼痛が発生する場合はローカル筋群の異常も考えられます。
脊柱の姿勢制御機構
人体の姿勢制御機構としては、
- 足関節戦略
- 股関節戦略
- ステッピング戦略
が最も有名で基本となりますが、
バランス制御で重要な姿勢戦略「足関節戦略、股関節戦略、ステッピング戦略」とトレーニング方法
その他に、脊柱にも姿勢制御機構が備わっています。
- 胸椎制御
- 腰椎制御
があります。
胸椎制御では、胸腰椎移行部を境にして上部体幹と下部体幹のバランスを取ります。胸椎制御では靭帯や関節包などの必収縮組織の柔軟性が重要となります。
これは歩行中など、より不安定な動作では、より大きな姿勢制御機構が必要となり、腰椎制御による姿勢の安定化が重要となります。
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腰椎骨盤リズム
腰椎と骨盤は密接な関係性があります。
健常者が体幹を屈曲させる時、まず、腰椎が屈曲しはじめ、その後に股関節が屈曲し始めます。
逆に体幹を伸展させる時は股関節が伸展し始め、次いで腰椎が伸展し始めます。
これを”腰椎骨盤リズム”といいます。
腰椎や股関節の可動域制限があると、この腰椎骨盤リズムが崩れてしまいます。
例えば、立位姿勢から身体を屈曲させ、指を床に着ける動作をする評価、”FFD(指床間距離)”でハムストリングスが短縮している時、股関節の屈曲が制限され、その分腰椎と骨盤帯の代償が出現しやすくなります。
まとめ
腰痛を評価していくときに、これらの基礎知識を元に、
- 立位姿勢
- 体幹屈曲時の腰椎骨盤リズムの崩れ(立位・座位)
- 関連痛
- 関連する筋群(背中だけでなくハムストリングスなども)の緊張の異常
- 疼痛評価
を行っていきます。
腰痛がある患者さんは大変多いので、これらを考慮しながらリハビリに取り組むことが大切です。