
今回はリハビリの臨床でも比較的出会うことの多い疾患、腰部脊柱管狭窄症のリハビリについて記載しています。特に自宅で患者さん自身が自分で体をケアできるよう、一人でも行える運動療法を中心に取り上げています。
腰部脊柱管狭窄症とは
腰部脊柱管狭窄症(Lumber spainal canal steno-sis:以下LSCS)とは、腰部脊柱管狭窄症ガイドライン2011には、「腰椎部の脊柱管あるいは椎間孔の狭小化により、神経組織の障害あるいは血流の障害が生じ、症状を呈すること」と記載されています。
今のところ、原因や病理学的な変化は完全に解明されておらず、加齢に伴う椎体の退行性変化が要因ではないかと言われています。
疫学
40歳以上の男女240万人(約3.3%)が発症しているといわれています。80歳以上では男性9.9%、女性15.8%と高齢化するに伴い数は増えていきます。
今後日本の高齢化に伴い、脊柱管狭窄症を発症する人が増大することが見込まれている疾患です。
実際に、現在でも私がリハビリの臨床で出会う方でも、「腰が痛い!」という主訴がある方の場合、脊柱管狭窄症が原因である場合も大変多いです。
症状
LSCSでは、
- 神経性間欠跛行
- 腰痛
- 下肢痛
が主な症状になります。
その他にも、
- 膀胱直腸障害
などが症状として現れることもあります。以下にそれぞれの症状について詳しく解説します。
「神経性間欠跛行」とは?
腰部脊柱管狭窄症に極めて特徴的な症状がこの神経性間欠跛行です。
10分から15分ほど歩行すると下肢痛が出現し、立ち止まって休憩すると再び歩くことができる、というのが神経性間欠跛行の症状です。
この神経性間欠跛行の大きな特徴は、姿勢的要素が歩行能力に大きく関係してくることです。歩行して足が痛くなってきたら、腰をかがめ(腰椎屈曲)て休憩すると症状が速やかに緩解します。
脊柱管狭窄症で悩む方が自転車に乗ってみると、いくらでも漕ぐことができたりすることが多いのも、これが理由です。ちなみにこれを”バイシクルサイン”と呼びます。
一方で似た症状を呈する閉塞性動脈硬化症による下肢痛(血管性間欠跛行)ではこのバイシクルサインは出現しないので、疾患を鑑別する際の一つの目安となります。
神経性間欠跛行は他覚・自覚症状によって3種類に分別されます。
- 馬尾型
- 神経根型
- 混合型
の3種類です。
それぞれの違いは以下になります。
<馬尾型・神経根型・混合型の症状の違い>
神経障害型式 |
自覚症状 | 他覚症状 |
馬尾型 | 下肢・臀部・会陰の異常感覚 | 多根性障害 |
神経根型 | 下肢・臀部の疼痛 | 単神経根障害 |
混合型 | 馬尾型+神経根型 | 多根性障害 |
しかし、リハビリにおける臨床では、症状を元に厳密に区別することが難しい場合も多いです。確定診断はMRIや脊髄造影を元に判断します。
腰痛
LSCS(腰部脊柱管狭窄症)では、主として椎間板由来の腰痛が発生することが多くあります。同じく椎間板の障害であるヘルニアとは異なり、多くの場合徐々に腰痛が悪化していきます。一方でヘルニアの場合は徐々に腰痛が緩解していきます。、
退行性変性を主体とする変形性脊柱症では約60%程度に腰痛が認められるとする報告もあります。
多くは歩行中に腰痛が発生し、下肢後面への放散痛を伴います。
下肢痛
特に歩行時に発生します。片足のみの場合と両足に疼痛がある場合があります。部位も一定ではなく、下腿にのみ出現する場合、臀部や大腿部後面に伝播する場合など様々です。
神経根由来の症状なので、ほとんどの場合に疼痛と共に異常感覚が出現します。
- 「ビリビリと痛い」
- 「ビーッと引きつる感じ」
などとその疼痛の様子を形容する方が多く、
- L1-4神経根では大腿神経痛
- L5-S2では坐骨神経痛
- S3以下では会陰部痛
として訴えられる場合が多いです。
特に馬尾障害では両下肢や会陰部までの広範囲での異常感覚が出現し、しびれの位置が拡大したり、移動することもあります。
この痛みの部位によってある程度どこの神経根が障害されているのか推測することができます。(あくまである程度、です。)
膀胱直腸障害
馬尾障害でみられるのが膀胱直腸障害です。頻尿や残尿感、尿漏れなど排尿障害と便秘を訴える場合が多いです。
筋力低下
神経根障害による筋力低下と間欠性跛行による二次的な筋力低下が混在している場合がほとんどです。発症して数年経っているようなケースでは特にその傾向が著明になります。
腰部脊柱管狭窄症のリハビリ
まず、腰部脊柱管狭窄所は自覚症状を認識することが大切です。
評価
疼痛の評価として、
- 痛みの出る部位
- 異常感覚(しびれる感じ)はあるのか
- どんな動作時に疼痛が出現するのか
- 疼痛の強さ
を認識します。
この時に念頭に置いておくべきことは、動脈閉塞性疾患による血管性の間欠性跛行が出現しているのかどうかの鑑別です。
一般的に、歩行動作を中止し、立位を取ったままの状態で症状が緩解すれば血管性間欠跛行の可能性が高くなります。
一方で、座位・蹲踞(そんきょ)姿勢、または股関節屈曲位を取った時に症状が緩解するようであれば神経性間欠跛行を疑います。
しかし、それらが合併している症例のあるので断定は禁物です。
脊柱の可動性
そもそも、腰椎椎間板ヘルニアと腰椎脊柱管狭窄症は症状が出現する原因が似ています。腰椎椎間板ヘルニアでは脊髄髄核が後方に飛び出し、脊柱管や神経根を圧迫することで腰痛や下肢痛が出現します。
LSCSも同じように脊柱管と神経根が圧迫(狭窄)されて起こります。
症状としては類似していますが、姿勢を変えてみると前者と後者では違いが出てきます。
ヘルニアは腰椎を後弯させると症状が悪化しやすく、LSCSは逆に前弯させると症状が悪化しやすいということです。
よって、LSCSでは胸を張るような立位姿勢を取ると腰椎が後彎するので、狭窄が強くなり、症状が出やすく、逆に骨盤を後傾しつつ背中を丸めると緩解します。
実際、LSCSの患者さんはこの事実を誰からも教えられたことがなくても、患者さん自身、自然に歩行中に下肢痛が出現すると腰を屈めたり、腰を手でトントンと叩いたりしています。感覚的に、疼痛が緩解する姿勢をご存知の方が多いのです。
逆にヘルニアのある患者さんは普段から腰椎を前弯させる姿勢、つまり胸を張るような姿勢を取っていることが多いです。
これが常習化すると、当然脊柱は前弯位あるいは後弯位で固定されていることが多くなるため、脊椎の各関節の可動性が低下します。
体幹筋力の評価
体幹筋の弱化は腰椎への負担を増大させ、腰痛を増長します。
実際、私の臨床経験から言っても、LSCSの患者さんは自然と体幹屈曲位で歩行などの動作を日常的にしていることが多いため、体幹筋群が弱化している方が多いです。
最近、コアトレーニングなどで体幹筋を強化して腰痛を予防あるいは改善することがよく提唱されていますが、あれは体幹筋を強化することで多裂筋等の脊柱起立筋群の負担を減らすことが目的です。
体幹筋群の評価に関して、標準化された良い評価法が見当たらず、私は簡便にMMTを行い、触診をしながら動作を行い、筋収縮の程度を確認するようにしています。
痛み

視覚的疼痛尺度(VAS)を用いて疼痛の程度や推移、動作による影響を評価しておきます。しびれは疼痛とよく似ている感覚なので、「どんな感じか?」と聴く必要があり、神経根症状がないか確認します。
反射・病的反射
膝蓋腱反射は上位腰椎神経根が障害された場合に減弱します。アキレス腱反射は馬尾型の場合は両側性に減弱・消失することが多いです。
膀胱直腸障害の有無
馬尾障害では夜間頻尿や動作時の失禁がある場合があります。また、尿意の減弱など、排尿障害や便秘を伴っていることも多いので、膀胱直腸障害の有無についても問診にて確認しておきます。
重度の狭窄がある方は膀胱直腸障害がある方が多いです。他のしびれや間欠性跛行の症状と合わせて総合的に評価しておくと狭窄の程度の目安となります。
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保存療法と手術の経過と適応
LSCSの自然経過は4~5年程度は安定しているため、原則として保存療法が選択されることがほとんどです。
手術をする場合は、長年に渡る症状の悪化に伴い、骨盤や脊柱、下肢の可動性及び筋力低下が著明な場合が大多数を占めます。術後、疼痛や間欠性跛行の改善はみられるものの、しびれなどの神経根症状が残っている例も多いです。
運動療法
基本的には腰椎が前弯すると骨盤は前傾し、脊柱管の狭窄を増強させます。
よって、LSCSの運動療法では、
- 骨盤後傾位と腰椎の前弯
を意識した運動を主体に行います。

現在の診療ガイドラインでは、LSCSの運動療法として有効なエビデンスのあるものはなく、充分ではありません。しかし、いくつか文献を覗いてみると、無作為化対照試験の結果から、腰臀部痛や下肢痛に対して、理学療法による運動療法の有効性が示唆されています。
特にストレッチや免荷によるトレッドミル歩行が有効とされています。
ストレッチ
ストレッチでは上述のように、普段から円背傾向にあるLSCS患者の姿勢を考慮して適切な筋を選択します。
また、その際に骨盤に起始・停止する筋肉を考慮してコンディショニングを整えていきます。
具体的には、
- 股関節屈筋群
- ハムストリングス
- 脊柱起立筋群
です。
股関節屈筋群
股関節屈筋群は体幹屈曲しながら動作を行うLSCS患者ではどうしても短縮しやすくなります。また短縮すると腰椎が前弯し、症状が悪化する可能性があります。
腸腰筋のストレッチの方法はこちら(※リハビリで行われる、効果的な腸腰筋の筋トレとストレッチの方法)に詳しく記載していますが、
写真のような方法でストレッチすることができます。
①の方法は股関節を深く曲げることで骨盤を深く後傾斜させるので、脊柱の可動性向上にも繋がります。
②の方法はベッドから足を落とすだけなので簡単に行え、かつストレッチ効果が充分に期待できます。どちらでもやりやすい方法で行うと良いと思います。
(①は股関節に問題がある方はできないことも多いです。)
ハムストリングス
ハムストリングスは大腿後面に位置する筋肉で、
- 大腿二頭筋
- 半腱様筋
- 半膜様筋
の総称を指します。
それぞれ骨盤の坐骨結節より起始しているため、この筋肉を鍛えたり伸ばしたり(ストレッチ)することで骨盤の傾きにアプローチすることができます。結果として連結している腰椎の前弯に影響します。
脊柱起立筋群
脊柱起立筋群は直接骨盤に付着している筋肉ではなく、上述の股関節屈筋群、ハムストリングスとは考え方が少し異なります。腰痛の緩和のために普段酷使されているであろう脊柱起立筋群のストレッチを行います。
方法としては、
この写真の女性の様に背臥位で両足を抱え、腰椎部の脊柱起立筋をストレッチします。少しでも体に力が入っていると効果的にストレッチされませんので、できるだけ脱力を意識して行います。
別の方法では、
このように「猫のポーズ」をすることでもストレッチすることができます。
(関連記事:多裂筋って何?多裂筋の機能・役割と効果的な筋力トレーニングとストレッチの方法6種類)
セルフケアの意識を持ってもらえるようにリハビリする
上述の方法は全て患者さん一人でも行える方法を記載しています。
これは、私が、できれば患者さん自身で身体をケアしてもらえるように指導するのが最適だと思っているからです。上述のように、LSCSは保存療法がほとんどのケースで適応されるため、長年付き合うことが多い疾患です。療法士のリハビリが受けたくてもタイミング良く自身の腰が痛いときに受けられるとは限りません。
できるだけ自身で、LSCSの症状に対処できるように、リハビリの中で患者さんと一緒に取り組んで行く姿勢が重要だと私は経験から感じています。
筋力トレーニング
筋力トレーニングでは、主に体幹部の安定性を向上させることを目的としたコアトレーニングを行います。もちろん、二次的に、下肢筋力の低下による歩行障害が疑われる場合には、個別に評価を行ってアプローチする必要があります。
腰部に掛かる負担を軽減するため、LSCSの体幹トレーニングとしてカールアップが行いやすいです。

方法は背臥位で寝て、両股関節を同時に深く曲げ、足を地面から浮かせます。
カールアップを行う際に、息を吐きながらドローイン(お腹を固める)を意識して行うことで、腹横筋などの深部筋も意識的に鍛えることができます。
やや負荷を高めたいときには、両側シットアップも有効です。この方法もカールアップと同様ドローインを意識することで効果的に深層筋をトレーニングすることができます。

背筋部群を鍛える方法として、座位での腕を引く運動があります。もちろん、何も持たないでやると負荷が軽いので、ゴムチューブやセラバンドなどを使って負荷を調節して行います。


他にも、床上で四つ這いになり、対側の上下肢を挙上・保持する運動、”ダイアゴナル”で腰背部筋を強化できます。
他にもたくさんの方法があります。
体幹トレーニングは以下リンクにまとめて記載していますので、参考にしてみて下さい。
リハビリに使える!コア(体幹筋)トレーニングメニュー負荷別8パターン
日常生活指導
日常生活指導では、腰椎前彎位(骨盤前傾位)での長時間の立位保持や歩行動作について特に注意します。
日常生活場面では、料理をする際に立位保持でしびれや疼痛があるケースが多いので、その場合は、片足を台の上に乗せて料理する、もしくは座ってできないか一緒に検討し、提案します。
歩行動作では、歩行器を使うと嘘の様に疼痛が出現しないケースも割と多くあります。自然と腰椎後弯、骨盤後傾位での歩行になるためです。
歩行能力が比較的残存していて歩行器を使うのは少し大げさに思われ場合では、杖を使用するだけかなり疼痛がましになることもあります。
私の経験上、歩行器やシルバーカーを使う事で近所を散歩できるようになった方もいるので、一度提案してみてはいかがでしょうか。
まとめ
腰部脊柱管狭窄所は、ほとんどの症例で保存療法が選択され、比較的長年付き合うことになることが多い疾患です。
疼痛が出現しない姿勢、あるいは疼痛が緩解する姿勢を学習し、痛みを自分である程度コントロールできるようにリハビリを行う視点が重要です。
トレーニング(筋トレ・ストレッチ)もできるだけ患者さんが自分でできるものを選択し、自身で身体をケアする習慣作りが非常に重要だと感じています。