
私達理学療法士は「動作」の専門家です。その中でも「歩行」に関する知識は他の臨床家と差別化できるところでもあります。リハビリで歩行の専門家=理学療法士として歩行に関する知識をまとめてみました。
歩行観察の要となる基本的な歩行周期の知識に沿ってメカニズムを解説しています。
歩行のメカニズム
- 「立って歩く」
これ程健康な人にとって当たり前で、自然な動作はありません。
自然に、当たり前に行っている歩行ですが、実は複雑なメカニズムによって適切に調節され、実に効率良く人の体を「運んで」います。
このメカニズムを専門的に理解しているのが理学療法士『Physical Therapist(PT)』です。
あなたは70㎏の荷物をどれくらいの距離・時間運べますか?
歩行は人の体を「運ぶ」動作です。
私の体重は約70㎏あります。
もし、70㎏の荷物を運ぶとしたら、一体どれくらい運べるでしょうか。運べて2、3歩ではないかと思います。
そう考えると、歩行のメカニズムの効率の良さが良く理解できると思います。
正常な歩行の前提条件
まず歩行について説明するにあたって、正常な歩行をするうえで最低限必要なものを挙げていきます。
この要素が一つでも欠けていると正常な歩行が困難となり、歩行障害につながってきます。これ以外にも様々な要素が関わっていますが、代表的なものを中心に取り上げています。
姿勢のコントロール
体幹や四肢を状況に応じて安定させたり、移動の為に姿勢を整える能力です。
人は周りの環境の情報を目から入ってくる、
- 視覚情報
- 体性感覚(表在・深部感覚)
などによって自然と周囲の状況を考慮しています。
それらの情報は主に小脳によって学習、調節され、無意識に道のデコボコや周りの環境に合わせた歩行を行います。
小脳に何らかの疾患があり、姿勢のコントロールを失っていると、正常に歩行することは難しくなってしまいます。
※小脳の姿勢のコントロールについて詳細は、過去の記事バランスとは?「バランスの捉え方」を詳しく解説

リハビリで歩行練習をしている時に、「踵から地面について~」などとリハビリ職が患者さんに指示を送りながら練習をしている光景をよく目にします。
しかし、その指示だけで正常歩行ができるようになるのなら簡単で苦労はしません。
元々、自然な歩行は「無意識」で行われます。歩きスマホが問題になるのも、人は「無意識」で歩けるからです。
声かけにより意識して踵接地を促すような方法では、意識が逸れた時点で、踵を着く歩行ではなくなるでしょう。
ではなぜ、そのように指示を出しながら歩行練習をするのでしょうか?
リハビリ職は、歩行の指示をして、理想に近い歩行動作を練習で反復することで、脳が運動を学習(運動学習)し、指示なしでも歩行効率の良い歩き方ができるように、と考えているはず・・です。
しかし、患者さんが行っている歩行動作は最適化され、その患者さんの現在の身体の状態に一番適した歩行の形になっています。
よって、リハビリ職は、もちろん口頭で指示を出すだけでなく「踵から接地できない原因は何か?」を評価して探り、それを改善していくアプローチを同時にしていくこと必要があります。
できれば、なぜそのような指示を出しているのか、説明しながら患者さんに歩行練習をしてもらいましょう。でないと、「偉そうに指示出されるだけなら、リハビリなんかしなくて良いわ・・」って思われても仕方ないかもしれません。
正常に可動する関節
足首でも膝でもどこでも良いので、足の関節を一つ動かない様に固定して歩行してみて下さい。
途端に歩きにくくなるはずです。
それほど、関節が正常に動くことは効率的な歩行にとって重要なことです。後に説明するロッカーファンクションの機能を理解すると、歩行において関節が正常に動くことの重要性が良く理解できると思います。
選択的な弛緩
歩行動作は、全身の筋肉の『弛緩と緊張』で成り立っています。
どちらかができないと、正常歩行から逸脱した歩行動作になってしまいます。
片麻痺(運動麻痺)がある方の歩行を見られたことはあるでしょうか。

片麻痺になると、痙性といって、筋肉の緊張が異常に亢進してしまう現象が頻繁に観察されます。
痙性によって筋緊張が亢進した患者さんは、選択的な弛緩ができないために、それだけで効率の悪い歩容を強いられることになります。
慣性力の利用
慣性力とは、物理学の言葉で”1度進み始めた物体が進み続けようとする作用”のことです。
この慣性力を上手に使って、人は意識しなくても楽に、そして安定して長距離を歩行することができます。
リハビリにおいても、歩行の耐久性(持久力)を上げる時や、転倒しないように歩くために必須の”力”で、歩行の核とも言える部分です。
臨床家は歩行を見るとき、この慣性力が上手く使えているかどうかを念頭に置いて歩行観察していると言っても過言ではありません。
慣性力を効率的に活かした歩行様式が、”正常歩行そのもの”です。基本的に、正常歩行のメカニズムを活かす歩行動作を目指してリハビリを行います。
リハビリでは、よく筋力トレーニングをしますよね。
その目的が上手く歩けるようにすることなのであれば、この「慣性力」を筋肉を使って上手く活かせるようにしていると思ってほとんど間違いないです。
歩行周期
歩行に限らず、全ての動作は流れの中で行われます。歩行の専門家は、その流れを”細切れ(こまぎれ)”にして”観察します。
正常歩行を考える上で大切なのが、歩行周期です。
歩行周期を理解することで歩行の各相を細切れにして観察することができ、問題点を明確に捉えることが可能になります。
ランチョ・ロス・アミーゴ方式という歩行周期の分類方法が最新なので、それに準じて以下にご紹介していきます。

※ちなみに、ランチョ・ロス・アミーゴ方式とは?
アメリカにあるランチョ・ロス・アミーゴリハビリセンターという施設で開発された歩行周期の分類方法です。
歩行周期を理解するために、立脚相と遊脚相に大きく分けて説明していきます。
立脚相も遊脚相も互いに影響しあっており、臨床では、遊脚相に問題がある場合、逆に立脚相に重点を置いてリハビリを行うと遊脚相が改善したりします。
歩行だけに限ったことではないですが、動作は全て「流れ」が大切ですので、切り離して考えることは出来ません。
どちらも注意して観察することが大切です。
立脚相(Stance)
足が地面に付いている時期のことです。
後に説明する、イニシャルコンタクト(Initial Contact=ICと略されます。)から始まる4つの相のことを総合して立脚相と言います。
臨床では”スタンス”とよく呼ばれます。詳しく説明していきます。
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イニシャルコンタクト(Initial Contact=IC)
歩行周期の始まりと終わりはイニシャルコンタクト(IC)と呼ばれます。
足が地面に接触する瞬間のことです。
正常歩行では踵から地面に付きます。このポジションでの各関節のポジションが衝撃の吸収度合いを決定します。
ICは歩行周期の始まりとなる、正常歩行のメカニズムを活かすための起点となります。
踵から接地することで、機能的な歩行が可能となります。
リハビリ専門職が「踵から地面に着いて!」と口うるさく(?)言うのは、この為なんですね。
いわゆる「すり足」は踵から接地せず、足底で接地します。そうすると、以下にご紹介している正常歩行のメカニズムが活かせず、どうしても非効率な歩行になってしまいます。
ローディングレスポンス(Loading Response=LR)
ICで、床に踵から接地した足へ体重が移行することによって生じる衝撃が吸収される時期がLRです。
この時に足が床に落ちるように下に働いていた慣性の力(モーメント)が膝関節が徐々に曲がっていき、前へ回転する方向に変換されます。
臨床においては、脳卒中片麻痺などで下肢装具を使用されている方の場合、装具の初期背屈角度が強すぎると、LRで下腿が早く前傾し過ぎて(後述のヒールロッカーが早過ぎて)歩容が乱れることがあります。
また、片麻痺の方でヒールロッカーが上手く働かず、膝がタイミング良く屈曲してこないときは、逆に装具の初期背屈角度をやや強めに付けて、ヒールロッカーに伴う膝関節の屈曲を誘導することがあります、
装具を使用されている患者さんの歩行を観察する際は、LRを注意して見ておくと良いと思います。
イニシャルコンタクト(IC)~ローディングレスポンス(LR)での最重要ポイント”ヒールロッカー”

この時期に問題があるかどうか判別する際に重要な機能が「ヒールロッカー」です。
IC~LRで踵を地面に付けたとき、踵は丸い形をしているので、慣性の法則に従い、下腿を前に倒す方向に力が変換されます。
これを「ヒールロッカー機能」と言います。
ヒールロッカーは歩行にとって大変重要な機能です。
なぜなら、これが機能して初めて、それ以降の歩行のメカニズムが正常に働くからです。「いわば正常歩行の要」です。
なので、歩行能力を向上させる目的で歩行観察をする臨床家は、必ずこの”ヒールロッカー”をチェックしているはずです。
ヒールロッカーが機能しているかどうかの判別
”ヒールロッカー”が機能する最低条件、踵から床に接地できているかどうかを注意深く観察して下さい。
ヒールロッカーを機能させるために必要な筋肉
ヒールロッカー機能により、下腿を前に倒すように物理的に力が変換されますが、この時に前脛骨筋(足首を上に挙げる筋肉=足関節背屈筋)が遠心性に機能していないと、上手く下腿を制御できず、丁度良いタイミングで前に倒れてきません。
前脛骨筋は足首を挙げる足関節背屈動作の筋肉として知られていますが、前脛骨筋の筋力低下によって正常歩行ができなくなる可能性もあるということです。

リハビリの臨床で行われる前脛骨筋のトレーニング方法についてはこちらに詳しく紹介しています。
下腿が上手く前傾してくると、それにつられて今度は太ももの部分(大腿骨)が前に引っ張られるため、大腿骨が倒れ過ぎないように制御するために大腿四頭筋も活動します。
また、股関節ではお尻の代表的な筋肉である大殿筋も著明に働き、身体が前に倒れてしまわない様に体を後方に引っ張りバランスをとります。
イニシャルコンタクト~ローディングレスポンスをあえて反復するリハビリ
臨床では、あえて大殿筋を鍛え、ICで踵から付くことを体に覚えさせるために、このイニシャルコンタクト~ローディングレスポンスを患者さんに反復してもらう、”ステップ練習”が行われます。
その場所で足を前に踏み出して、足をまた元の位置に戻す、という動作を繰り返す練習が”ステップ練習”です。
上向きに寝て行う”お尻上げ”などでも大殿筋を鍛えることができますが、より実用性の高い訓練で、歩行する時の筋肉の収縮するタイミングを体に覚えさえるのに効果的です。
リハビリの臨床で多い、ヒールロッカーが機能していないケース
- 変形性膝関節症による膝関節屈曲拘縮があるケース
膝関節の屈曲拘縮で膝が曲がってしまい、ICで踵が接地せず、足の裏全体で接地してしまうケース。
パッと見て、歩いている時に膝が曲がった様に見える方は多くの場合、ICのヒールロッカーが機能していません。
このような場合、慣性の法則が上手く使えず、体を上手く前に運べないので、歩いていてもすぐに疲れたり、歩行耐久性(持久力)が低下している場合が多いです。
- 股関節伸展角度の関節可動域が少ない(あるいは膝関節の屈曲拘縮がある)ケース
股関節伸展可動域が0度以下の場合、踵から接地するためにはかなり足首を上に挙げる(足関節背屈)必要があり、多くの場合、足裏全体で接地する歩行(いわゆる”すり足”)となります。
変形性股関節症の方によく見られる他、膝関節屈曲拘縮がある方も、歩行時に股関節が伸展する頻度が極端に減りますので、股関節伸展角度の低下している場合が多いです。
高齢の方の場合、 多くの方が低下しているので、チェックして見て下さい。
また立位姿勢を取ったときに、円背になる(背中が曲がっている)方は股関節が屈曲している状態で歩行することになるので、踵から地面に接地することは難しくなります。
- 片麻痺などにより足関節背屈制限があるケース
片麻痺になると痙性が上がり、筋肉が緊張し、足先が上がらない(内反尖足)ことが多くあります。その際は踵からではなく、足先から地面に付いてしまうことになります。
脳卒中片麻痺「内反尖足」のガイドラインに基づくリハビリと治療法
ミッドスタンス(Mid Stance=MSt)

ミッドスタンスでは、全体重が片足に乗り、支えている足の上で体が制御されつつ動いています。
つまり、この相では片足立ちをしている状態になります。この片足立ちの時に骨盤が重力に負けて崩れてしまう方が非常に多いです。
臨床上、非常に重要な相です。
ミッドスタンス(MSt)では”トレンデレンブルグ徴候”が出現していないか確認する
過去の記事、リハビリに使える!中殿筋のストレッチと筋トレの方法に書きましが、このMStでは歩行中片足に全体重が乗るため、中殿筋の筋力が弱い方はトレンデレンブルグ徴候が出現してしまい、歩行の安定性・安全性が低下している場合があります。
臨床に於いて、あくまで個人的な見解ですが、中殿筋の筋力がMMT(Mascle Manyual Test=MMT)股関節外転で3以下だと片足での全体重の支持ができない方が多い印象があります。
最低でもMMT4は欲しいというのが私の見解です。
ミッドスタンス(MSt)での最重要ポイント”アンクルロッカー”

ミッドスタンスでは上述の中殿筋の筋力も重要ですが、やはり”アンクルロッカー”を抑えておくべきです。
アンクルロッカーはIC~LRでヒールロッカーが起こったあと、足関節軸を支点に下腿が前傾し、足関節が背屈していく機能のことです。
アンクルロッカーを機能させるために必要な筋肉
アンクルロッカーが機能し始めると、まず初めにヒラメ筋が下腿の前方への動きを安定させ、後に腓腹筋と共に遠心性の収縮によって足関背屈を制御します。
もし、ミッドスタンスで膝がグラグラしている様なら、ヒラメ筋と腓腹筋の筋力低下が起きていないかチェックして下さい。

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ターミナルスタンス(Terminal Stance=Tst)

立脚期の最後の相である、”ターミナルスタンス(TSt)”です。
股関節は20度伸展され、足の指に体重が乗り、早く歩くために必要な機能”フォアフットロッカー”が出現します。骨盤の位置は足部よりも前にあります。
この相も臨床上非常に大切です。なぜなら、歩行の安定性・安全性と比例関係にある”歩行速度”と、”つまずきやすさ”に大きく関係してくるからです。
片麻痺のある方、高齢者の方は股関節が伸展しにくくなっていることが多く、このように股関節を後ろに大きく伸ばした姿勢を取ることができないことが多いです。
また、高齢者に筋力低下が起こることが多いふくらはぎの筋肉(下腿三頭筋)に過大な力を要求する相でもあるので、立脚期の中でも最も難易度の高い相です。
歩行中にTStが出現しない患者は多い
上述のように、歩行周期の中でも特に難易度が高いのがTStです。健常者でも高齢者の方でTStが出現しない方が大変多いです。
原因としては、一般高齢者の場合、
抗重力筋(重力に抗するための筋肉)の筋力低下→
立位時の姿勢の崩れによる円背→
常に股関節屈曲位となる→
股関節伸展可動域の低下
が機序として臨床で頻繁に観察されます。
Tstが出現していない歩行の特徴
TStが出現しない方で、パッと見て分かる分かりやすい特徴を挙げます。
- 歩幅が小さい≒歩行速度が遅い
- 歩くとすぐに疲れる
- 後述の遊脚相のクリアランス(歩行中の床と足との間の距離)が低下し、つまずきやすい
TStが振り出しに影響を与えるメカニズム
TStはのちの遊脚相に繋がる大切な相で、足の振り出しに大きな影響を与えます。TStのメカニズムを理解するために、”振り子”を使って説明すると分かりやすいと思います。
下の図を見て下さい。
赤い球を”足部”だとすると、後ろに大きく振られた振り子は反動が大きくなるので、当然その分前に大きく振られますよね。
これがTStと同じメカニズムで、足も後ろに引かれれば引かれる程、反動で前に足が出ることになります。
このメカニズムが、慣性の力を歩行の中で効率よく使うために重要です。

Tstが出現しない方は、この振り子の慣性の力を使えないために、足を振り出そうとすると、”よいしょ”と足を頑張って前に出さなければなりません。
歩行速度も出ないし、当然疲れやすいし、筋力が弱い方は足がすぐに上がらなくなります。
よって、上記のような、
- 疲れやすい
- 遅い
- つまずきやすい
- 歩幅が小さい
という転倒に結びつくような悪循環になってしまうのです。
また、歩行中の足の振り出しに関して、機能的に大腰筋がこの振り子のメカニズムと共に重要な役割をしています。
※大腰筋について詳細は効果的な腸腰筋の筋トレとストレッチの方法
ターミナルスタンス(TSt)での最重要ポイント”フォアフットロッカー”

フォアフットロッカーの機能は、制御された足関節の背屈によって引き続き起る脚の前方への動きを可能にします。足の指先を支点にして、踵が地面から浮き上がり、その制御をヒラメ筋、腓腹筋が安定させています。
体の中心がこの支点(中足骨頭)を超えれば、身体の前方への動きが歩行中最も加速されます。(アクセレーションと呼ばれます。)
ふくらはぎにある下腿三頭筋が歩行速度を加速させる為に重要です。リハビリでも、歩行速度を上げるために足関節を底背屈させ、下腿三頭筋の筋トレを行っている場面を良く目にします。
しかし、ただ単に足首を底背屈させていても効果は少ないと思います。なぜなら足関節底背屈運動では求心性の収縮のみしか使わないからです。
このフォアフットロッカーのメカニズムを理解していれば、歩行速度を上げるためには、下腿三頭筋を遠心性収縮させるトレーニングしないと効果が薄いことに気付くはずです。

歩行速度を上げることに特化した、リハビリで行われる下腿三頭筋のトレーニングはこちら、ふくらはぎを鍛えてキビキビ動く、軽い体になる!リハビリの現場で行う効果的な下腿三頭筋の筋トレ3種に詳しく紹介しています。
遊脚相(Swig)
足が地面から離れていて、足が前に運ばれる時期のことです。イニシャルスイング(Initial Swing=ISと略される)から始まり、足が地面から離れたときから遊脚相が始まります。
臨床では”スイング”と呼ばれます。遊脚相は3つの相に分類されます。
スムーズな歩行をするうえで、遊脚相全てを通して最も大切なのは、
- 荷重が反対側の足に完全に乗って、安定していること
- 充分なクリアランスを保っていること
です。
よって、遊脚相に問題がある方、すなわち、
- 足先を引きずる様な歩行(クリアランスの低下)をしている
- つまずくことが多い
方は、反対側の立脚相に問題があることが大変多いです。意外と見落としがちなところですので、ぜひ一度チェックしてみて下さい。
プレスイング(Pre-swing=PSw)

プレスイング(PSw)では、立脚期で足に乗っていた体重が急激に抜けていきます。
写真では足先が地面に付いていますが、軽く地面に当たっていると言った方が良い程度にしか体重は乗っていません。
プレスイングは実質は足が地面に一応着いているため、立脚相ではないかとも言われたりもしますが、今のところ、荷重を抜く遊脚相の準備の相ということでプレスイングと名付けられています。
この相で最も大事なのは、今まで立脚相で足に乗っていた荷重を、いかに素早く抜けるか(抜重できるか)です。
PSwが出現するかどうかは、その前の相”Tst”にかかっている
Tstでしっかり股関節を伸展させることができていれば、PSwは自然とできている方が多いです。
Tstでしっかり荷重をぐっと足に乗せることができれば、自然とPSwで上手に荷重を抜くことができます。
ここにも、あるメカニズムがあるのですが・・・少し本題と逸れるので、今回は割愛させて頂きます。
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イニシャルスイング(Initial Swing=ISw)

イニシャルスイング(ISw)では足が初めて地面より離れ、骨盤より後方に来ます。
その時に足関節は遠心力によって底屈方向に振られますが、それを制御するように、長母指伸筋と長指伸筋、前脛骨筋などの背屈筋群が働きます。
この層から遊脚相で大切な、足関節の背屈が出現し始めます。
遊脚相で大切なクリアランスに大きく影響を与える要素は「足関節の背屈」?
足関節の背屈に問題が無くても、このイニシャルスイングで膝関節が屈曲してこない方は、充分なクリアランスが得られず、つまずきやすくなります。
クリアランスが低下していると足関節ばかりアプローチするセラピストを良く見かけますが、見方を少し変えて、膝関節にアプローチして少し曲がるようになるだけでも、クリアランスは大きく変わってきます。
ミッドスイング(Mid Swing=MSw)

ミッドスイング(MSw)では足関節が地面に水平に保たれます。
股関節は約25度屈曲します。
この時に充分に地面と床の間にクリアランス(およそ1㎝と言われています。)があることが必要です。
ターミナルスイング(Terminal Swing=TSw)

振り子の原理で足が前に振りだされ、膝関節が完全伸展し、足関節が軽度背屈しICの踵接地の準備となる相がターミナルスイング(TSw)です。
この時期に膝関節が前に振り出されるのを制動するため、ハムストリングスが重要な役割を持ちます。
また足関節も背屈するため、この時期では前脛骨筋も活発に活動します。
ターミナルスイングでは、足を振りだした時の遠心力が歩行中最大となるため、上述の筋肉は主にその遠心力の制御のために活動します。
ターミナルスイングがきれいに出現する方は、かなり正常歩行に近い歩行動作ができていると考えられます。
多くの歩行障害がある方は、ターミナルスイングに至るまでの歩行周期のどこかでメカニズムが破綻しているため、最終的にターミナルスイングも正常に行えなくなっているケースが非常に多いです。
まとめ
理学療法士としての歩行に関する知識を、歩行周期と歩行メカニズムを中心にご紹介しました。今回の内容は基礎的なことで、歩行のメカニズムはこれだけでありません。
もっとたくさんの要素が重なって、正常歩行が成立しています。
日常生活で何気なしに人は歩きます。
でも、どこかの関節や筋肉の機能が少し破綻するだけで効率の良い歩行動作は簡単にできなくなってしまいます。
当たり前のことだと思っている、歩行するという活動が、実は奇跡のように素晴らしい仕組みの上に成り立っていることが少しでも感じて頂けたらと思います。
当ブログから転倒予防の書籍を出版しています。良ければ参考にして下さい。
当ブログから出版!書籍「100歳まで元気でいるための歩き方&杖の使い方」
<参考文献>
>>次の記事は”歩行速度にも影響する、ふくらはぎの筋肉・下腿三頭筋の効果的な鍛え方”です。