
背中が丸くなっている人がいます。比較的高齢者に多い姿勢ですが、医学的には「円背(エンパイ)」や「亀背(キハイ)」と呼ばれます。背中が丸くなってしまう現象はなぜ起こるのでしょうか?
また、どのように対処すれば良いのでしょうか?
理学療法士の視点で円背を正しく理解し、総合的にアプローチ・改善する方法を解説していきます。
円背とは
円背とは、脊椎弯曲症の一種であり、上の写真のような姿勢のことを言います。
一般的には、
- 「猫背(ネコゼ)」
- 「亀背(キハイ)」
と呼ばれることもあります。
何らかの原因で、脊柱が変形してしまい、本来は緩やかに腹部(前方)に凸している状態である脊柱(背骨)が、後方に凸してしまっている状態のことを指します。
円背の原因

上のイラストのように脊椎という骨が一つ一つ積み重なって脊柱(背骨)が形成されています。
通常この脊柱(背骨)は、人が立った姿勢を取る時、体重による衝撃を分散させるため、スプリングの様に「S字のカーブ」を描いています。

正常な脊柱は、
- 腰椎は前弯
- 胸椎は後弯
- 頸椎は前弯
することでスプリング形状を維持し、衝撃吸収と機能的な体の動きを支えています。この構造が何らかの異常で崩れてしまい、見た目に背中が丸まっている様に見える状態になると円背と呼ばれる状態になります。
様々な原因がありますが、大きく分けて、
- 構築性
- 機能的
なものと二種類に分かれます。
構築性の問題による円背
まずは構築性の円背の原因について。主なものとしては以下の項目になります。
- 二分脊椎など、生まれつきの脊椎の変形
- 脊椎椎体圧迫骨折
- 老化による脊椎椎体の摩耗による変形
- 骨粗鬆症による椎体の圧壊・変形
- 加齢による椎体の変形
- 化膿性脊椎炎、脊椎カリエス、骨形成不全症etc
機能的な問題による円背
一方、筋肉や関節性の原因のものに起因する円背は、機能的な問題による円背に分類されます。
- 加齢に伴う筋力低下および筋肉の短縮
- 慢性的な筋緊張の異常によるもの
- 膝関節・股関節変形症により膝・股関節が完全に伸びないことによる代償としての円背姿勢
円背の体や動作への影響(円背の症状)
円背の症状は幅広く、日常生活に様々な影響を与えます。以下にその詳細を挙げます。
体への影響
円背になることによって、下記のように全身へ影響が出てきます。
見た目に老けてみられる


図のように、高齢者には独特の姿勢があり、多くの人がイメージする高齢者の姿勢は円背が多いです。
よって、円背になっていると、見た目に老けて見られることがあります。
女性は特に美容面からも円背を気にされている方が多いですよね。
疲れやすい
円背になると、胸の部分(胸郭)が縮こまり、面積が狭くなってしまいます。
そうすると、息を吸う際に胸郭の動きが妨げられ、呼吸循環器系統の効率の悪化により、すぐに息切したり、疲れやすいと感じやすくなります。
背中・腰に痛みが出る
姿勢の異常による局部的な筋肉の過使用によって、背中周囲の筋肉に痛みがあることがあります。
痛みの種類は鈍痛です。
背中がだるい、重いといった症状が出現します。
姿勢への影響

円背によって影響を受けるのは背中だけではありません。円背のある方が立位を取ると上記のような姿勢になります。
この姿勢では、
- 頭頸部 伸展
- 股関節 屈曲
- 膝関節 軽度屈曲
- 足関節 背屈位
になっています。
この姿勢を続けていると、二次的に、
- 頭頸部伸展位による慢性的な肩・首こり
- 股関節屈曲位によって、ももうらの筋肉(ハムストリングス)の短縮
- 股関節を屈曲させる筋肉(大腿直筋・腸腰筋)の短縮
- 足関節を日常生活で使えないことによるふくらはぎ(下腿三頭筋)の筋力低下および短縮
などが起こります。
動作への影響
私達療法士は、リハビリを行う時に、円背によって動作にどの様に影響が出ているか、主に下記の点をチェックしています。
歩行効率の低下
円背の方は、歩行では踵から接地することが難しくなるため、
- 歩行速度の低下
- 足が上がらない
- つまずきやすい
などの症状が出てきます。円背になると、物理的に、立った状態で足が上がらなくなります。


歩行中も大変足が上がりにくく、つまずいて転倒もしやすくなります。
参考)転倒しにくい歩き方について簡単にわかる!転倒予防のために効果的な歩き方
これらの状態がなぜ発生するのか、詳しくは歩行のメカニズムが関係しています。
「リハビリにおける歩行の全てを専門家が解説します!(歩行周期・歩行のメカニズム・歩行観察・歩行に必要な筋肉について)」
転倒しやすくなる(立位バランス能力の低下)
脊柱は骨盤と連結しているため、骨盤の位置と角度にも大きな影響を与えます。
円背の方は立っている時に骨盤が後ろにずれやすいため、尻もちをつくような形で後方に倒れやすくなります。骨粗鬆症の方で尻もちをついて転倒すると、脊柱圧迫骨折のリスクが非常に高くなります。
立ち上がりにくくなる
椅子から立ち上がる時に、人は無意識に体を前に倒して立ち上がり動作を行います。この時に自然に脊柱を彎曲させています。
しかし、脊柱に問題がある円背患者の場合、脊柱を機能的に彎曲させることが困難なため、股関節を屈曲させる筋肉に大きな負担が掛かるようになります。より大きな力を使わないと立ち上がり動作ができません。よって、筋力が低下している高齢者の場合、円背が原因で立ち上がりにくいと感じることがあります。
肩が上がらなくなる
円背になると、両方の肩甲骨が重力によって外へ流れてしまう(肩甲骨外転位になる)ので、肩を上げる(肩関節屈曲)可動域が低下します。
90度付近(地面と水平な位置)まで腕が上がる方は生活に大きな支障はありませんが、それでも 洗濯物を干す際に肩が上がらないことによって、無理に体をのけ反らせて後方に転倒しやすくなり、転倒の危険性にも繋がります。
円背は治る?
構築性の円背は上記の様に、脊椎の骨が変形して起こるものなので、簡単に治るものではありません。
私達理学療法士は姿勢や動作の専門家ですが、リハビリを行うにあたって、何を重視して治療しているかというと、「何が原因でそうなっているか?」を常に考えながらリハビリを行っています。
「原因にアプローチする」
これはリハビリだけでなく、医療の基本です。医療従事者とは「医学的知識を元にして、痛みや疾患の原因を探ることができる者」だと思って下さい。
なので、原因を探ろうともせず、皆画一的な治療を行う自称医療従事者には注意した方が良いです。
円背も人それぞれ様々な原因があり、みなさんが普段取っている姿勢が、その人にとっては無理のない自然な姿勢です。原因ごとに対処方法が違うので「みんなこうすれば治る!」と言う画一的な治療法はありません。
円背の原因が、構築学的な骨の変形なら、外から私達が触ったり、運動したりすることで完全に治すことは出来ません。その場合、手術をして(椎体形成術など)骨の構造自体に手を加えるか、装具で体を固定してしまって、それ以上骨が変形しない様にする保存療法しか選択肢はありません。
しかし、脊椎や股関節、膝関節の骨に顕著な変形がなく、筋肉が弱って姿勢が崩れ、見た目だけ円背(猫背)になっている機能的な問題が原因なのであれば、体操やストレッチによって改善する見込みはあります。
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あなたの円背が運動で改善するか見分ける、簡単な方法(円背チェック)
下の写真のように、上向きに寝転がって、背中(胸椎)がぴったり地面に着く様であれば、運動とストレッチによって円背が改善する見込みがあります。

寝転んで背中が真っ直ぐ伸びる場合は、立位を取った時に体が重力により潰れて見かけだけ円背になっている可能性が高いです。
しかし、股関節や膝関節の骨に変形があり、どちらかが完全に伸びない方は、寝ころんだ時に背中は伸びますが、立った時に円背になってしまうはずです。
これは姿勢を制御する時に必要なメカニズムなので、以下にご紹介する方法で円背を改善させることは難しいです。まずは、股関節と膝関節の可動域改善のリハビリを優先させるべきでしょう。
下の写真のように寝転がった時に背中が浮いてしまう場合は骨などに異常がある場合が多いです。
よって、ストレッチや運動では改善は困難です。

脊椎に変形があって円背になっている方で、症状が固定している場合は、立っていても寝転んでも背中が曲がったままになります。
これは、慢性的な円背の方や高齢の方に多いです。
昔に尻もちをついたり、階段から落ちたりして腰がすごく痛かったけど、安静にしていれば治ると思って病院を受診しなかった、という患者さんは結構多いです。そのときに気付かずに脊柱椎体の圧迫骨折をしていて、脊柱が変形してしまっているケースは臨床でも頻繁に見られます。
円背を治す!リハビリトレーニング
現在円背になっている方は、慢性的に丸まっている腰を伸ばすストレッチを行った後に、立った時にお腹が潰れてしまって腰が丸まるのを防ぐ体幹のトレーニングを行い、支持性・固定性を上げていきます。
STEP1.ストレッチ
まずは凝り固まった背中、股関節周囲の筋肉をストレッチで伸ばし、立った時に背中が伸ばせる状態を作りましょう。各姿勢で10秒~20秒、心地よい伸張感を感じながら実施して下さい。
背中(広背筋・脊柱起立筋)のストレッチ
こわばった背中をしっかり伸ばします。 体幹後面は広背筋、脊柱起立筋を主にストレッチします。

四つ這い位から両手を大きく前方に伸ばし、腰を反らせます。20秒程度背中に程よい伸長感を感じながらストレッチします。
息をゆっくりと吐きながら伸ばすとより効果的です。
このストレッチでは、
- 広背筋
- 脊柱起立筋群
が縦方向にストレッチされます。
また、下の写真のように、床に座って体幹を回旋させるストレッチも同時に行っておくとより背中の筋肉がほぐれます。

今度は体幹後部を横方向にストレッチします。
注)脊椎の圧迫骨折や脊椎に変形がある方は行わないで下さい。腰痛がある場合も急にストレッチを行うと悪化する場合もあるので充分注意して下さい。
大胸筋のストレッチ
壁に片方の手を肘まで着いて、身体を前に出していきます。部屋の入り口のドアや廊下の曲がり角で行います。必ず壁に着いている腕を固定して胸にストレッチを掛けていきます。(肘から先の腕を壁に引っかける感覚です。)
円背姿勢では背中が丸くなるため、前側の大胸筋もちぢこまりがちです。背中のストレッチを行った後に、しっかりと体の反対側の胸も伸ばしておくと、より体を真っ直ぐに伸ばしやすくなります。
肩に痛みがある方は痛みが出ない範囲で注意して行って下さい。
股関節周囲のストレッチ
以下の3つの筋肉のストレッチをすることで、脊柱の土台となる骨盤の位置が整い、背中をまっすぐ伸ばしやすくなります。
股関節インナー(腸腰筋)のストレッチ
まずバスタオルを丸めたものを用意します。なくてもできますが、効果は落ちます。上向きに寝転がって、骨盤のやや上、腰のあたりにバスタオルを入れ、、曲げた片方の足を両手で押さえて下さい。反対側の足の腸腰筋がストレッチされます。

別パターンとしてベッドから足を垂らすことで腸腰筋をストレッチする方法もあります。
上述の方法よりもこちらの方がストレッチされやいですが、ご自宅にベッドがない場合は、上記の腸腰筋ストレッチ①を実施して下さい。

もも(大腿直筋)のストレッチ
柱や壁に手を付き、支持してから、片足立ちになります。その後、壁を支持していない方の手で足を持ちます。そのまま手を使って足を深く曲げます。
伸張感が少ない場合は、さらに手でぐっと上に足を持ち上げる様にして下さい。
もも裏(ハムストリングス)のストレッチ
座って片足を伸ばし、そちらの方向に体を倒していき、手で足首らへんを触るようにします。
STEP2.円背改善 筋力トレーニング
体幹筋群・腹筋群を鍛えて、立った時に重力によって体幹が潰れてしまうのを防ぎます。
ドローイン
背臥位で寝て、息を吐きながらお腹をへこませます。
- 腹直筋(おなか前面)
- 腹斜筋(脇腹)
を意識して動かす練習です。
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クランチ(腹筋運動)
いわゆる腹筋運動です。
背臥位で寝て首を曲げ、おへそを見るように首を曲げていきます。主に腹直筋が鍛えられます。息を止めて行うと血圧が上がるので、できるだけ息を吐きながら首を持ち上げるようにするか、回数を自分で声に出して数えながら行うと血圧への影響が少ないです。
バックブリッジ(お尻上げ)
いわゆるお尻上げです。背臥位で寝てお尻を上げ下げします。
主に大殿筋が鍛えられます。
大殿筋は、立った時に体幹と足との連結を支える非常に重要な筋肉で、姿勢に大きく影響を与えます。歩行能力にも当然大きく影響するので、しっかりと鍛えておくと良いと思います。
フロントブリッジ
腹臥位で寝て、肘を立てて体を地面から浮かせます。見た目以上に負荷が高いです。主に体幹前面の筋肉が全般的に鍛えられます。
姿勢を保つための抗重力筋を等尺性に鍛えることができるので、姿勢矯正効果が絶大です。
主に体幹筋を鍛えるこれらのトレーニングを行うことで、重力に抗して体を伸ばした姿勢を維持しやすくなります。他のより詳しい体幹トレーニングの方法が知りたい方は、「リハビリに使える!コア(体幹筋)トレーニングの方法と効果を解説」をご参照ください。
市販の円背解消ストレッチグッズ
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市販のものでなにか良いものがあるか少し調べてみたのですが、これ気持ちよさそうですね。座椅子に座ったまま背中のストレッチができるという商品です。他のものは背中に当たる部分が固そうなものが多かったですが、これは柔らかいです。
これなら普段からリビングに置いておいて、気軽に思い付いたときに背中をストレッチできますね。
まとめ
円背は、背中の筋肉だけでなく、全身のバランスの問題です。全ての人体の器官は影響し合っています。
- 脊柱(脊椎)
- 股関節
- 膝関節
- 足関節
なども大きく影響しています。
まずは治せそうなものなのかどうか判別し、治りそうであれば背中だけでなく、全身を整えるようにアプローチする必要があります。上記の方法であれば、全身を整えながら円背を改善することができます。ぜひ一度お試し下さい。
>>次の記事は、「体温調節の仕組みを理解して行う、冷え性に効果的な運動!」です。