
リハビリの現場で冷え性の患者さんに「足が冷たいけど、どうしたら良いですか?」とよく聞かれます。そこで今回は冷え性に効果的な運動についてご紹介します。人体の体温調節のメカニズムみを知って、根本的な冷え性改善の参考にして下さい。
冷え性の実態・・「運動」こそが冷え性を根本的に改善する
寒い時期になると多くの方が悩まされるのが、冷え性による手足の冷たさです。特に筋肉量が少ない女性は、冷え性に悩まされやすい傾向があります。
養命酒製造株式会社の20代~59歳の女性1000人に実施したアンケート結果では、約78%の女性が手足の冷えを感じることがあると回答したそうです。
また、冷えを辛く感じるシーンでは、
- 就寝時 89.3%
- 炊事・洗濯 87.2%
- 電車・バス待ち 82.4%
が多く、就寝時に冷えで悩んでいる女性のことを「眠れな姫」と言うそうです。
冷え性の方のうち、なんと93%の人が「寝不足である」と答え、
- なかなか寝付けない、
- 朝まで眠れない(途中で冷えにより目が覚める)
- 朝まで一睡もできないことがある
などの症状があるそうです。すっきり眠れないと翌日に疲れが残って辛いですよね。
ちなみに、抱き枕となって温めて欲しい芸能人のアンケート結果もあり、
- 1位 向井 理さん
- 2位 福山 雅治さん
ということです。面白いアンケートですね。
冷え性対策として行っていることは、
- 体を温める飲料を飲むこと 約40%
- ネックウォーマーやひざ掛け、腹巻、ババシャツ、毛糸のパンツ、靴下の重ね履きなどの防寒対策を施している 多数
とのことです。
ウォーキングなどの運動を行っていると答えた方は10%以下です。おそらく冷え性対策として手軽なものから試していく方が多いのでしょう。
しかし、みなさんの多くが行っている重ね着などの防寒対策や、温かい飲料を飲むだけではその場しのぎにしかならず、根本的に冷え性は改善しません。
人体の体温調節のメカニズムを理解すると、運動こそが、根本的に冷え性を改善する有効な手段だという事が分かります。
そこで、ここでは、人体の体温調節のメカニズムについて触れ、それを理解して頂いたうえで冷え性に手軽で効果的な運動方法をご紹介していきます。
一定に保たれる生物の体温
夏、熱いと顔が赤くなって、汗がたくさん出ますよね。
逆に冬は寒くて体がガタガタ震えて、顔が青くなります。
実はこれらは全て、体内で生産される熱と周囲へ放散される熱を一致させようと行われる、生物としての生理的反応です。
生物の熱の産生はどこで行われるか?
肝臓と骨格筋による物質代謝に伴う化学反応によって熱の産生は起きています。そして、この熱は、血液循環によって全身に伝えられます。
冷え性の人は手足の末梢が冷たくなりますが、血液が末端まで十分に循環していないと、熱が伝えられず、冷たくなってしまうのです。
冷え性の原因である熱の喪失はどこから起こるか?
逆に熱が喪失して冷たくなるのはなぜでしょうか。
熱の喪失は血管からの、
- 放射
- 対流
- 伝導
という作用で起こります。伝導は普段の生活であまり起こりませんが、プールに入ってるときが水に体温が伝導して奪われている状態です。
この他にも、尿、便、呼気からも僅かですが熱の喪失があります。おしっこする時に身震いするのもこの熱喪失による生理的反応です。
これらは受動的熱喪失と呼ばれます。
積極的熱喪失では、
- 蒸発
があります。発汗による水の蒸発で、約580cal/gの熱が放散されます。ちなみに汗は運動した時だけでなく、感情的に高ぶった時にも発生します。
気温が高い夏などでは熱喪失の実に90%以上がこの発汗によって行われます。
発汗は汗腺から行われ、口唇部と爪床とを除いて全身に分布しています。特に会議などで精神的に緊張すると汗が流れる、腋下、手掌部、足底部に多く分布しており、額にもかなり多く分布しています。
汗腺はアポクリン腺とエクリン腺に分かれ、アポクリン腺は腋下、外陰部、肛門部周辺に分布し、後者は全身に分布します。
運動や発熱による発汗はエクリン腺による分泌物です。
汗の成分の98%が水で、その他の構成要素は食塩0.3%、乳酸0.07%、尿素0.03%、ごく微量のアンモニアを含んでいます。
どうやって体温を感知し、調節するのか?(自律神経の機序)
体温調節メカニズムの中枢は脳の視床下部にあります。前視床下部に熱に敏感なニューロンがあり、刺激されると熱の放散が起こります。これを温熱中枢と言います。
後視床下部には末梢の冷感受容器から脊髄を介して入力を受けます。これを寒冷中枢と言います。
温熱中枢への有効な刺激は、
- 皮膚の温度受容器への刺激
- 血液温度変化による視床下部ニューロンの刺激
です。
要するに、体のどこか一部を温めてても、全身をじんわりと暖めても、汗が出るようになっている、ということです。
社会生活を送る人間は、この生理的な自律神経による温度調節の機序よりも、服を着たり、脱いだり、水を飲んだりして行動による対応が重視されています。
運動による体温調節への影響
人体が運動した時の機械的な効率は25%以下と言われており、発生するエネルギーの75%以上が熱となります。
(ちなみに最新の太陽電池がエネルギー効率25%程度です。)
運動をすると中心である核心温度が上昇します。
そうすると体内の酵素の活性化と結合組織(筋・腱など)の柔軟性が向上し、運動が一層行いやすくなります。いわゆる準備運動の段階ですね。
それを超えると核心温度と皮膚温度の上昇に連れて発汗が促されます。
しかし、皮膚温度の上昇はわずかでも、核心温度が上昇すると発汗作用が起きるため、核心温度によって発汗が促されるとする説が有力です。
熱の制御ができなくなると、機械で言うオーバーヒートの様な状態になり、
- 熱痙攣:筋肉に起こる痙攣で、脱水と塩分欠乏が影響する。
- 熱ばて:弱くて速い脈拍、血圧低下、失神、虚脱、大量の発汗を特徴とする。脱水作用によって起る。
- 熱射病:体温中枢の障害を伴い、頭痛、めまい、体温上昇、意識障害、熱く乾いた皮膚などの特徴があります。
などの症状が現れます。
冷え性にはどう対策すると良いか?
上述の体温調節のメカニズムを考慮すると、
- 手足などの末梢が冷えやすい
- 血流が悪いと冷えやすい
- 運動(骨格筋による熱生産)が行われないと冷えやすい
- 冷たいモノに触れていると冷えやすい(熱伝導)
と言えます。
よって、その対処方法は、
- 手袋、靴下などで末梢を保温する。同時に核心温度が下がらないように、首などの露出しやすい部分も保温する。
- 血流を良くするように特に循環が滞りやすい末梢部のマッサージ、運動を行う。
- 冷たい床などに長時間触れている場合はスリッパ・靴などを履き、熱伝導を遮る。
です。
しかし、これだけだと当たり前過ぎるので、運動の専門家として、冷え性に効果的な運動をお伝えします。
冷え性を根本から治す 冷え性改善運動
体温を上げる運動を効率よく行うには、要は如何に大きな筋肉あるいはたくさんの筋肉を効率良く大きく動かすか、です。
ステップ1「末梢循環改善 足趾・手指屈伸運動」
座った状態で足の指を曲げたり伸ばしたりして下さい。手の指はグーパーを繰り返して下さい。
最も末梢である足趾・手指の血流増大を図ります。
ステップ2「下腿部の熱生産 踵上げ運動」
立った状態で踵を上げたり、下げたりします。できるだけ素早く大きい運動を心掛けて下さい。ふくらはぎの筋肉は下腿三頭筋という大きな筋肉で、収縮力もかなり強いため、熱産生が多いです。
座ってやると体重が足に乗らないので筋肉の収縮力が激減します。立って行う方がより効率が良いです。
ステップ3「大腿部の熱生産 スクワット」
スクワットをします。
スクワットで主に鍛えられる大腿四頭筋、大殿筋は人体の中でも大きく、収縮力の強い筋肉です。これをしっかり収縮させるとかなりの熱が産生されるはずです。
少し速度をあげてスクワットすると、心拍数も上がり、全身運動になるため、より効率的に熱生産が行われます。
ステップ4「上半身の熱生産 肩甲骨回し」
座って両肘を曲げて肩の高さに上げます。肘先で円を描くようにくるくる回して下さい。
この状態で動かすと肩甲骨が効率的に動きます。
肩甲骨には17個も筋肉が付着しているので、肩甲骨を動かすことでたくさんの筋肉が動かされます。結果たくさんの熱が生産されるはずです。
やってみると分かりますが、本当に体がポカポカしますよ。
まとめ
人体の生理的反応として、
暑いときは、
- 発汗:蒸散による皮膚からの熱放出を増やす。
- 血管拡張:毛細血管が拡張し、顔が赤くなる。
寒いときには、
- 発汗の減少:皮膚からの喪失を防ぐ。
- 代謝の亢進:特に熱生産に関わる肝臓の機能亢進。
- 血管収縮:毛細血管からの熱の喪失を防ぐために血管は収縮する。=顔が青くなる、血圧が上昇する。
- 震え:不随意(意識しない運動)の筋収縮によって熱生産を増やす。
が起こり、適切に体温を調整しています。
全て生物が自身の体を守るために働かせている防衛反応で、ちゃんと意味があるのですね。
冷え性の人は、血流改善と筋肉を収縮させる運動が冷え性対策に有効ですので、ご紹介した運動をぜひ試してみて下さいね。