
前脛骨筋は足関節を背屈させる筋肉で、日常生活でバランスを保ったり、歩行において大きな役割を果たします。
臨床では脳卒中などで前脛骨筋に麻痺が出ることも多いです。前脛骨筋のトレーニング方法って”足先を上げるだけ”だと思っていませんか?
そんなことはありません。臨床で使える前脛骨筋のトレーニング方法を3種類ご紹介します。ぜひ参考にして下さい。
前脛骨筋の解剖

・起始:脛骨の外側面上部2/3、下腿骨間膜、下腿筋膜の最上部
・停止:内側楔状骨の内側面と足底面、第1中足骨底
・支配神経:深腓骨神経(L4、L5)
・栄養血管:前脛骨動脈
・作用:①距腿関節(上跳躍関節):背屈②距骨下関節と距踵舟関節(下跳躍関節):内反(回外)
前脛骨筋が障害されることにより出現する異常歩行
前脛骨筋は歩行中に足先を挙げてつまずきにくくする役割をしたり、ロッカーファンクションに大きく影響を与え、効率的な歩行をサポートする重要な役割をしています。

”ロッカーファンクションと前脛骨筋の関係”はこちらの記事に詳しく記載しています。専門家は”歩行”をどのように見ているか?理学療法士の歩行の知識 まとめ
前脛骨筋が障害されると、足関節の背屈が困難となることで歩行障害が出現します。以下に挙げる歩行障害がある方に前脛骨筋トレーニングをすると効果的です。
下垂足による鶏歩


前脛骨筋が機能しないと、「下垂足」と言って、足が垂れたようになります。
歩行時には遊脚相でクリアランスを得ることができないため、より股関節を深く屈曲させて歩く「鶏歩」になります。
フットスラップ
歩行中に踵を着いた後、前脛骨筋による足関節の背屈が維持できないために、”パタン”と足先が地面に音を立てて着いてしまいます。この現象を”フットスラップ”と呼びます。
ロッカーファンクションが上手に機能しないため、歩行速度の低下、易疲労が症状として出現します。
分回し歩行

前脛骨筋が機能しないと、足関節は「鶏歩」のように歩行中も底屈位のままになります。
さらに、
- 立脚後期(Tst)が出現しない
- 股関節屈曲筋群の筋力低下が顕著
これらの条件がある脳卒中後遺症のある患者さんは、鶏歩にならず、いわゆる「分回し歩行」となる傾向があります。
分回し歩行の要件挙げるととほかにもありますが、前脛骨筋のトレーニングをすることで分回し歩行がある程度改善することもあります。(もちろん他の部分にもアプローチは必要です。)
分回し歩行の原因と改善方法についてはこちらに詳しく書いています。
脳卒中片麻痺の歩行「分回し歩行」の原因とリハビリによる改善方法
前脛骨筋トレーニング 3種類
前脛骨筋を鍛える運動をご紹介して行きます。
前脛骨筋トレーニングの前の準備運動
これらのトレーニングを始める前にできれば行っておいて欲しいことがあります。
それは、拮抗筋である下腿三頭筋(ふくらはぎ)をしっかりと伸ばしておくことです。
つま先が上がりにくくなってある程度の期間が経過している方は、ほとんどの場合この下腿三頭筋が固くなり、柔軟性を失っています。
そうなると、つま先を上げる下にご紹介する運動を行う際に足関節が動きにくく、トレーニング効果が低下してしまいます。
下腿三頭筋のストレッチの方法については、
このような、俗に言う”アキレス腱伸ばし”が手軽に自身でできるストレッチの方法になります。
この肢位が取れない方は、ふくらはぎを運動前にしっかりと揉んでマッサージしておき、温めておくと良いと思います。
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①トゥーライズ

オーソドックスな前脛骨筋の足関節背屈運動です。足先を上げるだけ。
メリットは座位、立位、臥位、どんな肢位でも手軽に行えることです。
デメリットは、臨床においてはそもそも足関節背屈ができないから前脛骨筋を鍛えていることが多く、前脛骨筋の収縮が微弱な方は、トゥーライズ自体が上手くできないことが多いのです。
そういった方には、下記にご紹介する代償動作を利用した段差昇降運動、お尻突き出し運動を一度試してみて下さい。
②段差昇降

踏み台もしくは階段の前に、少し距離を取って立ち、そこから目いっぱい足首を上げる様に意識して、鍛えたい方の足を段差に乗せたり降ろしたりします。
一瞬ですが片脚立位になるので、立位が安定しない方は必ず手すりなどに掴まって行って下さい。回数をこなすと、前脛骨筋の筋力が弱い方は足先が段差にひっかかるようになるので、転倒に十分注意して下さい。
この状態で筋電図を計測したことがありますが、普通にトゥーライズをするよりも前脛骨筋が強く収縮します。できるだけゆっくり足を上げ下ろしすることで、より負荷が強くなります。
私は子どもの椅子を使って写真を撮りましたが、市販の段差昇降運動用の商品ではこのようなものもあります。
③お尻突き出し運動

こちらは自動運動で足関節背屈が行えない方にお勧めの前脛骨筋トレーニング「お尻突き出し運動」です。
立位で手すりなどに掴まり、足関節を背屈させるように意識しながら後方へお尻を突き出します。
触診して頂ければ分かりますが、普段自動運動で足関節を背屈することができない方でも、強めの前脛骨筋の収縮が得られます。
まとめ
代償動作も上手に使えば、筋収縮を促す手段として利用することができます。
以上の記事を参考に、前脛骨筋のワンパターントレーニングから脱して、より効果的なリハビリを行って下さい。
>>次の記事は「ふくらはぎを鍛えてキビキビ動く軽い体になる!下腿三頭筋のトレーニング3種類」です。