脳卒中片麻痺の「内反尖足」の原因とガイドラインに基づくリハビリと治療法

片麻痺 立位


脳卒中片麻痺の特徴的な症状として”筋緊張の異常”が挙げられます。

その中でも歩行や立位などの抗重力位での動作に大きな影響を与える、”内反尖足”について、その原因と治療方法について詳しくご紹介します。




脳卒中片麻痺の方は、筋肉の緊張が上手くコントロールできなくなるために、様々な症状が出現します。

「痙性」と呼ばれる症状で、一般的にすぐに筋肉が固くなってしまいます。「筋肉がこわばる」と表現される方も多いです。

具体的には、

  • 筋肉をタイミング良く使うことができない(動作が上手く行えない、遅れる、ぎこちない)
  • 筋緊張亢進に起因する疼痛
  • 関節拘縮

などの代表的な症状が出現しやすくなります。

 

その中でも比較的活動性の高い患者さんが悩まされることが多いのが内反尖足です。

内反尖足とは?

内反尖足

内反尖足とは、動作時になどに筋肉の緊張が強くなると、つま先が下を向いてしまう状態のことを言います。

正確には足が下を向くだけでけではなく、足関節の「内反(内がえし)」が合わせて出現します。

足が内反し、さらに下に向くため、見た目では足が尖って見えることから内反尖足と呼ばれます。

内反尖足の原因

原因は大きく分けて二つあります。

原因1.下腿三頭筋の筋緊張の亢進

下腿三頭筋
下腿三頭筋の筋緊張が高くなると、内反尖足が起きる。

一つの大きな原因は、下腿三頭筋というふくらはぎの筋肉の筋緊張が上が必要以上に上がってしまうためです。

 

下腿三頭筋は人の体を持ち上げることができる位非常に強力な筋肉で、背伸びをする時に主に使われる筋肉です。

収縮すると、足首を内反+底屈させる働きがあります。

健康な時は非常に大切で重要な筋肉なのですが、この筋肉の筋緊張が上手くコントロールできず、緊張が常に上がっている状態になってしまうと、強力な筋肉であるが故、途端に足首が下方向にピンと向いた状態になってしまいます。

これが内反尖足の1つの大きな原因となります。

原因2.下肢伸展パターンの出現

さらに脳卒中片麻痺の方は、特徴的な肢位(姿勢)を取りやすいことが知られています。

下肢 伸展パターン
右片麻痺のウェルニッケマン肢位

ウェルニッケマン肢位と呼ばれる姿勢です。

 

普段私達は適切な筋肉の緊張を保つために、無意識のうちに緊張を抑える神経細胞と、興奮させる神経細胞がバランスをとりながら均衡を保っています。

参照)筋緊張ってなに?痙性って?メカニズム、評価方法、筋緊張異常の治療方法を解説

 

脳卒中を発症すると、大脳の皮質核路という筋緊張の抑制を抑制する部位(ややこしい言い回しですが、この言い方が一番適しているのではないかと思います。)が障害され、筋緊張のコントロールが暴発しやすくなってしまいます。

 

くしゃみやあくびをすると、勝手に麻痺側の腕が急に動いてしまったりしませんか?

あの現象もまさしくこの筋肉の緊張の抑制が無意識に行えなくなっているために起こってしまう現象です。

(ちなみに私の知っている患者さんは、食事中にくしゃみをして、意思に反して星飛馬(のお父さん)なみのちゃぶ台返しをしてしまい、奥さんにこっぴどく怒られたそうです・・。なんともやるせない・・。)

 

その結果、上肢の筋肉は屈曲パターン、下肢の筋肉は伸展パターンを取りやすく、これが内反尖足を強める大きな要因となっています。

ウェルニッケマン肢位
上肢の屈曲パターン

内反尖足の何が問題か?

それでは、内反尖足が起きてしまうと、動作にどのような影響が出るのでしょうか?

なぜ困るのでしょうか?

 

まず、内反尖足では足裏の前面を地面に着けて動作をすることが難しくなるため、動作を行う時に、体の力を地面に効果的に伝えるために非常に大切な足底や足関節の機能が上手く使えなくなります。

問題1.バランスが著しく悪くなる

内反尖足 自身の目線
内反尖足を呈すると、地面に足裏全体を付けることが困難となる。

人が無意識にバランスを取る時に、股関節や足関節を柔軟に曲げたり伸ばしたりして、姿勢をコントロールしています。

それぞれ、股関節戦略、足関節戦略と呼ばれ、人体が立位を取って動作をしている時に姿勢制御の要となるものです。

参考) 姿勢制御の方法 股関節戦略・足関節戦略とは?

 

しかし内反尖足を呈している方は、この姿勢戦略のうち、足関節戦略(Ankle strategy)がほとんど使えません。

 

なので、麻痺側下肢に体重を乗せると、少し体を揺さぶられるだけで姿勢を制御できず、非常に恐怖感があり、転倒してしまう可能性が高くなります。著しくバランス能力が低下してしまうのです。

IMG_6165
内反尖足により足部が固いと、右麻痺側に体重を意図的に移すために足裏をしっかりと地面に付けると、このように骨盤が横に出過ぎてしまう。

内反尖足がある方は、ある程度足に筋力があっても、片脚立ちをほとんどできない方が多いです。これは、単純に筋力の問題ではなく、足関節戦略がほとんど使えないことも一因です。

問題2.歩行速度・歩行効率の低下(易疲労性)

歩行中、足が体よりも後ろに行っている時に、股関節は伸展されています。

この時に足関節は必ず背屈になっています。

ターミナルスタンス
歩行周期のうち、Tstでは股関節伸展、足関節背屈が出現する。

歩行中にしっかりと歩幅を取って、大股で歩くためには股関節の伸展が必ず必要となります。

しかし、内反尖足では、足首が背屈しないために、歩行中に股関節伸展させることができません。よって大股で歩くことができず、どうしても歩行速度は低下してしまいます。

 

さらに、普通は股関節伸展ができることによって、後ろに振られた足部が振り子の原理で前に振り出されるのですが、股関節伸展が出ないと、麻痺側の足を「よいしょ」と遠心力を使わず、筋肉の力で前に振りださなければなりません。

 

よって、長距離の歩行でどうしても疲れやすくなってしまいます。(易疲労性)

問題3.筋力が落ちやすくなる

片麻痺 立位
左片麻痺の場合、イラストの様に重心は右に偏移していることが大変多い。

上述の様に、内反尖足があると、足関節戦略を使えない恐怖感により、普段の生活でどうしても荷重(足に体重を乗せること)しにくくなってしまいます。

また、股関節伸展が制限され、歩行中に体重を乗せている期間もどうしても少なくなるため、足の筋肉を歩行中に使う機会も大きく減少します。

 

人の体は体重をぐっと足に乗せることで、無意識に筋肉を収縮させ、体を制御するようになっています。

しかし、内反尖足になっていると、きちんと荷重することができないため、筋力が低下しやすい状態になってしまいます。

そして、筋力が低下すると、余計に荷重した時に不安感があるため、さらに荷重を乗せない、という悪循環になってしまいます。

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脳卒中ガイドラインに基づく内反尖足の治療法

2013年時点で日本に123万5000人いると言われる脳卒中患者の治療において「エビデンス=科学的根拠」に基づいた医療を提供するため、日本脳卒中学会の中に脳卒中ガイドライン委員会を設け、脳卒中治療ガイドラインが2015年に作成されています。

いわば、医師や療法士、看護師がこの情報を閲覧し、脳卒中治療の「教科書」として参照するものが、この「脳卒中治療ガイドライン」です。

その中で、脳卒中の片麻痺の方の内反尖足や痙縮に対して言及している箇所があるので以下にご紹介します。

リハビリ 歩行障害の項目より

  1. 内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることが勧められる(グレードB)
  2. 痙縮による内反尖足が歩行や日常生活の妨げとなっている時に、ボツリヌス療法、5%フェノールでの脛骨神経または下腿筋への筋内神経ブロックを行うことが勧められる(グレードB)
  3. チザニジン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンナトリウム、 トルペリゾンの処方を考慮することが強く勧められる(グレードA)

リハビリ 痙縮の項目より

  1. 顕著な痙縮に対してはバクロフェンの髄注が勧められる(グレードB)
  2. 上下肢の痙縮に対しボツリヌス療法が強く勧められる(グレードA)
  3. フェノール、エチルアルコールによる運動点あるいは神経ブロックが 勧められる(グレードB)
  4. 痙縮に対して高頻度のTENSを施行することが勧められる(グレード B)
  5. 慢性期片麻痺患者の痙縮に対するストレッチ、可動域訓練が勧められ る(グレードB)

引用)日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン2015

※グレードAが一番確かな根拠があるということです。

 

少しややこしいのでまとめてみます。

 

痙縮あるいは内反尖足を改善するために、根拠が認められている治療を方法別にまとめると、

  1. 装具やストレッチ、TENSなどのリハビリ分野の処置

    ちなみに、TENSとは、

    TENSとは経皮から神経に低周波の電気を流し、その刺激によって痛みを和らげるというものです。

    TENSは病院などにおいて手術後のリハビリに使用されるほかスポーツ専門家などにおいても幅広く採用されています。

    引用)wikipedia

  2. チザニジン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンナトリウム、 トルペリゾンの処方などの筋弛緩剤系の内服薬の処方
  3. ボツリヌス療法、筋内神経ブロックなどの注射の処置

となります。

 

2.3に関しては主治医など専門医に相談し、必要性を判断してもらう必要があります。

1に関しては私達療法士の専門分野です。

 

 

これらの方法が、内反尖足を治療するために、2015年時点で確実に根拠のある正式な治療方法、ということになります。

どれも対処療法と言えるべきものばかりで、内反尖足の原因自体にアプローチでき、根源的に内反尖足を失くす確固とした方法は今のところない、と言えそうです。

 

私の知識で詳しくご紹介できる専門の範囲は、この中で、装具とストレッチの方法についてです。

以下にご紹介していきます。

下肢装具による内反尖足の治療

下肢装具は、痙縮が強い方には、

両側金属支柱付き短下肢装具 DUAFO

このような装具が処方される場合が多いです。両側金属支柱付き短下肢装具(DUAFO)と呼ばれるものです。足首を金属製の支柱で固定してしまうことで足首が内反しないように矯正するものです。

この装具は足首の角度を足継手で任意の角度に設定でき、これを装着している間は内反尖足がかなり抑えられます。

歩行中に股関節の伸展もかなり出やすくなるし、体重を乗せる恐怖感もかなり抑えられる場合が多いです。

 

比較的軽度の痙縮の方には、

PAFO

プラスチック型のこのような装具が処方されます。

プラスチック製短下肢装具(PAFO)または、シューホーンと呼ばれます。

痙縮が強い方は、この装具を使用しても、プラスチックを押し曲げて足首が内反してしまうので、あまり効果がありません。あくまでプラスチックで抑えられる程度の痙縮の強さの方に向いています。プラスチックの強度は厚みを変えることである程度操作できます。

 

装具処方の方法や価格、他の種類などは別記事に詳しくまとめていますのでそちらをご参照ください。

参照)脳卒中片麻痺の下肢装具の種類・適応・価格など

 

ストレッチによる内反尖足の治療

内反尖足はストレッチを行い、下腿三頭筋を充分に伸ばしておくことで、ある程度緩和させることができます。

下腿三頭筋ストレッチ

みなさん良くご存じの「アキレス腱伸ばし」が自分でできるストレッチの方法になります。

体の後ろに伸ばした足の膝を伸ばして、体重を乗せるようにすることで下腿三頭筋が効果的にストレッチされます。

 

しかし、実際のところ、運動麻痺がある方がこの肢位をとること自体が難しい場合も多いです。

 

なので、

私は臨床で内反尖足が原因で著しく動作が制限されている方に、色々な方法を試させて頂いた経験があります。

 

これらの方法は、エビデンスもなく、正式な治療法ではないですが、参考までに試した内反尖足緩和の方法と結果を以下にご紹介します。

テーピング

足首が内反尖足にならないように、テーピングで足首を固定して歩行・立位練習等を行ったことがあります。

痙縮が強い方の場合、テーピング程度の固定力では内反を抑えることができず、効果はイマイチでした。

 

しかし、プラスチック装具を使用されている方で、装具の固定性が弱すぎる方に、さらに補強する形でテーピングで足首を固定すると若干効果がありました。

もちろん、毎回テーピングを巻くのは患者さんにとっても手間ですし、時間が掛かりすぎるので、その後装具を少し強いものに作り変えることでテーピングを使わなくても良いようにリハビリを進めました。

機能的電気刺激(FES)

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OG技研「IVES」

機能的電気刺激とは、筋肉に電気刺激を与えることで強制的に収縮させ、リハビリを行う機械です。

この「IVEs」という機械をメーカーさんにお借りし、前脛骨筋(下腿三頭筋と逆の働きをする足先を上げる筋肉です。)に通電し、拮抗筋による相反抑制により下腿三頭筋の筋緊張の抑制を促しました。

 

結果、2か月程度毎日のように使って、少し下腿三頭筋の筋緊張の低下がありました。

その患者さんは2か月で退院してしまったので、その後持続的な効果があったのかどうかは分かりません。

 

正直、この機械はかなり高価なので、ただ単に内反尖足を抑制したい場合は、上述のストレッチボードを使用した方が費用対効果は良いです。(その患者さんは、リハビリ上、他にも前脛骨筋を鍛えたほうが良いためIVESを使用しました。)

足底板(インソール)

これもテーピングと同じで、装具と併用して試しました。

装具の固定性を上回って足首の内反が出てしまう方に、足裏の外側にクッションを縦に置くことで若干の内反抑制効果がありました。

 

テーピングや機能的電気刺激よりも費用対効果に優れているこの足底板ですが、クッションの素材(柔らかい物だとすぐにつぶれて効果がありませんし、固過ぎると足裏が痛くなります。)や置く位置をかなり慎重に検討する必要があり、技術的に簡単手軽に・・という訳に行かない所がネックです。

まとめ

内反尖足は著しく片麻痺の方の日常活動を抑制してしまうことが多いです。原因を知ることで治療法、あるいは対処方法がはっきりします。

内反尖足の原因を理解し、適切な対処が行えると良いですね。

 

また、昨今の医療業界では、「エビデンスに基づく医療を提供しよう」と声高に叫ばれています。

しかし、実際のところ、1つエビデンスのある治療方法を確立するまでに、信頼性の高い正確なデータが膨大に必要なため、治療法が豊富にあるとは言い難いのが現状です。

 

数少ないエビデンスがある治療法を試して、それで治らない場合、もうダメなのか?と思われる方も多いと思います。

私はそんな方に言いたいのですが、そんなことはありません。

 

あまりにも身体的にリスクが高い方法を試したり、お金儲けの匂いがプンプンするような胡散臭い治療法を試すのはどうかと思いますが、何とかならないかなと知恵を振り絞って試行錯誤することに関して私は大賛成です。

 

エビデンスのない治療法を行ってはいけないのではなく、エビデンスのある治療方法から試していき、それでもダメなら他の方法も試していくという、あくまで優先順位の問題と捉えておけば良いと思います。

 

私達療法士を含む医療従事者が一番大切にしなければならないのは、エビデンスではなく、”患者さんの想い”です。患者さんが治りたい!!と思っているならそれを受け止めて、どこまでもお付き合いするつもりで臨床に臨むべきであると思っています。

 

もし、何か試してみたいという方は、何かしらのリスクがある場合もあります。

私も多少は筋肉や運動学、リハビリの勉強をしているので、お気軽にご相談頂ければ、何かアドバイスができるかも知れません。

みなさまのご意見をお持ちしております。

 

>>次の記事は、リハビリ現場における障がい者の就職・復職事情「好きな仕事で働くことは最高のリハビリになる」

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1件のコメント

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