
今回は、リハビリで最もアプローチされることが多いと言っても過言ではない、大切な関節可動域制限についてです。主に、
- 制限因子
- 原因の種類
- エンドフィール
について詳しく記載しています。
「関節可動域制限」とはなにか?
「関節可動域制限」とは、体の各関節の他動・自動運動による生理的関節可動域が欠けている状態のことを指します。
リハビリ業界でよく使われる言葉、「ROM(アールオーエム)」は、”Renge Of Motion”の略で、関節可動域、または、関節可動域訓練のことを指します。
関節疾患や神経・筋の疾患が起これば、二次的に関節可動域に制限をきたします。
そして、関節可動域制限があると日常生活動作が著しく抑制されます。
リハビリにおいて、一定の基本的動作能力を回復するには、まずは「関節の可動性を得ること」が先決となります。
可動域制限の原因は、「拘縮の分類」から知ることができます。
「拘縮」とは一定の肢位に固定・一定の方向に運動が制限された状態のことです。
関節可動域制限の因子・原因について
関節可動域を制限する因子・原因は、
- 関節性
- 軟部組織性
- 筋性
に分かれます。
それぞれ見ていきましょう。
1.関節性の関節可動域制限
関節を取り囲む関節包や関節表面を円滑にし、弾力性に富む関節軟骨に炎症病変が起きれば、初期では膠原繊維(コラーゲン)の短縮を起こし、その後に結合組織の増殖が続き、関節可動域制限が生じます。
例えば、変形性膝関節症の患者さんでは、立位や歩行中の運動痛や荷重時痛を伴って不随意的に、疼痛を逃避するような肢位を取り続けてしまいます。
その結果、筋力低下や不均衡も伴い、膝関節や股関節に可動域制限をきたし、正座や立ち座りなどの動作が困難になります。
2.軟部組織性の関節可動域制限
軟部組織と筋に出血を伴った、
- 外傷
- 炎症
- 虚血
がある場合、膠原質(コラーゲン)が接合し、可動域制限を増大させる因子になります。
固定(ギプスなど)や不動の場合も、膠原繊維はゆ着してしまいます。
一定期間、負傷部位の安静のためにギブスなどで固定する整形疾患はたくさんあります。
足首の捻挫などがわかりやすいでしょうか。
分かりやすい例として、ギブスで固定する整形疾患のリハビリでは関節の拘縮・可動域制限が起きていることを念頭においてリハビリに取り組んでいく必要があります。
3.筋性の関節可動域制限
膠原質と筋原繊維を含む筋膜が著しく短縮すると、筋性の関節拘縮の状態になってしまいます。
筋性の関節可動域制限には2種類あり、
- 内因性
- 外因性
のものがあります。
内因性
脊髄損傷や脳卒中など中枢神経系疾患の例では、筋が短縮する過程において膠原質よりも骨質の沈着による異所性骨化が起き、可動域制限を招いてしまいます。
外因性
神経性病変による運動麻痺や多関節筋(ハムストリングス、股関節屈曲筋、大腿直筋、腓腹筋、大腿筋膜張筋)が不良肢位に置かれると、力学的因子により二次的に可動域制限が起きます。
深いⅡ度熱傷以上の治癒過程においては、皮膚性拘縮が起き関節可動域が制限を受けることもあります。
ほとんどの場合、関節可動域制限の因子は外因性です。
関節可動域制限の検査方法・評価方針
関節可動域制限の検査としてROM(Renge Of Motion)が有名ですが、その前にある程度目安を付けておくとスムーズです。
ROM実施前に以下のことを行い、ある程度の見込みを付けてから問題がありそうな箇所に焦点を絞って行いましょう。
効率的で、患者さんの負担も減らすことができます。
問診
以下の項目を問診します。
もちろん、問診だけで関節可動域制限が分かる訳が無いので、あくまで参考情報とします。
- いつから生活動作が困難になったか
- どんな生活動作において不自由と感じるか
- どの関節が、どんな時に痛むか
これらの問診項目は、ROMだけに限らず、リハビリを始めるうえで必須の項目なので、患者さんを担当することになったらすぐにでも集めておくべき情報です。
視診と触診
患者さんに問題のある動作・運動を行って頂き、観察と触診を行います。
具体的な手順としては以下になります。
- 関節可動域制限を疑わせる動作を抽出する
- 関節可動域制限がある関節の動きとそれに伴う代償運動を触診して見分ける
- 患者と検者ともにリラックスした姿勢・肢位・体位から検査に入る(患者の協力体制が必要)
- 検査部位は露出する
- 関節と周辺部に検者の手掌・手指を当て、硬さ・筋緊張・熱感・腫脹の状態を見る
運動による関節可動域制限の診察のコツ
その人の運動や動作を見るだけで、ある程度、関節可動域制限のありそうな関節を推測することができます。
いわば”スクリーニング”ですね。
動作中の観察のポイントは以下になります。
- 上下肢の個々の関節の生理的関節可動域内の病的可動域制限を自動・他動運動で比較してみる(可動域制限がない関節でその人の正常な可動域を確認し、比較する)
- 重力を除いた肢位で他動運動を行う
- 逃避的な運動が見られた場合、痛みの部位の限定、性質(自発痛・運動痛・放散痛・荷重時痛)を探る
- 他動運動を行う前の痛みと可動域制限は、関節周囲組織の活動性の病変を疑う
- 抵抗感と同時に痛みで制限を感じる場合は、関節包性の病変を疑う
- 痛みを感じる前に最終域で抵抗感があるが、ある程度痛みが耐えられる場合は筋性の病変を疑う
関節可動域制限を動作や運動で評価していく場合、痛みのある部位を熟知しておく必要があります。
身体のどこかに痛みがある場合、それを割避けるように動作を行う場合がほとんどなので、一見すると可動域制限があるように見えますが、実際は可動域制限はなく、疼痛を逃避する肢位を無意識に取っている場合が多くあります。
よって、痛みのある部位や痛みの性質(再現性:どういった状態で痛みが出やすいか)などを把握しておかないと、正確な推測はできません。
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終止感「End Feel」の種類
関節可動域制限の最終域で検者の手に感じる感触を、終止感「End Feel(エンドフィール)」と言います。
私は新人時代にこのエンドフィールの感覚が掴めなくて、苦労した経験があります。
エンドフィールには以下の種類があります。
しかし、あくまで感覚の話なので、なかなか文を読むだけで理解することは難しいと思います。
参考に以下の知識を頭に入れて、明日から実際の患者さんを触らせて頂く時に意識して感触を掴んでみて下さい。
また、実際に患者さんを前に先輩に教えて貰うのも非常に効果的です。
Bone to Bone(骨性)
2つの固い骨面がぶつかって突然停止する感じです。
”かっちりした感じ”と言うのでしょうか。
例えば正常な肘関節を他動的に伸展したときに感じられるのが、この「Bone to Bone」です。
なんとく”カチッ”とした感じがあるはずです。
spasm(筋性)
筋が緊張の為”びくっ”と感じられます。例えば、急性の関節炎などの場合です。
capsular feel(関節包性)
”きつく引き締める感じ”です。
厚い皮を引き伸ばすような感じで、正常な肩関節の外旋や股関節の回旋最終域で感じます。
例えば、
- 関節症
- リウマチ性関節炎
- 捻挫
などが原因で関節可動域制限が疑われる場合、この感じを伴う場合が多いです。
spring block(バネ状)
可動が可能な最終域で”はねるような”感じがすることがあります。
例えば膝関節の骨端の間に損傷した半月板が引きつけられたとき、膝関節伸展がブロックするような感じがする時がああります。
疾患ごとに特徴的な関節可動域の制限
疾患・状態ごとにある程度特徴的な関節可動域制限があります。一部だけご紹介します。
大腿四頭筋短縮症と尻上がり現象
大腿四頭筋が短縮している方に腹臥位を取らせ、膝関節を他動的屈曲と同時に殿部が浮き上がる”尻上がり現象”が見られます。
殿部を上がらないように徒手的に固定すれば、膝関節は完全に屈曲できません。
背臥位で股関節90度屈曲位で膝関節を屈曲すると、混合型(直筋と広筋群の短縮)では膝関節屈曲可動域に制限が見られますが、直筋型では完全に屈曲できます。
また、側臥位で膝関節完全屈曲位のまま股関節を伸展すると、直筋型と混合型では股関節伸展に制限があります。
変形性股関節症の関節可動域制限
変形性股関節症が進行した場合、
股関節の
- 内旋
- 外転
の可動域が制限され、股関節の屈曲・伸展運動は骨盤と腰椎の調整で代償されます。
ウェル・ニッケマン肢位の脳卒中片麻痺患者

麻痺側の
- 肩関節外転・外旋
- 指節間関節と手関節の伸展の制限
が特徴的な可動域制限です。臨床上、非常に多くの方にこの関節可動域制限がみられます。
固縮
不動の肢位で関節可動域制限がみられます。
パーキンソン症候群重症例では、
- 肩関節外転・外旋
- 股関節伸展
- 膝関節伸展
の可動域制限がある場合が多いです。
パーキンソン病の特徴的な症状とガイドラインに基づくリハビリの方法
痙性
中枢性の筋緊張亢進による痙性でも関節可動域制限が頻発します。
一方向に可動域制限がみられても、他方向に可動域制限がない場合があります。
初めは、可動域制限の方向に少し動かしにくいだけであっても、日常生活の中でその方向に関節が曲がる機会が減るので、時間の経過と共により強固な可動域制限となってしまっている例が多いです。
予防法としては、自主トレやリハビリなどで、定期的に関節可動域全域を意識的に動かすことが有効です。
高齢者で高度の円背がある例
円背で長時間過ごしてきた高齢者の場合、
- 頸椎屈曲の制限
- 胸椎・腰椎の可動性制限
が多く、
寝返りなどの起居動作が困難となることが多いです。
長期臥床患者(廃用症候群)
頸椎回旋制限が見られることが多いです。
不動が関節可動域制限の主な原因なので、当然、頸部だけなく、全身に可動域制限があってもおかしくありません。
また、上述の動作による可動域制限のスクリーニングが行えない場合が多いので、他動的かつ徒手的に各関節を動かしていき、可動域制限を探していきます。
無暗にアプローチしていてもキリがないので、”介助者が介助しやすくなる”ようなアプローチを基本的に軸にして考察し、治療していきます。
まとめ
関節可動域制限があると、筋力などに関係なく、それだけで日常生活動作がしにくくなることがあります。例えば、股関節の拘縮は二次的に腰椎の前弯を増大させ、立位や歩行動作にも大きな影響を及ぼします。
最も重要かつ、忘れてはいけないことは、拘縮に対する治療法として療法士はROMを行いますが、それだけでは良い関節の状態を継続的に維持することが非常に難しい、ということです。
患者さん自身が関節を動かす、動かさなければならないものとして意識して、どのように運動し、病院や家庭で継続的に関節の状態を保っていくことができるか、そこまで考えてROMを行い、リハビリプログラムを考慮すべきであると私は考えています。