
「バランス能力」って、実はかなり漠然としたもので理解するのは簡単ではありません。
今回はバランスや姿勢制御について、アライメントと重心、システム理論などを踏まえて分かりやすくご紹介していきます。
システム理論とは
バランス能力、姿勢制御に関してシステム理論を抑えておくことは重要です。
システム理論では、運動制御が個体の課題と環境の間の相互作用から生じるとして次のような前提を立てています。
①正常な運動は、運動制御の異なる側面に寄与している多くのシステム間の相互作用の結果である。
②運動行動はその目標をめぐって組織化されている。すなわち複数のシステムが課題に固有の必要性に従って組織化される。
③運動に寄与する諸要素の組織化は、環境の諸側面によって決定される。
「動いて感じる」ための戦略は機能的課題を完成するように環境と個体の相互作用から現れる。
機能的目標と環境の拘束条件が運動を決定するのに本質的な役割を果たしている。
④正常な運動における感覚の役割は、刺激-応答の形式で表される反射に限定されていない。感覚は運動の予期的及び適応的制御にも寄与している。
と・・まぁ小難しい感じですが、この中でシステム理論の核は、「相互作用」と言うところにあると思います。
つまり、バランスを保つということは、環境の変化に対する人の反応の変化のことを言い、それを「相互作用」と言っているのですね。
姿勢制御とは空間における体の位置を制御することを通して、姿勢の安定性を図ることです。
「安定性」はバランスあるいは平衡の意味にも使われる言葉であり、空間における体の位置を安定性限界(安定してバランスを保っていられる限界の)、支持基底の内部にとどめる能力のことを言います。
重心とは
地球上の物体全てに地球の中心に向かう万有引力が作用し、重力は力の方向が平行であるためその作用点を1つに合成することができます。
その作用点を重心、と規定されています。
人体の重心には以下の3つの要素があります。
- 身体があらゆる方向に自由に回転しうる点
- 身体各部の重量が相互に平衡である点
- 基本矢状面、基本全額面及び基本水平面の3つの面が交差する点
人体の重心は骨盤内で仙骨のやや前方に位置しています。
もちろん重心の位置は正確には体型による個人差もありますが、重心の位置を足底から計測すると、成人男性は身長の約56%、女性では55%の位置にあります。
小児では重心が成人よりもも相対的に頭部に近く、立位姿勢のバランス保持は不安定になります。よって、転倒しやすいのはお年寄りよりも小児かもしれません。でも、転んだ後に怪我しやすいのは確実に高齢者であるため、問題になるのですね。
姿勢を保持している時は、自発的な身体動揺はわずかであり、立位姿勢を乱すように働く重力の影響を最小、かつ保持するのに要する筋活動やエネルギー消費が最少であるように制御されています。
そのような時にはアライメントが整っています。
アライメントとは
アライメントとは、配列と訳され、人体のランドマーク(指標)の並び具合のことを指します。
姿勢の理想的なアライメントを以下に挙げます。
以下のランドマークが整って配列されている時、アライメントはほぼ重心線に位置しています。
側方及び後方から観察して、頭部、体幹、四肢の各分節の解剖学的な指標(ランドマーク)を確認します。
左右方向のアライメント
背面を見て次の5つの指標が矢状面にあって、垂直に並んでいる時に左右方向の「アライメントが良い」と言えます。
- 後頭隆起
- 椎骨棘突起
- 両膝関節内側の間の中心
- 両内踝の間の中心
前後方向のアライメント
側面から見て次の5つの指標が前額面において一直線上にあるとき、「前後方向のアライメントが良い」と言えます。
- 乳様突起
- 肩峰
- 大転子
- 膝関節中心のやや前方
- 外顆の前方(足関節のやや前方)
わが国の成人男性の安静立位姿勢では、中心線は乳様突起のやや前方ー肩峰-大転子-膝関節中心のやや前方-足関節やや前方を通っている、と言われています。
安静立位姿勢であっても脊柱起立筋、腹筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋など、多くの筋に持続的な筋活動が観察されています。
恒常的に姿勢を維持する必要がある人体では、姿勢保持に必要なエネルギー消費を最小にするため、中心線が理想的アライメントから外れた時、直ちに戻すような代償的姿勢戦略が働きます。
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安定した姿勢を構成する要素
安定性とは、「バランスが取れた状態からの変化に対する物体の抵抗」のことと定義されます。
正反対の方向に働く2つの等しい力が、物体に同時に作用している状態だと、力の釣り合いが取れて物体の位置や運動の変化は起こりません。
静止状態は力学的なバランスが取れた状態ですが、外力があるとそれまでの状態は破られます。システム理論で上述したように、重力の影響下で人間が立位姿勢を保持する時、複数の要因が安定性に影響しています。
以下に安定性に影響を及ぼす因子を挙げます。
重心の高さ
重心の位置が低いほど安定性は良く、立位よりも座時の方が重心が低いため安定性は良くなります。同じ立位でも上肢を挙上して”バンザイ”の姿勢を取ると重心の位置が高くなるため安定性は低下します。
支持基底の広さ
支持基底面とは、両足で立位を保持するときには両足底及びその間の部分を合計した面積のことです。
この支持基底面が広いほど安定性は良くなります。
両足を密着させた立位(タンデム肢位)よりも両足を離した立位の方が安定性は良です。また、四つ這いや松葉杖を使用した立位の時に支持基底面は広くなり安定性は高まります。
支持基底面と重心線の関係
支持基底内の重心線の位置が支持基底の中心に近いほど安定性は良いです。
中心線の位置が辺縁に近くなるとわずかの外力によって中心線が支持基底面から逸脱して、転倒する、ということになります。
両足立位から片脚立位になると支持基底の減少と同時に、相対的に受診が支持基底面の辺縁に移動するため不安定な状態になるということです。
質量
物体の質量が大きいほど安定性は良くなります。
ただし、体重あるいは質量が安定性に影響するのは、運動時と重力と重力以外の外力が作用している時だけです。
ニュートンの第二法則により、運動を変化させるのに必要な力は物体の質量に比例することが知られています。
摩擦
床との接触面積の摩擦抵抗が大きいほど安定性は良くなります。
摩擦が安定性に影響するのは運動時及び外力が作用している時です。
分節構造物
分節構造物よりも単一構造物のほうが安定性は良いです。
人の様に分節構造物がバランスを保つためには、
- 上位分節の重心線が下位分節との接触面内にあること
- 全体の重心線が最下位分節がの支持基底面内にあること
が必要です。
人体は頭部、体幹と四肢で構成される複雑な分節構造であるため、運動時には大きく安定性が低下するという性質を持ちます。
心理的要因
視線を遮断したり高所から見下ろしたりすると身体動揺が増強して安定性は低下します。
見逃しがちなことですが、人間の心理状態はバランス能力に大きく影響を与えます。
生理的要因
重力に抗して立位姿勢を保持する働きを抗重力機構と呼び、その時に活動する筋群を抗重力筋と呼びます。
姿勢保持には姿勢反射や立ち直り反射なども大きく関与しています。
まとめ
転倒予防を目的にリハビリをすることも多いですが、上述のバランスを構成する各要素を理解していると、臨床でも様々な気付きが得られ、バランス練習の質が深くなります。是非参考にして見て下さいね。
臨床でのバランストレーニングについての詳細は、こちらの記事「臨床で良く行われるバランストレーニング」に記載しています。