家で自分でできるリハビリ「片麻痺のこわばった手指の伸ばし方~関節可動域練習(ROM)~」

自宅で自分でできるROM訓練,ストレッチ,リハビリ


臨床でリハビリをしていると、脳卒中片麻痺の患者さんに「家で自分でできるリハビリはないの?」と聞かれることがすごく多いです。

そこで、今回は自分で家でできる、固まって動きにくくなってしまった手指の動かし方について詳しくご説明します。




脳卒中片麻痺の方の手指は固まりやすい

相談を受けるので一番多いのが、この手指が固まってくるのを自分で防ぐ方法についてです。

 

そもそも、脳卒中片麻痺の方で運動麻痺がある方は、手の指(手指)が固くなりやすいです。

ウェルニッケマン肢位

以下にその理由を2つ、挙げます。

理由1.筋萎縮が起きやすい

脳卒中の運動麻痺の機序として、末梢に行くほど、かつ、筋肉が小さい部位程筋萎縮が起きやすく、関節が固まりやすいです。

関節が固まる機序として、「動かさない」ことが最も多い原因の一つです。

理由2.手指は細かな動きが多い

片麻痺の方は、細かい動作をゆっくりとタイミング良く行うことが苦手な方が多いです。

これは「共同運動」という、片麻痺の方に特徴的な症状が円滑な運動を妨げるためです。

 

共同運動では、筋肉を個別に動かすことができず、運動を企図した時に、その周囲の筋肉を一緒に動かしてしまう運動になってしまうことを言います。

 

分かりやすい例では、座位で「腕を上げて下さい」と言うと、肩から腕を上げるような運動となってしまいます。

「腕だけ」を上げるつもりでも、肩ごと上がってきてしまいます。

これが共同運動です。

特に手指は繊細な巧緻動作を要求されることが多く、脳卒中片麻痺の方が苦手な運動となるため、大変難易度が高く、動かしにくいのです。

固まってきてしまった手指について 基礎知識

療法士にリハビリをしてもらった経験がある方なら分かると思いますが、指を動かすリハビリって、「ただ伸ばしたり曲げたりしてるだけじゃないの?」と思われる方も多いかと思います。

ROMとは?

ちなみに療法士は関節を柔らかくするためのアプローチのことをROM(アールオーエム)と言ったりします(Renge Of Motionの略です。)

”ストレッチ”は筋を伸張させることなので、関節を柔らかくするリハビリに使う言葉として正しくありません。

なぜなら、関節が固くなってしまう原因は筋肉だけが原因ではないからです。関節が固くなる原因について詳細は以下に記載しています。

実際、やっていることはその通り(指を曲げ伸ばししているだけです。)なのですが、しかし、実際は療法士は様々なことを感じ、考えながらそのような指の曲げ伸ばしを行っています。

 

では、療法士がどのようなことを考えてそのようなストレッチを行っているのか?

 

簡単に解説していきます。まず基礎知識として、関節が固くなってしまう原因を理解しておくと良いと思います。

まずは関節拘縮の原因を知る

関節が固くなってしまう原因の主な要素は以下になります。

  1. 筋肉
  2. 軟部組織(靭帯・腱・皮膚・皮下組織)
  3. 関節包

これらの組織に異常が起きることで関節が動かしにくくなってしまいます。

 

別記事でもこれらについて解説しています。

 関節可動域制限の因子・原因、エンドフィールの種類について

 

それぞれ簡単にみていきましょう。

1.筋原性の関節可動域低下

筋肉が固くなって関節が動きにくくなっている場合、以下の要因が考えられます。

少し小難しい話なので、めんどくさい方は読み飛ばして頂いても結構です。

 

  •  内因性、構造性
      1)外傷 (出血、腫脹、不動)
      2)炎症 (筋炎、多発性筋炎)
      3)変性 (筋肉注射、筋ジストロフィー)
      4)虚血 (フォルクマン拘縮、糖尿病、末梢循環性疾患、不動)
  •  外因性
      1)痙性 (脳卒中、多発性硬化症、脊髄損傷、上位ニューロン性疾患、筋力不均衡)
      2)麻痺 (不良肢位、筋力不均衡、下位ニューロン性疾患)
      3)力学的 (臥床位・椅坐位での不良肢位、縮まった不良肢位での不動)

などがあります。

療法士はこの中で関節が動きにくくなってしまった原因がどこにあるのか推測します。

これをしっかりと考えておくことで、

関節がROMでどこまで改善するものなのかを考えたり、アプローチする時間配分などを考慮します。もちろんそれで見切りをつけるわけではありません。

 

もし、関節がどうしても動かなければ、その動く範囲でできることを考えたり、道具を使うことを考えたり提案したりします。

2.軟部組織性

軟部組織とは、

  • 靭帯
  • 皮膚
  • 皮下組織(脂肪)

などのことを指します。

 

少しイメージしにくいと思うので、例として、外傷により怪我をして皮膚が裂けて出血するとします。

 

時間の経過と共に外傷が治癒する過程で、皮膚が癒着してしまいます。皮膚が癒着した状態では、皮膚の伸張性が低下し、その組織の周囲の関節が突っ張るような感じがして上手く動かなくなることがあります。

 

これが軟部組織性の関節可動域制限です。

3.骨性の関節可動域制限

骨折やリウマチなどの関節性の疾患により、骨そのものが変形してしまっている場合、これが関節可動域の制限因子となっている場合もあります。

 

この場合、骨を手術などで削ったり、何らかの外科的処置を必要とする場合があり、徒手的に外から触ったり、ROMを行うだけでは関節可動域を改善させることはできません。

4.関節包性の関節可動域制限

関節包とは、関節組織を包むように囲む袋のことです。

 

この中に関節や関節滑液(潤滑油のようなもの)が含まれています。関節を長時間動かさないと、この関節包が固くなり、関節を動かす際に阻害因子となってしまいます。

リハビリではどのようにこの可動域制限となっている原因を突き止めるのか?

原因を突き止めなければ治療のしようがありませんよね。

実際にレントゲンを撮るでもなく、手術を行い切開して目視するわけでもないのに、どのようにして、セラピストは上述の関節可動域制限の因子を特定して治療を行うのでしょうか。

 

一番大きいのが、「エンドフィール」と言われる、関節を動かしたときの「抵抗の感覚」です。

 

例えばリウマチの既往がある方で、手指が開かずに困っている方がいるとします。

療法士がその方の手指にROMを行って、指が伸びきった時に”カチ”という感じ(骨と骨が当たる感じ)がすれば、恐らくリウマチによる骨の変形による骨性の可動域制限があると判断します。(正確には判断するというよりも推測して、さらにそれの確信を得るための何かしらの評価を行い、信憑性を高めていきます。)

 

実際、指の曲げ伸ばしをするだけなら、小学生に200円位渡せば喜んでやってくれると思いますし、小学生でも簡単にできると思います。笑

 

しかし、療法士が専門家と言われるところはまさしくここにあると言っても良いくらいです。

「原因を考え、それに見合った治療法を探す」ことができるところが専門家たる由縁です。

 

関節可動域制限の原因を、感触やその人の病気との関係を考えながら治療を行っていきます。

療法士は解剖学も勉強しているので、その時にある特定の筋肉が固くなっているのであれば、その筋肉の起始・停止、走行を考慮して治療していくこともできます。

 

しかし、これも原因をはっきり特定できないことも多いです。

 

筋原性による関節拘縮が原因だとしても、少し時間が経っていれば、当然関節包も固くなるし、軟部組織も固くなってきます。要するに、普通はこれだけ!という原因はないことが多く、それぞれの要因が重なり合って関節が固くなると言う症状が出ています。

 

ご自分で自宅で手指を伸ばすストレッチを行う際に、このエンドフィールを感じて原因を突き止めるまでは簡単ではないと思うので、とりあえず、そのような方法を使って療法士はリハビリを行っているんだと解釈して下さい。

 

それでは、実際に自宅で自分で関節を伸ばす方法をご紹介していきます。

関節を伸ばす方法①モビライゼーション

モビライゼーションでは、固くなってしまった関節包の動きを出すことがメインの手技になります。

実際にはモビライゼーションには学説によって様々な考え方や方法が混在しており、専門家でも「モビライゼーションとは何か?」と聞かれたらすぐには返答に困ってしまうほど定義が難解で複雑です。

 

ここでは分かりやすくするために、「関節包に対して効果的に動きを出す方法(手技)」としてモビライゼーションを定義します。

いわゆる筋を伸張させることも目的に行われるストレッチをするだけでも、ある程度関節包は動きますが、より効率的に関節包の動きを出すためにリハビリテーションではモビライゼーションを行います。

 

モビライゼーションは、例えば、このようにして行われます。

モビライゼーション 足関節背屈制限
「モビライゼーション」足関節の動きを出す方法

モビライゼーションとは、簡単に言うと、関節の形状を基礎知識として、関節副運動と呼ばれる、関節自体の動きを出していくために、徒手的に外力を加え、転がり・滑り・軸回旋などの運動を行うことで関節が動きやすい状態を作る手技のことです。

 

しかし、実際にやろうとすると、両手で関節部を把持する必要があるため、今回の記事の主旨である「自分で麻痺で固くなった手指を動かすリハビリ」から外れて、自分で行うことは難しいです。

 

なので、あくまで「モビライゼーションという方法も臨床ではよく用いられる方法で、関節包や靭帯の固さを和らげる効果があるものだ」という認識を持っていただければ、と思います。

 

ここで具体的な方法についての記載は割愛させて頂きます。

もし興味がある方は、こちらに詳しくモビライゼーションについて詳しく記載しているので、参照してみて下さい。

 ROMの効果を劇的に高める!モビライゼーションの方法と効果

関節を伸ばす方法②ストレッチ

ストレッチは筋肉を伸張して(引き伸ばし)筋肉の柔軟性を取り戻す手技です。

こちらが今回ご紹介する自宅でできるリハビリのメインの方法になります。

 

ストレッチの方法の原則として、

  • 起始と停止を離す
  • 起始と停止部どちらか一方を固定し、どちらかを動かす

があります。

 

これらを意識して行っていきます。

ROMの準備 まずは手首の位置を確認

それでは実際に固くなった手指のROMを行っていきます。

 

まず準備として椅子に座り、机の上の手を乗せて下さい。

この時に、肩はできるだけ力を抜き、手首の位置を整えます

テノデーシスアクション
このように手首が背屈していると手指は伸ばしにくくなる。

手指は前腕から手首を介して手指の骨に付着しているものが多いので、手首の位置をこのように背屈していると、指を曲げる筋肉が伸張されるため、指を伸ばす時に引っ張ってしまい、抵抗となり、手指を伸ばすことができません。

 

なので、このように、

テノデーシスアクション,屈曲
手指をストレッチさせる前にこのように手首を掌屈させておくと良い。

ストレッチを行う前に手首を掌屈させておく、それが難しい場合は手首をせめて真っ直ぐ(中間位)にしておくと、後の手指のストレッチがやりやすくなります。

詳細は テノデーシスアクション

 

手首がこの位置まで来ない方の場合は、手首の筋肉も肘、さらには肩と繋がっており、まず、肩→肘と伸ばしていくと手首が動かしやすくなる場合が多いです。

その場合、まず座り方を変え、肩に力が入らないようにリラックスして、腕の位置などを微調整し、できるだけ手首の筋肉の緊張が上がらない位置に置きましょう。

筋緊張亢進(痙性)と姿勢の関係

筋肉の緊張が高い状態では、ストレッチを効果的に行うことができません。筋緊張と姿勢や精神状態は密接な関係があるため、まずは、精神的にリラックスし、楽な姿勢を心掛けることが大切です。

詳細は 筋緊張って何?痙性って?

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家で自分でできる手指のリハビリ(関節可動域練習:手指の伸ばし方)

手の中の関節でも、今回は大関節である、

  • MP関節
  • PIP関節
  • DIP関節

を伸ばす方法をご紹介します。

 

それぞれの関節をしっかりと意識しながら伸ばしていきます。

 

全てに共通する注意点は、

  • 伸ばしたい関節の直上をしっかりと把持する
  • 伸ばしたい関節を支点に伸ばす、という意識を強く持つ
  • 手首を常に掌屈位で行う
  • フルレンジ(関節が動く最大の範囲)で行う

ことです。

 

まずは末梢の第一関節(DIP関節)から伸ばしていきます。

手指 第一関節の伸ばし方

手指第一関節の伸ばし方

指の第一関節のしわがあるところの少し遠位を把持して、写真の黄色線部(DIP関節)を支点にしてゆっくりと伸ばしていきます。

できるだけゆっくりと行って下さい。

急激に伸張すると、筋肉の中のセンサー(筋紡錘)が反応し、防御収縮と言って、脊髄反射レベルの反応が無意識に起きて、筋肉が固くこわばってしまいます。

伸ばす範囲は、伸びるところまで伸ばし、離してまた伸ばす、を10回行って下さい。

 

これを行うと固まっていた第一関節がやや緩み、次に伸ばす第二関節を伸ばしやすくなると思います。

手指 第二関節の伸ばし方

手指第二関節ストレッチの方法

第一関節と同じように、第二関節のしわの部分を支点に、その直上あたりを写真の様に把持して、ゆっくりと伸ばしていきます。

これも10回行って下さい。

MP関節の伸ばし方

MP関節
MP関節

MP関節とはこの部位のことです。

 

自分でできるMP関節の伸ばし方
示指、MP関節のセルフROM

この部位を、

このように伸ばしていきます。

 

MP関節は、第一関節、第二関節よりも付着する筋肉の密度が強く、多いので、それらと比べて少し強めの力が必要です。

同じように10回曲げ伸ばしを行って下さい。

自分で行うROMの頻度・回数は?

ROMの頻度については、以下の文献が参考になります。

・患者に負担のない範囲であれば,多数回実施することが望ましい。頻度については,疼痛の生じない範囲で可動域全域にわたってゆっくりと各関節5~10回を1セットとし,1日に2~3セット繰り返す。

・また,可動域を維持するためには3回を1セットとして,1日に2セット全可動域を動かせばよい。

・少なくとも1日15~20分の全可動域の運動が必要。

・全可動域にわたる運動を1日2回に分けて行う。

 と様々な報告がある。

矢野秀典,関寛之:関節可動域(ROM)エクササイズの基本.理学療法ジャーナル,42(1) : 53-60, 2008

要するに、この頻度でROMを行えば拘縮が予防できるとする確固としたデータはない、ということです。

それはそうですよね、人によって拘縮の程度や痙性の程度、生活状況も違うので一概には言えません。

 

結局関節のこわばりが気になる時はできるだけ多くの頻度で積極的に行い、最低でもROMを一日に10回、2~3セットは行うようにすると良いという理解で良いのではないかと思います。

まとめ

リハビリテーション分野は今、従来の病院や施設というフィールドから在宅分野にフィールドを移していっている最中です。

 

それに伴い、「リハビリって一体何?何してるの?」と患者さんに思われるような分野ではなく、自宅で患者さん自身が手軽に行えるようなリハビリに進化していかなければならないと思います。

今まで専門家の知識として囲い込まれていたリハビリ分野の知識を、一般の方にも広く知ってもらうことが、未来の患者さんのため、ひいてはリハビリテーション分野の発展のために今後絶対に必要だと感じています。

 

また、不思議と、みなさん最も身近な”自分の体のこと”を知らない人が多いです。

リハビリの知識を知ることは、まさしく自分の体の仕組みについて勉強することと同じです。

 

より広く知れ渡ることで、健康寿命の増進など、社会的に大変有意義なものになると確信しています。

 

その一つとして今回の「手指の自分でできる伸ばし方」の記事を書いてみたのですが、普段専門用語に浸りきっているため、言葉をかみ砕いて表現することの難しさを痛感しました。

 

 

この記事は現時点での自分の全力で書いているつもりです。

しかし、今後時間がたってから見直すと、「ここはこう伝えたほうが良いのでは?」というところも出てくるかもしれません。

この記事に限らず、全ての「未来のPT」の記事は適宜見直しを行い、随時修正していきます。

気になるところは、気軽にご質問等頂けたら幸いです。

 

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