リハビリにおける”バランス”って一体なに?臨床での「バランスの捉え方」をわかりやすく解説

バランスとは


リハビリでの臨床において、”バランス”とは何か?

療法士なら初めの頃に、誰もが必ずぶち当たる疑問ですよね。

バランス能力には様々な要素が複雑に関係します。人に説明する時に困ってしまいますよね。

調べてみても、小難しいことが書いてあって、いまいち理解できない方も多いのではないでしょうか?私もそうでした。

  • バランスとは何か
  • リハビリでの捉え方
  • どのように鍛えるべきか

について、例を挙げて、簡単に解説します。




バランスとは何か

バランス能力とは、

  • 静止姿勢や動作中の姿勢を保つ能力
  • 不安定な姿勢から速やかに姿勢を回復させる能力

を意味します。

 

例えば坂道に人が立っているとき、平地と同じような姿勢で立つことはできません。自然と少し体を傾けて立ちますよね。

これは、坂道の傾斜の角度を適切に感じて(感覚系)、それを脳が適切な形に処理し(中枢神経系)、無意識に筋肉や姿勢を調節しているのです。(筋骨格系)

 

これがバランス能力です。

 

バランス能力には人体の機能のうち、

  • 感覚系
  • 中枢神経系
  • 筋骨格系

などが重要な役割をしています。

 

それぞれ説明していきます。

感覚系(視覚・表在感覚・深部感覚・前庭感覚)

体の位置や動きを感じる器官で、人間が外部からの刺激を取り入れる際に重要な役割を果たします。

 

バランス能力とは外部からの刺激への体の自然で、適切な反応のことも含まれますので、これらの器官が適切に働くことでバランス能力が正常に維持されます。

中枢神経系(小脳・脳幹)        

外部からの情報を整理して筋肉や抹消器官に指令を出す器官です。

人は外部からの刺激を上記の感覚系で受け取ってから、体内で適切な形に処理します。

 

小脳は特にバランス能力に重要な役割を果たします。

小脳

しかし、小脳の働きについて専門の文献を読んで理解するのは簡単ではありません。

バランスとは何か、と悩む人はここが分からないのではないかと思います。

 

実際に複雑な処理を行っている小脳ですが、ここでは簡単にその機能を理解するために、スポーツの「モーグル」を例に出して解説します。

バランス

モーグルとは、スキーにおけるフリースタイル競技の1つ。

コブ(凹凸)が深く急な斜面の滑走において、ターン技術、エア演技、スピードに対するターン点、エア点、タイム点の合計点数を競う。

語源はノルウェー語のMogul(雪のコブ)である。

1人ずつの採点、ないしワールドカップなどでは2人で同時に滑るトーナメント方式のデュアル競技もある。

(参照:Wikipedia”モーグル”)

モーグルでは、大小様々な形の雪のコブがたくさんある斜面を滑走します。

選手はスタート地点に立った時点で、コブのおおよその位置・形を確認し、自分がどのようなコースで走ると良いかイメージします。

 

コースをスタートしたら、あとはイメージしたコースを滑り降りるだけです。

しかし、実際には思っていたよりコブが固かったり、コブが大きかったり、予測と違うことが山ほどあります。

 

まさに今、そのコブの上を滑る時、思っていたより固いコブであれば、上に乗った時の反発も強いし、滑る速度が想定よりも速くなるので、それに合わせて体を素速く立て直す必要があります。

 

こういった場合、頭で、

「おっ、思ったよりコブか固くて飛んでしまいそうだ。よし、少し速く体を立て直そう。」

と認知して、考えてからバランスを取っていたのでは遅過ぎます。

しかし、選手は何事もなかったかのようにうまく姿勢を制御し、滑り下りていきます。

 

 

この時にフル活用されているのが、小脳の運動調節機能です。

 

外的な刺激がこんな感じだったら、こんな感じの姿勢を取ると転倒しにくい、あるいはうまく滑ることができる、という事が今までの練習の成果で小脳の中に学習され、蓄えられています。

 

なので、熟練した選手たちは、予想外の外部の刺激にも素早く反応し、自らを適切な姿勢に変化させる事ができます。

 

学習して得た姿勢調節やいわゆるバランス感覚を、かなり早い速度で外部の刺激に反応して出力する(フィードフォワードといいます。)仕事をしているのが小脳の運動調節の機能です。

 

脳幹は、

  • 小脳
  • 上・中・下の小脳脚

によって、連絡されています。

よって、脳幹梗塞などの障害でも小脳が障害された時と類似する症状が出現します。

筋骨格系(筋・骨・関節)          

最後に姿勢調節の要となるのが、この筋骨格系です。

 

中枢神経系から信号を得た筋肉は適切なタイミング、力で微妙にかつ適切に収縮し、骨へその力を伝えます。

骨が影響を受けることで、全体の姿勢が変化し、いわゆる「バランスを保つ」ことができます。

リハビリでのバランスの捉え方と鍛え方

上記のことを知っているだけでは臨床では療法士として通用しません。

 

療法士は、転倒や、それに関するバランス能力の知識を知っているだけでなく、使えなければ意味がありません。

まず、臨床でのバランスの能力の評価及びカットオフ値など、転倒に関する基礎知識は、以前の記事転倒予防ガイドライン・文献の要約「療法士向け 評価・カットオフ値」を参照して下さい。

 

実際に評価をしてみると、各バランス評価に共通することがあります。

各評価の項目を見ていくと、BBSでは「拾い上げ(床から物を拾う)」という項目があったり、DGIでは「頭部を横に向けて歩く」という項目があったりします。

 

これらの評価項目は、全て日常生活で自然に行う動作で、転倒しやすい場面を想定しています。

臨床に於いて、私達は何のためにバランスの評価をして訓練を行うのでしょう。

「日常生活で転倒しないこと」を目的としているのではないでしょうか。

 

 

体系化された評価は、日常生活の動作をあえて項目に入れることで、日常生活での転倒リスクを点数化することを目的に作成されています。

 

よって、臨床におけるバランス能力の評価として最低限すべきことは、”上記の体系化された評価を使い、点数を考慮することで日常生活での転倒リスクを数値化すること”です。

 

しかしそれだけでは充分ではありません。

 

本当にリハビリの臨床でバランスを評価し、転倒を予防するならば、実際にその人が、

  • どんな環境で
  • どんな生活をしていて
  • どんな動作をすることが多いのか

把握しておくことが大変重要です。

 

過去に転倒されたことがある方なら転倒された時の状況をできるだけ詳しく聞いておきましょう。

それがその方にとって転倒リスクが高い場面の可能性が高いからです。

 

またどんな環境で生活されているのかも知っておく必要があります。

例えば、

患者さんの物理的環境で、転倒予防のリハビリのために最低限聞いておくべきこと

・自宅の玄関・居間・寝室・トイレの入り口に段差はあるのか

・どのような動線で生活されているのか

・2階があるのか、又は2階に上がる必要性があるのか

・日中はどこでどのように過ごされていることが多いのか

・自宅周辺の地面の状況はどうなのか(坂が多い、アスファルトが荒い道路、歩道がない道路が多いなど)

・自宅周辺の施設は何があるのか(例:中学・高校に隣接していたりすると、朝の時間帯は自転車がすごいスピードで行き交います。その中を歩く必要性があるなら、フラフラした歩行では困りますよね。)

など・・

その方の転倒しやすい傾向とすべきリハビリの情報がその中に詰まっています。

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臨床でのバランスの鍛え方

臨床でのバランスの鍛え方について例を挙げてみましょう。

 

以前、実際にいらっしゃった患者さんでは、6畳の部屋にその患者さんと奥さんのベッドを二台並べて寝ていました。

 

入口から寝室に入ると、ベッド脇に人が一人歩くスペースがありません。なので、横向きに歩いて、いわゆるカニ歩きでベットの端を通っていて転倒された、との事でした。

 

ケアマネージャーに確認したところ、ベッドを他の部屋に移して広いスペースを確保する事が環境的に難しいとのことでした。

 

私はこの方のバランス練習として、横歩きを重点的に行いました。

また、転倒されたのが夜間だったので、あえて暗くした部屋で狭い通路を横に歩いてもらうという横歩きの練習も行いました。

 

これが正解だったのかは分かりませんが、転倒リスクを考慮したバランス練習を行う時は、評価をして、数値を出して、だからどういった練習をするのか?ということが最も重要です。

その時に、患者さんの生活をどのくらい知っているか?ということが問われてきます。

まとめ

臨床でバランスについて考えるときに、基礎知識としてバランスとは何か?を知っているだけでは専門家とは言えません。

 基礎知識を応用し、訓練につなげるためには、患者さんの具体的な生活をどれだけ知っているかが問われます。

もちろんこれはバランス練習に限ったことだけではなく、療法士が生活の自立を支援する職業である以上、どんな訓練をするにも最も重要なことです。

 

必要な情報は全て患者さんとの関係性の中にあります。

知識を応用する方法は患者さんが教えてくれます。

 

基本的なことですが、知識が増えるにしたがってこの基本的なことをないがしろにしてしまいがちです。

充分注意して、基本を大事にして進んでいきたいものですね。

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