
脳卒中片麻痺の方向けに、自宅で簡単にできる足のリハビリ自主トレメニューをご紹介します。
脳卒中片麻痺の方の症状の特徴
脳卒中片麻痺になると、ほとんどの場合、運動麻痺が出現し、随意性が低下します。随意性とはつまり、自分の思うように手足を動かしにくくなります。
そして、日常生活の動作の中で一人でできない、あるいは介助が必要になる場合もあります。
随意性の低下はもちろんこのように問題になることが多いのですが、それと共に、脳卒中になられた方は筋緊張の異常も動作に大きく影響を及ぼします。
筋緊張は普通、常に適度な状態にコントロールされていますが、脳卒中ではこのコントロールする部分が障害されることが多いため、ちょっとした動作で過剰に筋肉の緊張が上がってしまいやすくなります。
脳卒中片麻痺の方の筋トレ(自主トレ)はどんな方法が良い?
筋トレと言うと、

このように寝て行う「足上げ運動」などを想像される方も多いと思います。
実際にこのような方法でも足の筋肉など立って歩くために重要な筋肉を鍛えることもできます。(ちなみに、この方法はリハビリではSLRと呼ばれます。)
しかし、この方法は運動トレーニングの方法としては、OKC(オーケーシー)という種類の方法になります。
OKCとは足が地面に付いていない状態の運動方法のことで、この運動方法では、筋肉を鍛え、筋繊維自体のボリュームを増大させることを目的に行われることが多いです。
しかし、日常生活に行う動作の中で神経と筋肉を協調させて働かせるためには、CKC(シーケーシー)という方法の方が効果が出やすいことが知られています。
つまり、脳卒中片麻痺の方の場合、筋力のための筋トレのOKCの運動よりも、地面に足を付けた状態で、実際の動作を行いながら動作の中で行うCKC(シーケーシー)と呼ばれる運動を行う方が、より日常生活の動作を改善するために効果的です。
さらに、上述の様な足上げ運動は、5秒間の保持を1日に1200回行うと歩行練習と同程度の負荷であるとするデータもあります。1.)
どれだけ歩行練習などのCKCの運動が効果的かお分かり頂けると思います。CKCの運動を行う方がかなり効率が良いのです。それでは、具体的にどのようなCKCトレーニングを行うと良いのでしょうか。
筋緊張の異常は「荷重」でコントロールする
上述の様に、片麻痺の方の多くは、随意性の低下(動かしにくさ)と筋緊張の異常に悩まされている方が大変多いです。
筋緊張が上がり過ぎる場合、しっかりと麻痺足に体重を乗せる(荷重を載せる)ことができるようになると、ある程度過剰な筋緊張を緩和することができます。
足に荷重を載せることができるようになると、麻痺側の足を日常生活の移動(歩行)で使う機会が増え、筋活動量が増えるので、不活による筋萎縮や筋力低下も起こしにくくなります。
麻痺側下肢に荷重を”しっかり”載せることのメリット
- 筋緊張が上がりにくくなる
- 日常生活動作で筋活動量が増える
脳卒中片麻痺の方向け 家で自分でできるリハビリ(自主トレ)
自主トレでは、麻痺側下肢へ荷重を載せる練習を行うと効率的に日常生活動作を改善することができます。
効果的な自主トレの方法は少しコツがあるので、以下にご紹介します。
※以下の自主トレはその人個人の個別性を考慮されたものではありません。人によっては適切ではない場合もありますので、ご了承下さい。
立ち上がり動作練習

立ち上がり練習は、脳卒中ガイドラインの中でも早期離床のために勧められると提唱されており、効果的な運動で、臨床におけるリハビリでも頻繁に行われています。
しかし、麻痺がある方が普通に立ち上がり動作を行うと、多くの方が非麻痺側下肢主体での立ち上がり練習となります。麻痺側をほとんど使えていません。
麻痺側にしっかりと荷重を載せて立ち上がる、効果的な運動にするためには、上の写真の様に、麻痺側下肢を引きつけ、逆に非麻痺側(強い方の足)を少し椅子から離して立ち上がる様にします。
そうすると、強制的に麻痺側の足に体重が乗り、立ち上がる時に麻痺側の足を効果的に鍛えることができます。
この方法で立ち上がり練習を反復することで、
- 麻痺側下肢の筋力訓練
- 麻痺側下肢への荷重練習
を同時に行うことができます。
難易度は、上肢の支持で調節すると簡単です。
- 手すりを持つ
- 写真の様に椅子の端を持つ
- 上肢の支持なし
の順に負荷が高く、難しくなっていくので、体力に応じて難易度を調節して下さい。
注意点としては、
- 体を曲げながら立ち上がり動作を行うこと(前屈動作をする)
- 非麻痺側下肢よりも麻痺側下肢を必ず自分の近くに接地させて行うこと
- 着座時にできるだけゆっくりと座ること
の3点です。
この練習を続けると、日常生活の中での立ち上がり動作でも麻痺側下肢を効果的に使える様になります。訓練した動作が日常生活に定着することを”汎化”と言います。
そうなれば、麻痺側下肢の筋萎縮や関節可動域制限などの二次障害の予防に役立ちます。
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踏み台昇降練習
荷重練習というと、非麻痺側下肢を挙上させて、麻痺側下肢で片脚立ちを行う練習がすぐに思い付き、臨床のリハビリでも実際に頻繁に行われています。

しかし、既に手すりを持ってでも麻痺側支持での片脚立ちができる方に、いくら片脚立ちの練習をしてもそれ以上の効果は望めないことも多いです。
その人にとっては簡単すぎて、相対的に難易度が低くなってしまっているためです。
片脚立ち練習はバランス練習の種類として、「静的」なものです。麻痺側下肢に静的な荷重が行える方は、次に「動的」な荷重練習を行っていくと、さらに動作時の荷重量が増大します。
具体的におすすめの方法は、踏み台昇降運動です。
麻痺側を地面に着けたまま、非麻痺側を踏み台に乗せたり、降ろしたりする運動を反復します。
必ず軸足を麻痺側にし、できるだけゆっくりと反対側の足を踏み台に乗せたり降ろしたりして下さい。
少し不安定に感じる方は手すりや壁などを支持して下さい。また、装具を普段使用している方は、麻痺側に装具を装着したまま行って下さい。(その方が効果的に麻痺側下肢に荷重でき、足関節の保護にもなります。)
意識は常に軸足である麻痺側に向けておき、地面をシッカリと踏みしめながら行うようにして下さい。
この練習を反復して行うことで、歩行時の麻痺側下肢の支持性が向上し、しっかりと地面を捉えることができるようになります。
結果、歩行時の筋緊張が上がりにくくなる方も多いです。
「踏み台なしで前に足を踏み出すだけだとダメなの?」
と思う方もいらっしゃると思います。
しかし、この動作は踏み台に足を乗せるという動作がより麻痺側の下肢に荷重を載せるために重要な要素となっています。
麻痺側下肢に荷重が載せられない方でも「一瞬だけ」なら載せることができる方が多いです。
踏み台なしで非麻痺側を前に踏み出す運動では、やり方によっては、本当に「一瞬だけ」しか荷重が載りません。それでは訓練効果は充分ではありません。
ある程度高さのある踏み台に足を乗せることで、滞空時間が伸び、麻痺側下肢へ荷重している時間が延長されます。動的な荷重練習では、この要素が非常に大切です。
なので、できるだけ踏み台を用意し、段差に足を乗せるという動作を取り入れて行って下さい。自宅に手ごろな踏み台がない方は、階段でも結構です。手すりがある階段なら安全でさらに良いですね。
踏み台も階段もない方は、
どのくらいの頻度・量で練習を行うと良いか
立ち上がり訓練や歩行訓練などの下肢訓練を週5回、45分行うと、1日15分行う場合と比べて、20週経過した時点で歩行能力がより改善していた、というデータがあります。
まとめ
リハビリにおける臨床で行われている、脳卒中片麻痺の方の荷重練習を自宅でできるようにアレンジしてお伝えしました。
もちろん個別性を考慮した運動ではないため、実際のリハビリではもっとその人に適した運動療法を厳選して行います。
「こんな運動はどうだろうか?私に向いているのだろうか?」と思われる方は、私の方までお問い合わせ頂ければ、できる範囲でお答えさせて頂きます。お気軽にお問い合わせ下さい。
参考文献
1)市橋則明:大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量について、体力科学42
2)Kwakkel G、Wagenaar RC、Twisk JW,et al