
脳卒中による片麻痺に特徴的な症状をまとめました。
臨床では、既往歴で片麻痺があり、大腿骨頸部骨折で今回リハビリを受けているという患者さんはたくさんいます。
片麻痺の症状を理解していれば、効果的にアプローチできるところを的確に判断して治療を進めることができます。また、脳卒中のリハビリでは特に動作分析の占める役割が大きいので、動作分析のポイントと具体例をご紹介しています。
脳卒中片麻痺の臨床におけるリハビリでの特徴的な症状
- 痙性
- 共同運動
- 連合反応
- 緊張性頚反射
これらの代表的な症状が陽性症状と呼ばれるものです。
一方、
- 立ち直り反射
- 平衡反応
- 姿勢反射障害
は陰性症状と呼ばれます。
これらの程度は、
- 障害された部位
- 障害範囲
- 個々の体力
- 脳卒中後の体験
によって差があります。
一般的に、発症直後は上下肢が弛緩性麻痺となり、腱反射は減弱しています。
体幹の筋緊張も低下しているため、背臥位からの寝返りが困難になったり、座位で麻痺側へ倒れそうになったりする方が多いです。
下肢の支持性の低下と、麻痺側への転倒の恐怖から、立位で麻痺側下肢に荷重できないことが多いです。
その後、筋緊張が亢進し始め、下肢の内転などの連合反応が出現します。
徐々に随意運動が回復し、上下肢をある程度動かせるようになってくると、筋緊張が過剰に亢進し、共同運動を呈します。
結果、連合反応や陽性支持反射の様な緊張性の反射が活発になってきます。
共同運動の主要因は痙性と言われていますが、上下肢の運動の際の固定性・支持性低下による筋緊張低下も背景として存在しています。
参考)筋緊張って何?痙性って?
座位で下肢を難なく持ち上げられる方でも、立位をとると、股関節の固定性が不足しており、膝や足部に過剰に筋緊張が亢進し、ぎこちない歩行になることが臨床で頻繁に散見されます。
そのまま運動中に関節を上手く使えないと、拘縮肢位を示すようになります。
痙性の減少と低緊張や筋収縮のタイミングが改善されてくると、固定の為の過剰な努力も少なくなり、全体的に亢進した筋緊張が緩和し、個差はありますが、共同運動からの分離がみられるようになります。
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脳卒中片麻痺のリハビリで大切な姿勢反射とバランス(片麻痺の運動障害)

姿勢反射は人が重力に逆らって頚、体幹・骨盤帯を活動させるためになくてはならないものです。
姿勢反射機構が備わっていることによって、荷重側では抗重力的な全身の伸展活動を保障し、反対に荷重されていない側では屈曲活動(運動)を保障しています。
これら両方が保障されて初めて荷重位でのより機能的な運動が可能となります。
臨床でよく見られるのですが、歩行時に麻痺側へ荷重した際に、麻痺側の体幹が重力に抗して伸展しないことがあります。
大殿筋などの股関節周囲筋の緊張が低いため、骨盤が崩れて、回旋偏移することで麻痺側の股関節が屈曲してしまいます。
結果、体幹の回旋も起こらず、正常な歩行が困難となります。
また主に腸腰筋(大腰筋)の筋緊張が低下しているため、座位でも麻痺側に荷重したり、骨盤を前傾させることが困難となり、正常な座位姿勢を保持することが難しくなります。
リハビリで行われる、効果的な腸腰筋の筋トレとストレッチの方法
一方で、歩行における遊脚相では麻痺側骨盤を重力に逆らって保持しておく必要がありますが、上手く行えず、非麻痺側に体幹を傾けて骨盤を挙上している方も頻繁に見かけます。
こういった患者さんに骨盤保持を意識させると、内反尖足の誘因になることがあります。
脳卒中片麻痺の「内反尖足」の原因とガイドラインに基づくリハビリと治療法
バランス能力とは、静的にも動的にも揺らぎながら上手くバランスを取っている状態のことなので、ある部位の筋緊張が過剰に亢進していると、それだけでバランスをうまくとることが難しくなります。
脳卒中片麻痺患者でよくみられる、
- 深部知覚障害
- 足底表在感覚の障害
- 筋肉の過緊張・低緊張
- 眼振、複視、半盲
- 半側空間無視(USN)
- 荷重連鎖の障害
- 純粋な筋力低下
- 疼痛、体験、環境、意思
などの平衡感覚(バランス能力)に影響を及ぼす因子は無数に存在します。
これらの因子によって転倒を予防するために自然と行う動作すべてが非麻痺側の過剰な努力を要する窮屈な運動となってしまいます。
脳卒中片麻痺の評価
評価は、
- 機能障害を明らかにするための評価
- 運動療法に直結させるための評価
によってその手段は変わってきます。
例えば、症例発表であれば、機能障害を明らかにする評価が必須となりますが、臨床ではどちらかと言うと運動療法に直結させるための評価の方が重要です。
しかし、一定の順序尺度や間隔尺度を用いた評価では「ではどうすれば良いか?」という答えが具体的に示されることはほとんどありません。
そこで動作分析が重要になってきます。
脳卒中片麻痺の動作分析
片麻痺の方の動作分析ができるということは運動機能障害の評価ができた、といっても良いくらいに運動障害と動作は直結しています。
しかし、これは簡単ではありません。
動作がこのようになっている、という見解だけでは「動作観察」になってしまいます。
動作分析とは、動作を観察し、運動障害と絡めて分析していくことです。
よって、脳卒中片麻痺の方の運動障害がどの様に起こっているかを理解していないと「分析」はできない、という事になります。
動作分析のコツ
- あるパターンを呈している原因を探る。(まずはパターンを見つける)
- 上手く動作が行えていない原因を特定していく
- 特に目立つ動作は何か
- 正常から逸脱しているのは何か
- 正常からどれだけあるいはどのように偏倚しているのか
- 固定と運動との兼ね合いはどうか
- 固定するのにふさわしいタイミングの筋収縮が得られているのか
- 姿勢を保つのにふさわしい運動性を持っているか
- 姿勢自体が運動を阻害する因子になっていないか
- ある特定の部分が姿勢や全体の運動に影響に与えていないか
- 中枢部の固定性はどうか?末梢部に巧緻性を保証できているか
- 末梢部の動き・感覚により中枢部の姿勢調節反応をうまく引き出せているか
- 重心の移動に伴った筋活動が連鎖的に適正に行われているかどうか
また、これらを、
- 姿勢による違い
- 動作による違い
- 相(phase=フェーズ)による違い
- 部位による違い
- 環境による違い
- 介助の仕方による違い
などを意図的に変化させ結果を統合し、解釈していきます。
いくつかの因子に分解するために、ある現象に人為的に手を加えて、その変化の持つ意味を考察していくことで分析していきます。
こんな風に介助すると楽に動作ができる、という介助方法が分かれば、その足りない部分を補うような運動を運動療法に取り入れていきます。
分析に至る前提として「観察」が的確にできている必要があります。
私は新人の頃は動作分析で足部に問題があると思ったら足部ばかりを見ていました・・。
しかし、観察は動作が、
- 相互関係で構成されていること
- 正常動作を常に意識すること
を念頭に置き、総合的、複合的な視点が必要です。
その時にキーになるポイントを以下の表にまとめました。
合理的な正常運動を保証する因子(相互関係)
固定 | 運動 |
姿勢 | 運動 |
全体 | 部分 |
中枢 | 末梢 |
重心移動 | 筋活動 |
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動作分析の具体例
例えば歩行中に麻痺側の肩が下がっているとします。
パッと見て麻痺側の体幹の影響で歩行中に肩が落ちている、と判断して座位での体幹のトレーニングなどをプログラムに取り入れるのは少し安易過ぎます。
歩行中だけでなく、座っていても麻痺側の肩が落ちている可能性もありますよね。
例えば、
- 静止立位ではどうなのか
- 座位で靴を履こうとするときに肩はどうなのか
- 立位で左右の下肢に荷重を振ってみたらどうか
- 歩行時に他動的に麻痺側体幹を軽く伸展してみるとどうなるか
など見ておくべきことはたくさんあります。
もし、座位で肩が下がっていなければ、体幹ではなく、荷重時に麻痺側の股関節に重要な問題があることが非常に多いです。
股関節に問題がありそうなら、さらにそこに的を絞って精査していきます。
足底で受けた刺激を股関節で中断されたために、体幹伸展が立位では起きない、と考えることもできます。
そうすると、
- 座位で骨盤を重力に抗して前傾運動できるか
- ベッド上で背臥位や側臥位で股関節の運動をした時に適切なタイミングで筋収縮が起きているのか
- 膝立ち歩行ではどうなるか
- 立位で骨盤が麻痺側偏移・回旋していないか
- 片足立位保持では骨盤はどうなるか
- 麻痺側下肢だけでブリッジ動作ができるか
など作為的に色んな状況、環境を変えて動作を分析していくことで問題の核心に迫っていくことができます。
このような分析を通して股関節あるいは体幹、あるいはそのどちらにも問題があると推論し、その原因を探っていきます。

例えばいわゆる腹筋運動ができない時に、腹直筋、腹斜筋群を鍛えるという認識を持っている方は多いと思います。
しかし、この場合、実際は腸腰筋やそのための固定作用を持つハムストリングスや大殿筋との協調性が問題で行えないことも多いです。体幹=腹直筋・腹斜筋群という思い込みは捨て、体幹筋の活動は骨盤帯の活動抜きには語れないため、解剖学、運動学の知識を元に広い視点で推測する必要があります。
まとめ
実習中、私もそうでしたが、脳卒中片麻痺の患者の問題点を考察した結果、
- 「麻痺側下肢の随意性低下」
- 「麻痺側下肢の支持性低下」
という基本的な問題点を挙げることがよくあります。
脳卒中片麻痺の患者さんなら、ほとんどの方がそういった問題を抱えており、この問題点が正しいとすれば、皆一様の動作、歩行になるはずです。
もう少し踏み込んで、個々に合った基本的問題点をさらに吟味する必要があります。
一概に麻痺側下肢の支持性の低下と言っても、体重を支持できない原因が個々によって細かく異なっていることがほとんどです。
どこまで細かく個々の問題点を抽出できるか、そこに理学療法士としての質が問われるのではないでしょうか。
しかも、これはセラピストの知識と言うよりも、根気強さが問題で、粘り強く考えれば、ある程度の答えが出てくることが多いです。
諦めずに何度も何度も考えて、少しでも本当の答えにより近いものを導き出せるようにしたいものです。