
脳卒中を発症された患者さんに、機能的に回復する段階として「感覚が先に良くなるのか?」それとも「動くようになってから感覚が戻るのか?」と聞かれることがあります。
運動と感覚は別物と分けて考えているとこのような疑問が出てくると思います。
実際は、感覚と運動はセットで機能しており、どちらも互いに密接に関わり合っています。
まずは、脳卒中の方に起きる運動麻痺と感覚障害について確認していきましょう。
脳卒中の症状
脳卒中は脳梗塞や脳出血、くも膜下出血など、脳血管障害(CVA)の総称です。
脳卒中は厳密に言うと、発症した脳の部位や障害された部位や血管の大小によって程度も症状も様々です。しかし、代表的な症状を挙げるとすれば以下になります。
- 運動麻痺(頚より下、障害された脳と反対の部位の腕・足の片麻痺)
- 感覚障害
- 意識障害
- 言語障害
- 運動失調
- 高次脳機能障害(失行・失認など)
運動麻痺とは?
脳にある、運動をつかさどる部位の血流が阻害されたり、出血によって圧迫され続けると、細胞が壊死します。
運動神経は延髄にある錐体交差と言う部位で交差しているため、多くの場合、障害された脳と反対側の手足に運動麻痺が出現します。発症当時の意識障害や運動麻痺、しびれ、めまいなどが激烈であるほど、障害された部位が広い場合が多く、麻痺が強く残ることが多いです。
また、顔面及び咽頭などの筋肉は錐体交差よりも上の神経支配を受けているため、顔面麻痺や嚥下障害(飲み込みができない)、構音障害(うまく言葉が出ない)などが同側に出現します。
感覚障害の種類
感覚と一言で言っても、
- 触覚
- 運動覚・位置覚
- 振動覚
- 温痛覚
- 視覚
- 聴覚
- 嗅覚
- 味覚
などがありますが、脳卒中の場合、体性感覚と呼ばれる、触覚、運動覚・位置覚などが障害される場合が多いです。
主に触覚を障害されている場合、一般的に「感覚がない」という表現がされますが、それ以外にも感覚障害の症状は多岐に存在します。

- 触圧覚
触られた感覚や肌を圧迫された感覚です。人に触られたりすると触れられた感覚があるはずです。
- 運動覚・位置覚
運動覚は四肢を動かした時の感覚であり、位置覚も含めて表現される場合も多いです。肘を曲げて、目をつむっていても曲がっている感覚があると思います。これが運動・位置覚です。
特に表在感覚と呼ばれる触圧覚を障害されると、「歩いていると雲の上を歩いている様だ」と訴える方が非常に多いです。また、感覚障害が中等度以上の場合、深部感覚である運動覚・位置覚が障害され、「寝ていて起きたときに腕がどこにあるか分からない」と訴える方も非常に多くなります。
しかし、感覚障害は、厳密には脳の損傷された部位によって出現する場所が異なるので、これも一概には言えず、ふくらはぎの感覚は正常でも、足の裏や足の指の感覚だけが薄い方もいますし、逆の場合もあります。
リハビリでは、
- どんな種類の感覚障害が
- どの部位に
- どの程度
見極める検査を行い、その感覚障害がどんな動作に影響を及ぼすのか評価し、精査します。
運動と感覚の関係性とは?
運動麻痺と感覚障害の関係性で知っておくと良い概念として「フィードバック:feed back」という言葉があります。
健常者は、運動する時に上述の感覚を通して、適宜運動を修正し、細かな調節を行うことで、課題に対して適切な運動が成されます。
つまり、運動は感覚器によるフィードバックを通して初めて成立するものです。
ところが、感覚障害がある方は、このフィードバックを(充分に)得ることができません。なので、何かぎこちない運動になってしまったり、課題に対して上手く動作を遂行できなくなってしまいます。
また、小脳と言う部位では、「フィードフォワード:feed forward」という機能があります。
これは、フィードバックが運動後になされる処理なのに対して、運動前になされる処理のことです。
何か運動を行う前に、今まで脳内に蓄積されたデータを元に、適切に運動を擦り合わせて動作を行う機能のことをフィードフォワードと言います。
人は、運動を行う前に、小脳という部位で、既にある程度の結果を予測しています。
そうすれば、運動後に得られるフィードバックで得た微妙なズレを即座に修正して、運動を微調整し、適切に課題を遂行することができます。
しかし、脳卒中片麻痺の方は、今までの蓄積したデータにかなり誤差がある状態です。
運動麻痺がない時と、運動麻痺が出現してしまった発症後では、同じような意識・感覚で、同じ運動をできないからです。
よって、感覚障害を併発している方は、感覚障害がない方と比べて運動を行うことも難しく、運動麻痺の回復が思うように進まないケースが散見されます。
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感覚を鍛えると運動がしやすくなる、運動をすると感覚が刺激される。
感覚と運動は上述の様に、フィードバックやフィーフォワードを介して密接に関わり合っています。
なので、感覚障害がある方に「このような運動を行って下さい」と模倣(真似)するようにお願いした時に、純粋にその動作の真似ができなくても、「筋力が足りない(随意性が足りない)=運動麻痺が強い」とすぐに判断してしまうのは早計過ぎます。
体性感覚によるフィードバックが行えないため、運動できるだけの筋力(随意性)があるにも関わらず、適切な運動のイメージができないために、その課題が遂行できない可能性もあるからです。
模倣してもらう場合は、まず非麻痺側で感覚を覚えてもらってから麻痺側で模倣してもらうと感覚が掴みやすいと思います。
なので、感覚が先に良くなるのか、それとも動くようになるのが先かという問題に対しては、もちろん障害の部位や程度によりますが、「両方同じように良くなっていく」ことが多いです。
感覚が戻ってくると、上述のフィードバックを得やすくなるために運動能力も回復しやすくなります。
逆に、運動機能が回復して動くようになってくると、感覚も刺激され、良くなってくる場合が多いと思います。
まとめ
脳卒中発症後、積極的に自主トレに取り組まれる方も多いです。
自主トレを一生懸命頑張って続けた結果、「感覚が戻ってきたけど動かない・・」、「少し動くようになったけど感覚が薄い・・」と残念に思われる方が多いように感じます。
しかし、運動と感覚におけるフィードフォワードとフィードバックの関係性を知っていると、どちらも良い傾向だという事が分かると思います。
運動は「イメージが大切」とよく言われますが、本当にその通りで、反復して何度も練習し、運動に大切なイメージを作る役割を感覚が担っています。
是非、今後はフィードバックとフィードフォワードを意識して運動してみて下さい。
運動を感覚で認知し、運動にそれを活かす、ということを反復することで徐々に適切な運動ができるようになってきます。
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