
日々のリハビリを行っていく上で、ゴール設定やリスク管理において、重要なのが転倒予防の観点です。
高齢者が要介護状態になってしまう原因として「骨折・転倒」は全体の約10%を占め、ワースト5に入っています。
介護予防としても必要な転倒予防に関する文献をまとめてみました。療法士必須の知識だと思うので是非参考にして下さい。
高齢者の転倒の概要
転倒についての予備知識として、まずは高齢者の転倒の概要について説明します。

高齢者の転倒による怪我の頻度は50~70%程度、このうち骨折に至る症例は10%前後で、そのうち25%程度が大腿骨頸部・転子部骨折であるとされています。
大腿骨頸部骨折・転子部骨折は立った高さからの転倒が原因全体の75%を占め、90歳以上の高齢者では82%を占めています。
また、転倒は骨折発生原因の90%以上を占め、転倒を防止できれば、殆どの骨折を防ぐことが可能となります。

転倒による頸部骨折・転子部骨折の患者数は年々増加しており、国の医療費削減と言う視点でも、転倒予防対策の充実が求められています。

- 転倒してけがをする人は約50~70%、その中で10%の人が骨折
- 転倒して骨折する高齢者の約25%が頸部骨折・転子部骨折
- 立っていて(歩いていて)転倒する高齢者が75%
- 骨折する高齢者のうち90%が転倒によるもの
転倒予防の知識の普及が求められている!
私がリハビリの臨床で接している患者さんは、意外と健康には気を付けている方が多いです。
しかし、食事に気を配ったり、運動習慣を持つことばかりに気を使い、「転倒予防」についてはほとんどの人があまり知識を持っていません。足を鍛える、段差に注意する、とかその程度です。
ウォーキングなどの健康維持のための知識は普及していますが、それと共に転倒予防のための知識も普及していくべきだと私は思っています。
そこで、転倒はどんな時に起こるのか、なぜ起こるのか、どうすれば防げるのか、まとめてみました。
転倒の危険因子

- 内因性
筋力低下、歩行障害、視力障害、バランス不良、認知障害など
- 外因性
薬の副作用や環境因子(照明、床など)
だれもが転倒予防として意識している因子である、歩行障害やバランス不良、筋力低下以外にもこれらの因子が存在します。
歩くことだけでは転倒予防に効果的ではないと言えるでしょう。
特に服薬の状況などは簡単に確認できますので、ぜひチェックして下さい。
転倒予防に重要とされている因子の順位
転倒予防の因子には重要とされている順位があります。上から順に考慮していく必要があります。

①筋力低下(サルコペニア)
②転倒歴
③歩行障害
④バランス障害
⑤装具(杖)不使用
⑥視力障害
⑦関節炎
⑧ADL障害
⑨抑うつ状態
⑩認知障害
⑪年齢(80歳以上)
因子が重複すると転倒率は跳ね上がる!
これらのうち、何個も該当すると劇的に転倒率が上がると言われており、危険因子が1つの場合は10%程度であるのに対し、4つ以上重なると70%以上になると言われています。
その他にも、これらの因子がない人でも低血圧、貧血などでも転倒する可能性があります。
また、私の経験では、USN(半側空間無視)、高次脳機能障害(注意障害)を併発している患者さんはより転倒リスクが高くなると思います。
これを踏まえると、転倒予防の為に日々歩き、筋力が衰えないようにと療法士が勧め、実際にそれを患者が実行していても、因子の一つか二つが除かれるだけで、その他の因子があれば、あまり効果的な転倒予防にならないかもしれません。
今後の患者さんの人生を左右しかねない転倒リスクについて、多角的に捉え、患者さんにアドバイスしていく必要があります。
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転倒リスク評価とそのカットオフ値
以下に転倒に関する評価項目とそのカットオフ値を挙げます。
患者さんがどのくらい転倒しやすいのか、専門家としては数字で把握しておく必要があります。

・転倒の状況調査
・服薬状況
・急性あるいは慢性疾患の問題
・活動レベル
・視力検査
・歩行ならびにバランス
・下肢の関節機能・末梢神経
・精神状態、脳機能、心機能
歩行系
- 10m歩行
通常高齢者の歩行のカットオフ値 60m/分(1.0m/秒)
屋外活動性の高い高齢者 平均70-80m/分(1.16-1.33m/秒)
屋外活動性の低い高齢者 平均40m/分(0.66m/秒)
バランス系
- 片脚立位
閉眼時の転倒リスクは5秒以下、開眼では20秒以下 - 30秒椅子立ち上がりテスト
14.5回/30秒 - Time up and go test(TUG)
環境設定:椅子の高さは46c、3m先で折り返しとする。
10秒以内 異常なし
20秒以内 屋内外出が可能
30秒以上 要介助
転倒リスク、カットオフが13.5秒
- Berg balance scale(BBS)
高齢者の平均は50-55 45未満で転倒リスクは高いと判断される。
歩行器使用33.1
屋内杖歩行45.3
屋外杖使用48.3
補助具なし 49.6
46以上 病棟内歩行自立 36以上 病棟内歩行見守り
- Dynamic Gait Index (DGI)
BBSで天井効果(満点を取る身体能力がある患者)が認められる場合に使用される、パフォーマンスの高い、見守り以上の歩行レベルの方を対象としたテスト。
8項目あり満点は24点
カットオフ値は19点、感度85% 特異度38%との報告もあります。
転倒予防の為に指導すべきこと
それでは以上の知識を元に、転倒を予防するために、日常的に歩くこと以外にどのようなことに気を付けてリハビリや指導を行っていけば良いのでしょうか。
「骨粗しょう症の予防と治療ガイドライン 2011」より、リハビリに関することで、転倒予防のエビデンス「グレードA(行うように強く勧められる)」のものを以下に挙げます。

- 柔軟性、持久力以上に、筋力強化が重要。
- プログラムとしては歩行、筋力強化、ストレッチ、太極拳などのバランス訓練を複合的に取り入れること。
- 家庭内の環境整備。例えば、手すりをつけたり、足下の明かりをつけるなど。
- ビタミンD 800 IU 以上/日摂取すること。
- 必要であれば白内障の手術を受ける。
- 薬の数に関わらず、例え1つの内服でも、睡眠導入剤、抗うつ薬などの脳に影響を与える薬剤を減らす、または中止する
- 低血圧の改善(起立性低血圧の予防)を図ること。心拍数及び心不全のマネジメントも必要。
- 足部の問題(足趾の変形、潰瘍、爪の変形など)の改善。踵の高い靴は避ける。サイズの合わない大きい靴やスリッパなどは履かないようにする。
バランス能力向上や転倒予防の為には、アプローチを複合させて、様々な運動・環境設定をすることが効果的とのことです。
また、身近なところでは、
- 家の廊下の足元に照明を付ける
- スリッパを履かないようにする
などの環境対策が有効で、比較的すぐに対策を施すことができます。
以下のようなヒッププロテクターを併用することも、場合によっては転倒による大腿骨頸部骨折を予防するのに有効でしょう。
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まとめ
転倒予防の知識は療法士なら当然知っておくべきことだと思います。
私もこの記事を書くにあたって、いろいろ調べていると大変勉強になりました。
筋肉や動作の専門家である私達は、ついつい転倒予防=筋力強化、バランス能力向上という画一的な介入になりがちです。
機能面の回復以外にも、環境面や栄養、転倒歴の調査など、実際はすべきことは多岐に渡ります。
より広い視点を持って介入・アドバイスできるとなお良いですね。そして私たちがその知識を広く普及させ、転倒して寝たきりになる高齢者が少しでも減ることを強く願っています。
転倒予防の書籍も当ブログから出版しています。良ければこちらも参考にして下さい。
>>次の記事は「認知症患者の転倒予防の基礎知識”体を鍛えることよりも大切な転倒予防対策”」です。
参考)・Guidline for the Prevention of Falls in Older Persons:JAGS 49:664-672,2001.