
ホットパックはリハビリの臨床でも頻繁に使用される非常に便利な道具です。しかし、どんな理由でどんな効果があるのか?改めて考えてみるとはっきり説明できません・・・そこで、様々な教科書を参考に、ホットパックの禁忌と適応、使用方法、効果、リハビリでの便利な使い方までまとめました。
ホットパックとは?
暖かい物質で体(患部)を覆う、温湿布の総称をホットパックと言います。日本ではシリカゲル(珪酸)を熱い木綿などの袋に入れたものを指す場合がほとんどです。

ホットパックの温熱作用は、この原料であるシリカゲルの作用といっても良く、シリカゲルは比熱の極めて高い水を多く取り込むことができるのが特徴で、加温装置(ハイドロコレーター)で治療上必要な温度に温めた水で熱容量を増やして患部を温めるものです。
シリカゲルはゲル状で、熱伝導率のきわめて低い空気の層を形成して、ゆっくりと熱を放出する性質があるため、長時間の保温効果が発揮できます。
ホットパックの温熱作用による生理的反応
ホットパックを生体に用いると以下の効果があります。
- 代謝の亢進
Vant Hoffの法則によると、1℃組織の温度が上昇すると13%程度の代謝の亢進が起こるとされています。代謝の亢進とは細胞の活発化を意味します。
- 血管拡張作用
ホットパックにより温められた組織は平滑筋にある温度受容器が興奮して、反射的にその部分の血管を拡張させます。
この反応は局所のみの場合における生体の反応で、部位・範囲が広く、かつ上昇温度も上がると、視床下部の温度調節機能が働いて全身の皮膚組織の毛細血管が拡張します。
- 軟部組織の伸張性の増大
温熱作用により、結合組織の弾力性が向上し、粘性が低下、結果伸張性が増大します。お風呂上りにストレッチをするといつもより良く伸びるのと同じですね。
なので、リハビリでストレッチをする前にホットパックで温めておくと効果が高くなります。
しかし、ホットパックの熱は表層から約1㎝程度までしか届かないのでターゲットとする筋まで届かないことがあるので注意が必要です。
- 温熱による皮膚の受容器刺激による作用
皮膚受容器の温熱刺激は、求心性の神経線維を経由して中枢部による筋緊張の低下・鎮痛作用をもたらすと考えられています。
- 細胞破壊作用
これは私も知らなかったのですが、正常組織よりも低温でしか発育できない各種の細菌に対して温熱作用で殺菌できるそうです。
伝導性温熱療法では特に皮膚真菌などの表在性の感染を予防できるとされています。

皮膚表面は10分で31度から41度まで約10度上昇するのに対して、体表から深部1センチの組織では15分で約2度、深部2センチでは30分でもほとんど温度は変化がありません。せいぜい深部1㎝までしか温熱効果は届かないそうです。
参考文献)理学療法技術ガイド 第2版
禁忌と適応
ホットパックの禁忌と適応は疾患の病理だけでなく、温熱の生理的作用を相互に考慮して決める必要があります。
禁忌
- 非代償性末梢循環障害
- 炎症急性期
これらの状態にある組織に温熱を加えて代謝が亢進すると、その組織は酸欠状態になり、細胞活動が破綻します。
他には、
- 創傷
- 循環障害
- 知覚障害
がある方が禁忌です。
温熱の生理的作用の注意点
温熱作用
代謝の亢進により、心拍数、心拍出量、呼吸数の増大により心臓・肺、血圧上昇に伴う心肺機能、血管への負担の増大が懸念されます。
また、体力の著しく低下している状態(例えば、肺炎、発熱状態)などでは代謝の亢進によりさらに症状が悪化する可能性もあります。
温熱感は自覚症状であるため、患者本人に温覚が備わっていることを確認する必要があります。
血管拡張作用
患部の血管が拡張し、その部分に血液が循環する量は増えますが、全身の血液量は一定です。
すなわち、他の部位の血液循環量が低下する可能性があり、貧血症状を起こしたり、内臓の血液が減少すれば消化不良になる可能性があります。
適応
糖病病や肥満に対しては、広い範囲に温熱を作用させると糖や脂質の代謝が活発になり、インスリンの需要が軽減されるため有効とされています。
また、温熱には血管拡張作用があり、老廃物や循環障害による機能障害や痛みが軽減します。
詳細の適応と禁忌は下の表にまとめています。
生理的作用 | 適応 | 禁忌・注意点 |
代謝の亢進 |
・糖・脂質代謝の亢進(糖尿病・肥満) ・神経賦活・伝送速度の促通(パフォーマンスの向上) |
・身体負担の増大 ・組織壊死(循環障害・浮腫・炎症急性期) ・異常高体温(体温調節機能の破綻、衰退した患者)
|
血管拡張作用 |
・鎮痛物質の拡散 ・組織への栄養の供給 |
・出血(外傷急性期・血友病) ・転移(悪性腫瘍・病原菌) ・低血圧 ・熱性浮腫 |
軟部組織伸張性の増大 |
・拘縮の軽減 ・筋パフォーマンスの増大 |
異常可動性 |
温熱の皮膚受容器刺激による作用 |
ゲートコントロール理論による鎮痛作用・リラクセーション | |
細胞破壊作用 | 殺菌作用 | 熱傷(温覚鈍麻、意識障害者、末梢神経障害) |
使用方法のポイント
上記のように、深部1㎝程度まで熱を伝導させるためには、最低10分程度一定の肢位を保持し続ける必要があります。
使用する患者さんにとって安楽な肢位をまず見つけておく必要があります。
- 使用する部位に対してできれば上にかぶせる様にホットパックを乗せると良いです。これは、体の下に敷いてしまうと体の重みでホットパックが圧迫され、熱伝導が急速に行われて熱傷の危険性が高まるためです。
- 患者の治療部位はできれば露出させる方が良いです。
多くの施設・病院ではハイドロコレーターと言う加温装置にホットパックが浸けてあることが多く、この方法で使用されるホットパックは湿熱法と言い、水分によって温熱作用を高める方法です。
熱伝導率は高いのですが、服の上から使用すると衣類を湿らせてしまい、治療が終わった後に湿った衣類から水分が蒸発することで急速に冷却され、逆効果になってしまう恐れがあります。
- 充分に水を切ったホットパックにビニール袋をかぶせ、水分が漏れないようにして、バスタオルは8~10枚程度敷いて使用します。
ホットパック使用中の確認について
使用中は患者さんの感想を適宜確かめながら行います。
「熱い、痛い、ヒリヒリする」などの訴えがあった場合、一時中断し、治療部位を確認するようにします。患部が赤くなっていたら要注意です。
その後もヒリヒリする感覚が残存すれば熱傷及び低温やけどの可能性があります。
ホットパックを使用して8~10分で表面温度は最高点に達し、その後温度が下がっていきます。低い温度でも長時間の使用で低温やけどになる可能性があるため、治療時間は10分程度を目途に考慮すると良いでしょう。
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私がリハビリの臨床で実際に使っている上での感想
物理療法の教科書を読み、禁忌・適応を確認しながらリハビリでホットパックを施行していますが、かなり良く効きます。
特に筋・筋膜性の腰痛など筋の凝りが元で疼痛を訴える患者さんの場合、効果大です。
冬など外気温が低下して痛みの訴えが増大するような患者さんの場合、ホットパックをするだけで、かなり訴えが軽くなるのを臨床で何度も経験しました。
(経験上、お風呂に入ると症状が軽くなる患者さんもホットパックで疼痛が軽くなる可能性が高いです。)
ホットパックは深部筋の筋緊張による疼痛には効かない?
調べると「ホットパックは深部の筋肉に温熱作用が届かない」と書かれていることが多いです。
しかし、心理的なリラクセーション効果でしょうか?結構深部の筋の疼痛にも効果があります。
これは恐らく筋緊張と精神的な緊張は関連性があるためだと思われます。(精神的な緊張と筋緊張の関係は、”筋緊張とはなにか?”の記事に詳しく書いています。)ほんわか暖かいホットパックで体を温めながら、適度なストレッチ・リラクセーションをされれば、そりゃ気持ち良くなって筋緊張も緩みますよね。
リハビリ開始時にストレッチをすることが多いと思いますので、施設・病院などであれば、ストレッチをしながらホットパックを使用すれば、ストレッチが終わる頃には疼痛が緩和されていて、時間もかからないし、おすすめです。
特に脊椎圧迫骨折でリハビリをされている方は、腰背部痛に悩まされている方が多いので使ってみると良いと思います。
ちなみに脊椎圧迫骨折についても記事を書いているので、お時間がある方はどうぞ。
市販のホットパック
探してみるとこんなものがありました。
こちらは冷やしても使えるので、一年を通して使用できそうです。
使い方を間違えない様に充分に患者さんに使い方を教えてから勧めましょう。
市販のものは電子レンジで温めて使用するものが多いですね。こんな簡易型の使い捨てタイプのホットパックもあります。
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はじめまして、
ホットパックをあててるときに膝の内側がヒリヒリするのは気持ち的なものでしょうか
(診断は変形性膝関節炎、両膝の関節に炎症がみられてて関節の隙間はやや狭くなってる」と説明がありました。
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コメントありがとうございます。ホットパックは炎症している部位には禁忌になります。使用しないで下さい。