
リハビリの臨床では、頻繁に異常感覚である”しびれ”を訴える患者さんに遭遇します。
しびれは自覚的なものであるために、疼痛と並んで捉えどころのないものです。「しびれ」とはどんな感覚で、どう治療していけば良いのでしょうか。
「しびれ」という言葉が神経疾患がある患者さんから頻繁に聞かれます。
しかし、この「しびれ」はなかなかの困り者で、本当に多種多様な意味があり、正しい診断・治療やリハビリを進めるにあたって、その内容を的確に把握することが重要です。
「しびれ」の定義は?
患者さんが「しびれる」と言った場合、
- 異常感覚
- 感覚鈍麻や感覚の消失
- 運動麻痺や筋力低下
- テタニーなどの不随意運動
などが可能性として含まれています。
触るなど、何らかの刺激を与えた時にしびれる感じがすると言う場合、「錯知覚」といい、臨床上ではしびれとは別のものと定義されます。
何も刺激を与えない状態でジーンとしたり、ビリビリしたりするなど、自発的に不快な感覚を生じる場合が「異常感覚=しびれ」と定義されます。

しびれは、例えば脳卒中などで生じる感覚鈍麻・消失とは違い、必ずしも原因を客観的に証明できない場合もあり、患者さんの日常生活やリハビリの意欲を著しく妨げることが多いです。
しびれ感を訴える患者さんの診察に関しては、その時々の患者さんの精神状態が「しびれ感」を重くも軽くもするという事を考慮しておく必要があります。
また、しびれのもたらす精神面の悪影響を充分考慮する必要があります。
例えば、私が経験したケースでは、脳卒中後遺症の方で、発症後のリハビリに意欲的に取り組んでいる時に感じるしびれはあまり気にならず、リハビリの妨げにはなりませんでしたが、プラトーといわれる6か月頃を過ぎるあたりからしびれによってリハビリが進まない、と訴えはじめ、不安感が強くなる患者さんがいました。
しびれがリハビリを阻害しているわけではない旨を何度も説明しても、考え方を変えて頂くのに苦労した経験があります。
「しびれ」の評価
最も大切なことは、しびれの原因をできるだけ客観的に診ることです。
原因がわかることは、本当に悩んでいる患者さんにとってそれだけで問題の半分も解決したような気になるくらいのものです。
しびれは大脳から脳幹、脊髄、神経根、末梢神経のいずれでも起こる障害であるため、障害部位が特定できれば、おおよその原因も判明します。
まず、どこの部位の障害であるかを念頭において評価をすすめていくことが必要です。
基本的にしびれがある患者さんの異常感覚の分布と起こり方を詳細に問診することで多くのしびれは診断可能と言われています。
しびれの問診①部位
末梢神経の分布に一致してるか、髄節性か、ああるいは手袋靴下型かを細かく尋ねます。
これらを区別できれば、
- 単神経障害
- 神経根障害
- 多発性ニューロパチー(末梢性神経障害)
かを比較的簡単に判断できます。
しびれの問診②起こり方
しびれの起こり方にも疾患ごとに特徴があります。
- 徐々に起こってきたもの
→慢性疾患によるもの
- 何か重いものを持った時に起こった
→ヘルニアなどの外傷性
- 手根管症候群
→夜間や、明け方に強く感じる
- 腰痛症
→歩行や特別な姿勢で誘発される
- 頸部を伸展、もしくは屈曲させた時に上肢か下肢に強くしびれが出る
→頸椎での障害
- 股関節の屈曲で症状が強くなる
→腰椎の神経根症状
- 咳や息んだ時に下肢がしびれる
→胸髄の圧迫性病変
デルマトーム(神経根支配域)
先ほど述べたように、部位を特定できれば、しびれの評価は判明することが多いです。その時にこのデルマトームをある程度覚えておくと大変有効です。ちなみに理学療法士の国家試験にも頻出されます。

特に、L4.L5.S1の部位の神経根症状を訴える方が多いので、下腿部のデルマトームを覚えておくと役立つかもしれません。
末梢神経障害

末梢神経障害は手指周囲の障害に臨床で良く遭遇するので、上肢を中心に覚えておくとよいでしょう。
正中神経(手根管症候群)
末梢神経障害で代表的な正中神経麻痺(手根管症候群)についての評価法は下記になります。
Phalen徴候
両側の手の甲を合わせます。両側から力を入れ、1分以内にしびれが増強すれば陽性です。
Tinel徴候
手根部を軽く伸展させて、手根管を軽くたたくと末梢にしびれが響くと陽性です。この評価法は手根管症候群や正中神経麻痺以外の末梢神経麻痺でも使えます。肘菅症候群では肘を叩打すればしびれが響きます。
頸椎神経根症状
Spurlingテスト
座位にて頸部を患側へ向けて強く垂直に圧迫すると、肩から患側上肢に向かって強い痛みが生じます。
椎間孔を徒手的に狭窄させ、神経根を圧迫する評価ですので、強くやり過ぎない様に注意して下さい。
Eatenテスト
座位で頸部を患側へ傾けて患側の上肢を引っ張ると、上肢にしびれが誘発されます。
これは神経根を伸張し、疼痛を誘発しています。
腰椎神経根症状
Lasegue徴候
背臥位で寝て、下肢を伸展位で股関節屈曲させます。いわゆる”SLR”です。
下肢に放散痛が誘発されれば陽性です。神経根が伸展し、脊柱管内で前方へ偏移するためヘルニアなどの場合に陽性となります。
深部腱反射
深部腱反射 | 末梢神経 | 脊髄レベル |
上腕二頭筋反射 | 筋皮神経 | C5 |
腕橈骨筋反射 | 橈骨神経 | C6 |
上腕三頭筋反射 | 橈骨神経 | C7 |
膝蓋腱反射 | 大腿神経 | L4 |
アキレス腱反射 | 脛骨神経 | S1 |
深部腱反射は筋紡錘を刺激し、感覚神経を近位側に向かって伝わり、後根から脊髄に入り、前角細胞を興奮させることで生じます。
従って、筋力低下が無くても、感覚神経の障害があれば腱反射の消失、低下がみられます。
しかし、深部腱反射の消失・低下は他の疾患でも出現しますので、腱反射低下=感覚障害とはならないので注意が必要です。
他には、頸椎疾患が疑われる場合は、頸椎のX線やMRIが非常に有効です。同じように頭蓋内疾患であればCTやMRIが有効です。
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障害別のしびれの特徴
原疾患ごとに「しびれ」にも特徴があります。把握しておくと参考になります。
脳血管障害
発症当初は麻痺や感覚鈍麻が見られ、時間の経過と共にしびれ感が増強してくることが多いです。
通常は運動障害のある方の上下肢に自覚しますが、視床における麻痺では運動障害はあまり関係なく、「顔面と手」、「顔面と手と足」の組み合わせでしびれや痛みが起こります。
これはいわゆる視床痛と呼ばれるものです。
頸椎椎間板ヘルニア、変形性頚椎症
成人におけるしびれを訴える患者で頻度の高い疾患です。
しびれの範囲は髄節性の分布を示し、脊髄下降路の圧迫を伴えば下肢にも腱反射亢進や痙性などの異常所見が見られます。
症状は朝の起床時に強いです。
spurlingテストなどを行い、疑われるときはX線やMRIによって確認されます。
カラーの着用や牽引療法がスタンダードな治療法ですが、筋委縮や筋力低下を著明に伴うものは、外科的手術(椎弓切除術、前方固定術など)を検討します。
手根管症候群
中年女性で頻度が高く、事務の仕事など指を良く使う職業で高頻度で見られます。
その他にも、内科的疾患(甲状腺機能低下症、慢性関節リウマチ、先端巨大症など)に伴うこともあります。
手根管内で正中神経が圧迫され手の平がしびれる症状があります。
明け方に強いしびれで目が覚めると訴えを聞くことが多いです。
上述のPhalen徴候やTinel徴候が診断に役立ちます。重症例では母指球筋に萎縮をきたす場合があります。
悪性腫瘍に伴う末梢神経障害
悪性腫瘍(特に肺がん)において癌の転移や浸潤がないにもかかわらず、神経症状を呈する場合を傍悪性腫瘍症候群と呼び、その中に末梢神経障害が含まれます。
一般的に、傍悪性腫瘍症候群はその半数が悪性腫瘍の発見以前に発症しており、他に原因の見つからない頑固なしびれを認める場合は徹底的な悪性腫瘍の検索が必要です。
まとめ
しびれは自覚的な症状であり、訴えが強いわりに客観的所見に乏しい場合が多いです。
しびれは特にその時々の感情や心理によって軽くも重くもなるので、患者の訴えをあまり深刻に捉えて患者を逆に不安にさせたり、あまり軽く考えて「気のせい」などと片付けると、患者さんのセラピストへの不信感にもつながります。
患者さんの訴えを真摯な態度で耳を傾け、丁寧に評価し、慎重な対応・治療が必要です。