
仙腸関節の構造やその障害、リハビリ方法について解説しています。
仙腸関節とは?
仙腸関節は骨盤の仙骨と腸骨を連結している関節です。


この仙腸関節の特徴的なところは、関節でありながら、ほとんど動かない、と言うところにあります。
関節は本来、人体が運動するために各部を動かす”連結する”という役割がありますが、仙腸関節はほとんど能動的に動かすことはなく(できない)、脊柱や下肢の運動時に僅かに動き、衝撃を吸収する働きが主となります。
仙腸関節の関節としての機能
仙腸関節は本来荷重関節で、前方は
- 恥骨結合
で強固に結合されており、
後方は、
- 後仙腸靭帯
- 仙棘靭帯
- 腸腰靭帯
などの靭帯で補強され、外力に対して大変強い構造を持っています。
関節の分類上は平面関節に分類されます。
仙腸関節は乳幼児期に立位をとらず荷重が大きく加わらない時期では平面であり、関節としてあまり機能していないと言われています。
発育するに従い、座位や立位を取るようになると荷重が関節面に対して剪断力として加わります。
この状態になると、始めて関節面が僅かに動くようになり、鞍関節に近い形状になり、荷重関節の特徴を有するようになります。
高齢になると仙腸関節は骨化し、不動になると言われることもありますが、自身の臨床所見では僅かに可動性を有していることが多く、若年者よりも可動性が大きい場合もあります。
仙腸関節の形状

一般的に、仙腸関節の形状は耳介状の関節面を持つといわれていますが、個人差が大きいです。
これは、仙骨と腸骨の角度によって形状に個体差が大きいためです。
腸骨に対して仙骨が前傾する場合は、上図のようにL字型の関節面を持つことが多く、腸骨に対して仙骨が後傾する場合は長楕円形の形状になります。
これらの形状の違いが、仙腸関節の運動の個人差となります。
仙腸関節の位置による固定性の違い
仙腸関節は頭側から荷重が掛かると固定される構造をしています。
この固定力が最も強力になるのは、腸骨に対して仙骨が起きた状態、いわゆる後屈の位置です。
この状態にある時に、恥骨結合と後方の靭帯で固定した骨盤輪へ仙骨の楔をふかく打ち込んだ状態となり、最も強固な固定(close-packed position:CPP)が得られます。
この時は外力が加わっても動揺しない関節となります。
何か重いものを持ち上げる時に仙骨の後傾位が良いとされているのは、この理由によります。
仙腸関節の骨運動
仙腸関節の運動は、体幹や下肢の運動と大きく関係しています。
下肢に関しては、上肢における上腕骨と肩甲骨の関係性程ではないにしても、腸骨の運動が股関節の見かけ上の可動域を広げるような働きがあると考えられています。
仙骨の上部に連結している腰椎に関しても同様で、仙骨の動きによっては腰椎の可動域が見かけ上上がります。
仙腸関節の骨運動は主動作筋がないため、受動的です。
つまり、体幹や下肢の運動に付随して仙腸関節の運動がおこります。
この運動は、
- 前屈運動と後屈運動
- 上下移動及び前後回旋の組み合わされた運動
の2つに分類されます。
前屈運動と後屈運動
体幹の屈曲および伸展によって対称的な運動に伴って起こります。
前屈運動は矢状面上の運動で、腸骨に対して仙骨がおじぎするような動きです。
後屈運動は岬角が上方へ移動し、仙骨が後上方へ移動する運動になります。
腸骨の上下移動・前後回旋
腸骨の上下移動および前後回旋は単独ではおこらず、常に上方移動には後方回旋が、下方移動には前方回旋が組み合わされておこります。
これは、仙腸関節面のねじれにより起こると考えられています。
腸骨の上方移動・後方回旋時には仙骨は反対方向に軽度回旋し、棘結節が同側へ移動し、前屈運動が生じます。
反対側の仙腸関節では腸骨の下方移動、前方回旋及び後屈運動がおこります。
骨運動と関節包内運動
前屈運動と後屈運動中の関節包内運動には、腹側及び背側方向への滑り運動と尾側及び頭側方向の滑り運動があります。
参考)リハビリで重要な「関節可動域制限の因子・原因、エンドフィールの種類」について分かりやすく解説
仙腸関節の滑り運動の範囲には個人差があるといわれています。
仙骨が寝た位置、すなわち水平位に近いものは可動性が高く、仙骨が垂直に近いと可動性が低いと言われています。
実際の臨床では、水平位に近い仙骨の可動性は前後方向の遊びが大きく、垂直位の仙骨では上下方向の可動性が大きい場合が多いです。
これは上述の関節面の形状との関係性によるものとされています。
つまり、関節面のL字型と長楕円形の形状の違いによるところが大きいといわれています。
仙腸関節障害について
何らかの問題があって仙腸関節の関節運動が阻害されると、「仙腸関節障害」が起こります。
仙腸関節は仙骨と連結しており、仙骨の上には背骨・脊柱が連結しています。
脊柱はS字の弯曲を描き、重力に抗して活動する人体に掛かる衝撃を分散する機能があります。
仙腸関節はごくわずかな動きによってこの脊柱の緩衝作用を補助しています。
これが障害されると、腰椎や脊柱に過剰な負荷がかかり、様々な障害が発生することがあります。
仙腸関節障害の症状
仙腸関節障害は関連痛を誘発し、
- 片側の腰・臀部痛
- 下肢痛
などの症状が出現するとされています。脊柱菅狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアでも似た症状があるため、非常に判別が難しいです。
脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアの場合、MRIなどの画像で診断が可能ですが、仙腸関節障害の場合、画像にはその変化が現れにくく、診断は容易ではありません。
診断は仙腸関節部を徒手的に圧迫し、疼痛の増減の有無を確認することも有効とされています。そして、以下に述べる治療法を行い、痛みが緩解するようであれば、仙腸関節障害と特定できる、とされています。
ぎっくり腰のような急性腰痛の一部は、仙腸関節の捻挫が原因の場合もあります。
また、非特異性腰痛の約10%程度が仙腸関節障害に起因するもの、とする説もあります。
仙腸関節由来の痛みの腰痛に占める頻度は約10%で,若年者から高齢者までの男女に発症する.
MRI,CTで特異的な画像所見が得られず見逃される例が多い.
その自覚疼痛部位は仙腸関節裂隙の外縁部を中心とした腰殿部が多く,鼡径部の痛みも特徴的である.
多くの例でdermatomeに一致しない下肢の痺れや痛みを伴う.
また圧痛が上後腸骨棘およびその周辺,仙結節靱帯,腸骨筋部で多くみられる.
一部引用)日本腰痛学会雑誌Vol. 13 (2007) No. 1 P 40-47
仙腸関節障害由来の腰痛の場合、
- 長時間椅子に座れない
- 仰向けに寝れない
- 痛いほうを下にして寝れない
- 歩行開始時に痛みがあるが、徐々に楽になる
という症状が特徴的です。
私の臨床経験では、このような仙腸関節障害由来の腰痛の方に出会ったことはめったにありません。
普段腰痛で悩んでいる方で、医師にレントゲンを取ってもらっても「腰や骨に特に問題がない」と言われてしまい、これらの症状に当てはまり、仙腸関節部に違和感がある場合は仙腸関節障害由来の腰痛の可能性もあります。
仙腸関節障害は診断が容易ではないところがネックであり、ネットなどの情報ではそこに付け込んで「腰痛は仙腸関節が原因だ!」などとやや誇張して表現している場合もあります。
しかし、私の経験から言っても、腰痛患者で原因不明と医師に言われた場合に疑ってみる程度のものであり、当たり前の話ですが、なんでもかんでも仙腸関節が原因で腰痛が起きるわけはありません。
仙腸関節障害を誇張して表現しているネットの情報には注意が必要です。
仙腸関節障害の治療
治療は骨盤ゴムベルトの装着や仙腸関節ブロックの保存療法が効果的であるとされています。
保存療法では疼痛の軽減が困難な場合や日常生活や就労に著しい障害を伴う例には、仙腸関節固定術が有効であるとされています。
スポンサーリンク
仙腸関節とリハビリ
仙腸関節の可動性と固定性を徒手的に矯正し、関連痛に対してアプローチするリハビリ治療がAKAです。
主に側臥位などで仙腸関節を徒手的に圧迫し、転がり、滑りなどの関節包内運動を促していくことで、本来の仙腸関節の動きを引き出し、関連痛を緩解させる方法です。
施術中は特に痛みなどもなく、臀部に触れられているだけ、というかんじですが、施術後実際に股関節の可動域が上がったりします。
また、変形性股関節症などの多くの症例で生じる腰痛は、仙腸関節の動きを出すAKAを施術することで改善することも多いとされています。
従来の治療法で改善がみられない場合、試してみるとよいでしょう。
また、拘縮などで関節包内運動が出現しにくく、ストレッチやROMで疼痛が出現しやすい場合に、AKAを行うことで、比較的痛みが少なく、関節の動きを出すことができます。
AKAとモビライゼーションの違い
AKAもモビライゼーションも非常に似ているところがあります。
参考)ROMの効果を劇的に高める!モビライゼーションの方法とその実際
両者に類似する点としては、
- 関節包内運動を改善する
- 四肢関節の治療において関節運動学的な要素を利用する
ことが挙げられます。
しかし、モビライゼーションは関節包内運動を促すことを目的としていますが、AKAはPNFと組み合わせて行ったり、筋の収縮を促しながら行うことで効果を増大させるような技術もあります。
AKAは運動療法とも融合した技術である点が相違点といわれています。
変形性股関節症と仙腸関節の関係性
変形性股関節症を有する症例では、仙腸関節にねじれが生じていることがあります。
ねじれとは、左右の仙腸関節の固定性に差がある状態のことです。
参考)変形性股関節症のリハビリ 痛みの原因と臨床で役立つ運動療法・評価のポイント
分かりやすい症例では、X線で仙骨がねじれ、患側に回旋している様に見えることがあります。
当然、それに伴い腰椎にも回旋ストレスが加わり続けることになり、腰痛が出現しやすくなります。
仙腸関節のストレッチ
そもそも「ストレッチ」というのは「筋を伸ばすこと」を指し、仙腸関節をストレッチする、と言う言葉は適切ではありません。
実際に、リハビリの臨床では関節に対して「ストレッチする」という言葉は使いません。
仙腸関節の可動性が低下しており、腰痛や下肢の放散痛などがある場合は、ストレッチではなく、仙腸関節周囲の筋肉をマッサージしてみると良いと思います。
方法は、仰向けで寝て、お尻の下にテニスボールを入れてコロコロとゆっくり体を動かして転がし、仙腸関節周囲の筋肉をほぐします。
まとめ
仙腸関節は人体でも非常に珍しい構造を持つ関節で動き過ぎてもいけないし、固すぎてもいけない非常に繊細な関節です。
しかも、その状態が画像所見でも確認しにくく、動作や疼痛などの症状で判断していくしかありません。
ゆえに、腰痛のほとんどの原因が仙腸関節に由来するとやや誇張された表現が散見されますが、当然、仙腸関節障害も腰痛症のあくまで一つの要因でしかなく、慎重に原因を探っていく必要があります。