
リハビリは誰のためにするものでしょうか?もちろん、基本的には本人(患者)のためであると思います。しかし、介護者のために行うリハビリも存在します。今回はそんな「介護者のためのリハビリ」という視点についてです。
リハビリは点を線でつなぐこと
リハビリでは、患者さん・ご家族さんから直接話を聞いたり、各種の評価を行って情報を集めることが基本になります。
まずは、情報を集める。
そのために各種のリハビリにおける評価があります。
しかし、この情報を集めただけの状態では、点でしかありません。
決して患者さんの全体像が診れている、もしくは理解している状態とは言えないと思います。
そこからそれらの情報をつなぎ合わせ、点と点を線で結ぶ作業が必要です。
患者さんのあらゆる身体状態や生活環境などを「線」で捉えることができて初めて、具体的なリハビリのアプローチの方法を検討することができます。
点である情報を繋いでいく作業を行っていると、「介護者のためにリハビリをした方が良いのかもしれない」というケースが出てくることがあります。
介護者のためのリハビリとは?
例えば、特別養護老人ホーム(特養)に入所している方で、要介護度5。
ADL(日常生活動作)では歩行は不可能。
車椅子で移動しており、日中ほとんどベッドの上で過ごしている患者さん。
もちろんトイレはおむつです。いわゆるほとんど寝たきりです。
臥床時間が長いため、下肢などの各関節の拘縮が起きるかもしれない、実際に関節が動きにくくなってきている。
そういった状態にある患者さんがいるとします。
廃用症候群予備軍で寝たきりの生活を送っている方は、特に下肢で股関節内旋の関節可動域が低下していることが非常に多いです。
股関節内旋の関節可動域が低下しているとどうなるでしょうか?
日常生活で股関節内旋の可動域を要する場面は歩行時の股関節伸展時です。
(股関節内旋制限があると立脚後期に骨盤が回旋し、非常にエネルギー効率の悪い歩行になります。)
もしくは、床に落ちているものを体を捻って拾う時くらいです。
リハビリとしては重点的にアプローチすべき箇所ではないかもしれない、と思うかも知れません。
なぜなら、自分でほとんど動けない方にとって、歩行も床の物を拾う動作もあまり日常生活に関係ないからです。
しかし、私はこの方にとって股関節内旋の関節可動域訓練を行うことは非常に大切だと思います。。
これは、「介助者のためのリハビリ」という視点がある方は理解できると思います。
股関節内旋の関節拘縮はアプローチする必要がない?
股関節内旋のROMを改善しても、歩行できない方なら意味がない、と思われる方もいると思います。
しかし、寝返りを打つときに股関節内旋のROM(関節可動域)が低下していると非常に寝返りしにくくなります。
寝返りをする際にリハビリ上最も重要な点は、
- 肩甲帯
- 骨盤帯
の回旋です。
参考)簡単に理解できて効果的!基本動作の評価方法と効果的な練習方法
股関節内旋制限があると、骨盤帯を回旋させることが困難となります。
よって介助しても寝返りが非常にしにくくなります。
股関節内旋ROM低下でおむつ交換がしにくくなる
また、療法士でオムツ交換をしたことがある方はご理解頂けると思いますが、オムツ交換の際に股関節内旋制限があると、寝返りした状態を保持することができないため非常に介護がしにくくなります。
側臥位で保持することができないためです。
そうすると介助者の介助量は増大します。
介助者の介助量が増大するとどうなるでしょうか?
施設職員も人的に介護力が充分ではありません。
介護がしにくい方だとどうしても介護されにくい環境になってしまうことも考えられます。
まとまった時間が取れないために、おむつ交換の頻度も減り、仙骨部に床ずれができやすくなるかもしれません。
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移乗介助もしにくくなる
また、患者さんがベッドから車椅子へ移乗する時に、股関節が外旋した状態だと、介助者が被介助者の足を挟むことができなくなるため、移乗介護が大変しにくくなります。
そうなると、ベッドに寝たまま水平移動するようにして移乗するようになることも珍しくありません。
こうなると、移乗という日常生活で足を使うチャンスが無くなってしまい、いよいよ足が弱っていく負の連鎖が始まってしまう可能性が高くなります。
移乗ができなくなる、ということだけでなく、その先の日常生活で足を使う機会が減る、ということまで考えてリハビリプログラムを考えていかなければなりません。
リハビリの意義・目的には「介助されやすい体を作ること」も含まれる
寝たきりの患者さんに関節の拘縮予防を行うことだけがリハビリではありません。
ADLでほとんど何も自身で行えない方の場合は、「介護されやすい体を作る」こともリハビリの重要な目的になることもあります。
その方の介護の状況を確認し、より介護されやすい体になるようにリハビリをすることで、手厚い介護が受けられる可能性が高くなり、介護者も楽だし、本人にとっても良い効果があります。
そのためには、実際に介護されている場面を見学したり、介護者の方に直接話を聞くこともリハビリでは大切な情報収集の過程です。
まとめ
リハビリではADL(日常生活動作)は当然考慮してプログラムを立てますが、それだけではとても充分ではありません。
対象者のADLに関係を与える因子にも着目し、リハビリプログラムを考えて練っていく必要があります。
- 介護するだけ
- 歩行するだけ
- 筋力トレーニングするだけ
それらの点だけであれば私達療法士や専門家でなくても誰でも行うことができます。
療法士にしかできないこと。
それは点と点を結んで線にして患者さんの環境を捉えることです。
そこに影響が大きい因子を探し出し、医学的知識を持ってアプローチすることが重要となります。
各種の治療技術を使うにも、「どこにどのような目的で行うのか」、そこを明確にしておかなければあまり効果もなければ意味がありません。
療法士として線として繋がりが見えていて、先を見越したアプローチをしていれば、ただの歩行介助だけでも大きな成果を出すこともできます。
そのためには情報収集をすること。
しかも、できるだけその患者さん個人にしかない情報を集める必要があります。
それは、個人の趣味・嗜好だけでなく、
- 介護者はいつもどんな風に介助しているのか?
- 介護者はどんなところに介護のしにくさを感じているのか?
- その人の周囲にどれくらいの介護力があるのか?
など周囲の細かい環境を熟知しておく必要があります。
この情報はもちろんネットにも載っていないでしょうし、家族さんだって把握していないかもしれません。
場合によっては本人も、施設職員も、はっきり把握していないこともよくあります。
そういった情報をどれだけ集められるか、そこが介護の現場のリハビリにおいて最も重要なプロセスになります。