
褥瘡(じょくそう)は”床ずれ”とも呼ばれます。
褥瘡とはどんな状態なのでしょうか。褥瘡ができる原因や対策、好発部位を確認しておきましょう。
褥瘡は一昔前は”床ずれ”などと呼ばれ、医療も現代のように整っていない時代では、寝たきりの方に多く発症するごく一般的な病態でした。
しかし、医療が発達し、褥瘡の原因が解明されるにつれ、褥瘡は正しい方法を実績すればかなりの確率で予防できることが分かり、今では本当に酷い状態の褥瘡を目にする機会はかなり少なくなっています。
病院や施設でも患者さんに褥瘡ができてしまうのは、”ネグレクト(怠慢)である”と言う認識が普及しつつあり、医療・介護関係施設では褥瘡予防に尽力しているところも増えてきました。
また、褥瘡は治癒がしにくいことでも有名で、”いかに褥瘡を予防するか”というところがすごく大切です。
今回はそんな褥瘡についてご紹介します。
褥瘡(じょくそう)とは?
褥瘡とは、皮膚や筋肉などの組織が長時間圧迫され続けることにより組織が壊死してしまった状態のことをいいます。
そもそも人体の各組織は、血液が運んでくる栄養や酸素によって、組織としての活動を行うことができ、健康な状態が維持できています。
健康な人は、普通長時間座ったり、寝ている時に無意識に体動があり、体の局所に圧迫が加わり続けることを避けています。
映画館でご自身が座っている時を想像してみて下さい。
大体2時間の上映時間で、後半になるとみんな、もぞもぞとお尻の位置を微妙に動かしていますよね。
しかし、寝たきりなどで体動が充分に行えないと、状況によっては体の局所に長時間圧が加わり続けることがあります。
結果、圧力によって組織への血流が遮断され続けると、その組織は栄養不足、あるいは酸欠状態になり、壊死(細胞が死んだ状態)してしまいます。
褥瘡は、寝たきりなどにより、床や寝具と長時間同一部位が接触し続けた結果に起こる細胞の壊死・皮膚の損壊のことです。
褥瘡の原因は?
褥瘡が発生する原因は大きく分けて二種類に分けることができます。
- 外部要因
- 内部要因
です。
外部要因
外部要因としては、ベッドや床から皮膚への長時間の圧迫が挙げられます。
- 垂直に作用する圧縮応力
- 摩擦・ずれにより生じる引っ張り応力・剪断応力
一般的に局所に圧力が加わり続けると褥瘡になると考えられており、イメージとしては垂直に作用する圧縮応力を想像している方が多いと思います。
しかし、実際は垂直でない、ずれるような横方向への応力によっても褥瘡は発生します。
内部要因
- 低栄養状態
- 運動麻痺や感覚障害(脳血管障害後遺症、脊髄損傷などが代表例)
- 加齢
- 糖尿病
などが挙げられます。
感覚障害があると、日中離床されて車椅子に座っている方でも、圧迫されていることに本人が気付かずに、知らないうちに仙骨部に褥瘡ができていたりすることもあります。
褥瘡の好発部位は?
褥瘡が起こる原因は、上述の様に、寝たきりのような状態になり、床や寝具・ベッドと皮膚との接触が長時間起こるために発生します。
よって、褥瘡の好発部位は、寝ている時に床と接触しやすい部位になります。
寝方によって、接触しやすい好発部位は異なります。
- 仰向け(背臥位)では、肩甲骨部、仙骨部、踵部、後頭隆起など
- 横向きでは、大転子部、外顆部、骨盤(腸骨稜)、肘頭外側部、耳、肩など
- 腹臥位では、鼻、恥骨部など、足先など
- 座位では仙骨部
です。


腹臥位で長時間臥床されている方は稀です。
また、寝たきりの方は自力で動くことができないため、普段は仰向けで寝ていて、離床する時には車椅子に乗る、という方が多いです。
なので、実際に一番褥瘡が起こりやすい部位は、座位と仰向け両方で圧迫されることになりやすい仙骨部です。

これらの部位に共通するのは、全て骨が突出している部位であるという事です。
骨が突出し、尖っている部位はその分接触している際に受ける圧力が大きくなります。
よって、より褥瘡が発生しやすくなります。
脂肪が少ない高齢の女性などは骨がさらに突出しやすく、褥瘡が非常にできやすい状態にあるため、特別な注意が必要です。
褥瘡を予防するには?
日本褥瘡予防学会、ガイドライン第3版を参照しつつ、自身の医療現場での経験も織り交ぜて予防法を記します。
褥瘡ができる原因の外部要因、内部要因を理解することで適切な予防策が図れます。
外部要因への全身管理による予防方法
床との長時間の接触による皮膚への圧力が原因となるため、本来は日中は離床することが一番の予防方法です。
しかし、本人・介護者の状態によっては頻繁に離床することがなかなか難しいことも多々あります。
離床が困難な方は、
- ベッドのシーツのしわの上に寝かせない。できるだけしわができないようにシーツをこまめに整える。
- おむつなどは小まめに変える(皮膚が湿っていると、圧力に対して脆弱になります。)
- 体位変換を2時間おきに行う。
などの予防を行うことで褥瘡を防ぎます。
体位変換を2時間おきに行うのは大変!便利な道具を使いましょう。
体位変換を行うことは褥瘡予防の基本になります。
2時間ごとに体位変換を行うことが褥瘡予防に効果的であるとガイドラインに記載されています。
昔は自宅に寝たきりの状態で褥瘡の起きる可能性が高い家族がいる場合、2時間ごとに体位変換を行うために家族や介護者が夜中でも起きる必要があり、介護負担が大変大きい状態でした。
しかし、今は、エアマットで体位変換を自動で行ってくれるものもたくさんあるので、自宅でも病院でもそこまで体位変換のために介護者の労力が必要なことは少なくなりました。
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また、褥瘡予防用の柔らかいマットレスも普及しており、日中離床が困難な方を中心に広く使われています。
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エアマットやマットレスと併用して、先ほどご紹介した褥瘡好発部位である仙骨部や踵部の除圧を床ずれ防止用クッションを利用して行うとより発生リスクが減少します。
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介護保険法における要介護認定を受けている方は、介護保険の福祉用具貸与にてエアマットや柔らかいマットレスをレンタルすることができるため、一度担当のケアマネージャーに相談してみて下さい。
(クッションは基本的に自費購入の場合が多いですが、ものによっては床ずれ予防用具としてレンタルできる場合もあります。)
褥瘡予防マットレスは様々な種類があります。
褥瘡予防マットレスを選択する際は、柔らかければ柔らかいものほど、褥瘡予防効果は高くなりますが、その分沈み込んでしまい、ベッド上で動きにくくなってしまうことを考慮する必要があります。
本人の活動量と褥瘡のリスクを考慮して、程よい硬さの褥瘡予防マットレスを選ばれることをお勧めします。
しかし、マットレスの硬さはカタログを見ても分かりません。
福祉用具専門相談員と一緒に選定されることをお勧めします。
内部要因への予防方法
栄養価のある食事に留意することが最も効果的な予防方法になります。
ガイドラインでは、蛋白質、低エネルギー状態にある方に対して、疾患を考慮して、高たんぱく、高エネルギーのサプリメントによる補給が勧められています。1)
また、低栄養状態は経口摂取ができない方に起こりやすく、その場合は、経腸栄養で補給するか、不可能な場合は静脈注射で栄養を摂取することがガイドラインで提唱されています。1)
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褥瘡の評価(ステージについて)
褥瘡が発生してしまったら、組織壊死がどの層まで深達しているかをステージで評価し、治療法や予防法が検討されます。
National Pressure Ulcer Advisory Panel(NPUAP分類)が広く知られており、以下の様に分類されます。
ステージⅠ
通常骨突出部に限局する消退しない発赤を伴う、損傷のない皮膚のこと。色素沈着した部位の明白な消退は起こらず、その色は周囲の皮膚と異なります。痛みもあります。
ステージⅡ
赤色または薄赤色の創底をもつ、浅い皮膚損傷として現れる真皮に至る部分層創傷。水疱として現れることがあります。
ステージⅢ
全層創傷。 皮下脂肪は確認できるが、骨、腱、筋肉は露出していません。
ステージⅣ
骨、腱、筋肉の露出を伴う全層創傷。 黄色または黒色壊死が創底に存在することがある。ポケットやろう孔を伴うことが多い。
ステージⅠは発赤があり、その部位だけが赤くなっている場合です。感覚障害が無ければ痛みがある場合が多いです。ステージⅠでは、その部位に褥瘡のリスクが高い、ということが示唆されるため、より積極的な褥瘡予防管理を必要とします。
ステージⅡでは、皮がめくれ、真皮にまで損傷到達している状態です。
ステージⅢでは、ポケットと言われる、穴が出現しており、穴の中に黄色や白色の脂肪組織が肉眼で確認できる程度にまで褥瘡が進行した状態です。
ステージⅣでは、さらに深いポケットができてしまい、骨や腱、筋肉が確認できるまでになってしまった状態です。
ここでは著作権の関係でそれぞれの褥瘡の程度を写真でご紹介することはできませんが、ステージⅢ以降は皮膚に穴(ポケット)が開き、中の組織が見えてしまっている場合も多く、見るだけでも痛そうです。
まとめ
褥瘡は予防が最も大切です。
予防するためには、原因や好発部位、発生する機序を理解し、日々注意し続ける必要があります。
また、今ではたくさんある、褥瘡予防の介護用品などをうまく使い、除圧することが介護負担の軽減につながります。
ネットで様々な知識を得ることができますが、実際に本人に合ったマットレスやクッション、エアマットを選ぶ際ためには、ケアマネージャーや福祉用具専門相談員と相談して決めるとよいと思います。
その際に介護保険法の福祉用具貸与の制度をうまく利用すると、用具の変更なども容易で大変便利です。
”ポジショニング”といって、クッションなどを使い、30度程度横を向いた姿勢を取ったり、褥瘡好発部位を除圧する姿勢を考慮することも有効ですが、ベッド上で体動があり、さらに認知症がある方は無意識に動いてしまうことも多く、効果をなさないことも臨床ではよくあります。
その人に合った褥瘡予防対策を適宜考えながら試していく必要があります。
参考1)日本褥瘡予防学会 ガイドライン