
超高齢社会の到来により、リハビリの対象疾患における高齢患者の割合は確実に増加しています。高齢者の身体的特徴はある程度共通するものがあるので、それを理解しておくと、より最適なリハビリプログラムを提供することができます。
リハビリの対象となる方は、65歳以上の高齢者の方が多いです。高齢者の方の身体にどういった特徴があるのか、まずは理解しておきましょう。
高齢者の身体的特徴
人体の加齢に伴う筋力低下は、50歳~60歳代から急速に進み、特に下肢筋力の低下は活動範囲を狭め、転倒の危険性を高めます。
高齢者には、
- 細胞レベル
- 分子レベル
- 臓器・器官レベル
において、生理的老化と病的老化の両面に関わる加齢現象があります。
生理的老化と病的老化
生理的老化は内的な環境を制御する能力の低下であり、病的老化は病気にかかりやすくなり、身体予備力が減少することを指します。
加齢変化による身体諸器官の機能低下を青壮年期と比べると、全体の総合的な機能が相対的に50~70%に低下すると言われています。
その中でも、高齢者の身体機能の低下で著明なものは、
- バランス機能
- 身体柔軟性
- 運動能力の低下
の3つといわれています。
加齢により身体能力が低下し、運動の範囲が限られてくると、筋繊維は細くなり、弾力性や緊張(テンション)が失われ、萎縮します。
※関連筋萎縮ってどんな状態?筋力低下の種類・原因と筋力の評価法MMTのコツ
高齢者の筋機能の加齢変化の特徴は、
- 動的筋出力低下が静的筋出力低下よりも大きい(動作ができなくなる)
- 下肢筋力低下が上肢筋力低下よりも著明(足が先に衰える)
- 収縮速度の速い速筋繊維が選択的に萎縮しやすい(素早い動作がしにくくなる)
- 日常生活で使わない筋肉が低下を起こしやすい
と言われています。
加齢による筋肉の機能低下に関係する因子は、
- 筋の収縮要素の減少
- 身体活動レベルの低下
- 運動をコントロールする神経系の変性
- 生理学的老化による身体機能の低下
が挙げられています。
その上、高齢者は、
- 神経-筋の反応時間の延長
- 神経伝導速度の遅延
- 固有受容感覚
が低下し、動作が鈍く、稚拙になります。
加齢による運動量低下の悪循環を絶つためには、旧来より言われている、『筋力の維持、向上』と共に、運動をコントロールする神経系のシナプスの老化を食い止め、神経-筋の運動協調を保ち、固有受容感覚刺激の活性化を図ることが大切です。
その意味で、理学療法のリハビリプログラムには、感覚入力刺激による筋力向上の「感覚運動刺激」の考えを導入する必要があります。
高齢者のリハビリでは”積極的に立って動き、全感覚を総動員すること”が重要
高齢者の身体的特徴を鑑みると、運動連鎖・OKCとCKCに繋がる考えでもありますが、リハビリと称してベッド上で筋力訓練ばかりしていても、『感覚を上手く使って体を適切に使うという機能』は賦活されにくいと経験的に思っています。
高齢者の場合、上述の様に、全身の筋力が低下していることは一般的に広く知られています。
しかし、筋力低下の原因が、実は老化以外にも、固有受容器の感覚機能の低下に起因していることはあまり知られていないように思います。
元気な高齢者の方は、大体、精力的にお友達と毎日お話をしていたり、活動的に色々なところに出掛けたりしていますよね。
お友達とお茶をしたり、熱中できる趣味があったり・・。
そういった方々は実に、”「感覚」を使うのが上手い!”と思います。
感覚をフルに使った生活をされているのです。
高齢者で寝たきりになったり、今までの生活が大きく変わってしまう要因のひとつに、「転倒による骨折・入院」があります。
この転倒を防ぐためには、筋力トーレニングをバリバリやるよりも、転倒しそうになっても立ち直るだとか、とっさの時に柔軟に反応できる、感覚と筋肉の円滑な連携が重要であることは言うまでもありません。
そのためにはできるだけベッドから離れて、立って歩き、足にしっかりと荷重して行う様々な動的トレーニングを行うことが重要です。
つまり、全身の、
- 神経
- 筋肉
- 視覚や聴覚
- 触覚
などの感覚を総動員するような運動が適切であると思います。
高齢者のリハビリ・運動療法の意義・目的
リハビリが必要な高齢者には、代表的なものだけでも、
- 脳血管障害(CVA)の後遺症
- パーキンソニズムなどの神経系疾患
- 狭心症、心筋梗塞などの心疾患
- 慢性気管支炎、肺気腫など呼吸器疾患
- 末梢血管性疾患
など様々な分野の疾病があります。
このほか、
- 60歳以上の女性30~40%
- 60歳以上の男性の5~10%
で発生すると言われる骨粗鬆症もリハビリの対象となります。
このように多種多様な対象者の中で、どのようにリハビリを捉え、運動療法を行っていけば良いでしょうか。
一般的に高齢者にリハビリを行う意義は、
- 全身体力(筋力・全身持久力含む)低下の予防
- 疾病の予防と身体調節コントロールの獲得
- 個々の生活の質の向上
です。
そのために行う高齢者に対するの運動療法の代表的な目的は、
- 筋骨格系による適切な支持機構の獲得
- 姿勢・歩行に関する感覚入力の正常化
- 中枢神経系による運動協調性の向上
- 心肺機能の正常化
があります。
従来の運動療法では、「筋力至上主義」とも言えるような筋出力の維持・向上目的として徒手的に、あるいは機械を用いて行うリハビリが中心でした。
しかし、筋肉などの効果器が有効に働くためには、適切な感覚入力刺激が必要であり、筋繊維の賦活と同時に感覚入力を高めることが重要です。
また、感覚を賦活することで、日常生活での筋肉などの効果器が使われる頻度が増え、筋力低下予防にもなります。
高齢者のリハビリ・運動療法
人間が運動するために重要な、骨格系による支持機構の獲得のためには、
- 正常な下肢アライメント
- 抗重力筋の適度な筋力
- 痛みのない正常関節可動域
- 足部変形がないこと
が大きな要因となります。
正常アライメントの獲得と関節可動域の維持、足部変形の予防には従来の関節可動域訓練、筋肉と軟部組織のストレッチ、装具療法が基本となります。
これらを考慮すると、
高齢者の運動療法では、立位、歩行の獲得に重要な抗重力筋を使って、動的な早い筋収縮を引き起こす運動が適切です。
高齢者に適した運動療法は”感覚入力刺激運動”
姿勢や歩行に関する感覚入力の正常化を目指すためには、
- 視覚
- 迷路情報
- 関節や筋からの固有受容感覚
が重要です。
視覚は障害物を避けるなどの動作の安全性を保つ上で重要で、迷路情報は身体各部の位置関係と視覚との連絡を行う上で重要であり、筋肉や関節の固有感覚は動的な動きに対する適正な入力のために必要です。
バランスや平衡運動などの固有受容器を刺激する運動は、筋肉の賦活に有効であるとする文献も散見されます。実際、私の臨床経験からしてもそのように思います。
高齢者に適した感覚入力刺激運動では、
- 座位
- 立位
- 四つ這い
で行う運動などがあります。
感覚入力を刺激するバランストレーニングの要は、
- 頸部
- 足底部
- 仙腸関節周辺
にあります。
これらの部位は固有受容器が密になっており、運動はこの3部位を主に意識して行うと良いでしょう。
以下にわずかですが、例を挙げてみます。
座位で行う高齢者の運動の例
座位で足を地面から離し、横方向に手を伸ばしてリーチ動作をします。 動作に伴う骨盤の調整能力が養われます。
骨盤帯は動作をする上で大変重要な役割を持ち、重心の位置は静止立位では骨盤にあるため、鍛えることで動作の安定性が増し、動作が円滑に行いやすくなります。
また、バランスをコントロールするために体幹筋を始め、姿勢制御のための抗重力筋が賦活される効果があります。
※参考リハビリでよく行われる代表的なバランストレーニング(肢位別8種類)
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立位で行う高齢者の運動の例
立位では足底部の固有感覚の賦活を図るため、足底がしっかりと地面に接地し、足を踏ん張れる姿勢で運動を行うことが大切です。
以下にご紹介する「ランジ」では、足を前方、または側方に踏み出すことで、足底の感覚受容体を賦活することが出来ます。
前方向に一歩足を踏み出すランジを「フォワードランジ」、横に一歩踏み出すランジを、「サイドランジ」といいます。
踏み出した方の足にグッと体重を乗せることで、足の筋肉を鍛えます。
四つ這い位での高齢者の運動の例
四つ這い位で行う運動では、
- 上肢挙上
- 上下肢挙上
- 体幹回旋
- 不安定板の上で行う
などの単純な動作から複雑、高度な動作に移行していきます。
四つ這い位では主に、頸部、骨盤帯を意識して運動を行います。
以下の
- 「ダイアゴナル」
- 「サイドアームリフト」
がその運動の例となります。
これら運動を実際に行って頂くとわかりますが、背筋の伸び具合や腕と足の上げ具合など、全身を意識してコントロ-ルしないと、この姿勢を保持することが難しいです。
全身を意識して行うことで感覚が刺激され、効果的な運動となります。
※参考リハビリに使える!コア(体幹筋)トレーニングメニュー負荷別8パターン
まとめ
高齢者の身体的特徴と、それを考慮したリハビリトレーニング”感覚入力刺激運動”について述べました。
考えてみれば、ただ単に患者さんに運動を指導するだけであれば、少し運動学を勉強すれば誰でもできることです。
理学療法士や作業療法士の専門性を発揮するには、運動を指導することだけではなく、運動をどのように行うとより効果的であるか、生理学的、神経学的考察を踏まえて運動を指導してくことが必要だと思います。
また、私達はプログラムを立てる時に、ついインペアメント(機能面)レベルで問題点を整理してしまいがちです。
生身の人間の実際の問題点は、もちろんそのような機能面の問題(筋力低下、関節可動域の低下など)もあるとは思いますが、それら以外の問題も複雑に絡み合い、捉え難い状況を呈していることも少なくありません。
ただ単に運動を指導して筋力を向上させるだけでなく、神経・感覚をフルに使ったトレーニングを取り入れていく、という視点を持つことで、高齢者の方へのリハビリはより効果的なものになります。
ぜひ取り入れてみて下さいね。