
リハビリをしていて糖尿病(DM)の患者さんに頻繁に遭遇します。
糖尿病とは、インスリン作用の絶対的あるいは相対的不足により引き起こされる様々な問題を持ち、遺伝因子と環境因子の関係により発症する症候群のことを言います。リハビリをする際にどんなことに気を付けておけば良いでしょうか。
糖尿病の病型
糖尿病の病型は、
- インスリン依存型(IDDM、Ⅰ型)
- インスリン非依存型(NIDDM、II型)
その他の形に分けられます。
日本ではIDDM(Ⅰ型)は欧米の約10~20分の1と少ないと言われています。
日本では大部分がインスリン非依存型(NIDDM)Ⅱ型です。
運動が糖尿病の予防治療に有効であることは広く知られています。
最近では糖尿病管理の一環として、糖尿病教室などで運動療法を含む患者教育が行われています。
医師を中心とした糖尿病治療スタッフは、運動療法の意義を充分理解した上で、患者に運動の必要性と継続の重要性を教育していく必要があります。
また運動はリスク管理を適切に行う必要があり適応を誤れば病態を悪化させる危険性もあります。
スタッフは運動療法のリスクを心得て運動を指導しなければなりません。
糖尿病の運動療法の基礎知識
糖尿病患者の運動療法にける基本的な原則は以下になります。
- 食事療法の敢行
- 薬物療法との調整
- 病態にあわせた運動処方
- 運動の継続
- 反復教育
です。
運動療法の意義
糖尿病患者が運動を行うとどのような効果があるのでしょうか。
主に、
- 内分泌反応の変化
- 急性代謝効果
が挙げられます。それぞれ説明していきます。
内分泌反応の変化
運動による内分泌反応として、インスリンが最も重要な役割を果たしています。
一方、インスリン拮抗ホルモン(カテコラミン、グルカゴン、成長ホルモン、コルチゾールなど)の分泌は運動中増加し、糖尿病のコントロールが充分でなければ著しい上昇を示します。
運動中、インスリン分泌は交感神経、副腎系により抑制されていますが、運動器のブドウ糖の取り込みは増加しています。
また、運動している筋ではインスリン作用を直接介さないブドウ糖の取り込み促進が認められています。
運動によってインスリンとは独立したメカニズムで、筋へのブドウ糖の取り込みが増加することが運動療法の有用性であると言えます。
運動による急性代謝効果
糖尿病患者が運動を行ったときの急性代謝効果は病型、コントロールの良否、治療法により異なります。
コントロールの良いNIDDM(2型)では、運動によるグルコースの利用が高まり運動後もグリコーゲン生合成が亢進して血糖値が低下します。
一方で、IDDM(1型)では、運動による代謝改善に必要なインスリン供給が不可能で、ケトーシスを伴う場合には、血糖、FFA、ケトン体の高値など、代謝状態は却って悪化することもあります。
また病型や治療法によっては、運動中・運動後に低血糖が誘発されることもあるため注意が必要です。
運動継続の効果
運動の習慣的な継続は、呼吸循環期系、内分泌代謝系、筋骨格型、脳神経系などの機能に数々の影響を及ぼします。
運動の継続によるインスリン感受性の改善には、
- インスリンレセプターの相対的増加や結合性の改善
- レセプター以後の筋性因子
- 脂肪の減少
- 肝臓の糖放出抑制効果
などが関与しています。
肥満糖尿病患者、単純肥満者は、インスリン感受性が健常者の45~50%まで低下していますが、4~8週間の食事制限と運動によって約2倍に改善すると言われています。
健常者並に改善する、という事ですが、恐らくこれは、きっちり食事制限・運動を行った場合で、個人の印象では実際はかなり難しい感じがします。
さらに呼吸循環器系に影響を及ぼさない程度の運動でも代謝改善に有効であるとし、脂質代謝や過インスリン血症に対する運動継続効果はある、とする報告もあります。
適度な運動の継続は、末梢のインスリン感受性を改善し、糖尿病の治療に有効であると言われています。
トレーニング効果の発現と消失
トレーニング効果の発現時期は、トレーニング開始後約1ヵ月とされていますが、1週間で効果があったと言う報告もあります。
しかし、運動を中止すれば3から4日間、遅くとも10日でトレーニング効果は消失してしまいます。
運動の継続により体力の向上、脳神経機能の賦活化やストレスの解消も期待でき糖尿病患者の社会的適応能力が改善される、とする報告もあります。
短期間の運動ではほとんど改善が見込めないため、いかに運動を続けていける工夫をするかが重要です。
運動療法のリスクについて(禁忌)
糖尿病のコントロール状態が悪く、
- 尿ケトン体陽性(ケトーシス)の場合
- 進行性の網膜症、腎症、自律神経障害の合併症
- 発熱を伴う急性感染症の存在下
では、運動療法は行えません。
糖尿病性合併症と運動の適否
運動療法の適切な実施は糖尿病性代謝異常を改善させますが、運動療法により合併症が増悪したり、極端な場合突然死の危険性もあります。
しかし、合併症の重症度がどの程度の場合、どのような運動行うべきか、未だ検討課題であり、症例ごとに慎重な運動処方を行う必要があります。
糖尿病患者の運動療法の実際
糖尿病患者が運動を行った際の代謝反応はインスリン作用欠乏の程度により異なります。
したがってメディカルチェック等により、運動療法が適用となる(少なくともケトーシスでは無い)状態にあることを確認する必要があります。
心血管系、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害などの合併症の有無、さらには運動を継続していくために阻害因子となりやすい骨関節系のチェックも欠かせません。
生理学的根を考えての意義とリスクを踏まえた糖尿病の運動療法の基本は、
- 有酸素運動
- 体操
- ウェイトトレーニング
を適切に組み合わせ、一日の運動消費エネルギーを160~320キロカロリーとしたもの、とされています。
これは、本人の自覚的な運動強度としては「ややきつい」というレベルに当たります。
有酸素運動
有酸素運動は糖尿病患者に対する運動療法の中核であり、歩行、ジョギング、サイクリング、水泳など患者が継続しやすいものを選び適切な運動処方を行います。
趣味のスポーツなどとの組み合わせも可能です。
運動継続時間
翌日に疲労を残さない程度として、合併症のない症例は1回15分~20分、肥満を伴うものは一回20分~30分程度の運動が必要であると言われています。IDDM(Ⅰ型)ではインスリン量、捕食を考慮して20分継続します。
運動実施時間
食後1~2時間が適切であると言われていますが、多忙な症例では通勤時の工夫なども検討します。
IDDM(Ⅰ型)の場合は低血糖が起こりにくい時間に運動をします。
最も良い血糖コントロールが得られる時刻を決めて定期的に行うことが必要です。
体操
体操は140キロカロリーのエネルギー消費に相当するメニューが良いとされています。
定期的な体操は全身の調整力、柔軟性を維持改善し、有酸素運動のウォーミングアップ、クーリングダウンにも利用できるため有効です。
ウェイトトレーニング
ウェイトトレーニングは有酸素運動、そしてスポーツを行うための基礎となる筋力、持久力を維持・改善するために行います。
エネルギー消費が目的ではありませんが、20分間で40キロカロリー程度の運動量を設定すると消費エネルギーの計算がしやすく便利です。
ただし呼吸を止めて力むような、循環器系の負担が大きいトレーニングは避けるべきでしょう。
その他
エネルギー消費量でプログラムを検討する場合は、日常摂取エネルギーの約10%以上の運動を目安とします。
(160~320キロカロリーの消費が目安となります。)
万歩計を用いる場合には一日最低で7,000歩以上が良いと言われています。
まとめ
糖尿病の運動療法についてまとめましたが、運動療法は単体では効果がかなり薄い、と言う報告もあるため、食事療法と併用することが基本です。
NIDDM(2型)、特に肥満型のNIDDMに運動療法を実施することにより、インスリン感受性を改善させることは、治療、予防に大変有効ですが、食事療法ができていることが大前提です。運動療法だけでは限界があります。
また、IDDM(1型)にはインスリン療法に合わせて運動療法を行い、糖代謝以外の効果が中心となることも再確認しておく必要があります。
リハビリをする上で糖尿病の既往を持つ患者さんは多数いらっしゃるので、基礎的なことは理解しておくと良いと思います。