肩関節周囲炎(五十肩)のガイドラインに基づくリハビリ まとめ


肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)とは、中年期以降の肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として発症する、疼痛性 肩関節制動症です。肩関節周囲炎のリハビリの内容をガイドラインに基づいて簡単にまとめました。




肩関節周囲炎の原因・リハビリの目的

原因としては、

  • 腱炎
  • 肩峰下滑液包炎
  • 上腕二頭筋腱鞘炎
  • 癒着性関節包
  • 腱板断裂
  • 変形性肩関節症
  • 変形性肩鎖関節症

などが考えられます。

これらの病変により肩関節周囲部に疼痛を起こし、反射的筋緊張をきたした肩甲上腕関節の可動域制限が出現したのが、肩関節周囲炎(五十肩)と呼ばれます。

 

肩関節周囲炎の保存的療法として理学療法があり、その目的は主に、

  • 疼痛の寛解
  • 肩甲上腕関節の可動域の維持・拡大
  • 上肢の機能回復

です。

評価

肩関節周囲炎の評価には以下の整形外科テストが行われます。

  • アプレイ・スクラッチテスト

患側の手で対側肩関節の肩甲骨上角に触れる整形外科テストです。陽性の場合疼痛が出現します。

このテストは、肩関節の運動としては結帯動作・結髪動作とほとんど同じですので、生活動作で困っていることを患者さんに問診する時にそれらの動作をしてもらうと良いと思います。

疼痛の検査

肩関節周囲炎では以下の疼痛が出現しやすいです。

肩関節周囲炎(五十肩)のリハビリにおいて、疼痛の有無や強弱によって運動療法の強度を決めることが大変重要ですので、しっかり確認しておきたいところです。

  • 自発痛

疼痛性筋痙縮期では夜間痛が生じます。また、何もしていなくても疼痛を感じます。

  • 運動時痛

患側の肩関節の外旋、外転方向の運動時に特に強い痛みがあります。

  • 圧痛

肩峰外側端、三角筋部、上肢二頭筋長頭腱部、烏口突起部に圧痛を生じます。

  • 放散痛

首から上腕~前腕にかけて放散痛がみられることがあります。

筋力検査

拘縮期では、

  • 棘下筋
  • 三角筋
  • 上部僧帽筋
  • 上腕二頭筋

などに徒手筋力検査を行い、筋力低下の有無を確認します。

日常生活動作

結髪動作(頭に手を持ってくる)、結帯動作(腰の後ろに手を回す)や衣類のかぶり更衣動作を確認します。

結髪動作

結髪動作

肩関節周囲炎では主に肩甲上腕関節の外旋・外転が障害されるので、入浴時、背中を洗う動作や頭を洗う動作も困難となります。

 

実際に病院を受診される方では、「風呂で背中や頭を洗う時に肩が痛くておかしいと思った。」と話される方も多いです。

肩関節周囲炎(五十肩)のリハビリ

肩関節周囲炎はその特性から、大きく分けて、

  • 疼痛性痙縮期
  • 拘縮期

とに分かれます。

疼痛性痙縮期のリハビリ

炎症や疼痛が強い時期なので、積極的な運動療法は控え、生活動作の指導、疼痛軽減のためのアプローチを優先させて行います。

 

ガイドラインにも、

運動療法単独あるいは他の治療との併用は概ね効果があることが分かったが,中には肩を含めた全身運動やセルフエクササイズに比べ,運動療法の積極的な介入, 特に発症初期での介入が好ましくない影響を及ぼしていることを指摘する文献も見られた。 これは早期の炎症収束と運動強度の選択の重要性を示していると思われ,初期の痛みに対する局所注射の併用,痛み閾値を超えないストレッチ,徒手療法では痛みを出さない強さでの最終域でのモビライゼーションが勧められる。

引用)日本理学療法士協会 肩関節周囲炎 ガイドライン

と記載されており、この時期では運動療法の強度の熟慮が必要です。

安楽肢位の設定

痛みが起きにくい肢位を探ります。

背臥位では肩と肘の下に枕、クッション、タオルなどを使い、肩関節を、

  • 外転・屈曲10度程度
  • 内外旋中間位

に保持するようにすると痛みが出にくく、安定することが多いです。

特に就寝時に痛みが出やすいので(これが肩関節周囲炎の疼痛痙縮期の特徴でもあります。)ので、この肢位でさらに肩関節部にバスタオルなどを掛けて保温すると良いと言われています。

 

またご存じの様に、上腕骨は肩関節のローテーターカフなどのインナーマッスルによって重力に抗して支持されているため、歩行動作も肩関節に負担がかかりやすく、疼痛が誘発されることがあります。

そのような場合は上図のようなスリング(三角巾)などを用いて上肢を固定すると疼痛が出にくくなります。

リハビリの臨床では疼痛に対して、温熱療法のホットパックがよく用いられます。肩から上腕全体をホットパックで包み、約15分から20分間加温します。

日常生活動作指導

胸の前で開くようなシャツや上着を着用するように勧めます。かぶりの肌着は避けた方が無難です。

上着の着脱は患側の手から先に袖に入れます。片麻痺の方と同じ方法ですね。

肩を使う動作、具体的には、

  • パソコンを打つ
  • 編み物をする
  • 重いカバンや買い物かごを持つ

などの動作を控えるようにアドバイス・提案します。

当然ですが、ただ「しないで下さい。」と言うだけではなく、仕事でパソコンを使っている方なら肩に負担が掛からないように、肘を付いてタイプする、などのより具体的なアドバイスを心掛けて下さい。

拘縮期のリハビリ

拘縮期以降では、

  • 可動域の拡大
  • 筋力低下の予防・維持・向上

を図るために、疼痛が無い範囲で(あるいは疼痛を抑制する方法を用いながら)運動療法も行っていきます。

物理療法

筋スパズムを軽減するため、運動療法の実施前にホットパック、深部温熱療法(極超短波療法・超音波療法)などを実施します。

疼痛の寛解、筋活動回復のため経皮的電気刺激療法や干渉波療法が運動前後に適用されます。

 

エビデンスは以下のようになっています。

物理療法 推奨グレード B、エビデンスレベル 2

・温熱療法を加えてストレッチを行う方が,ストレッチを単独で行うより効果的である。 また,深部温熱(短波ジアテルミー)の方が表層温熱(ホットパック)より効果的で ある。

引用)日本理学療法士協会 肩関節周囲炎 ガイドライン

マッサージ・リラクセーション

  • 肩甲下筋
  • 大胸筋
  • 広背筋

など、痙縮が強い部分のリラクゼーションを行うことで、疼痛を軽減させることができます。

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運動療法

炎症・疼痛が強い疼痛性痙縮期以降に積極的に運動療法を行い、狭小化した可動域の改善と筋力の向上を図ります。

 

エビデンスは以下の様になっています。

一般運動療法(standard therapeutic exercise) 推奨グレード B 、エビデンスレベル 3

・ 10人の凍結肩患者に対して3か月間の理学療法を施行した結果,全ての患者で肩甲上腕リズム,自動関節可動域,動作時痛,夜間痛の大きな改善が認められた 。

・凍結肩患者に対して、スリング,抗炎症剤,ホットパックによる疼痛コントロール後、 1 日 2~3 回の振り子運動と低負荷でのセルフストレッチを行った結果,平均 14 か月 で可動域が改善し,痛みを伴わずに日常生活が可能となった 。

引用)日本理学療法士協会 肩関節周囲炎 ガイドライン

間接的な力を利用した関節可動域訓練
  • コッドマンの振り子体操肩関節周囲炎のリハビリ,コッドマン体操

肩関節周囲炎のリハビリとして、どの教科書にも出てくる有名な体操ですね。

上図の様に腕を下垂させて振ります。

注意点としては、必ず上肢は脱力し、手に下図の様な重錘バンドなどの重り(1〜1.5kg)を使用します。

体が揺れる遠心力を利用して前後、左右、分回し方向に動かし、徐々に肩関節の可動域を広げていくように運動します。疼痛が出現しないことが大原則です。(筋肉が収縮しないように肩関節を大きく動かす体操です。)

 

  • 棒体操

関節可動域を維持・向上させるために患者さん自身でも自宅で簡単にできるトレーニングです。

棒を持って肩関節屈曲、体幹回旋など行います。

徒手的に行う関節可動域訓練

徒手療法(manual therapy) 推奨グレード B、エビデンスレベル 2

・最終可動域で各方向へのモビライゼーション(Maitland グレード III~IV)を30分、週2回、3か月間行ったところ,自動可動域は改善し治療後9か月でも効果は持続する 。

・ 最終域でのモビライゼーションは癒着性関節包炎患者の関節の硬さと拘縮の悪化を防 止できる。

引用)日本理学療法士協会 肩関節周囲炎 ガイドライン

  • 肩甲上腕関節のモビライゼーション

一番に障害されるのは肩甲上腕関節(肩甲骨と上腕骨で構成される)なので、その部位にモビライゼーションを行うことが基本となります。その後に粗大な関節可動域訓練で可動域を拡大していきます。

モビライゼーションの原理については、こちら「ROMの効果を劇的に高める!モビライゼーションの方法」に記載しています。

筋力増強運動
  • 壁腕立て伏せ運動

壁立て伏せ

立位で壁に向かって腕立て伏せをします。前鋸筋の筋力増強運動です。

  • 壁指這い運動

肩関節周囲炎のリハビリ 壁指這い運動

壁に向かって指を上下に這わせ、指の力を使って徐々に上肢を重力に抗して挙上させたり、下降させたりを繰り返します。僧帽筋上部繊維と三角筋の筋力増強運動です。

まとめ

肩関節周囲炎のリハビリはとにかく疼痛を抑えて、可動域の低下と筋力低下を予防しつつ、生活動作に支障がでないように考慮して進めていきます。

そのため、どのような生活動作で困っているのか、患者さんと話し合いながらリハビリしていく必要があります。

肩関節の解剖と運動を理解して、生活同動作の中でどのようにすると良いのか、的確にアドバイスできるようにしておきたいですね。

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