
深部腱反射検査って、理学療法士の実習で必須ですよね。私も実習で深部腱反射検査の意味がよくわからず苦労した経験があります。実際リハビリの臨床ではどのように腱反射の検査が使われているのか、その意義と目的をご紹介します。
そもそも反射とは?
反射とは、
受けた刺激が大脳を介さないで神経中枢から骨格筋や腺に反応となって伝わること。
と定義されます。
長い歴史の中で、生物が生き残るためには、外界の情報をいちいち大脳を経由して処理するより、脊髄レベルで信号を返した方が早く、効率的で生存に有利な場合も多くあります。
例えば、温度の高いお湯に触った場合、熱い!と思う一瞬前に反射的に手を引っ込めてしまうはずです。
この時の”熱い”という感覚は、反射弓と言われる神経信号の経路を通り、脊髄にある反射中枢に送られ、そのまま、また効果器(骨格筋や腺)に送られます。
これがいわゆる反射と呼ばれるもののメカニズムです。
一概に反射と言っても色々と種類がありますが、深部腱反射検査の場合は、骨格筋の伸長反射の程度を診る検査を行います。
伸長反射とは、筋が急激に伸長されたときに反射中枢(脊髄)レベルで骨格筋を収縮させる反応のことです。
人体の様々な部位に行いますが、代表的な例を挙げると、打腱器で膝蓋腱などを叩くことで腱に急激な伸長刺激を与え、膝伸展の動きの速さと強さ(大腿四頭筋の収縮の程度)を診るのが膝蓋腱深部腱反射検査、ということになりますね。
リハビリの臨床で理学療法士が深部腱反射検査を行う意義・目的
まずは、深部腱反射検査の臨床的な意義・目的の再確認です。
深部反射は、上述のように筋の伸展反射のことを指し、腱反射とも呼ばれます。腱や骨の突起を、下の写真のような打腱器で叩くことで腱が急激に伸張され、腱反射が誘発されます。
反射の程度(力強さや速さ)の左右差が明らかであれば病的意義を認めます。しかし、病的反射(バビンスキー反射など)を伴わなければ、たとえ亢進していても錐体路障害とは断定できません。
また、腱反射が亢進していると、筋緊張が亢進しているとみなされる場合もありますが、厳密には深部腱反射検査は筋緊張の検査ではありません。あくまで、錐体路機能障害を確認するための検査です。
よって、厳密には深部腱反射検査を使って、筋緊張が亢進していると他者に説明することはできません。
学生さんが症例発表などを行う場合は、筋緊張が亢進している根拠として深部腱反射検査を提示すると、おそらく先輩方に突っ込まれると思います。笑
※筋緊張の検査方法についてはこちらの記事「筋緊張って何?」に詳しくご紹介しています。
全身性に反射が減弱、消失している時もあまり検査の意義はなく、部分的に反射が変化しているときに骨格筋を支配する下位運動ニューロンの障害を疑います。
なので、深部腱反射検査を行う意義と目的をまとめると、
- 錐体路障害を示唆する(病的反射のテストと並行して行う必要がある)
- 下位運動ニューロンの障害が疑われるときの部位の判定・目安になる
といったところでしょうか。
例えば、上腕二頭筋(5.6頸髄節支配)の腱反射が減弱し、上腕三頭筋の腱反射(7頸髄髄節支配)が亢進していれば、5.6頸髄髄節レベルでの前角・前根及び脊髄側索の障害を想定する、ということになります。
参考までに、代表的な深部反射の中枢と求心・遠心路を下記に記載しておきます。
求心・遠心路 | 反射中枢 | |
下顎反射 | 三叉神経 | 橋 |
上腕二頭筋反射 | 筋皮神経 | C5.6(主に5) |
腕橈骨筋反射 | 橈骨神経 | C5.6(主に6) |
上腕三頭筋反射 | 橈骨神経 | C6~8(主に7) |
回内筋反射 | 正中神経 | C6~8 |
手指屈筋反射 | 正中神経 | C6~Th1 |
胸筋反射 | 内・外胸神経 | C5~Th1 |
膝反射 | 大腿神経 | L2~4 |
下肢内転筋反射 | 閉鎖神経 | L3~4 |
深部腱反射検査 実施時の注意点
深部腱反射検査を行う方法を順番にご紹介します。
- 被験者を楽な姿勢にして、精神的に緊張しないようにオリエンテーションを行います。(精神的な緊張は検査の信頼性を低下させます。)
- 検査する筋肉が適当な緊張になるように四肢を軽く他動的に動かして一定の肢位にします。
- ハンマーで叩く時に一定の強さにします。検者の指で腱を抑えて、その上を叩くと強さがわかります。また、筋の緊張感も感じることができます。指で押さえると、筋の動きを目で判定できなくても指で感じることがあります。
※反射が減弱、消失しているときには、増強法を用いることもあります。
検査の反応が得られにくい場合は、以下に述べるような増強方を用いることがあります。
- 患者と会話しながら腱反射検査を行い注意をそらせる。
- 腱反射を実施する筋から離れた部分を能動的に動かせる方法=Jendrassik(ジェンドラシック)法
があります。
ジェンドラシック法とは、図の様に両手を引き合うように指示することで、下肢への注意を逸らせてから深部腱反射検査を行う方法のことです。
クローヌスについて
クローヌスは、著明な腱反射亢進と同じ意味があり、臨床で問題になりやすい主なものでは膝クローヌスと足クローヌスがあります。
膝クローヌスは膝蓋骨を他動的に素早く引き下げて大腿四頭筋を伸展したときに律動的に収縮して膝蓋骨が上下に動くものです。
足クローヌスは、足関節を急速に背屈させて、下腿三頭筋を急速に伸長したときに足関節が底背屈を繰り返すもののことをいいます。
臨床での実際
どの教科書にも恐らく上記のようなことが書いてあると思いますが、実際の臨床ではどうなのでしょうか?
深部腱反射のリハビリでの実際
実際のリハビリの臨床では、実は、腱反射検査を行う機会はあまり多くないです。(数人の知り合いの理学療法士に聞いてみましたが、皆同じ意見でした。)
私は症例発表などで錐体路の障害があることを明示するときに腱反射検査を行います。それ以外は脊髄損傷や末梢神経障害がある方の障害部位を特定するときに使います。
それも毎回必ず、というわけではありません。
医師の診断が病態といまいち合致していない、と感じる場合にのみ、確認程度に行います。
深部腱反射の検査はどちらかというと医師の診断技術の1つとしての要素が強いと思います。
リハビリの臨床では記録を残すほどでもなく、打腱器を持っていない時には簡易的に指で適応部位の腱を叩いて検査することもあります。脳卒中片麻痺で痙性が強い方などは、指で軽く叩くだけで反射が強く出るので、状態を簡易的に把握することができます。
クローヌスの臨床での実際
臨床でもクローヌスは頻繁に観察され、特に脳卒中や頸髄損傷などの中枢系の疾患で筋緊張が亢進しいている方に頻発します。
車椅子から地面に足を下ろしたり、逆に足を車椅子のフットプレートに乗せたりすると「ガガガガ・・」と痙攣するように足が震え出します。ベッドに移乗して、背臥位で寝ころんだ際にも良くみられます。
自宅で家族様が患者さんを診ていて、「痙攣が起きるのよね」と言われた場合、実はこのクローヌスであることも多いです。
クローヌスが長時間繰り返されると筋緊張が亢進し、足クローヌスであれば足関節の可動域制限の因子や、疼痛の元になることもあります。
すぐに足関節中間位で固定してあげることでクローヌスを止めることができます。
臨床では患者さんの状態を誰かに説明するときに「クローヌスが強い」と言った場合、一般的には筋緊張が高い、と伝わると思います。
まとめ
実習では必須の検査、深部腱反射の意義・目的についてまとめてみました。
実際のリハビリの臨床では、どちらかというと、専門性が強い、MMTやROMは熟知しておく必要がありますが、腱反射のテストはそれほど必要性・重要性を感じません。
実際のところ、腱反射の検査の意義よりも、なぜ腱反射が亢進・減弱していると異常なのか、という機序を知っておく方がリハビリの臨床では大切だと思います。
でも、検査方法も知っていて損はしないので、把握する程度に勉強しておく必要はあります。