
起き上がり動作の介助方法のポイントについて説明しています。
私は以前の病院勤務時代にがむしゃらにリハビリをしていたので、重度の容態の方から、軽度の方まで、色んな人にたくさん、数え切れないほど起き上がり介助を行ってきました。
その経験から、介助方法については、頭で理解していることも大切なのですが、実際に介助を体験して量をこなすことも大変重要だと思います。
しかし、いくら量をこなしても、何の考えもなしに行っていては進歩はありません。
以下に述べる基本的な介助のポイントを抑えて、始めは上手くできないと思いますが、何回も繰り返していくうちに腑に落ちて理解することができると思います。
私は、今では起き上がり介助で大変だと思うことはありません。
理学療法士として、常に対象の方が「どれくらいの動作ができるのか?」という視点で関わる癖が付いているので、患者・利用者の力を借りながら介助を行うため、それほど「介助している」という感覚はありません。
今回の記事にはその方法も記載しています。(対象の方の残存能力を利用する起き上がり介助の方法です。)
起き上がりは非常に大切な動作
”寝たきり”の弊害を予防することがリハビリの大きな目的の一つでもあります。
寝たきりの方とそうでもない方の境界となる動作が「起き上がり動作」です。
ベッドから、または布団から起き上がる動作ができない、あるいはしにくいと、それだけで寝床から離れる機会(離床)が失われやすくなります。
起き上がり動作の後にトイレに行ったり、歩いたり、次の動作に繋がる重要な動作です。
起き上がり動作が円滑に本人が行える、または、介助者が簡単に介助して起き上がらせることができると、それだけで離床する機械は増え、廃用症候群の予防のための一手となります。
起き上がり動作は介助方法のコツを掴んでいれば、それほど介助者や介助される側に負担が掛からずに動作を行うことが可能です。
起き上がり動作とは
起き上がり動作とは、
ベッドで寝ている場合は、
- 寝ている状態から足を下ろしてベッドの端に座る
までの動作のことをここではご紹介します。途中に寝返り動作を含みます。
(厳密には寝返りと起き上がり動作は区別されますが、実生活では一連の動きで行うことが多いです。)
床に布団を直接敷いて寝ている場合は、
- 寝ている状態から立ち上がる動作まで
になります。
起き上がり動作はADL(Activity of Daily Living )といって、日常生活動作のうちの一つです。
つまり、全ての人が日常生活を送る上で必須の動作になります。
介助のコツは重心を考慮すること
起き上がり動作に限らず、人を介助する時に、「その人の重心がどこにあるのか」を把握していると効率よく少ない力で介助することができます。
重心とは、その人の中心部、つまり、介助した時に最も重く感じる箇所のことです。
重心は、人が立っている時、仙骨のやや上方にあり、骨盤に重心があると思っていればほぼ大丈夫です。
スポーツでは、よく「腰が大切」と言われます。
重心の位置が骨盤にあるため、その近くの腰を意識して動作を行うと良いということです。
起き上がり動作 介助のポイント
それでは、起き上がり動作を介助する際にはどこに注意して介助を行うと良いのでしょうか。
ここでは、ベッドで寝ている状態の方を介助する時のコツについてご説明します。
起き上がり動作は上述の様に、
- 寝ている状態からベッドの端に座る
というところまで持っていきたいわけです。
この一連の流れを介助するためには、座っている時にどこに重心が来るかを考えて介助を行います。
座っている時には、骨盤のやや前方に重心が来ます。
足が地面に接地しているためです。
起き上がり介助を行う際は、ざっくりと考えて、骨盤・お尻の部分に重心の位置があると思って下さい。
よって、寝ている状態からお尻を中心に据えて介助していく意識でいくとうまくいきます。
また、以下に起き上がり動作の介助方法の手順を記載していますが、
- ①の寝返り
- ②のベッドから足を下ろす
ということができれば、ほとんど起き上がり動作のための準備が完了しているいることになり、実質は起き上がり介助といっても③の身体を起こす時に少し力が必要なだけになります。
効率良い介助のためには、このように動作を分解して理解していくと多くの場合楽に介助が行えます。
①寝返る
起き上がり動作のための準備として側臥位になる必要があります。
まずは上向きで寝ている人を横向きに寝返らせます。
寝返りの介助のコツは、体を回旋させるために、
- 骨盤帯
- 肩甲帯
が回旋しやすい状態に初めから体を整えておくことです。
両膝関節に拘縮などがなく、ある程度膝が曲がる方の場合、
背臥位で寝ている状態から両ひざを曲げ、骨盤帯が回旋しやすいようにします。
この後に介助者が両膝を持って、起き上がりたい方向に倒すと、骨盤帯の回旋が起こり寝返りが簡単に介助できます。
自分で膝を倒せる方は倒してもらって下さい。
これで横向きに寝返ることを簡単に介助できるはずです。
②ベッドから足を下ろす
起き上がるためには、この後に寝ている骨盤を立てていく必要がありますが、両足が邪魔になるために骨盤を立てることができません。
まずは、起き上がるために、両足をベッドから降ろして骨盤を立てることができるようにしていきます。
方法は、自分でベッドから足を下ろすことができる方は足をベッドから降ろしてもらいます。
自分で降ろせない方は、足を下ろす介助が必要になります。
介助方法は両膝を抱え込み、ゆっくりとベッドから降ろします。
この足を下ろした位置でその後に座る位置が決まるので、適性な位置になるか確認しながら行って下さい。
③起き上がらせる
ここまでできれば、後は体を起こすだけです。
骨盤を支点にして、起き上がり介助を行っていきます。
起き上がり動作とは、骨盤が寝ている状態から起きる状態になることを意味します。
ベッドから足を降ろした時点で、足に連結している骨盤は起き始めているので、あとはそれをアシストする介助を行います。
後残っていて寝ている体の部位は体幹だけになります。
体幹を起こすように介助すれば起き上がり、座らせることが出来ます。
体幹を起こす際のポイントは、肩のところに手を入れることです。

このときに頭がしっかりと顎を引いている状態になっているか確認して下さい。
頚部が伸展し、頭が垂れている状態だと体幹を起こす際に重く感じやすく、介助が大変しづらくなります。
骨盤を支点にくるっと体を回転させるようにして端座位になります。
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中・軽度者向け 起き上がり介助 別法①
足をベットから下ろし、横向きになった状態から、被介助者に腕を伸ばして貰います。
そこから、肘に体重を載せるように肩甲骨を前に持っていく介助を行います。
起き上がりが自分で出来ない方でも、多くの方はこの状態から肘を支点にしてベットから上体を起こすことは可能です。

この残存能力を利用します。
上体を自ら起こしてもらうことで、介助者も楽になり、被介助者もリハビリになります。
少し時間が掛かる場合が多いので、生活の中では時間的に余裕がある時はこの方法で行ってもらうなど、上述の方法と使い分けて行うと便利です。(トイレに行きたいと起きがりをしている場合はこんなことをしている場合ではありませんよね。)
ちなみに、臨床のリハビリでは、この肘を着いて起き上がる体勢のことを「On Elbow」と言います。
この状態から、さらに肩甲帯を前に出していき、手のひらをベッドに着いた状態を「On Hand」と言います。
On ElbowからOn Handへと誘導し、起き上がり動作練習のリハビリを行います。
詳細は以下の過去記事に記載しています。
簡単に理解できて効果的!基本動作の評価方法と効果的な練習方法
重度者向け 起き上がり介助 別法②
介助量が多い重度の方で、頻繁に起き上がる介助が必要な場合、電動ベッドを介護保険でレンタルし、背上げ機能を使うことも非常に有効です。
介護保険サービスの自己負担額など、療法士として介護保険について最低限知っておくべきこと
電動ベッドを使った介助方法については過去の記事を参考にして下さい。
介護用電動ベッドの種類と選び方、リハビリで行われる便利な使い方
起き上がり動作介助の注意点
全ての介助は転倒・転落が起きないことが大前提です。
起き上がり動作の場合は、ベットからの転落の可能性があります。
ここに充分注意して介助を行う必要があります。
起き上がった後にお尻の位置がどこに来るか考えながら介助を行います。
ベッドの端に来すぎると、敷布のカバーの素材によっては滑って転落してしまうこともあります。
また、重度の方で、体幹の筋肉が弱っていると座った途端後ろに倒れそうになることがあります。
そうなると後ろでベッド柵などに頭をぶつけてしまう可能性があります。
起き上がり動作の介助を行なった後、そのまましばらくは背中に手を置いておき、後ろに倒れないかどうか確認してから手を離すようにしましょう。
後方に倒れてしまう方は、座った後にやや体幹を屈曲(体を屈める姿勢)させると後方に倒れにくくなります。
廃用症候群で寝たきりの生活が長い方は、座っていても頸部が伸展してしまうことがあります。
体幹を屈曲させて座っても、頸部が伸展しているとすぐに体幹が伸展してきます。
座位保持中に頭頸部の位置にも注意し、頭頸部が伸展してしまう方であれば、体幹を屈曲させると同時に頭頸部を屈曲(顎を引く)させるようにしておくと座位が安定します。
まとめ
介助とは、基本的には自立を促す手段と定義されています。
しかし、実情は時間的制約などもあり、残存能力を活かす間も無く、全てを介助して動作を行なってもらうことが多いように感じています。
本当の介助は、対象に出来るだけ持てる力を出して貰い、その力を補助するだけ、というものが理想だと思います。
動作を分解して捉え、対象の方が「起き上がり動作のどこまでなら自分でできるのか?」そこを見極めて関わると介助者の介助量もグンと減り、お互い楽に介護したり、されたりできるのではないでしょうか。