
今回は脳卒中のリハビリの基本的な考え方・方法についてです。具体的なリハビリの方法は、脳卒中片麻痺のガイドラインに基づくリハビリの記事を参照して下さい。
脳卒中のリハビリの概要
脳卒中のリハビリテーションは、中枢性麻痺が質的変化であることを明らかにする過程で、神経学的方法論が近年開発されています。
損傷した脳組織に働きかけ、失った機能を回復させるには、 片麻痺に伴う異常運動に対する抑制・促通のための手技と, 正しい随意運動のパターンを再獲得するための反復学習運動が基本となります。
臨床では初期3ヵ月の訓練量が運動機能とADLの回復に大きな影響を与えるとされ, 発症直後より一貫したリハビリを行うことが重要とされています。
また、発症後6か月で機能的な回復は見込みにくくなると言われています。
参考)脳卒中片麻痺の予後予測で悩む方に。3分で分かる!二木の分類
なので、発症3か月は最低でもリハビリの専門病院などで集中的なリハビリを受け、その後も継続したリハビリによる反覆運動を行っていくことが理想とされています。
また、損傷した組織の周囲にペナンブラという仮死状態の組織があり、この組織が発症後の仮死状態から回復していく過程で機能再獲得が進んでいきます。
よって、発症6か月を過ぎると機能的な回復を主体とするより、日常生活での活動レベルでの代償を重点的にリハビリをしていくことになります。ICFでの「活動・参加」に焦点を当てたリハビリです。
参考)ICFの「活動・参加」に焦点を当てたリハビリ、”生活行為向上マネージメントを実際にやってみよう!”
非麻痺側の機能はもちろん、全身調整のためのリハビリが必要
6か月の間にできるだけ麻痺した上下肢をたくさん適切に使うことはもちろん大切ですが、他にも、反対側の足や手、体の使い方を再学習するためのリハビリも忘れてはなりません。
麻痺してうまく使えなくなった部位を上手く制御し、全身的な運動(歩行など)を行う際には、当然全身のバランスも以前と異なり、最適化していく必要があります。
麻痺した部位が体のどこかにあると、それは波及的に全身に影響を与えるため、統合された運動が行えるように全身調節のための運動が重要となります。
参考)1.臨床で良く行われるバランストレーニング8種類、2.コア(体幹)トレーニング
また、麻痺側だけでなく、発症した側と同側の上下肢の機能や体幹の機能も低下しています。
はっきりと脳卒中による神経性の筋力低下なのか、廃用症候群によるものなのか判別は困難ですが、錐体路の非交差線維の影響により、脳卒中では非麻痺側の筋力低下も確実に発生します。
非麻痺側の筋力低下において、健常者と比較してすべてに著しい低下があり、63~75.7%の範囲であった。
とするデータもあります。
私の臨床経験でも、多くの患者さんは発症前より「良い方の足も弱くなった」と訴えられる方が多いです。
また、発症後6か月を過ぎると絶対に回復は見込めないのかというとそんなことはなく、特に若年者の患者さんは私達が驚く程回復をされる方もたくさんいます。
最近では川平法などが発症合6か月を過ぎても有効な治療法としてテレビで紹介され、話題になっていましたね。
最近注目されている脳卒中片麻痺のリハビリの方法
参考までに、最近注目されている脳卒中のリハビリの方法をまとめました。
概要だけでも知っておくと参考になると思います。特に「川平法」は患者さんもテレビで見て知っている人も多いので知っておくと良いと思います。
川平法
神経筋を促通させる手技を用いて、正常運動を何百回単位で何度も反復することで機能回復を図る治療法です。
例えば、人差し指から小指までが一緒に動いてしまう片麻痺の患者さんに、「人差し指だけ伸ばす」という正常運動を促すために、人差し指を素早く曲げて、「はい、伸ばして」と指示すると簡単に伸ばすことができます。(もちろんタイミングや伸ばし方にはそれ相応の技術が要ります。)
これは、
- 素早く曲げることによって伸張反射が誘発される。
- 人差し指を伸ばす神経回路の興奮が高まる。
- 患者が指を伸ばす努力をすると、その意図によって人差し指を伸ばす神経細胞だけが発火しやすくなる。
という機序によります。
特に慢性期の方で機能回復に強い希望を持たれている方が希望してこの治療法を選択されます。
実際の治療方法を見たい方はYOUTUBEで「川平法」と検索すると見ることができます。
CI療法
神経学会の脳卒中リハビリガイドラインにも記載されているリハビリ方法で、身体の部位で良く使う部位の脳組織の神経組織が発達するという特性を活かして、麻痺側の上下肢を強制的に使用し、神経の促通を促すという治療法です。
この治療法では、脳細胞には柔軟性(可塑性)があるため。集中的な訓練で、運動をつかさどる大脳皮質の障害のない部分が、障害のある領域の機能を果たすようになると言われています。
1日5時間を10日間、障害のない手にはグローブを付けたりして麻痺側の手で決められた課題をこなしていきます。
CI療法では使いにくい麻痺側の上下肢を強制的に使用するため、ストレスが溜まりやすいと言われています。
しかし、課題の難易度を適宜変えたり、「なぜできなかったのか、またどうすればできるようになるのか」など作業療法士などの専門家が指導を行いながら訓練を行い、ストレスのケアも考慮されているところが特徴です。
私も実際に臨床でCI療法に立ち会ったことがありますが、訓練後、患者さんはぐったりしており、それだけ麻痺側上下肢を集中して使うという行為は疲労を伴います。また、代償動作をできるだけ自ら制御して訓練するので、全身がガチガチに強張っている人がほとんどでした。
訓練後には、麻痺側上下肢の機能が劇的に改善するというよりも、残された麻痺側の機能を最大限使うという経験をされることで生活の中で積極的に麻痺側を使っていく自信が持てるようになる方が多かったです。
エビデンスもあり、実際の効果が認められている治療法ですが、患者さんに長時間療法士が付き添ってリハビリを行う必要があるため、現行の医療制度の診療報酬では採算が合わず、あまり普及していないのが現状です。
まとめ
リハビリで対象となる疾患は様々です。
整形疾患は特定の部位に対する集中したリハビリが行われることが多いですが、脳卒中片麻痺のリハビリでは特に広い視野を持って患者さんを評価し、アプローチしていくことが大切になります。