
「生活行為向上マネジメント」をご存じでしょうか?加算が取れるようになったことで最近一躍有名になりましたよね。
日本作業療法士協会が「作業療法の見える化」として生活行為向上マネジメントの普及・啓発を図っています。
生活行為向上マネジメントは、リハビリの今後を示唆しているものだと思います。
知っていると、リハビリに対して今までと少し違う新しい考え方を持って臨めると思います。
生活行為向上マネジメントとは、リハビリ(自立支援)をアプローチやセラピーではなく、「マネジメント」していくという新しい発想の元にリハビリを行っていくことです。
そもそも、今まではリハビリの定義が明示されていなかった
なぜ今生活行為向上マネージメントが注目されているのか、その経緯を知っておくとその存在意義が腑に落ちて理解できると思います。
私達療法士やセラピストは何のためにリハビリをしているのか、というと、患者さんが「障害を持ちながらでも、少しでも望む生活を送れるよう」にするためです。
つまり、いくらリハビリで足を鍛えようが、疼痛を軽減させようが、それで患者さんの生活にプラスの影響が出なければ、あまり大した意味はありません。
ここは実際に私達リハビリ従事者も良く混同しているところで、「疼痛を劇的に改善するアプローチ!」などと謳い高額なセミナーを開いていたり、それに引っ掛かって何万円も払って研修に参加する療法士が後を絶ちません。
実際に私も新人理学療法士の頃は、理学療法やリハビリに対して、ありもしない幻想を持っていました。
人体の構造やメカニズムをもっともっと勉強すれば、いつか劇的に疼痛を改善させたり、劇的に歩かせるようになると何となく夢想していたものです。
いわゆる「ゴッドハンド」に憧れていたのです。
しかし、臨床経験を積んで、真剣にリハビリをやればやるほど、理学療法や作業療法にそんな魔術やマジックみたいな効果はないことがはっきりわかってきます。
もしそんな方法があるのなら、もっと理学療法士や作業療法士の名前は世の中で認知されているはずですし、テレビでも実際に「ゴッドハンド」を披露する人がバンバン出てきていると思います。
リハビリってそんな派手なものではなくて、地道にコツコツ少しずつ慎重に積み上げて、やっと少し生活が変わるかな?という程度のものだと思っています。
それは私の勉強不足によるもので、患者さんをちゃんと治療できていないからだ!と思われる方もいるかと思いますが、まず私の考えで間違っていないはずです。
ゴッドハンド的なアプローチをする人で、まともなことを言う人に会ったことがないですし、徒手療法に走っている人って偏った考えの人が多くて、一部の患者さんには受けたりしますが、「胡散臭い・・」と一般的には思われることが多いと思います。
よくリハビリのことを「治療」という療法士がいますが、私はそれすらも大げさだと思っており、できるだけ治療という言葉は使わないようにしています。
だって、医療で本当に治療する時って、手術したり、直接身体の悪い部分に働きかけますよね。
悪い部分が筋肉・関節である場合は徒手で外から触ってもある程度のアプローチはできるかもしれませんが、それ以外は正直ナンセンスです。
例えば、「頭蓋骨を矯正することで姿勢改善し、腰痛が改善する!」など、アプローチする部位が明らかに関連性の薄い場合はオカルトの類だと思ってほぼ間違いありません。
筋連結によりある程度影響していることも考えられなくはないですが、それならば、腰部に直接アプローチした方がよっぽど効果的でクイックな反応が得られるはずです。
このように、リハビリの定義が明確でないことによって、リハビリ従事者も高額詐欺セミナーに引っかかたり、患者さんは何となく療法士を実際以上に有り難がったり、みんな右往左往して弊害が生じていると思います。
私がこの生活行為向上マネジメントが画期的だと感じたところは、「リハビリとは生活行為を向上させるためのもの」と明確に定義を定めていることです。
本当は筋力が弱かろうが、多少痛みがあろうが、生活に支障がなければ別に構わないのです。(あくまでリハビリ的な視点でいうと、です。)
ここがはっきり理解できていない療法士があまりにも多いと思います。
逆に筋力が強くても、生活に問題が生じている部位があるなら何とかしなければならないのです。
疼痛や筋肉にアプローチするだけで終わるのではなく、リハビリでは「生活をマネジメントする」という視点が今後必ず必要になってきます。
生活行為向上マネジメントが考案された背景
2025年には日本の高齢化率が30%を超えると予想されており、現在国は地域包括ケアシステムの構築に向けて動いています。
要介護者の大半を占める軽介護者を地方自治体で構成・運営される地域包括支援センターに振り、できるところは自分たちで(国民同士で)助け合い、できるだけ税金を掛けないように社会福祉を行っていこうとしています。
そうしないと国の経済は持たないし、そうせざるを得ないのが本音でしょう。
その中で、現状の介護保険法では「自立支援」を原文に掲げながらも、実際に自立支援の為にリハビリをしたり、介護サービスを利用したりできている訳ではありません。
自立支援の方法にはざっくりと2種類あると私は思っていて、
1つは「現状の生活を維持させて、何とか自立して生活できる援助を行うこと。」
もう1つは、「ゆくゆくは全て一人で自立して掃除や洗濯などができるように支援を行っていくこと。」です。
わかりやすく言うと、前者は現在のヘルパーさんのやっていること、後者は療法士が行っているリハビリのことを指します。
現状の介護保険制度でのサービス利用の目的は、上述の1の方で、あくまで「現状維持」を目的としたものです。
一般的に、介護って「生活のお手伝い」ってイメージありますよね。
でも、今後は「自分でできるように工夫しながら生活する方法を探していくのが介護」という視点に国としては変えていきたいのではないのでしょうか。
その布石として「生活行為向上マネージメント」が提示・推奨されているのではないかと思います。
現状では、ヘルパーさんは生活援助で派遣されて、現在の生活をお手伝いすることで精一杯です。
しかし、今後は自立支援の本来の意味である、「最終的には自分でできるように介護を行う」ことが求められるようになってくるでしょう。
あくまで理想論ですが・・。
生活行為向上マネジメントとは
その人にとって意味のある”作業”に焦点を当てた支援のことで、その人の生活行為の向上を図るために必要な要素を分析し、改善のための支援計画を立て、それを実行する一連のプロセスのことです。
本人にとって本当に大切で重要な「やりたい」と思っている生活行為に焦点を当てたマネジメントツールです。
このプロセスは作業療法士が臨床で思考する過程を明示しているといわれ、あえて”作業療法”や”作業”と言う言葉の代わりに”生活行為”という言葉を使っています。
生活行為をマネジメントをツールとして活用すると、作業療法でアプローチしていく際の療法士の作業が書式に従って書いていくだけで完成します。
よって、
- 介護職
- 家族
- 地域
の方もマネジメントに参加できるというメリットがあります。
また書式を用いて「見える化」し、情報を共有できるように考案されているので、中心にリハビリ職種を置いて、チームアプローチで支援に活かすことができるとされています。
生活行為向上マネジメントのプロセス
プロセスは、下記の手順で実施されます。
”生活行為向上マネジメント実施のプロセス”
- 聞き取り
- 評価の実施
- 生活行為アセスメント
- 生活行為向上プランの立案
- プログラムの実施
- 再評価
具体的に手順を理解するためには、実際にやってみることが一番です。
各手順には全て専用のシートが日本作業療法士協会により作成されており、それを使って手順を進めていきます。
以下、順に説明していきます。
1.聞き取り

専用の生活行為聞き取りシートを使います。シートの書式はリンクからダウンロードできます。
これ使い、本人や家族が望むことの聞き取りを行います。
もし、目標が思い浮かばない場合は、こちらの興味・関心チェックシートを使います。
実施にやってみましたが、ごく簡単にやりたいことが見つかる人と、なかなか見つからない人がいます。
私が訪問リハビリで高齢者の各お宅を訪問していると、
- 「生き甲斐がない」
- 「生活に張りがない」
- 「やりたいことがない」
という声をよく聞きます。
(参考※地域高齢者の深刻な”生きがい喪失”問題・・社会問題解決に挑む「ソーシャルビジネス」とは?)
そういった方にも興味関心チェックシートがあると生活行為マネジメントで中心に据えるべき興味・関心が少しでも見つけやすくなると思います。
2.生活行為アセスメント演習シート 作成

生活行為アセスメント演習シートに基づき空欄を記入していきます。
1の「聞き取り」で聴取した本人の望む生活行為について、制限している要因をICFに基づきアセスメントしていきます。
(参考※ICFとは?)
次に、現状での
- ”強み”
- 予後予測”
を大まかにアセスメントします。
その後に、対象者や家族と再度相談し、
- “解決すべき課題”
- “優先順位”
について合意を得ます。
介護職域の方にも実施できる様に考えられているそうなので、実際に介護職の方にこれをやって頂きました。
結果、「ICFに基づき」というところが結構ネックです。
まず、ICFの概念について大まかに理解している必要があり、もし全く理解していない方がこれを実施した場合、かなりの時間を要します・・。まずはICFについて大まかに理解してもらう必要があります。
1時間くらい掛かったので、これを実際に臨床・介護現場で使うには少し慣れておく必要があると思います。
3.生活行為向上プラン演習シート 作成

2.生活行為アセスメントによって問題点を明確にしたら、生活行為向上プラン演習シートを使って、支援計画を具体的にどうやって実施していくか考えていきます。
- 基本プログラム
- 応用プログラム
- 社会適応プログラム
に分け、
- 療法士
- 本人
- 家族
- その他の支援者
など、誰がどのように支援を行うか詳しく決めていきます。
責任の所在を明確にするというか、役割分担が明確に決められているのは大変良いことだと思います。
少し書き方が他のプロセスよりも複雑なところがあるので、以下に簡単にまとめてみます。
”生活行為向上プラン演習シート 作成手順”
①達成可能なニーズ”を実践するために必要な、
- 『企画・準備力(PLAN)』
- 『実行力(DO)』
- 『検証・完了力(SEE)』
について記入していきます。
②分析したそれぞれの力、本人の現状能力について5段階で評価します。
③ ②において1以外の評価だったものについて、その力を獲得するための方法(プログラム)を検討します。
プログラムは、
- 『基礎練習』
- 『基本練習』
- 『応用練習』
- 『社会適応練習』
に分類し、記述します。
④ 各練習を
- いつ
- どこで
- どのようにして行うのか
- 誰が支援(専門職・家族)するのか
を決めます。
4.再評価→申し送り
一定期間介入後に改めてアセスメントを行い、継続するか終了するかの判断を行います。
この支援プロセスが上手く行っているなら、それを継続させるために、申し送りを行って、きちんと次の担当の者に引き継いでおく必要があります。
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まとめ
実際に私が試してみながらこの記事を書いていきましたが、本当に自分が臨床で考えている考え方が整理されており、計画を立てやすいと思いました。
しかし、課題も当然あって、
- ICFや問題点抽出をやったことがない介護職の方がやるには少し慣れが必要。
- 実際に現場で運用されるようになるまではもう少し時間がかかりそう。
(現場の人の意識が変わらないと、めんどくさい・・と受け取られ兼ねないです。実用レベルでこのアセスメントを活用していくには「介護」という意識自体を変えていかなければならないと感じます。)
リハビリの目標やプラン立案に困っている方はぜひ一度試してみることをお勧めします。
個人的には、療法士を目指す実習生が使うと、臨床での思考過程を学ぶのに大変整理された良いツールだと思いました。