
一般的に、関節水腫のことを「膝に水が溜まる」と言います。その原因と対処法について解説します。
「膝の水を注射で抜くと癖になる」
と信じられている患者さんも多く、そのようなお話を臨床で頻繁にお聞きします。
しかし、本当は注射によって癖になるのではなく、関節の状態によってはいくらでも水が出てくるので、そのように思われているようです。
なぜ膝に水が溜まるのか、その機序を理解すると、水を抜くことが癖になることはないという事がご理解できると思います、
なぜ膝に水が溜まるのか?
膝に水が溜まった状態のことを医学的には「関節水腫」と言います。
この関節水腫の原因は膝に水が溜まることです。
結論から言うと、膝の水とは、関節滑液(関節液とも呼ばれます。)のことです。
関節滑液とは、関節同士の摩擦を減らし、円滑に運動が行えるように分泌される関節の潤滑液の役割を担います。
普通透明で、粘り気のある液体です。
通常、この関節液は関節を構成している関節包の内面を覆う滑膜というところから適度な量が分泌され、リンパ管より吸収されて関節内を循環しています。
膝関節やその周辺組織に炎症が起きたり、骨の変形などにより軟骨同士が擦れるようになると、関節遊離体という異物が関節内に出現し、その物質を排除するために、この関節液が吸収しきれない量で滲出します。
結果、「膝に水がたまった」状態になります。
膝関節の膝蓋骨(お皿)の上には膝蓋上嚢(しつがいじょうのう)と呼ばれる「袋=空間」があるので、そこに水は溜まりやすくなります。
これは炎症や異物を抑制・排除し、本来の状態ではない異常な症状を抑えようとする人体の生理的な反応です。
よって、膝に水が溜まる根本の原因は、炎症や関節遊離体などの異物の混入が起きることです。
膝に水が溜まった時の症状
- 膝関節が腫れ、曲げにくくなる。結果、立ち座りや歩く動作がしづらくなる。
- 立ったり、歩くなど、膝に体重が乗ると膝に痛みがある。
- 膝周りが腫れたように膨れる。
などが主な症状です。
膝に水が溜まる病気(疾患)
上述のように膝関節が変形したり、炎症を起こす疾患がある場合、膝に水が溜まる症状が出ることがあります。
それでは、具体的に、膝に水が溜まる主な疾患は何があるのでしょうか。
主な疾患は以下になります。
- 変形性膝関節症
- 関節リウマチ
- 運動中の外傷による怪我や骨折
- 痛風(偽痛風)
主にこれらの疾患で膝に水が溜まる症状(膝の腫脹)が起こります。
しかし、特に外傷性の怪我により膝が張れている場合は、関節液ではなく、血液が貯留している場合もあります。
診断
上記の疾患が主に膝み水が溜まる原因となる疾患ですので、それらを診断・区別することが大切をなります。
関節リウマチは、以下に記載する「リウマチ学会の診断基準」に準じ、7項目中4項目以上を満たす場合、関節リウマチと診断されます。
「リウマチ学会の診断基準」
1. 朝のこわばりが1時間以上持続する。この状態が6週間以上継続している。
2. 3関節以上の関節炎が6週間以上継続している。
3. 手の関節炎が6週間以上継続している。
4. 対称性の関節炎が6週間以上継続している。
5. リウマトイド結節(骨が突出している部位の皮下結節)。
6. 血清リウマトイド因子が陽性。
7. X線像の変化。
参考:リウマチのリハビリの詳細
関節炎が全身症状を伴う場合、白血球増加、CRP上昇(炎症所見)などの検査所見がみられます。また、痛風では血清尿酸の上昇、白血球の増多、CRPの上昇がみられます。
膝の水の種類の見分け方
膝関節が腫脹していて、内部の貯留液が関節液なのか、血液なのか診断する場合は、注射器で貯留液を摘出し、色や成分、状態を比較します。
- 透き通った黄色 → 変形性膝関節症など
- 黄色で濁りがある(混濁) → 関節リウマチ、痛風・偽痛風など
- 白く濁りがある → 化膿性関節炎
- 血液 → 半月板損傷、靭帯損傷、関節包損傷などの膝ののケガ、外傷性による関節炎
- 油の混じった血液 → 関節内骨折(膝蓋骨折など)
膝に水がたまった時の治療・対処法
基本的には、炎症を抑える方法が取られます。
自分でできる対処方法では、RICEが有名です。
RICEとは、応急処置の方法の頭文字を取ったもので、
- R=REST(安静)
- I=ICEING(冷却)
- C=COMPRECCION(圧迫)
- E=ELEVATION(挙上)
のことです。
RICEについて詳細は、”足首の捻挫のリハビリは痛い?どれくらいの期間が掛かる?”に記載しています。
膝に水が溜まっている場合には、激しい運動は避け、筋肉量が低下しない程度の適度な膝関節に負担の少ない運動を行うことが最も大切です。
クーリング(冷やす)ことも炎症所見がある場合は有効です。
しかし、変形性膝関節症やリウマチなどは慢性的なものなので、冷やすと炎症は少しましになって関節液は滲出しにくくなったとしても、痛みが強くなってしまう場合も多いので注意が必要です。
どの程度冷やしたり温めたりすると良いかは、人によって、または炎症の程度によって異なるので、主治医に確認すると良いと思います。
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注射器で水を抜く処置や診断がされる場合もある
注射器で水を抜くという処置がされる時もありますが、関節の炎症が収まらなければ、何度抜いてもまた水が溜まります。
上述しましたが、これが「水を抜くと癖になる」と言われる由縁です。
水を抜くという処置がされる場合は、
- 関節の腫脹により関節が曲がりにくくなった時
- 診断のために抜いた後の水の状態を確認する場合
に多いです。
まとめ
変形性膝関節症の初期段階に軟骨の摩耗があり、それによる炎症や異物の関節内への混入により、潤滑油である関節液の滲出量が増えることを、一般的に「膝に水が溜まる」と言われています。
膝に水が溜まる状態は膝関節に何かしらの異常があることを示唆しています。
対処方法としては、炎症を抑えるのと同じ、安静、冷却、圧迫、挙上が基本ですが、これは外傷性の場合に最も適した対処法であり、関節の状態を見極めて適せつな方法を選択すると良いでしょう。
注射で水を抜く場合は抽出液を診断に用いる場合も多く、結局はそれらの総合的な診断により、根本的な原因疾患の治療を行わないと水が溜まる状態は改善しにくいと言えるでしょう。(自然回復もあるのでましになったりすることもあるとは思います。)
「膝の水を抜くと癖になる」から病院に行かないのではなく、膝に異常を感じたらできるだけ早く受診し、診断を受け、適切に対処することが結局は最も早くて効果的です。