
膝のお皿、膝蓋骨(パテラ)は、大腿骨との間に大腿膝蓋関節を形成し、大腿四頭筋の収縮効率を高めることにより膝の安定性に寄与し、立位姿勢の保持や各種動作の遂行に重要な役割を担っています。
膝蓋骨骨折のリハビリの必要性
膝蓋骨の骨折は、発生頻度からするとそう多くない骨折の1つですが、膝関節という重力に抗して活動をする人体に無くてはならないものであり、骨折による二次的な機能障害は大きい場合があります。
膝蓋骨骨折は一般に骨折の形とその程度によって分類されます。
膝蓋骨が横方向に割れる、横骨折が最も多く、通常中間部と下3分の1の部分に発生します。
粉砕骨折、星状骨折に続き、縦骨折、骨軟骨骨折は一般的に少ないと言われています。
膝蓋骨骨折のリハビリにおける治療目標は、
- 膝関節の正常可動域の獲得
- 膝伸展機構の修復
- 膝蓋骨の関節面の解剖学的整復
です。
膝蓋骨(パテラ)の機能を考えると、膝関節の屈伸に機能的障害が出るので、大腿四頭筋のトレーニングをどう行っていくかがリハビリの大きなポイントになります。
すべての大きい骨折片の解剖学的整復と固定が行われ、骨折形態と転位の程度により
- 保存的療法
- 観血的治療
が選択されます。
保存療法は、
- 膝の完全な自動運動が可能
- 充分に膝伸展機構が保存されている
- 骨折片の転位がない
場合に行われます。
多くの場合、膝の完全伸展位か軽度屈曲位で大腿中枢部から足関節までプラスチックギブスなどで4~6週間前後の間固定されます。
固定期間が終了すると、必要に応じて軟性膝装具などを用い、本格的なリハビリが行われます。
膝蓋骨骨折のリハビリの基本的な指針
予想される関節拘縮、筋力低下、神経・筋の協調性について評価・治療を行います。その時に非損傷側を目安にすると良いと言われています。
保存的治療における固定期
保存療法による固定期では膝関節が伸展位で固定されています。この時期からできる範囲で動かせる部分を動かしておきます。
筋力維持・増強
大腿四頭筋の収縮により、骨折部の転位の恐れがある場合は注意が必要です。
関節を動かさなくても行える、等尺性の運動などを行います。
神経・筋協調運動
免荷時の足趾、足関節底背屈運動を行います。
足趾の運動についてはタオルギャザー、足趾で物を掴む運動などが一般的です。
膝関節伸展位で固定されている場合は、高くギャッジアップしたベッドなどに腰をかけて行うこともできます。
詳細のトレーニング方法は、こちら「足趾を鍛えてバランス能力の改善を」の記事に記載しています。
歩行練習
4~6週間かけて松葉杖による部分免荷歩行から全荷重歩行へと移行させていきます。
固定期間以降
固定期以降は、免荷や疼痛の程度を観察しながらできるだけダイナミックで粗大な全身的な運動を行っていきます。
ROM運動
自動ROM運動、他動ROM運動両方を行います。
膝関節周囲の腫脹・疼痛が続くことがあるので、必要に応じて物理療法を併用します。
8~12週程度で正常ROMを獲得するように計画的に進めます。
筋力維持・強化
SLR運動や膝周囲筋の筋力維持・増強運動を行います。
必要に応じて電気刺激による筋力維持・増強も加えると良いと言われています。
歩行練習
最初の2、3週間は歩行が安定するまで松葉杖を使います。
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膝蓋骨骨折のリハビリの実際の内容
膝蓋骨の周囲の組織の影響を考えてリハビリを行っていきます。
膝蓋骨のモビライゼーション

膝蓋骨は膝伸展機構の中心となる部分で、中枢部には大腿四頭筋腱、末梢部には膝蓋腱が付着しており、内側には内側広筋、外側には膝蓋大腿靭帯、外側には外側広筋、腸脛靭帯などがあります。
膝蓋骨の可動性は間接包を包む軟部組織の可動性そのものと言っても良いです。
よって、膝蓋骨の可動性が低い場合は、ほぼ間違いなく膝関節にROM制限が存在します。
関節内の癒着を防止するためにも、早期より膝蓋骨のモビライゼーションを行います。
(※リンクに各部位のモビライゼーションの実際の方法・目的を記載しています。)
モビライぜーションを実施するときには、患者が緊張していたり、疼痛があると、大腿四頭筋が収縮してしまい。膝蓋骨が動きにくくなります。
大腿四頭筋の緊張を触診し、膝蓋骨の動きを確認するとよいでしょう。
また、患者さんの視界の見えるところでROMを行うと緊張しにくく、モビライゼーションがスムーズに行える場合もあります。
視界に入りやすい座位で、モビライゼーションやストレッチを行うことで患者さんの安心を得ることができます。
筋力増強運動
膝蓋骨骨折と直接関係があるのは大腿四頭筋です。大腿四頭筋の筋力の維持・増強を図ることは必須です、
しかし、固定免荷により下肢全体の筋力低下が予想されるため、下肢全体の筋力全体にも注意を払う必要があります。
筋力トレーニングは、等尺性収縮より開始します。(参考:効果の出るパテラセッティングの方法)
筋出力が大きすぎる運動(例:遠心性収縮)は膝蓋骨を長軸方向に伸長する力が加わってしまいます。
術後の経過によって、そのような方向に力を加えたくない場合は、股関節屈曲位、膝伸展位で筋力トレーニングを行うと、筋の筋力-筋長関係より、筋が短縮するほど出力が小さくなります。
神経・筋協調運動(DYJOC)も効果的です。
- 地面からの情報入力機能の改善
- 足指把握機能の向上による身体制動の改善
- 荷重下での下肢及び上肢の多関節運動連鎖の促進
- 全身的な協調性の改善
- 不意な外力への反応改善による予測制御の確立
を目的として行います。
免荷期には、タオルギャザーなど、座って行える足趾の運動、部分免荷期には不安定板、キャスターボードなどを使い、座位及び・立位でダイナミックに膝の屈伸運動を伴う運動を行います。

全荷重期にはバランスボードなどを使って、両足立位保持しながらバランスを取る練習を行います。この時期には、患側だけでなく、両側を協調させて使っていく運動を積極的に行っていきます。
まとめ
膝蓋骨骨折のリハビリでは、膝蓋骨周辺の解剖学的知識に基づいて、リハビリを行い、二次的機能障害を予防することが大切です。
固定期を過ぎ、全荷重期になれば、両足に荷重し、バランス練習などを通して全身の協調性の向上を図っていきます。
モビライゼーションや、筋肉を収縮させる方法による特性の違いを利用して、効果的にリハビリを行っていく必要があります。