
私は以前、理学療法士になる前に、福祉用具専門相談員として働いていました。
資格の「箔」
学校を出てストレートに療法士になった人はご存じないでしょうが、「先生」と呼ばれるような国家資格を持っていると、それだけで天と地程にお客さん(療法士の場合は患者さん)の態度が変わります。
これは本当にあります。
福祉用具専門相談員をしていた頃は、各家庭に車椅子などの福祉用具を車に乗せて運ぶ仕事をしていました。
「選定」といって、その人に合った車椅子を選んだりもしますが、当時、解剖学も医学的な知識も皆無な私は、今思うとむちゃくちゃな理由で選定して、車椅子をおすすめし、希望があった家に収めていました。
また、住宅改修の手すりを取り付ける段取りを組んだり、市の助成事業を利用して、住宅改造(ユニットバスをまるまる取り替える)なども仕事として行っていました。
その時代、一見すると「優しい人」なのですが、次第に「怖い人」に変化していく人たちにたくさん遭遇しました。
これは療法士になってからは、6年経つ今でもあまり経験がありません。
正直、資格の「箔」の違いによるところが大きいのではないかと思っています。(専門相談員時代は「先生」などと呼ばれたことは一度もありません。福祉用具を持って行ったら、選定どころではなく、宅配便みたいに「忙しいんだから、グダグダ言わずにそこ置いといて!」という感じで対応されることが多かったです。)
笑顔の素敵な優しいおばあちゃんの話
あるおばあちゃんは、とても柔和な笑顔で、私に丁寧な物腰で対応して下さる方でした。
おばあちゃんは、家のユニットバスが古くて入るのがしんどいので、新しくして欲しいと希望されていました。私はその要望通り、役所とケアマネに相談し、市に申請して許可を貰い、無事にユニットバスを取り換えることができました。
ユニットバスを取り換える時の工事中は、私のことをすごく気に入ってくれたようで、「さみしいから来てくれると嬉しい」と、まるで本当の孫の様に私を丁重に扱ってくれました。(そのおばあちゃんには身寄りがなく、子どももいません。独居です。)
工事がすべて終ると、ほとんど1週間に1回位のペースでそのおばあちゃんから私に電話が掛かってくるようになりました。
初めは、「また来てね」的な感じで世間話をして終っていたのですが、次第になかなか顔を出さない私に対して苛立っているような口調になってきました。
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一般企業では、勤務時間中の利益を生まない行動は「無駄」と取られます。
おばあちゃんと話すために勤務中に自宅に顔を出すという行為は一円もお金を生みません。さらに、私が1時間そのために浪費すれば、私が動いた人件費分が会社にとっては赤字です。
上司の耳に入ったら「あいつは何してんだ!遊びじゃないぞ!」という話に無りかねません。
休みに顔を出せば済むのかも知れませんが、そこまではしたくなかったので、放置しておきました。
勤務時間中にでも近くに寄った時にそろっと顔を出せばよかった、と今では思いますが、当時は若く、怠惰な私はそんなこと「めんどくさいわ」と思っていました。
すると、
- 「あんたとこ、ユニットバス変えたはええけど、換気扇が天上に付いてて、説明書見たら3か月に一回掃除しろって書いてあるじゃない!どうやって年寄りの一人暮らしの家でそんなことできるのよ!!」
- 「あんた毎回掃除しに来なさい!!」
- 「できないなら元のユニットバスに戻して!」
と激しい口調で電話が掛かってくるようになりました。
「これはえらいこっちゃ、クレームだ・・・」と上司にとりあえず相談し、一度訪問してお詫びする許可を頂きました。
「取り敢えずお前が行って話を聞いてこい!」って感じです。
そのおばあちゃんの家に着くと、以前と同じように、「よく来たねぇ!」と変わらず柔和な笑顔で、まるで自分の孫の様にまたお菓子などを出してくれました。
私にはその笑顔が、以前と違ってすごく不気味で、怖く感じました。おいしいお菓子も一切喉を通りません。笑
そして、「ちょっとお風呂見てくれるー?」と言われて風呂場に行くと、さっきまでの調子は何だったんだと言うくらい表情と口調が変わりました。
そこからはありとあらゆるクレームを浴びせられました。
- 「私は風呂の床に座って身体を洗うのに、鏡が高すぎて使えない。(一般的なユニットバスは、風呂椅子の高さを考慮して鏡が少し高めに付けらています。)あんたはなんでこんな位置に鏡を付けたんだ!」
- 「晩に電気を点けたら、壁の色が思ってたのと違う。あんたの説明が足りないからだ!」
- 「やっぱり元に戻して!(元に戻すのに100万円以上かかります・・・。できるわけない。)」
などなど・・
当時12月の真冬でした。
床が濡れたお風呂場で、直立不動で3時間位ひたすらクレームを聞きました。足はビチョビチョで寒さのために感覚が無くなっていました。
なんとかその場を凌ぎ、家を出た時、もう夜の7時。就業時間もとっくに過ぎて、辺りは真っ暗になっていました。
トボトボと下を向いて帰りながら、当時22才だった私は、
「人間って怖すぎる・・・」
と思いました。
まとめ
福祉用具専門相談員時代は、私も年齢的に若く、社会的にも未熟であったため、自身の対応が悪かったこともあったと思いますが、こんな話がいくらでもあります。
玄関で、訪問販売の悪徳業者に勘違いされ、日本刀で切られそうになったこともあります。笑
でも、今改めて思うと、あの本当は怖い、「優しい人」達が私を大きく成長させてくれたことは間違いないと思うのです。
今回の例のおばあちゃんであれば、めんどくさがらずに、上司に内緒でこっそりと顔を出していれば恐らくあんなことにはならなかったでしょう。(結果的には莫大な時間を無駄にすることになっているのですから、少し顔を出すくらい会社にとっても何ともないのです。)
「ややこしくて、めんどくさい・・」
そんなことが、実は人生では結構大切なことだったりします。これは仕事でも同じです。
当時、”イージー”かつ”こなすように”お客さんを扱おうとしていた私に対する、良い警告だったと今になっては思います。
(実際、量だけで言ったら誰よりも仕事をこなしていたと思います。)
みなさんも「本当は怖い、優しい人」に遭遇したことはありますか?
その人達は、実際「ややこしくて、めんどくさい」です。笑
しかし、是非、精一杯、全力でお付き合いしてみて下さい。
きっと、あなたにとって人生で大切なことを教えてくれると思います。
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