
前鋸筋は肋骨から肩甲骨に付着する筋肉で、肩甲骨を外転・上方回旋させる作用があります。腕を動かす時に非常に重要な筋肉で、肩こりの原因になることもあります。
前鋸筋とは?
前鋸筋は、「ぜんきょきん」と読みます。
その名の通り、鋸(のこぎり)型の形をしている筋肉です。あまり有名な筋肉ではありませんが、体幹~肩甲骨の固定に重要な役割を持つインナーマッスルです。
前鋸筋は、胸から肩に位置し、第1肋骨~第9肋骨より起始し、肩甲骨の内側縁に停止しています。



前鋸筋は、停止部の肩甲骨内側縁で菱形筋と筋連結しており、起始部で外腹斜筋と連結しています。
筋連結がある筋肉同士は、どちらか一方が強く収縮すると収縮が伝達される傾向があり、菱形筋と外腹斜筋と密接な関係があります。
参考)外腹斜筋について詳細はこちらリハビリに使える!コア(体幹筋)トレーニングメニュー負荷別8パターン
菱形筋について詳細はこちら手軽にできて気持ち良い!「菱形筋の筋トレ・ストレッチの方法5種類」
【前鋸筋の起始・停止】
(起始)第1~第8、第9肋骨の外側面の中央部より起始。
(停止)肩甲骨の上角、内側縁、内角に停止。
【前鋸筋の主な働き】
肩甲骨を前方へ滑らせる。肩甲骨を上方回旋する。肋骨を挙上する。
【前鋸筋の神経支配】
長胸神経(C5~C7)
前鋸筋の機能・作用
前鋸筋が収縮すると、肩甲骨を外転させる作用があります。肩甲骨の外転とは、肩甲骨が背骨から離れる方向に移動することをいいます。
逆に、肩甲骨を内転させる方向に働く筋肉(拮抗筋)としては、菱形筋(大菱形筋と小菱形筋)があります。
前鋸筋の作用を考える時に上腕骨の動きは非常に大切です。
前鋸筋の筋肉の作用のみを考えると肩甲骨の外転・上方回旋ですが、前鋸筋が機能不全に陥っていると、肩関節を屈曲(腕を体の前で上に挙げる)させることが困難となります。
この機能には、上腕骨と肩甲骨の動きの連動が大きく関係しています。
前鋸筋と関係の深い肩甲骨と上腕骨の関係性
そもそも、運動学的に肩関節の動きを支えている土台となるのは”肩甲骨”です。普通、腕を必要に応じて自由に動かすことができますよね。
この時の動きに関係している肩周囲の関節は、主に
- 肩甲上腕関節
- 肩甲胸郭関節
があります。
肩甲上腕関節とは、肩甲骨と上腕骨で構成される関節です。
肩甲胸郭関節は、肩甲骨と胸郭(肋骨)で構成される関節です。
この2つの関節が協同して動くことで、初めて上肢を自在に動かすことができます。
土台である肩甲骨が適切な位置に移動し、上腕骨を支えるために機能しています。この時に前鋸筋が収縮し、肩甲骨を外転させ、上方回旋させるという重要な役割を持っています。
つまり、腕を動かすために前鋸筋が収縮し、肩甲骨を適正な位置に固定させる働きがあるのです。
前鋸筋は肩甲骨を動かすだけでなく、腕を動かす際に補助として大切な役割を持っているということです。
前鋸筋はボクサーが発達している筋肉
また、純粋に前鋸筋が収縮すると上肢を前に突き出した状態から、更に腕を前に突き出す動作をします。
これはちょうど”パンチ”をするような動きになります。
よって、パンチをする「ボクサー」が良く発達する筋肉でもあるので、「ボクサー筋」とも呼ばれます。
呼吸補助筋としての役割もある
前鋸筋の起始部は肋骨に付着しています。
肋骨は胸郭に位置し、呼吸する際に膨らんだり縮んだりするので、前鋸筋は大きく息を吸う時(吸気時)に活動し、呼吸補助筋としての作用もあります。
呼吸機能に障害がある方は、努力性の呼吸(息がしづらい)をしており、前鋸筋を始め、呼吸補助筋がパンパンに張っていることもよくあります。
前鋸筋は肩こりの原因にもなる?!
パソコンなどのデスクワークを日常的に行う方は、腕を前に付き出した姿勢をとることが多いため、長時間肩甲骨が外転しています。
そうすると、前鋸筋も過緊張状態になりやすく、柔軟性が低下し、普段立っているだけでも、肩甲骨が外転位になりやすくなります。
この姿勢になると、本来使えるはずの肩周りの筋肉が作用しにくくなり、肩周りの筋肉の緊張が上がりやすくなります。
以下にご紹介する前鋸筋のストレッチを行い、リフレッシュされることをお勧めします。
前鋸筋を鍛える効果と目的
前鋸筋を鍛えるとどのような効果が望めるのでしょうか。
- 身体を引き締める
- 肩が上がりやすくなる
- 肩こりの緩和
が主に挙げられます。
身体引き締め効果
前鋸筋はインナーマッスルなので、筋肥大が著明に起こるような筋肉ではありません。筋トレをしても、大きくたくましくはなりにくい性質があります。
しかし、わき腹(肋骨)に付着している筋肉のため、鍛えることでわき腹を引き締める効果は期待できます。また、外腹斜筋と筋連結があるため、体をひねるような動作で前鋸筋も活動します。
肩が上がりやすくなる
肩甲骨の動きに大きく影響している前鋸筋は、機能不全に陥ると肩関節を屈曲、外転することが困難になります。
前鋸筋を鍛えたり、ストレッチしてケアすると肩関節の可動域が向上します。実際に臨床では、前鋸筋が短縮して肩関節が外転せず肩関節屈曲が出にくい場合は、前鋸筋をストレッチすることで可動域が改善することも多いです。
肩こりの緩和
実は私もこうやってパソコンを使ってブログを書く時間が多く、右肩甲骨が常に外転しているような状態で肩こりもあります。
以下にご紹介する前鋸筋のストレッチを行うと非常に気持ちよく、肩こりも緩和します。
猫背気味で、肩こりに悩んでいる方は是非試してみて下さい。
前鋸筋の筋トレの方法
前鋸筋の筋トレは上向きに寝て行います。
方法:
- ダンベルを持ち、肘を伸ばして垂直に腕を伸ばします。
- そこから肩甲骨を床から浮かすように手を天井に向かって伸ばします。
注意点:
肩関節は90°屈曲位で行って下さい。腕を動かす意識ではなく、腕を棒にして意識を抜き、肩甲骨を動かすイメージで行うと上手く運動できます。
前鋸筋のストレッチの方法
前鋸筋が収縮すると、肩甲骨を外転させます。
なので、前鋸筋をストレッチするには、肩甲骨を内転させる動きを行います。

方法:
- 写真のようにドアの所に立って、伸ばしたい方の腕を壁にひっかけます。
- そのまま、ドアから体だけを出すように前に一歩踏み出します。
注意:
一歩踏み出した際に、この写真の場合だと身体を右方向に回旋させてしまうと、起始部(肋骨)と停止部(肩甲骨)が近づくため、ストレッチ効果は弱くなります。真っ直ぐに体を突き出し、体を捻らないようにしてください。コツとしては、目線をストレッチしている手と反対方向に向けて行うと体幹の回旋が出現しにくくなります。
まとめ
前鋸筋は目立たない筋肉ですが、肩甲骨の動きをサポートする縁の下の力持ちのように重要な働きを持っています。あまり聞きなれないかも知れませんが、ボクサー筋とも呼ばれ、パンチをするときにも活発に活動する筋肉です。
また、鍛えたりストレッチすることで、肩甲骨が動きやすくなり、肩こり解消にも有効です。
是非この機会に筋トレとストレッチでケアしてみて下さいね。