
臨床の現場でリハビリをしていると、足がむくんでいる患者さんに頻繁に遭遇します。浮腫(ふしゅ=むくみ)の症状、病態、効果的な対応方法を知っておくと役に立ちます。
お酒を飲んだ翌日や塩分を取り過ぎたりすると、健康な人でも顔や足ががむくんだりしますよね。
このような場合、よく言われるように、マッサージをしたり、軽い運動をすれば、少しはましになります。
しかし、浮腫(ふしゅ=むくみ)は、原因によってはマッサージ・運動程度では改善しないことも多いのです。
なんらかの疾患で、医療が必要な状態になっている方の場合は、特にそのような場合が多いです。
それでは、浮腫とはどんな機序で起き、どんな種類があるのでしょうか?
そして、どう対応していけば良いのでしょうか?
浮腫とは何か?浮腫(むくみ)の症状、病因、病態
浮腫とは組織間液が異常に増加・貯留した状態のことです。
私達の血管は、毛細血管を通じて細胞へ水分の供給を行っています。
それと同時に、細胞内で不要になった水分を90%を静脈、10%をリンパ管に戻し、体内で水分を循環させています。
何らかの原因で、血漿成分が血管外に漏れたり、滲出した結果、浮腫(むくみ)が起こります。
これはごく頻繁に健康な人でも起こっており、特別珍しいことではありません。
しかし、それも程度の問題で、通常、組織間液が2〜3ℓ以上に増加すると臨床的に浮腫として認められます。
部位としては、目の周辺、手指、下腿、足背などによく見られます。
浮腫が生じるためには毛細血管から組織の間への血漿成分の移行が、組織から毛細血管の吸収とリンパ系へ流れていく量より多くならなければなりません。このバランスは、「スターリングの法則」として知られています。
このスターリングの法則は、小難しい数式を使うので、詳細は省略させて頂きます。(覚えても実際にはあまり役に立ちませんので。詳しく知りたい方はお手元のスマホに「OK、google!(ググるとも言う)」して下さい。笑)とりあえずそのような方式がある、ということを知っていれば充分だと思います。
毛細血管の透過性は炎症などで亢進し、浮腫を起こします。これは炎症物質であるブラジキニン、プロスタグランジンの作用によります。
毛細血管の静脈圧の上昇も浮腫の原因となります。血管内の圧力が亢進すると、その分血管の外に押し出される水分が増えるからです。
心不全や静脈閉塞による浮腫の機序はこの静脈圧の亢進です。
血漿アルブミン濃度の低下がネフローゼ症候群、肝硬変に見られる浮腫の機序です。
リンパ流の停滞もリンパ節切除等により起こり、浮腫の原因となります。

上述の様に、リンパ管は細胞間質の水分の内の10%を吸収しているにすぎません。リンパを刺激することで排出される水分はごくわずかであろうと推測されます。
浮腫の原因・種類
「全身性浮腫」
①腎性浮腫
ネフローゼ症候群、腎不全
②心性浮腫
心不全、収縮性心膜炎
③肝性浮腫
肝硬変
④内分泌性浮腫
甲状腺機能低下症、クッシング症候群、更年期性浮腫
⑤栄養障害性浮腫
脚気、ビタミンB1不足、吸収不良症候群、悪性腫瘍
⑥薬剤性浮腫
ステロイド系消炎鎮痛剤、Ca拮抗剤、漢方薬、ホルモン剤
「局所性浮腫」
①静脈性浮腫
静脈血栓症、上大静脈症候群、静脈瘤
②リンパ性浮腫
リンパ管炎、リンパ節術後、悪性腫瘍転移
③炎症性浮腫
皮下組織感染症、血管炎(膠原病)、アレルギー、蕁麻疹
④内分泌性浮腫
甲状腺機能亢進症
⑤体位性浮腫
長期臥床など
これらのものは主に疾患に起因する浮腫の原因です。
上記以外に、特に疾患のない健康な人の場合、以下の原因で浮腫(むくみ)が促進してしまいます。
- 筋力が弱い
筋ポンプ作用と言って、筋肉がぎゅーと収縮すると周囲の水分を静脈に戻す作用があります。筋肉が弱っていると、このポンプ作用が弱まり、結果、むくみやすくなったり、むくんでもなかなか治らなかったりします。
- 皮膚の張りが弱い
加齢などにより皮膚の張りが失われていくと、細胞外にあふれ出た水分に毛細血管に戻るための圧が掛かりにくくなります。結果、むくみやすくなります。
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これも、皮膚の張りを補うことで、細胞外の圧を高め、毛細血管に水分を戻す作用を高めることにより、むくみ解消を促進する効果があります。
浮腫の対策方法
上述のの浮腫の原因のうち、全身性の浮腫に分類されるものの多くは、マッサージや運動で根本的に解消することはできません。解消してもごくわずかな間だけ少しましになる程度でしょう。
局限性浮腫で、体位性の浮腫なら、マッサージや運動をすることで解消できる可能性もあります。
浮腫に対してはまず、問診でなにが原因で浮腫が起きているのか特定しなければなりません。
浮腫の問診のポイント
①既往暦
腎疾患、心疾患、肝疾患、甲状腺疾患、脳血管障害、呼吸器疾患、悪性腫瘍、高血圧、糖尿病、貧血、手術など
②浮腫の状態、出現時の状況
浮腫の程度、全身性か局所性か、対象か非対称か、日内変動、月経との関連、運動や歩行との関連、体位との関連
③薬物の服用歴
非ステロイド系消消炎鎮痛剤、Ca拮抗剤、漢方薬、仁丹、ホルモン剤
④アレルギー歴
食品アレルギー、薬剤アレルギー
医療現場・リハビリでの浮腫への対応
特に心疾患、腎疾患、肝疾患を持っておられる患者さんは、浮腫を解消するといった関わり方ではなく、浮腫の程度によって疾患の状態を把握することが最も大切です。
浮腫が強くなっている場合はそれらの疾患の状態も悪化していることが多いため、指標として浮腫を観察します。
特に高齢者の浮腫の場合には、無症候性、または無痛性の虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)による心不全を合併していることもあります。
日々リハビリで患者さんの体を触り、異常をいち早く察知することも医療従事者の大切な仕事の一部です。
まとめ
浮腫への医療従事者の効果的な対応方法は、マッサージでもなく、運動を促すことでもなく、結局のところ、その原因を特定することです。
運動またはマッサージすることで筋肉を動かし、貯留した間質液を排出するという方法は、原因によってはその場しのぎにしかならない場合もあります。
浮腫は、患者さんの疾患の状態を把握するための指標として臨床上では重要な役割を持ちます。
浮腫の程度を観察し、病状の変化を見逃さない様にしたいものです。