
「運動したいのに、痛みで思うように動けない・・」
療法士にとっても、患者さんにとっても悩ましいものです。
リハビリで遭遇する疼痛に対応する方法をご紹介します。
そもそも、疼痛とはいったい何なのでしょうか?
疼痛とは何か?
突然ですが、手塚治虫氏の「どろろ」という漫画をご存じでしょうか?
この漫画の主人公は、父親が政治の世界で権力を得るために、悪魔と契約して、まだ生まれぬ我が子のあらゆる感覚を悪魔に捧げてしまいます。
その子供は生まれながらにして、両手、両足を始め、聴覚も、視力も、温痛覚も、嗅覚も、なんの感覚もありません。
親には生まれてすぐに気味悪がられて捨てられてしまいますが、その子供は逞しく育っていきます。
やがて、成長した少年は、両手の代わりに刀を腕に差して、自分の体や感覚を奪った悪魔を退治する旅に出ます。
主人公はある時、その強さの秘密を「痛みがないから強敵に立ち向かっていくことができるんだろう?怖くないもんな。」と聞かれ、「馬鹿言っちゃいけない。痛みがないってことは、突然なんの予兆もなく体が動かなくなって死んでしまうかもしれないんだ。こんなに怖いことはない。」と答えています。
本来、疼痛は体の不調を知らせる防衛機能の一つです。生体にとって無くてはならないものです。
国際疼痛研究学会(IASP)では、『痛みは実際の、または潜在的な組織損傷を伴う不快な感覚的、精神的な経験』と定義しています。
つまり、痛みは、体が何らかの障害を受けたときに生じる単なる刺激ではなく、心や感覚が伴った苦しみのことと意義されており、これが私たちの感じる「痛みの本質」です。
疼痛の何が問題か?
疼痛とはこのように、肉体的な苦痛だけでなく、心の苦しみも必ず伴うものです。
しかし、痛みを感じている本人以外の人が、この程度を推し量ることはかなり難しいです。
George L. Engel( ロチェスター大学の精神科医)は1959年に、器質的原因に乏しい痛みの訴えを「心因性疼痛 psychogenic pain」と名づけました。
それ以降、第三者が診て、何だがわからない疼痛を「心因性疼痛」と判断してしまう社会の風潮があります。
疼痛の程度は他者には簡単には理解できないので、「心因性疼痛」と診断してしまうと、そこでもう治療関係は途絶えてしまいます。
確かに、疼痛は心理的なものとも密接に関係しており、「気の持ちよう」という場合もある様です。
それ故に、大なり小なり「人には分かってもらえない苦しみ」が疼痛にはあります。
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疼痛の種類
痛みを人に表現する時に、
- 「チクチク」
- 「ズキズキ」
- 「ガンガン」
- 「焼けるような」
など様々な表現がありますよね。
このように疼痛の種類は様々です。
侵害受容性疼痛
代表的なのがケガや火傷をしたときの痛みです。
組織が侵害されるとその部分に炎症が起こり、痛みを起こす物質が発生します。
この物質が末梢神経にある「侵害受容器」という部分を刺激することで痛みを感じるため、「侵害受容性疼痛」と呼ばれています。
このような痛みのほとんどは、急性の痛みで、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)や腱鞘炎、関節リウマチ、頭痛、歯痛、打撲、切り傷などがあります。
痛みと聞いて一般的にイメージするのは大体この痛みです。
神経障害性疼痛
何らかの原因により神経が障害され、それによって起こる痛みを「神経障害性疼痛」といいます。
坐骨神経痛、また脳卒中や脊髄損傷による中枢神経に障害がある場合の痛みなどがあります。
傷や炎症などが見えないにも関わらず、痛みがある場合には、神経が原因となっていることがあります。
この様な種類の痛みの場合、「ビリビリ」、「チクチク」、「ズキズキ」などと表現する患者さんが多いです。
疼痛の評価
疼痛を理解しようと思ったら、評価は必須です。見ているだけでは絶対疼痛はわかりません。下記の項目を問診して疼痛の概要を掴む必要があります。
◇疼痛の評価として知っておくべきこと
①日常生活への影響
②パターン
③強さ
④部位
⑤経過
⑥性状
⑦増悪因子・軽快因子
⑧現在行っている治療の反応
以下に臨床で使用される主な疼痛の評価を載せます。
痛みの強さの評価
一番強い時の痛み、一番弱い時の痛み、1日の平均の痛みに分けて詳細に評価するとよいと言われています。
強さを随時評価しておくと、上記の項目の⑤経過、⑦増悪因子・軽快因子、⑧現在行っている治療の反応など、様々な評価につなげることができます。
NRS(Numerical Rating Scale) は、痛みを0から10の11段階に分け、痛みが全くないのを0、考えられるなかで最悪の痛みを10として、痛みの点数を問うものである。VASは、100mmの線の左端を「痛みなし」、右端を「最悪の痛み」とした場合、患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうものである。
参考)日本緩和医療学会
疼痛の評価は、認知が低下した患者には使えないことが多いのですが、NRSはMini-Mental State Examination(MMSE)が18点以上の軽度の認知機能低下患者において使用することが可能であると言われています。
部位の評価
私は臨床で疼痛が筋原性であると疑われる場合、部位を正確に突き止めるために、MMTを応用して利用することがあります。
例えば股関節屈曲時に疼痛がある場合、膝関節伸展のMMTで痛みがあるなら、大腿直筋肉を疑い、股関節屈曲時に痛みがあるなら腸腰筋を疑います。
MMTは個別に筋肉を収縮させることを原則としているので、疼痛の判別におおよそですが、利用することもできます。
また痛い部位を教えてもらうと、患者によっては「ここ!」とピンポイントで指さしたり、手の平で「ここらへん・・」と広範囲の疼痛を訴える場合があります。
指でピンポイントに部位を訴えている場合は、急性疼痛、手のひらで訴えている場合は慢性疼痛の可能性が高いと言われています。
リハビリで軽減できる疼痛
リハビリで筋肉を鍛えることによって軽減する疼痛も中にはあります。変形性関節症などによる疼痛の場合です。
しかし、筋肉が本当に強くなるまで、生理的にしばらくの期間を要します。
その間はある程度痛みに耐えて運動をしてもらうしかないことも多いです。
そこで、ここでは療法士が臨床でリハビリをする上で役立つ、疼痛を軽くする方法をご紹介します。
個人的には、療法士がまともに相手できる疼痛は「筋原性疼痛」のものだと思っています。
筋原性の疼痛に対して、療法士が臨床で使うテクニックの一部を参考程度に紹介します。
筋トレは等尺性の運動を
等尺性の運動は関節運動を必要としません。
疼痛を誘発しにくいので動かすたびに痛みがある患者さんにおすすめです。
代表的なものではパテラセッティング、側臥位での股関節外転位保持運動などをする事が多いです。
ダイレクトストレッチ・牽引
患者さんによっては、疼痛を訴える筋肉に触診すると、明らかに筋緊張が亢進していることがあります。
筋緊張亢進による筋原性の疼痛の場合、筋肉を弛緩させることである程度の運動をできる程度に疼痛を軽減できる場合があります
ストレッチをして筋肉を弛緩させようとしても、他動的に動かすだけで痛い・・。
そんな場合、ダイレクトストレッチという方法があります。
簡単に言うといわゆるマッサージですね。
まず、触診などの評価で筋緊張が亢進している筋肉を突き止め、そこをぐっと押さえて、筋肉を伸ばしていきます。
そうすると、ゆっくりと緊張が低下していくのがわかると思います。
注意点としては、防御収縮が入りやすい患者さんの場合はゆっくり、これ以上ないくらい優しく触ることです。
私はわざと話を振って、そっちに注意を向かせている間にダイレクトストレッチをしたりします。
疼痛がある方はその部位を触られるだけでも「痛みが来そうな」嫌な感じがするものです。
効率的に筋緊張を落とすための方法として、他には牽引があります。
下肢の筋緊張を落としたい場合、療法士は背臥位で寝ている患者さんの足元に立ち、強い力で下方向に引っ張ります。
これもグッと一気に引っ張ると防御収縮が入り、むしろ筋緊張が上がってしまうので、ゆっくり、徐々に引っ張る強さを強くして下さい。
ホットパック
温熱療法は痛みの治療、循環の改善、筋緊張の緩解等の治療で、最もよく使われる治療法です。
その温熱療法の中でも、その手軽さからホットパック療法がよく使われます。
臨床の経験から言っても効果は絶大で、特に気温が下がる時期のホットパックは患者さんにも人気があります。
実際に自分が腰が痛いときなどに使ってみると効果が良く分かります。
ただ用意するのに少し時間を使ってしまうので、腰部に使うなら、背臥位で下肢をストレッチをしながら腰にひいておくなど効率的にリハビリを進められる様に工夫するとなお良いでしょう。
低温やけどに注意すること、炎症の部位への使用は禁忌です。
投薬
療法士はつい、疼痛を自分の技術・知識でなんとかしようと考えてしまいますが、痛み止めを処方してもらうことで、疼痛が軽くなり、急激に運動療法がしやすくなることも多いです。
痛みがあるために運動療法が思うように進まないなら主治医に相談してみましょう。
チーム医療って大切です。
総合的にアプローチしていくという視点を持ちましょう。 別に理学療法・作業療法じゃなくても良いんです、患者さんが良くなれば。
まとめ
疼痛は、
・他人には推し量りにくい
・いろんな状態・種類が混在する。
・心因性のものと勘違いされやすい。
などの理由により、療法士がリハビリで相手にするのは本当にやっかいな強敵です。
しかし、だからといって痛みを訴える患者さんに無理やりリハビリをするのはNGです。
信頼関係も何もありません。
悩みながらじっくりと疼痛と向き合い、少しでも良くなる方法を探りながら気長にやっていく姿勢が必要です。