
腰痛と姿勢には密接な関係があります。今回は姿勢と腰痛の関係についてご紹介します。腰痛がある患者さんだけでなく、全てのリハビリで大変重要な姿勢・アライメント・重心の関係性を骨盤と腰椎を中心に解説していますので参考にして下さい。
腰痛と姿勢の関係について
始めにお伝えしておきますが、腰痛には様々な原因があり、一概に何でもかんでも姿勢を改善させれば腰痛が治るということはないです。
しかし、リハビリの臨床において今回ご紹介する内容の姿勢矯正を行って、腰痛が軽減・改善することは決して珍しいことではありません。腰痛には骨盤の前後傾のアライメント、腰椎の前弯角度が関係していることはまず間違いないと言われています。
さらに、日常生活ではほとんど同じ動作を繰り返していることが大半なので、コンディショニングが整っていないと姿勢の崩れはどんどん不可逆的になっていきます。今回は、この「腰痛に対する姿勢のコンディショニング」という視点で記事を書いています。すべての腰痛が姿勢の影響で起きているというわけではありません。
姿勢の評価
姿勢の評価では、
- 圧縮応力
- 引っ張り
- 回旋応力
が過負荷になっている部位を確認します。
- 骨盤の位置・・前額面、立位での左右の骨盤の上前腸骨棘の高さを比べる。
- 肩甲骨の位置・・立位で肩甲骨の下角の高さと左右の偏移
- 骨盤の前後傾・・立位において上前腸骨棘に対して上後腸骨棘1.5横指程度高いものを基準として、3横指で前傾大、1横指以下なら後傾大と判断する。
- 腰椎前彎の程度・・立位で前屈(FFD・・Finger Floor Distance)をして、体幹屈曲していくと同時に腰椎前彎位から後彎に転じる体幹前屈角度が45°より直立に近い(角度が浅い)場合、前彎角度小、遠ければ(角度が大きいと)前彎角度大とする。骨盤後方移動、骨盤の傾斜の変化、腰背部と大腿後面の柔軟性も確認
- 体幹後屈・・骨盤の前方移動、骨盤の傾斜の変化、腹部と大腿前面の柔軟性を確認
- 体幹側屈・・骨盤反対側側方移動、骨盤の高さの変化、体幹側部の大腿側面の柔軟性を確認
- 歩行・・重心前方移動の代表的動作である歩行で評価
- スクワット・・上半身、下半身重心位置、骨盤傾斜の変化を確認
- 股関節屈筋緊張テスト・・大腿部を把持して反対側下肢の股関節伸展+膝関節屈曲
- 伸展筋緊張テスト・・・ハムストリングスストレッチ肢位(SLR・・背臥位で下肢伸展位での挙上)
- 股関節外転筋長テスト・・oberテスト
- 股関節屈筋と腹筋の評価・・腹筋運動時に骨盤の傾斜・後傾が保たれるか、腹筋の弱化があれば腰椎は伸展する。
矢状面上での身体バランスは、
- 股関節屈筋・伸筋群
- 体幹屈筋群・伸筋群
の4筋のバランスを評価します。
- 股関節内外転筋
- 体幹側屈筋
水平面では対称的な運動(主に歩行など)で左右差の評価をします。筋長テストと神経テストも加えて行うとより姿勢の全貌が掴みやすくなります。体幹前屈時に痛みがある場合、腰背部の引っ張り応力が、後屈時の疼痛では圧縮応力が腰痛の誘因となることも多いです。
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重心の位置について
静止立位での身体重心の位置は第二仙骨やや前方ですが、動作中の重心の位置は姿勢によって変化します。
身体重心点から上下に身体を二分割し、上下各々の部位の重心を分析すると、上半身の重心は胸骨剣状突起部分、下半身重心は大腿骨の中点に存在すると言われています。
この両点の中点に身体重心が存在します。
上半身の重心が下半身より前にある場合、より前方向に位置し、逆に上半身重心が後ろにある時は後方に位置するようになります。
例えば、スクワットで上半身と下半身を矢状面上で一致させて運動を行うと骨盤の前傾がほとんど出現しません。体幹前屈運動では骨盤の後方移動(お尻を付き出す動作)が必要になるため、バランスを保つ上で大腿後面や腰背部の柔軟性は必要条件になります。
姿勢の治療方法
評価により明らかになった荷重の左右差、腰椎前彎や骨盤傾斜及び回旋の非対称性について治療を行います。
前屈時に疼痛が生じやすいのは、左右の腸骨のうち、骨盤前傾角度が小さい側に多いと言われています。(椎間板ヘルニアなどを考えると椎間板後方繊維輪の引っ張り応力が増大しているためと推測できます。)
一方で、後屈時に疼痛が出現生じやすいのは、骨盤前傾角度が大きい方に多いとされています。腰椎分離症などで腰背部が短縮している側で、椎間関節を中心とした圧縮される応力がこれに相当します。
治療の目的
治療の目標は適度な前彎、前傾及び前額面での回旋の対称性の獲得です。この対称性の獲得は姿勢に焦点を当てたリハビリでは疼痛軽減に重要とされています。
腰椎前彎の調整・治療
- 両膝を立てたの背臥位で両膝を合わせた状態から膝を倒し、回旋運動を行って可動域を目いっぱい動かし、リラクセーションを図ります。
この動作を行うと、腰背部に過剰な筋緊張が起こる患者さんもいるので、その場合は背中に枕を挟んだり、ベッドをギャッジアップして体幹軽度屈曲位で行うと緊張が入りにくいです。
不安定な腰椎に対しての治療(腰椎の安定性を上げる運動)
- 端座位で両手を後方に肩関節外旋位でベッドについた状態からの腰椎前彎運動(大腰筋、腰方形筋)
- 端座位での体幹回旋に対する両肩への抵抗運動(多裂筋、腹横筋、腹斜筋)
- 膝立ての背臥位で、両手を組み、膝と両手に反対方向の軽い抵抗を加え、これに抗して正中位を保持する運動
腰椎前彎の過剰な症例に対しての治療
- 腰背部のストレッチ
- 上半身重心の下に枕を入れて骨盤後傾ストレッチ
- いわゆる一般的な”腹筋運動”
腰椎前弯の小さい症例に対しての治療
- 腹臥位保持
- パピーポジション
- 長座位での腰椎前彎位での体幹屈曲運動
- 端座位での腰椎前彎位での股関節屈曲運動
骨盤前後傾の微調整
以下の骨盤微調整の方法はリハビリを行う上での基礎的な姿勢調節の方法ですので、概念だけでも理解されると非常に臨床で使う機会は多いと思います。
骨盤前傾が過剰な症例に対しての治療
- 大腿部を手で持った状態での反対側の股関節伸展(腸腰筋のストレッチ)
- 大腿直筋ストレッチ・・上記のイラストの膝屈曲にてストレッチされる。さらに股関節内転させながら行うと大腿筋膜張筋のストレッチとなり、内旋させながら行うと縫工筋のストレッチとなる。短縮している筋に対して実施する
- 大殿筋 筋力トレーニング
- ダイアゴナル
骨盤前傾の少ない症例に対しての治療
- 端座位での腰椎後彎位での股関節屈曲・・大腰筋を鍛えることが重要なので、必ず腰椎後彎位で行って下さい。
- 端座位での膝伸展運動(大腿直筋の筋トレ)
- 他動的 股関節伸展ストレッチ
腰椎の前彎と骨盤前傾の関係は通常一致しますが、必ずしもそうとは言えません。この関係が破綻している場合、特に仙腸関節の動きが関係していると言われています。
体幹側屈の調整
体幹側屈運動では、反対側の骨盤側方移動がポイントです。
骨盤の側方移動が少ない場合、側屈する体幹や大腿外側(反対側大腿内側)での圧縮応力が高まり、反対側での体幹、大腿外側(反対側大腿内側)で引っ張り応力が高くなります。よって、大腿外側か体幹の一方に柔軟性が欠けていると他方に過剰な柔軟性が要求されることになります。
骨盤を側方移動させた時に骨盤が挙上しているなら、体幹部の柔軟性が低下しており、下制しているなら大腿外側の柔軟性が低下していることを意味します。
- 体幹側部のストレッチ・・少し今回のテーマとズレますが、片麻痺慢性期の方で麻痺側体幹側部が短縮している方が多くいます。その場合、このストレッチを行うとパフォーマンスが改善した経験があるので、試してみて下さい。
- 体幹側部のトレーニング・・側臥位で肘をついて体幹を浮かせます。
体幹の回旋の対称性獲得のための治療
- 背臥位で肘と反対側膝を付ける運動
- 背臥位で上肢と反対側下肢を床から挙上する運動
回旋しにくい方向へ重点的にトレーニングすることで、回旋を対称的に行えなえるように調整します。
まとめ
今回は姿勢の調整方法を腰痛に焦点を当ててご紹介しましたが、この姿勢調整の概念は例えば変形性股関節症や変形性膝関節症の患者さんにでも同じように考えて適応することができます。
姿勢の異常がなぜ起こっているのか、ということを評価した上で、筋の短縮や、誤った筋の使い方が習慣化していることによって起っているものなら上記の方法で改善が可能です。
理学療法士は動作と共に姿勢≒アライメントにも専門性があり、強い分野ですので、ぜひ今回の治療方法を理解して頂き、臨床に応用して頂ければと思います。