
前十字靭帯損傷はスポーツをされる方にはとてもポピュラーな外傷です。
過酷な多くのスポーツ競技において、膝関節は重たい体を支える安定性と、クイックに体を反応させるための可動性が高次元で要求されます。
特に、アクティブにターンやジャンプを繰り返すバスケットや、コンタクトスポーツと呼ばれるラグビーなどの過度の衝撃が加わる競技で膝の負担は大きく、前十字靭帯を損傷しやすい場面が多くみられます。
そもそも”前十字靭帯(ACL)”って?
前十字靭帯(ACL)は、膝関節にある靭帯で、大腿骨の後外側から脛骨前面のやや内側よりに付着するひも状の関節内靭帯です。
前十字靭帯は前方繊維と後方繊維に分かれ、前方繊維は全可動域で緊張緊張していますが、後方繊維は屈曲域で弛緩します。

前十字靭帯の役割
前十字靭帯は、膝関節にあり、大腿骨と脛骨と結ぶため、主に以下のような働きがあります。
- 脛骨の前方への脱臼予防
- 下腿の内旋の抑制
- 膝の過伸展の抑制
どんな時に損傷しやすい?
ラグビーなどのコンタクトスポーツでの損傷が多いです。男女比では、特に男性に多いといわれています。
タックルなどの大きな外力により、内側側副靭帯や、半月板損傷を合併して発症することが多く(これを複合型損傷=unhappy injuaryといいます)、女性ではジャンプ後の着地や猛ダッシュ中の急停止、方向転換などの非接触的な受傷機転によって単独型損傷として発症することが多いとされています。
なぜ損傷するの?
下肢でも最も強力な筋肉である大腿四頭筋は脛骨前面の脛骨粗面に付着しています。
この大腿四頭筋が急激に収縮する、ジャンプ動作やランニングからの急停止などで脛骨が前方に急激に引っ張られると、前十字靭帯が損傷します。
この時に、前十字靭帯が損傷して、膝がガクッと折れると、半月板の後方にストレスが加わり、半月板損傷を合併しやすくなます。
どうやって治療するの?
前十字靭帯は自然治癒力が低く、損傷すると後遺症として前方不安定膝という状態になります。
前方不安定膝では、運動などの比較的激しい運動をした際に、膝がガクッと折れる膝折れ現象(giving way)や疼痛、腫脹を繰り返すことが多いといわれています。
スポーツを継続的に行う患者の前十字靭帯損傷に対する治療法では、観血的に靭帯再建手術が治療法ということになります。
リハビリ
自家製あるいは同種腱を用いた前十字靭帯損傷再建手術後のリハビリでは、理学療法を主体とした、
- 物理療法
- 運動療法
- スポーツトレーニング
を含み、術後の治癒過程から3期に分類されます。
- 保護期:移植した腱が阻血性の壊死になった後、周辺組織からの血流再開により強度の低下が著しい時期で、術直後は安静を保ち、保護的な運動を行う。
- トレーニング期:血流再開に伴い侵入した繊維芽細胞に対して適度に伸張し、柔軟性を上げていくために、可動域制限内で筋力回復を図っていく。
- 復帰期:下肢筋力のバランスを整えてスポーツ復帰を図っていく。
ちなみに、リハビリ開始からスポーツができるようになるまで、およそ半年程度はかかる場合が多いようです。

前十字靭帯損傷後のリハビリ評価
術直後はこれらのテスト自体が再建部を再損傷させる可能性があるので、医師に確認を取ってから実施するようにして下さい。
外反ストレステスト
膝関節完全伸展位と軽度屈曲位(膝関節の一番緩くなる角度は30度屈曲位)にて外反方向にストレスを加え、示指や中指で関節裂隙の隙間の動く量と、エンドフィールを確認します。
完全伸展位で外反不安定性が陽性となる場合、内側側副靭帯損傷と前十字靭帯損傷の合併が疑われます。
Lachmanテスト
背臥位で膝関節を20~30度屈曲させて大腿の遠位部を膝蓋骨直上で支持し、下腿部近位端を斜め前方へ引き出します。前十字靭帯に負荷が掛かるので注意して下さい。
前十字靭帯に損傷のある場合には、エンドフィールが柔らかくなります。
この方法は前十字靭帯損傷による膝関節の前方への不安定性を評価するのに分かりやすくて手軽な方法です。
回旋不安定テスト(Nテスト)
背臥位で軽度膝屈曲位から膝を外反させ、非骨頭を母指にて前方へ押し出し、下腿を内旋させながら伸展させます。前十字靭帯損傷では被験者は亜脱臼するような不安感や疼痛を訴えます。
ROM(関節可動域訓練)・ストレッチのポイント
膝関節の伸展及び、屈曲の可動域の確認は最終域のエンドフィールを確認するようにします。
大腿直筋や腓腹筋も膝をまたぐ二関節筋で大きな影響を受けるため、短縮のチェックが必要です。
膝関節屈曲位での股関節伸展、膝完全伸展位での足関節の背屈も可動域を確認しておきます。また膝蓋大腿関節の可動性も膝関節の運動に重要な要素のため、膝蓋骨の上下左右の可動性をチェックしておくと良いです。
関節可動域の向上には、軟部組織の柔軟性を上げておくために、ホットパックなどの温熱療法を実施してからROMを行うと効果的です。普通にストレッチするよりも以前にもご紹介した、キャスターボードを使っての自動介助運動もおすすめです。
膝屈伸運動を行う際はできだけ、脛骨と大腿部のずれを発生させないように意識して行うことが大切です。把持する部位を下腿の遠位にするとストレスが掛かりやすいため、膝関節の近位部を把持して行うようにします。
スポンサーリンク
筋力強化運動のポイント
MMTの膝伸展は大腿四頭筋の収縮力が術部の腱に過剰なストレスを与えない様に、できるだけ座位で膝関節屈曲45度のブレークテストで行い、抵抗も脛骨近位部にかけるようにする方が賢明です。
OKCの膝関節屈伸運動では膝関節に剪断力が大きくなってしまいます。そのため、前十字靭帯損傷術後では最終伸展域での負荷抵抗運動は一定期間制限するとよいとされています。(初期は45°~60°屈曲位程度に留める。)
免荷期間中は壁を足で押し込むような運動(私は壁キックと呼んでいます。)などでCKCの等尺性の筋収縮を下肢全体に促し、荷重が可能となる時に備えた運動を行います。CKCの運動の方がハムストリングスの同時収縮を促せるため疼痛も出にくいです。
また、ペダリング(自転車エルゴメーター)は免荷時期から行え、膝関節へのストレスも少なく、心肺機能の強化にもなるため、スポーツ復帰を目標にしている患者さんであれば早期から取り入れていくと良いでしょう。
荷重が許可されれば、スクワットなどで下肢を鍛えることも可能です。スクワットは普通に行うと、膝関節に剪断力が生じやすいため、体幹を前傾させて行うと膝関節屈筋群の筋活動が増大し、前十字靭帯へのストレスが少なくなります

まとめ
前十字靭帯損傷のリハビリではその解剖を理解し、膝関節へのストレスが掛からない様に注意しながら、関節可動域訓練と筋力訓練と適度に行っていく必要があります。
また、多くの場合がスポーツ競技での受傷となるため、競技復帰を希望されている場合も多く、できるだけ早く復帰できるように心理面共にサポートするリハビリを目指すべきでしょう。