
「エビデンス(科学的根拠)に基づいたリハビリを!」と最近よく耳にします。科学的根拠に基づいた医療の提供は本来は当然のことです。
同時にEBPTという概念も浸透してきています。
背景には、インターネットの普及により、患者さんが医療に関する情報を得やすくなってきていること、医療従事者も簡単にデータベースにアクセスできるようになってきたことが挙げられます。今後さらにこの流れが加速していくことは明白です。
しかし、馴染みがないEBPT、どのように実績していけばよいのでしょうか?分かりやすく説明していきます。
今までの理学療法
私は約5年前に専門学校を卒業していますが、「EBPT」に関しての教育を学校では受けていません。
その頃のスタンダードな理学療法を実績するための方法論は「PTプロセス」でした。
PTプロセスについて記載することはこの記事の趣旨ではないので、ごく簡単に説明します。
②目標設定
③治療プランの立案
④実施
⑤再評価
の過程のことを指します。
これはみなさんご存じでしょうし、私も学校、実習先で習いました。
PTプロセスはあくまで理学療法を実施するうえでの基本的な考え方の流れであり、では実際にどのようにこれを実施しているか?というところが現在問題になっているのです。
特に③治療プランの立案は、実績する個人によってかなり差があります。
目の前の個々の患者さんの臨床問題に対して”情報を精査”することが求められている
実際にPTプロセスにしたがって、一般的に理現在のまでの理学療法士が行っているリハビリの治療プランの立案方法を、例を出して考えてみましょう。
「例」 基本情報
年齢:70歳代前半
現病歴:診断名は腰椎圧迫骨折(L5~4)。自宅洗濯物を干す時に後方で尻餅を付き転倒。受傷。保存療法にて経過。受傷20日後に当院に転院される。寝返り、立ち上がり時、歩行時に腰背部に疼痛があり、VASで5。入院時、ADL修正自立レベル、歩行FIM5。歩行時に疼痛のため、安定した歩行が困難である。
既往歴:両側変形性膝関節症あるも、疼痛は軽度で歩行に大きな障害はなし。
目標:ADL自立、屋内外歩行自立
この方に、治療プログラムを立案する際に、
・今まで担当した腰椎圧迫骨折の方の自分の経験を元に立案する。
・腰椎圧迫骨折について文献・ガイドラインをネットで検索する。
・先輩に聞く
などの方法が一般的にとられることが多いと思います。
しかし、これらの方法はどれも正しいEBPTではありません。
なぜなら、その患者さんに適応する情報ではなく、その疾患に適応する情報をもとにプログラムを考察しようとしているからです。つまり、個別性まで情報が絞り切れていないのです。
EBPTの定義は、個々の患者さんの臨床問題に対して、総合的判断に基づき、最善の医療を提供するための行動様式とされています。情報を適用する前後に本当に目の前の患者さんに使えるものなのか絞る手段が必要です。EBPTが今までの理学療法と違うところは、「目の前の個々の患者さんの臨床問題に対して」というところに比重が置かれている点です。
つまり、信頼性の高い情報を得るだけでなく、得た情報をどのように精査し、いかに有効に活用するかが現在問われているということです。
EBPTとは?
EBPTとは簡単に言うと、エビデンス(科学的根拠)に基づいて理学療法を行うことです。旧来、理学療法は触診に代表される様に感覚的なものが大きな意味を持っていました。この感覚的なものが臨床において非常に問題になる場合があります。
ある患者に対してある理学療法士は筋トレばかり行う、ある理学療法士はトレッドミルばかりを行わせる。感覚に基づく臨床的判断のみを行っているとこのようなことが起こり得ます。
上記の例でもそうで、文献から情報を得たり、先輩に聞いたりすることは大変重要なことで間違ったことではないのですが、その情報に従って理学療法を行えば科学的根拠があるとは一概に言えないのです。
EBMから派生したEBPT、理念は同じ
そもそも、EBPTののもとになる考えは、EBMから来ています。ご存じの通り、Evidence Based medicine=科学的根拠に基づく医療を実績していこうという考えから生まれたものです。
エビデンスを患者に適応するうえで、問題となるポイントをEBMの権威である斎藤氏は次のように述べています。
「旧来の医療観では医療者と患者の間に圧倒的な情報量の差があるとされ、情報を医療者が一方的に患者に当てはめることが正しい医療と言われてきた。しかし、近年、患者・家族とのパートナーシップを最大限に尊重するという方向性が医療において必須のものとされている。※長文の為省略して要点のみ記載しています。」
つまり、EBPTがなぜ求められているかというと、「患者さんに説明できる医療の提供」が求められているからです。
これは医療をサービスとして提供している以上、お客さんに納得してもらう必要があるわけで、当然の時代の流れです。
少し違った見方をすれば、これはリスク管理にもなります。
最近リハビリで業界でも訴訟問題が話題になっています。もしあなたの理学療法に患者が不満を抱き、「あなたのリハビリのせいで体が良くならなかった」と訴えたら、なぜその治療を行ったのかが問題になってきます。その時に、「何となく今までの経験を元に・・」では納得を得られるはずもないでしょう。
自分を守るためにもEBPTは必要です。
EBPTのプロセス
EBPTには、「エビデンスをつくる」、「エビデンスをつたえる」、「エビデンスをつかう」という要素があります。臨床家であるみなさんは、EBPTを実践するために、これらのうち「エビデンスをつかう」という取り組みが必要です。
「エビデンスをつかう」プロセスとして、以下の5つのステップがあります。
1.患者の臨床問題や疑問点の抽出と定式化(PICOの設定)
2.PICOに基づいた患者の臨床問題や疑問点に関する情報の検索
3.得られた情報の批判的吟味(critical appraisal)
4.得られた情報の患者への適用の検討
5.適用結果の評価
まずはPICOを実績しよう!
今回の記事では、1.PICOの設定を解説していきます。
以前のPTプロセスでは、”情報収集、問題点の抽出と構造化”の部分にあたるのがPICOです。それを、より情報検索に特化した形に整理するためのフォーマットがPICOです。
実際に上の例でPICOを考えてみましょう。
「例」
P・・ Patient(患者)、Participate(参加者)、Problem(問題)
「腰椎圧迫骨折の患者が、」
I or E・・ Intervention(介入) または Exposure(暴露)
「体幹筋を運動療法により筋力増大すると、」
C・・ Comparison(比較対照)
「体幹筋に運動療法をしなかった場合に比べて、」
O・・ Outcome(転帰、結果)
「疼痛は改善するか」
以前のPTプロセスでは次のプロセスである目標設定のために情報収集、問題点の抽出と構造化を行います。結果、プログラムを立案する際に、「腰椎圧迫骨折 運動療法」をキーワードに情報を集めても良いという事になります。
しかし、これでは”PとI”しかなく、本当に正しい情報を集めたことになりません。EBPTでは問題点の抽出をPICOに当てはめて行うことで個々の検索者による情報のばらつきを無くすことができ、プログラム立案のための正しい情報収集ができます。
しかし、PICOがあまりにも漠然としていると、上記のように「目の前の患者さんに適した情報」という性質が薄れ、「一般的な疾患への情報」を集めることになります。
逆にあまり詳細に設定しすぎると、その情報を見つけることが困難になり行き詰ってしまいます。
例えば、
「例」
P・・ Patient(患者)、Participate(参加者)、Problem(問題)
「腰椎圧迫骨折の患者が、」
I or E・・ Intervention(介入) または Exposure(暴露)
「体幹筋を運動療法により筋力増大すると、」
C・・ Comparison(比較対照)
「体幹筋に運動療法をしなかった場合に比べて、」
O・・ Outcome(転帰、結果)
「歩行速度は2m/sec向上するか」
この様な内容で検索しても恐らく適当な情報は出てきません。
ある程度ふんわりと、しかし的外れでないPICOを作成する必要があります。
理学療法は、様々な疾患や複雑な構造の障害を持つ人を対象としているので、「目の前の患者の問題の細分化・明確化」は非常に大切です。
PICOによる問題提起が間違っていると、結果も答えもも必ず違うものになります。EBPTで一番初歩で大切な部分ですので、じっくり考えて行ってみて下さい。
次回は、次のプロセス「情報の検索」を実績していきます。ご一読下さい。