
失語症とは、後天的に大脳の特定の部分が損傷されたことによって生じる言語障害のことです。
コミュニケーションが非常に重要なリハビリの臨床において、失語症の理解は言語聴覚士(ST)でなくても、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)も基本的に必須の知識です。
失語症を理解するための基本となる、失語症状とその種類を今回はご紹介します。
失語症の主要な症状
主に、脳血管障害(CVA)や脳外傷など大脳の障害で失語症を呈します。
失語症は、伝えるべき情報を言語の符号に変換して表出する機能の障害、あるいは表出された符号である言語解読する機能の障害のこと、とされています。
失語症には様々なタイプと重症度があります。
失語症がある方と接するときに、その言葉や構音の問題にばかり気がとられてしまいがちですが、上述の障害がある方は脳機能の一部に障害があることも多いため、いわゆる、「脳損傷の一般的症状」があるケースも散見されます。
具体的には、
- 注意の障害
- 反応の遅延・不安定さ
- 抽象思考能力の障害
- 保続
などです。
これらは高次脳機能障害とも言われますが、これらの問題も失語と絡まって様々なパターンを呈し、問題を複雑にしていることもあります。
構音障害
発声・発語器官に麻痺が認められないにも関わらず、滑らかに発音することが難しくなることを構音障害といいます。
発語失行と呼ばれる場合もあります。
言語を発する前に、脳の中で言葉をプログラミングする必要がありますが、そのプログラミングが困難となります。(言葉「音」を構築できない=構音障害)
プログラミングができたり、できなかったりで一定しないので、症状も一定しないことも多いです。後述するBroca失語(運動性失語)によく合併する症状です。
喚語困難
意図した通りに言葉が出てこない症状のことを喚語困難といいます。リハビリの臨床でよくあるケースを挙げると、
- テレビのリモコンを取って欲しいのに、「リモコン」という呼称が出てこず「う~ん」と考えこんでしまう。
- この前のリハビリはどんな感じでしたか?と聞くと、「あの先生があれ、あれ、う~ん・・・あれ、した。」などと答える。
などがあります。
1のケースはリモコンという呼称が出てこないので呼称障害、2のケースは動詞や名詞が出てこないので語想起障害と呼ばれます。
これらを喚語障害と呼びます。
喚語障害はほとんどの失語症のある方に共通してみられる現象です。
喚語障害に付随して、言葉が出てこないために、
- 錯誤(違う言葉を言ってしまう)
- ジャーゴン(意味を成さない言葉の羅列)
- 残語(患者自身が意味を理解でき、発することができる決まった言葉を何度も言うような現象。イントネーションを変えて意味を伝えようとされる場合も多い。)
など様々な形を取って何とかしてコミュニケーションを成立させようとする場合も多々あります。
統語障害
単語が想起できても、それをつなげて文を構成するのが難しくなる障害です。
- 「今日、行く、病院」または、「行く、病院、今日」
などという発話になることが多いです。
聴覚的理解の障害
聴覚的には問題がなくても、言語の音の理解ができない状態です。聴いて意味を理解することが困難なケースは、失語症がある患者さんの多くに共通する障害でもあります。
復唱の障害
言葉が正しく聞き取れない場合と、表出に問題がある場合の両方に障害されるのが復唱です。
読みの障害
読んで理解することが障害されるケースと、意味は理解できても、音読できない、というケースがあります。
さらに、漢字と仮名のいずれかが障害されるケースと、その両方の場合とがあります。
音読の障害には、音の近い誤りをする、音韻性錯誤と、意味の近い誤りをする意味性錯誤があります。
読みの障害がなければ、コミュニケーションに言葉以外の方法として文字を使うことができるため、リハビリでは非常に重要な評価項目となります。
書字の障害
自発的に文字を書くことが困難になるケースと、文字を書き移すことができなくなるケースがあります。
主な失語症の種類
失語は主に4種類に大まかに分けることができます。
- Broca失語
- Wernicke失語
- 見忘失語・失名詞失語
- 全失語
Broca失語
大脳のBroca(ブローカ)野に障害があると、Broca失語になります。Broca野は構音など発声の運動にかかわるため、運動性失語とも呼ばれます。
言葉を上手く発することができなくなります。その代り、言葉の意味は理解できている場合が多いです。
- 発話は非流暢
- 構音がぎこちない
- 会話の速度が遅い
- 発話が少ない
- 理解力は保たれていることが多い
という特徴があります。
Wernicke失語
Wernicke(ウェルニッケ)野が障害されることで感覚性失語を呈します。自分が発している言葉と相手が発した言葉の理解力が低下します。
構音を司るBroca野には問題がないので、以下の特徴があります。
- 発話は流暢
- 多弁
- 錯語が多く意味をなさないことも多い
- 簡単な日常会話も理解できないことも多い
- 病識に乏しいケースもある
健忘性失語・失名詞失語
喚語困難が目立つが、文章レベルの発話が可能。理解力も良好です。
全失語
言葉の意味理解も、発話することもほとんどできない状態です。
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失語症検査の基本知識
まず、
- 医学的情報
- 精神機能面
- 経済的・社会心理的情報
などを総合的に把握しておきます。
急性期では意識障害の有無、慢性期では意欲や精神面の鑑別診断が問題となることが多いです。
そのうえで、言語機能障害を包括的に捉える、SLTA(標準失語症検査)を行います。
検査項目は、
- 聴いて理解する
- 読んで理解する
- 話す
- 書く
- 計算する
に分かれており、187の問題から構成されています。検査時間はおよそ1時間30分もかかります。
次に、日常場面でのコミュニケーションの実態を捉えるテストが行われることがあります。
CADL(実用コミュニケーション能力検定)です。
検査課題は1日のコミュニケーション活動の流れに沿って展開するように
- 導入部
- 病院
- 外出
- 電話
- 時計やテレビ
- 終了部
の6個の大項目で構成されています。
詳細は省きますが、これらのテストは専門家でない家族が見ても、状態がわかるように折れ線グラフのようにして回答結果が表示されます。
運動障害性 構音障害について
脳血管障害や神経・筋に起因する発話障害を運動障害性 構音障害といいます。
- 呼吸
- 発声
- 構音
- 共鳴
- プロソディー(言語における韻律のこと。具体的にはアクセント、イントネーションなど。)
などの障害が単独、あるいは重複して現れる障害のことを指します。代表的な疾患として、
- 仮性球麻痺
- 小脳疾患
- パーキンソン病
があります。
これらの疾患でも、
- 声
- 構音
- プロソディー
にそれぞれ話し方に特徴があります。
話していて比較的わかりやすいのが”プロソディー”です。
仮性球麻痺の場合、
- 抑揚に乏しい
- 不自然に会話が途切れる
- 音と音節がバラバラになる
- 遅い
という特徴が把握しやすいです。
小脳疾患の場合は、
- 音や音節の持続時間が不規則でバラバラ
- 速さの変動が著明(爆発性言語)
- 抑揚に乏しい
- 不自然に発話が途切れる
- 繰り返しがある
パーキンソン病の場合は、
- 抑揚に乏しい
- 繰り返しがある
ことが特徴です。
まとめ
私は自身の臨床経験から、失語症は非常に奥が深いと感じています。
失語症で苦しんでおられる患者さんにたくさんお会いしました。
自身のことが言語によって表出できないという状態は、想像を絶する精神的ストレスであることが誰でも推測できると思います。
スムーズに話せない悔しさ、歯がゆさ、辛さから涙を流す方もたくさんいらっしゃいました。
失語症の方は、言葉を人に理解してもらえない悔しさから、話すこと自体が怖くなり、やがて自分から話そうとする意欲を無くされてしまう方もいらっしゃいます。
人と会うことすら嫌になる場合もあるかもしれません。
臨床の場において、私は理学療法士なので、積極的に言語のリハビリをすることはできませんし、知識も全然足りません。
私にできることと言えば、
「私とのリハビリの時間は言葉のリハビリの時間も兼ねていると思ってください。ゆっくり、いくら時間をかけても良いし、いくら間違えても良いので、少しでもお話をしましょう。」と声を掛け、積極的にお話をさせて戴くことくらいでした。
「障害になんて負けないで、少しでも話す意欲を持ってほしい」そればかりを考えていました。
失語症は奥が深く、専門職ならまだしも、一般の人には理解されにくい側面もあるので、心理的なかかわり方も非常に重要だと私は思います。