腓骨神経麻痺(下垂足)・末梢神経障害の症状・分類とリハビリの方法

末梢神経損傷のリハビリ


リハビリの臨床で出会う末梢神経障害で代表的なものに「腓骨神経麻痺」があります。腓骨神経麻痺があると歩行中に足先が垂れ下がる下垂足を呈します。どのようにリハビリを行うと良いのでしょうか。

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腓骨神経麻痺とは

腓骨神経麻痺とは、名前の通り、腓骨神経になんらかの障害を受けることで発症する神経麻痺のことを言います。腓骨神経は深腓骨神経と浅腓骨神経の総称です。

<深腓骨神経と浅腓骨神経と支配筋>

深腓骨神経 前脛骨筋 長趾伸筋 長拇趾伸筋
浅腓骨神経 長腓骨筋 短腓骨筋  

腓骨神経は腓骨頭の高さで腓骨頭とヒラメ筋の後方を末梢へ向かって下降しており、腓骨頭の付近で表層を走行しているので、その部位を長時間圧迫したり、外傷などで直接損傷すると腓骨神経麻痺になります。

腓骨頭,解剖
右足外側から観察

一概に腓骨神経麻痺と言っても、麻痺の領域や程度は当然ながら一定ではありません。完全に神経が断裂した場合は一定となりますが、多くの場合、長時間の圧迫や部分損傷が多く、足関節背屈の徒手筋力検査(MMT)で1~3程度の運動麻痺を呈する場合が多いです。

 

神経の圧迫が強い場合には阻血状態が強いため、神経の損傷の程度は強く、広範囲に重度の麻痺が発生する可能性が高くなります。

 

腓骨神経麻痺以外の末梢神経障害では、代表的なものとして大腿神経麻痺や坐骨神経麻痺がありますが、これらは交通事故や転落などの高いエネルギーが身体に加わった時に発症します。

症状

腓骨神経障害の症状は、

  1. 足背部の知覚障害
  2. 下垂足

になります。

下垂足とは

下垂足

腓骨神経麻痺によって生じる下垂足はその名通り、足関節背屈筋群(前脛骨筋、長趾伸筋、長拇趾伸筋、長短腓骨筋)に収縮が入らず、足先が下垂してしまう現象のことです。

見かけ上足が垂れ下がるため「下垂足」と呼ばれますが、正確には腓骨神経支配である上述の筋が麻痺するため、

  • 足関節背屈
  • 足趾の伸展
  • 足関節外反

の運動障害が起こり、結果的に足部が下垂します。

 

下垂足ではリハビリの臨床上、歩行中に遊脚相で足先が上がらないため、つま先を引きずる様な歩容になりやすく、つまずきやすくなったり、転倒の危険性が高くなります。

また、下垂足を呈する患者に特徴的な歩容では、鶏歩があります。

鶏歩

これは下垂する足を引きずらないように、無意識に股関節の屈曲角度を増大させて遊脚相でのクリアンランスを確保しようとするために起こります。

歩行効率が著しく低下するため、疲れやすく、長距離の歩行が困難となります。

 

下垂足では一般的に座位で足関節背屈運動ができない場合に下垂足になると思われている方も多いように思いますが、重力に抗して自動運動が出現しなくても、足関節を中間位で”保持できる”程度の筋収縮があれば、歩行中に下垂しなくて済みます。

私の臨床経験上、下垂足が出現する方は、ほとんど全くと言ってよいほど筋収縮がないケースのみで、実際はそれほど多くはありません。

発生原因

腓骨神経麻痺が発生する要因では、

  • 術後の不良肢位保持
  • ギブス固定による神経の圧迫

が多いです。

末梢神経障害のリハビリ

末梢神経を損傷した時に行うリハビリについて記載します。

末梢神経障害を呈する症例に対して、神経回復の可能性が高い場合は臨床症状に合わせて

  • 筋力維持
  • 拘縮予防

などの機能維持・向上を目的としたリハビリを行います。

しかし、神経回復の可能性が低い場合は、機能回復を目指すよりも歩行機能の獲得や社会復帰・参加への援助を目的に介入した方が効率的なこともあります。

では、神経損傷の状態をどうやって判断するのかというと、これは実は基本的に経過を追っていくしかありません。

筋肉を動かしながら回復度合いを診ていくことが基本となります。

 

しかし、神経障害の状態を把握するために、末梢神経障害の分類を理解しておくと良いでしょう。

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末梢神経障害の分類

リハビリを進めていくにあたって、末梢神経障害の病態を理解しておくことが重要です。Seddonの分類が理解がしやすいです。この分類に応じて回復の予後の見通しを立てます。

Seddonの分類

Seddonの分類では、末梢神経障害の重症度に応じて3つに分類します。

  1. ニューラプラキシア
  2. アキソノトメーシス
  3. ニューロトメーシス

上から徐々に神経損傷の度合いが強くなります。

ニューラプラキシア

末梢神経

ニューラプラキシアは「一過性伝導障害」と訳され、圧迫や打撲のため、一時的に神経の伝導性が障害された状態です。軸索は断絶されているわけではなく、神経の伝導性も保たれています。

イメージとしては、正座をした後に足がしびれる時、このニューラプラキシアに近い状態です。

予後は良好で、特に手術などは必要なく、経過観察が行われます。リハビリでは圧迫を除く良肢位保持などが主となります。

アキソノトメーシス

アキソノトメーシスは「軸索断裂」と訳され、軸索が断裂されている状態です。軸索は外力や血行障害に対して脆弱なため、損傷しやすいとされています。

軸索が損傷すると、損傷部位から遠位の髄節(軸索+髄鞘)が崩壊し、遠位部の機能も一時的に失われます。

この軸索のみが損傷したアキソノトメーシスが遠位に連鎖していく現象を「ワーラー変性」と言います。基本的に神経は徐々に回復していきますが、部分的に完全に神経が断裂している場合もあります。

リハビリでは筋力の維持、拘縮予防などを積極的に行います。

ニューロトメーシス

ニューロトメーシスは神経断裂と訳され、神経が完全に断裂された状態です。この状態では、神経縫合術が適応となります。神経縫合術を行ったからと言って神経の断端を完全に回復させることは難しいのが現状とされています。

評価

末梢神経障害の部位や程度を把握し、予後を考察するために評価を行います。

問診

受傷機転とその後の経過を把握します。初診時の病態の把握が最も重要で、麻痺の原因と症状との関連性や整合性を確認します。

術後直後など覚醒が低く、体動が少ない状態ではしびれの状態や程度を把握するのは困難で難渋します。また、末梢神経障害は外傷や手術によって発生することが不可避な場合もあることを念頭に置いておくべきでしょう。

 

極まれにですが、腓骨神経麻痺の診断が下されていない術後患者のリハビリに介入した際に、腓骨神経麻痺の徴候を発見する場合があります。その場合は、すぐに医師に報告し、除圧等の対処方法を確認する必要があります。

また、腓骨神経麻痺今まで何度も繰り返しているなど、カルテに記載されていない情報がないか入念に問診を行うことで、思わぬ原因を突き止めることができる場合もあるので、問診は非常に重要な評価項目になります。

合併症

重度の糖尿病では、

  • 末梢の感覚障害
  • 皮膚の易損性
  • 足趾先端の潰瘍
  • 感染症

などが併発することもあるので、充分な注意を要します。

知覚検査

足背部や下腿外側の表在感覚検査を行い、感覚障害の程度を確認しておきます。

経過によって感覚障害の程度が変化していくことが大半なので、経過を追って観察することが重要です。

下腿外側から足部にかけて包帯を巻いていたり、ギブスで固定されていて検査実施が困難な場合、病院であれば、看護士などに相談し、交換の際に検査を行うなどの工夫が必要です。

筋力検査

筋力検査は腓骨神経が疑われる場合、上述の腓骨神経の支配筋群に対して行います。具体的には、

  • 前脛骨筋
  • 長母指伸筋
  • 長趾伸筋
  • 長短腓骨筋

の検査を行います。

コツとしては両下肢に検査を行い、左右差を確認することです。感覚障害と運動麻痺があると「力の入れ方が分からない」という場合も多いので、その場合も健側で行うことで患者は感覚を掴みやすくなり、検査をスムーズに実施できる場合があります。

チネル徴候

腓骨神経の直上を指で軽く叩くと末梢へ放散痛が広がることをチネル徴候といいます。受傷直後は陽性になりませんが、神経再生が始まっているワーラー変性が終った時期から陽性となります。

これは、軸索が機能していて、髄鞘ができるまでの間は神経が外的刺激に過敏に反応することによって起きる反応です。よって、時間が経ち、軸索も髄鞘も回復した後はチネル徴候は消失します。チネル徴候で神経髄節の回復をある程度推測することができます。

神経繊維の再生速度は1日1㎜と言われ、その回復に合わせてチネル徴候も移動します。

良肢位保持

末梢神経障害で最も留意しておくべきことは良肢位保持です。発症を未然に防ぐだけでなく、発症後の悪化を防ぐためにも重要です。

自発的に体位変換ができない術後などは特に注意が必要で、患者自身がしびれや痛みを訴えることができない状態では医療スタッフが注意するしかありません。

実際には全ての患者の細かい状態を医療スタッフが観察し続けることは困難な場合も多いので、末梢神経障害の症状が出現している患者にできるだけ早期に良肢位保持を行い、神経損傷にまで至らないニューラプラキシアの状態で留めることが重要です。

 

通常の背臥位では腓骨小頭が強く圧迫されることはあまりありません。

しかし、背臥位の姿勢によっては圧迫されることもあります。

  • 下腿が過剰に外旋して臥床している
  • ベッド柵に下腿が接触している

場合は注意が必要です。

また、筋緊張が低下している患者では、背臥位で股関節が自然に外旋して腓骨小頭が圧迫されることもあります。

 

褥瘡予防などのポジショニングで良く行われる半側臥位では、腓骨小頭が常に圧迫されていることもあります。定期的な体位変換が必要です。エアマットなどを利用し、除圧を心掛けるのも有効です。

筋力維持・トレーニング

不完全麻痺の場合には、随意運動を促し筋力の維持・改善を積極的に図っていきます。

  • MMT2・・自動介助運動で全可動域の運動
  • MMT3以上・・自動運動、必要に応じて抵抗負荷を掛ける

MMT1レベル(筋収縮が触知できるが、関節運動は出現しない)の場合も多く、その場合は随意収縮での自動運動が困難で、最大収縮を得ることが容易ではありません。

そこで、リハビリでは電気刺激を用いたEMGバイオフィードバックが行われることがあります。

EMGバイオフィードバックについて

神経組織は脳からの電気信号を伝えます。

その組織が損傷しているなら、直接電気を末梢に与えて筋肉を刺激すれば良いという方法がEMGバイオフィードバックです。

私も臨床で行ったことがありますが、機械を該当の筋肉に取り付け、筋肉に収縮があると音が鳴り、患者自身が知覚できます。よって、自身で「力の入れ方」を繰り返し反復して訓練することができます。

 

私の経験では、下垂足を呈する患者の前脛骨筋(MMT1レベル)を鍛える時は、足先を強く上げる意識を促しながら踏み台昇降で昇段動作を繰り返すことで、収縮が強く入っていることがEMGバイオフィードバックで確認できました。

前脛骨筋トレーニング

恐らくPNFでも提唱されている、屈筋パターンに該当する動作であるため、前脛骨筋の収縮が入りやすいのだと思います。

しかし、これは個人差があると思うので、あくまで参考程度にして下さい。

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ROM・ストレッチ

関節拘縮を予防することも重要です。

上述のように、腓骨神経麻痺では、

  • 足部の背屈・外反
  • 足趾の伸展

の運動に障害が出るため、その逆方向の作用を持つ、

  • 下腿三頭筋
  • 足趾屈筋群

の筋をストレッチして、背屈可動域を維持しておきます。

歩行・移動能力

腓骨神経損傷単独の障害の場合は、上述の鶏歩を呈しながらでも歩行可能な場合が多いです。

足関節の背屈の障害による遊脚相のクリアランスが問題になることが多いですが、立脚相でも前脛骨筋が収縮しない場合、フットスラップと呼ばれる異常歩行が出現します。

フットスラップは、踵接地(イニシャルコンタクト:IC)で踵が床に着いた直後、そのまま足の裏が床に落ちていく現象です。このとき「パタン」と足の裏で”スラップ(叩く)”してしまいます。

フットスラップが起きるとブレーキが掛かるため、ヒールロッカーによる効率的な推進力が抑制され、非常に効率の悪い歩行となります。

歩行周期の立脚相と遊脚相の問題点を複合的に捉えて、歩行や移動手段の安定性や安全性、実用性を検討します。

装具療法

著明な下垂足を呈する腓骨神経麻痺の患者に対して、装具療法も有益です。

下垂足によってADLの移動に支障がある場合は、神経回復するまでの間だけでも使用すると良いです。

上述の様に、歩行時、下肢を挙上した時に足部が下垂しなければ著明な異常歩行は出現しないので、「ORTOP」で充分な場合も多いです。

靴ベラ型短下肢装具 ORTOP
靴ベラ型短下肢装具 ORTOP

ORTOPであれば、上から靴を履くことができるので、靴も一緒に買い替える必要がなく簡便です。足趾の屈曲が著明な場合は、同じORTOPでも写真のものよりも底面が長く、足趾まで底面が支持しているタイプのものが良いでしょう。

参考) 脳卒中片麻痺の下肢装具療法「下肢装具の種類・価格、装具選定方法について」

手軽に手に入る市販の装具代用品

上の専用の装具ほどの矯正効果はありませんが、市販のグッズでもある程度下垂足に効果のあるサポーターなどが市販されています。

何らかの理由で正規の装具を作製できない方は、こういった商品の購入を検討することも一つの手段としてアリだと思います。屋外で使う場合は、当然靴の着用なども考慮して選ぶ必要があります。(詳細は各メーカーにお問合せ下さい。)

 

まとめ

末梢神経障害として比較的頻繁に目にする腓骨神経麻痺では、障害の程度に応じた対応が基本となります。

  • 下垂足
  • 感覚障害
  • 足関節背屈・外反筋群の弱化

が問題となるので、神経回復に合わせてADLや筋力が低下しないように注意します。

  • 筋力・関節可動域の維持(EMGバイオフィードバックなども考慮)
  • 良肢位保持
  • 装具療法

などをリハビリとして行っていきます。

結論、働く環境を選ぶことが最も大切。

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