
私は現在訪問リハビリを行っている理学療法士ですが、訪問リハを1年もやっていると、高齢者の屋外での移動手段って本当に限られているなぁ・・て思うんですよね。
私達理学療法士は、「歩く練習をして、もっと歩けるようになりましょうね!」と目標に掲げて患者さんと一緒にリハビリを頑張っていることが多々あるのですが、
「で、歩けたら何になるの??」
っていうところまで詰めて考えておかないといけないと思うんですよね。
リハビリではICFの「活動と参加」という概念でここら辺も考えておきましょうね!ということになっていますが、実際、少し歩けるようになっても屋外の移動手段をどうするか?という話で止まってしまうことがよくあるんですよ。
※)「ICF」についてはリンク先で説明しています。
もちろん、リハビリを必要としている方は様々で、
- せめて自宅の中だけでも歩きたい
とか、
- 歩けなくても、少しでも体が弱るのを予防したい
という目的でリハビリをしている人も多いので、一概に屋外の移動手段を必要としている人ばかり、という訳でもないですが、私としては気になってしまいます。
「リハビリを頑張って、少々歩けるようになったところで、前みたいに好きな所に行けるようになるの?」という疑問に対して、私はできるだけたくさんの答えを持っておきたいと思うんですよね。
更に今後高齢者が増えていき、地方の過疎化も進むと言われている中で、高齢者の移動手段を確保する、ということは日本全体の経済活性化の面から見ても非常に大切なことだと思います。
女性の高齢者が多い
普段、訪問リハビリをしながら各家庭を回っていると、後期高齢者で女性、一人暮らしという人が多いなという実感を強く持ちます。
で、実際にネットで検索してみると、やっぱり、
高齢者を男女別にみると、男性は1499万人(男性人口の24.3%)、女性は1962万人(女性人口の 30.1%)で、女性が男性より463万人多くなっている。
一部引用)総務省平成28年統計トピックスNO.97
とあります。
高齢者の女性は車を運転できない人がほとんど
訪問リハビリの現場で屋外の移動手段について、ほとんど100%の利用者さんに聞いていますが、「自分で車を運転する」なんて聞いたことがないです。
現在でこそ女性ドライバーが増えているというデータもありますが、高齢者の女性で車を運転できる人の割合はもっとかなり少ないはずです。
私達が近所のスーパーに買い物に行ったりする時、メインの移動手段として自然と「車」をイメージすると思うのですが、高齢者にはほとんどその感覚はないんです。
特に高齢者の場合、女性で車を運転する人はかなり珍しいです。あまり聞かないですよね。
実際の高齢者の主な移動手段は?
私が現場で確認しているところでは、
- バス
- 徒歩
- 家族(子供)の車に乗せてもらって
- タクシー
がほとんどです。
私の印象では、タクシーを使う人はかなり経済的に裕福な人で、多くの方はバスを利用するか、買い物は自分でとても荷物を持って帰ってこれないのでヘルパーさんにお願いしている人が多いです。
調べてみると、やはりそんな感じ。

自転車、バイク、スクーターが1位ですが、本当か!?と思ってしまいます。
きっと、高齢者の中でも若い人バイクやスクーターを利用し、健康な人は地方ではちょっとした移動の足としてそれらを利用している人が多いのでしょう。
今高齢者ドライバーの問題がニュースで取り上げられている中、私の感想では、高齢者がバイクや自転車に乗るのは車よりも危険な気もしますが。
また、やはり会社または団体の役員のタクシーの利用が45%程度で飛びぬけて高いです。
バスで移動
ノンステップバスというものが1997年に世間で出回るようになりました。
調べてみると、私の住む大阪ではノンステップバスの導入率100%!
ノンステップバスは出入り口が昇降しやすいように低床に作らたバスで、高齢者がバスで移動するためにはほぼ必須と言っても良いものだと思います。
しかし、近所のバス停に来るバスがノンステップバスで、バスに乗れる体力があるとしても目的地付近で降ろしてもらえるとは限りません。
だいたいの場合、降ろしてもらったバス停から少し歩かないと目的地に辿り着けない場合が多く、私が直接聞いた限りでは、バス停は近所にあるけどほとんど利用しない、という高齢者の方も多いです。
徒歩で移動
徒歩で移動するにしも、リハビリを受けている人は、杖を持つ、押し車などの歩行補助具を使っても、
「15分歩くのがやっと」
という方が多いです。
実用性のある(生活で安全に使えるレベル)歩行というと、だいたい15分程度の歩行が介助者なしで可能、ということになると思います。
高齢者の歩行速度は、1m/s~0.8m/s程度。(ちなみに20~30歳台の平均は1.5m/Sです。)
この速度で15分間歩けると仮定すると、900m圏内にスーパーなどの目的地がないと歩いていくことは難しいことになります。
もちろん、目的地に着いてからも、例えば大根を探したり、飲み物を探したり、ウロウロ店内を歩き回る必要があるし、帰りの体力も温存しておかなければあんりません。
よって、実際半分の450m程度の距離にスーパーなどの日用品を購入する場所がないと何とか歩いて買い物をして帰ってくる、という事を日常的に行うことが難しいと感じます。
都市部でもそんな環境に住んでいる人はかなり稀でしょう。地方ならなおさら無理です。よって徒歩で一人暮らしの高齢者が日用品を買い物することは非常に難易度が高いことが伺えます。
タクシーを利用
タクシーを利用すれば、Door to Doorの移動が実現できます。
- 目的地のかなり近くに降ろしてくれる
- 好きな時に呼べる
というメリットがありますが、なんせ結構な利用料が掛かります。
以下は大阪市のタクシー料金です。
大阪市 | |||
---|---|---|---|
中型 | 距離制運賃 | 初乗運賃 | 2000mまで680円 |
加算運賃 | 以後266mごとに80円 | ||
時間距離併用制運賃 | 1分40秒ごとに80円加算 | ||
小型 | 距離制運賃 | 初乗運賃 | 2000mまで660円 |
加算運賃 | 以後296mごとに80円 | ||
時間距離併用制運賃 | 1分50秒ごとに80円加算 |
自宅から2㎞圏内のスーパーにタクシーで行くとしても、660x2(往復)=1320円は最低買い物に行くために費用が余計に必要なことになります。
毎回買い物の度にこの分を余分に支払うというのは、年金暮らしの高齢者にとってかなりの金銭的・精神的ストレスになると想像できます。
※)ちなみに、平成25年度で国民年金が5万4544円、厚生年金が14万5596円が平均となっています。
年々年金受給額が低下し、受給できる年齢も上がって行っている世の中で、今後の高齢者がこの金額を簡単に出せるのか、という課題もあると思います。
介護タクシーで移動
他にも高齢者の移動支援サービスとしては、介護タクシーが最も認知度が高いのではないでしょうか。
介護タクシーは、介護保険を使える人(要介護認定を受けている人)であれば、一割の利用料で利用することができ、車椅子に乗ったまま、普通のタクシーと同じようにDoor to Doorの移動が可能です。
一見、理想的だと思うかもしれません。
しかし、移送中は介護保険適応となっていないことに注意が必要です。
介護タクシーとは、介護の資格を持ったドライバーが運転し、「乗降介助」を行ってくれるタクシーのことを言い、この乗降介助という行為のみが介護保険適応で、一回につき1000円のところが一割の100円程度(地域によって異なります。)の自己負担になります。
移送中はタクシーと同じ方法で料金が別途加算されます。
私の知っている高齢者の方は、この介護タクシーを使って、どうしても行きたかった買い物(日用品の買い出しではなく、服などを見る、いわゆるショッピング)に車椅子に乗ったまま行ったそうなのですが、すぐ近くのところ(自宅から5㎞程度離れた場所)にも関わらず、往復で5000円かかると嘆いていました。
総じてタクシーよりも若干料金も高く、しかも要介護者限定でしか使えません。(要介護1以上)
他にもっと便利な高齢者のための移動手段はないのか?
こうやって考えてみると、これだ!という高齢者のための移動手段が充実しているとは言い難い現状が見えてきます。どれもやはり高齢者が社会参加を果たし、QOL(生活の質)を高めるための決め手にはならないような・・。
電動車椅子を使う
私が他に思い付くことは、電動車椅子(セニアカー)を使うことです。

これに関しては以前の記事電動車椅子の種類・価格と選び方で詳しく述べていますが、置き場所の問題さえクリアできればすごく便利な乗り物です。
介護保険が適用できる方であれば2500円/月程度の費用でレンタルでき、自宅のコンセントでバッテリー充電、連続走行距離は33㎞。
なので、たいがいの所へは行けます。
スーパーに行きたいのであれば、これに乗っていって、入り口に止めておき、店内を15分程度歩いても疲れても座って休憩をしながら運転し、家に帰ることができます。
私は多くの方にこの利用を勧めていますが、ほとんどの方が
- 「カッコ悪い」
- 「無精になって余計歩けなくなりそう」
という事を言われます。
全然そんなことないのに・・と個人的には思っているのですが、なかなか積極的に使ってみようと思える方は少ないようです・・。私が高齢者で外出に困っているなら飛び付きますけどね・・。
また、道路の歩道もまだ段差が多く、斜めに進入してしまうと転倒してしまう可能性なども無くはないため、恐怖感を訴えられる方も多いです。
社会的にまだまだ利用者が少ないため、「よくわからない」不安というのも一因としてあるでしょう。
人っとパッとイメージできないことにはどうしても手を出しにくいものです。
パーソナルモビリティ(PM)の今後の可能性
電動車椅子は市場では、パーソナルモビリティ(PM)というカテゴリーで今後発展が期待されている分野です。
PMとは、コンパクトな移動支援機器の総称で、一時期話題になった「セグウェィ」もその一部です。
写真の商品は現在ネットショッピングで販売されているセグウェイ式の乗り物です。
販売元の商品紹介ページを見るとお分かりだと思いますが、現在のこの商品の扱いはほとんど”遊具”です。(スケボーと同じジャンルになります。)
日本はご存じの通り、ロボット産業に今後力を入れていく方針を政府も打ち出しています。先進諸国の中でも高齢化が急速に進む日本では、超高齢化先進国のモデルケースとなるべく、こういったロボット・機器関連の開発・普及が期待されます。
実際に政府もPMの可能性を探っており、大手の自動車メーカーも高齢者社会の需要増大に向けて商品開発を進めています。

今、「若者は車を持たない」と言われていますが、実際、私達の感覚としても、維持費がひどく掛かる軽自動車でも保有するのはお金がもったいない、と正直思います。(仕事で使うので私は仕方なしに保有していますが。)
しかし、こういったPMであれば、軽自動車よりも小さく、利便性が良いです。
ほとんど自転車感覚で所有することもでき、ものによっては免許も要らない(スズキのセニアカーは免許不要です)ので、高齢者だけでなく、
- 子育て中の主婦の足として
- 学生の通学手段として
活躍できる可能性が充分にあります。
うちの妻も普段子共を二人自転車に乗せて買い物に走り回っていますが、大変だし、危険なのでなにか主婦向けに良いものないのかな?といつも思っています。
これって、結構世間で当たり前になっている風景ですが、考えてみればもっと改善できる余地はあるはずです。
子育ての大変さを少しでも緩和できないものかと。
大変将来有望なPMですが、しかし、課題もあります。
法の整備が進んでおらず、
- どの大きさになると免許が必要になるのか
- 道路交通法ではどのカテゴリーに分類されるのか
など、整理していかなければならないことは山積です。
普及するまでに数十年は掛かりそう?
ネットショッピングも同じように絶対に便利なのに、なかなか世に広まりにくかった、という経過があります。
楽天やAmazonが世に出始めても、クレジットカードをネットに登録するのが怖い、信用できないなどの理由で使わない人が多かったと聞きます。
2002年にネットショッピングを利用する人の世帯の割合は5.3%でしたが、2015年には27.6%となっています。13年の間に5.2倍。参考)総務省統計トピックスNO92
これだけ始まった当初から認知度の高いネットショッピングですら、13年経ってまだ全世帯の27.6%しか使われていないのだから、比較的マイノリティを対象としているPMや電動車椅子はもっと広く普及するのに時間が掛かりそうな気がします。
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高齢者の乗り合い 送迎マッチングサービス
他にも調べてみると、やはり「高齢者の移動支援に関すること」は社会問題となっているようで、地域によっては色々面白い取り組みをされています。
- コミュニティバス(地域を循環するバス)
- 高齢者が外出しやすい街作り(コンパクトな街)
などが代表的です。
その中でも大変面白いサービスを提供している企業があります。

あいあい自動車は、地域住民の皆様で共同所有の車を使って行う送迎サービスです。
あいあい自動車を導入することによって、運転できず移動に困っている高齢者と車の維持費に困っている
運転者の双方の問題を解決し、持続可能で低コストな地域間での移動の仕組みを作ることができます。このサービスはリクルートホールディングスの新規事業立案制度「Recruit Ventures」を通してサービス化され、現在実証実験を行っております。
このサービスのシステムは以下になります。
- 費用を出し合い車をレンタルする。
- 希望があった場合に運転手が送迎する。(運転手はタダで車を利用できる。)
- マッチングはタブレットで日にちを予約するだけ。
- 乗り合う高齢者の費用はタクシーの1/3程度。
- 運転者の都合が合わない場合は普通のタクシーを相乗りする。
維持費の掛かる車を持ちたくない人と、送迎してほしい高齢者をマッチングするサービスです。上で紹介したPMはまだ正直遊具レベルのものも多く、現時点で実用に値するレベルなのはセニアカーくらいかなという印象ですが、こういったサービスならすぐにでも実生活で活用できそうです。
素晴らしいサービスだと思いませんか?”Uber”の地域高齢者版といった感じですね。
法的整備が社会福祉サービスの向上に追いつかない!
日本でもUberが試験的に導入された地域もありましたが、2015年2月、国土交通省から「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」として、サービスを中止するよう指導が入っています。
なんか、こういったことを踏まえると、PMもそうですが、科学の進歩や新しいサービスの登場に法の整備が追い付いていないことが特に最近は多いように思います。
この記事でも書きましたが、”オワコン”政治を捨てた若者たちはどこに向かうのか~安倍晋三よりもマーク・ザッカーバーグを信じる若者~どう考えても、企業が新しい便利なサービスを世に送り出しても、法的にブレーキが掛かることが多いのが残念でなりません。
近年の文化の進歩のレベルに即座に対応できる法の整備システムの転換が、今後日本の重要な課題になってくるだろうと思われます。
結局、今の高齢者はどうやったら気軽に外出できるの?
色々と書きましたが、結局現時点では、
- 電動車椅子(セニアカー)を利用する。
- タクシーに近所のお友達と乗り合わせて費用を安くする。
がベストだと色々調べていて思いました。
私的には誰にも気兼ねなく外出できる電動車椅子がおすすめ(もちろん安全には充分注意して下さいね!)ですが、好き嫌いがあるので、タクシーを乗り合わせるという方法も合わせて提示しておきます。
タクシー代は2人で乗れば往復800円程度。3人で乗れば550円程度。(もちろん距離に依りますが。)
そのくらいなら許容範囲ではないでしょうか。色々お話しながら乗ったり買い物したら楽しそうですしね。
または、
- 家族が近くに住んでいる場合は、家族の車に乗せてもらう。
が次点でおすすめです。
しかし、平日は仕事で家族がいないという場合も多く、他人よりも気を遣う・・という方も多いと思うので、平日は上記のセニアカーとタクシーの方法を考慮し、休日は家族と買い物を楽しむ、という方法がベストかもしれませんね。
しかし、
- 電動車椅子にどうしても乗りたくない。
- 近所に家族が住んでいない。(家族が車を運転できない)
- 近所に一緒にタクシーに乗り合わせるような人がいない。
場合は、どうしても外出を気軽にする際の移動手段に困ってしまうでしょうね。難しい・・・・。
まとめ
現存の高齢者の移動手段はデメリットも多く、社会はまだまだ現役世代の比較的若い人達に向けて構築されているという感じがします。
今後、高齢者人口の割合がおよそ1/3近くになる日本がもう10年後に来ることが分かっています。
高齢者の住みよい、移動しやすい街をすぐにでも目指し始めることが今後日本の活力になることはほとんど間違いないと言っても良いと思います。
高齢者の移動手段としては現時点で、
- 電動車椅子(セニアカー)を利用する。
- タクシーに近所のお友達と乗り合わせて費用を安くする。
- 家族が近くに住んでいる場合は、家族の車に乗せてもらう。
がおすすめです。
しかし、
- 電動車椅子にどうしても乗りたくない。
- 近所に家族が住んでいない。(もしくは家族が車を運転できない。)
- 近所に一緒にタクシーに乗り合わせるような人がいない。
場合は、現時点では有効な移動手段は稀有だということも分かりました。
その中で、今後は既存の交通手段以外の手段、具体的には、
- 送迎マッチングサービス
- セニアカー以外のパーソナルモビリティ
なども取り入れていく必要があるのでは、という結論になりました。
そのためにはどんどん加速しているサービスの向上・社会の進化に合わせて、迅速かつ柔軟に法の整備が進めていける環境作りがまず大切だと思います。